町山智浩『関心領域』と『実録 マリウポリの20日間』のアカデミー賞受賞を語る

町山智浩『関心領域』と『実録 マリウポリの20日間』のアカデミー賞受賞を語る こねくと

町山智浩さんが2024年3月12日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で前日に行われたアカデミー賞授賞式についてトーク。『関心領域』の国際長編映画賞、そして『実録 マリウポリの20日間』の長編ドキュメンタリー映画賞受賞について話していました。

(町山智浩)そうだ。ちょっと仕事で日本にいたんですよ。

(石山蓮華)そうですよね。WOWOWでのアカデミー賞授賞式特番の解説、お疲れ様でした。町山さん。

(町山智浩)いえいえ。

(石山蓮華)それで先週、ご紹介いただいた『関心領域』、そしてロシアに侵略されたウクライナの最前線を命がけで撮影した『実録 マリウポリの20日間』。こちら、町山さんの予想通り、どちらもオスカーを取りました。

「こんな映画、撮りたくなかった。こんな賞は取りたくなかった」

(町山智浩)取りましたね。『マリウポリ』の方は命がけで撮影していた監督本人、チェルノフさんがアカデミー賞のステージに登場して。「こんな映画、撮りたくなかった。こんな賞は取りたくなかった」って言っていたのがすごかったですね。要するに「ロシアに攻め込まれなければこんな映画は撮らないで済んだはずだ」っていうね。自分でね、「こんなことを言うのはアカデミー賞史上、初めてでしょう」って言ってましたけど。で、『マリウポリの20日間』はね、今度劇場で正式に映画として、日本でも公開されるそうです。まだ公開日は決まってませんが。

(石山蓮華)これからちょっと、公開された時に見たいと思うんですが。『関心領域』が10日に先行上映っていうのが1日、あって。

(町山智浩)おお、そうなんですか。

(石山蓮華)そのタイミングで私、ちょうど見られたので見てきたんですけど。いや、本当に……怖い映画でした。なんか、そうですね。アウシュビッツの隣にあるお家、豪邸の中の話なんですけど。この無関心が何よりも恐ろしくて強い、大きい力を持ってるんだなっていうのを本当に自分の中からその気づきをグッと掴んで引っ張り出してくれるような。映画としては本当に力強い……淡々としている不思議な感じもあるけど。いい映画でした。

(町山智浩)今回、アカデミー賞でね、音響賞取ったんですよ。『関心領域』が。それは映画の最初のところでびっくりすると思うんですけど。

(石山蓮華)びっくりしましたね。

(町山智浩)「ヴヴヴヴヴヴヴ……」っていう音がずっと続いてるんですよ。「なに、この音?」って思うんですけど。映画が始まってからもしばらく、あちこちでこの音は聞こえていて。あれは、ユダヤ人の人を殺した後に焼却する焼却炉の音だっていうことが途中でわかるんですけど。あれ、音の映画なんですよね。

(石山蓮華)本当にその音が……いろんな音が聞こえるんですけど。見終わった後、全く頭から離れずに。ちょっと胃が痛くなりました。

(町山智浩)音ってすごく強く出してね、印象付けるものなんですけど。あの『関心領域』っていうのは低く、ずっと流れてるとか。ちっちゃく聞こえるんですよ。子供の声とかが。ちっちゃい音で恐怖を表現するというね、普通と逆のことをやっていて。だから珍しいですよ。音がちっちゃいってことで音響賞を取るという、非常に珍しい映画になっていましたね。

(石山蓮華)本当にぜひ、劇場でご覧いただきたい映画だなと思いました。日本での公開は5月24日。

(でか美ちゃん)私はちょっと先行上映には行けなかったので。5月すごい楽しみにしてるんですけど。町山さんに教えていただいて。『マリウポリの20日間』の方がYouTubeにアップされている……日本語とかはついてないけれど見れるっていう話があったじゃないですか。で、言葉とかがわからないなりに見てたんですけど。ちょっと本当に正直に言うと、つらすぎて。途中で見るのを止めてしまったんですよ。私は。もしかしたら、日本語でのいろんな説明とかがあれば……だし、やっぱ見なきゃいけないものだけど。途中で離脱してしまうぐらい、あまりにもリアルというか。リアルというか、リアルがリアルを超えてくるようなぐらいひどくて。ちょっと、フィクションじゃない恐ろしさというものがすごかったんで。

(町山智浩)そうですね。最初、ロシアに攻め込まれた時には結構、普通に生活してるんですけど。だんだんみんな、もうパニックになってきて。商店を襲ったりし始めるし。必要なものを取るためにね。で、途中からもう、病院に対するミサイル攻撃が始まって。あれ、カメラの人が本当に爆弾が爆発するすぐ横に立っていたりするんですけど。

(でか美ちゃん)そう。ものすごい命がけで撮っていて。

(町山智浩)でもあの人がアカデミーの会場に出てきたんで。「うわっ、生きてる!」と思いましたよ。

(でか美ちゃん)そうそうそう。「よかった!」っていう。作品に出てるってことは、そうだろうなとは思うんですけど。アカデミー賞を見て、その安心感もありつつ。だからやっぱり見なきゃいけない。その、途中で離脱しといてなんだっていう感じですけど。ちゃんと劇場公開されたら、きちんと見に行こうと思いました。

今、現在イスラエルとガザで起きていること

(町山智浩)よろしくお願いします。でね、『関心領域』の監督がね、アカデミー賞を受賞した時に「これはたしかにホロコーストという第2次世界大戦の時にユダヤ人が殺された話なんですけども。今、大事なのは過去よりも、現在です。現在、イスラエルで何が起こってるか、なんです」ということを言った時もね、結構タブーでね。というのは、やっぱりハリウッドって元々、ユダヤ系の人が作った産業なんで。プロデューサーとか、やっぱりユダヤ系の人多いんですよ。すごく。で、この『関心領域』の監督自身はユダヤ系なんですけれども。しかもウクライナ系ユダヤ人なんですよ。非常に歴史に翻弄された人が撮ったものなんですけれども。だから、あの授賞式でマーク・ラファロさんが赤いバッジをつけてたんですけどね。あれは「ガザ攻撃をすぐ停止せよ」っていうバッジなんですよ。だから、そういう人もいれば……ハリウッドの中でも結構、二つにわかれていて。

(町山智浩)すごく今ね、たぶんね、スティーブン・スピルバーグとかはこのガザ問題に対して、どうコメントしようかっていうのでね、すごく苦しんでると思うんですね。彼は前に映画でそのイスラエルのパレスチナに対する攻撃とか、武力行使に関して批判する映画を撮ってるんですね。『ミュンヘン』という映画なんですけれども。これはイスラエルの秘密工作組織が……パレスチナ・ゲリラがミュンヘンでイスラエル選手を殺したんで、その報復でパレスチナの解放運動家の人を1人1人殺していくっていうすごい映画で。これ、実話なんですけれども。で、殺してるうちにだんだん、そのイスラエル人がおかしくなってくるんですよ。「俺は何をしてるんだろう?」っていう。そんな映画を撮ったのがスティーブン・スピルバーグなので。それで彼はハリウッドのキングですから。彼が言うことは非常に重要なんで。今、彼が何を言うか?っていうことにみんな、すごく注目してると思うんですね。

<書き起こしおわり>

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