町山智浩さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でエルトン・ジョンの自伝映画『ロケットマン』とエルトン・ジョン楽曲の歌詞について話していました。
(宇多丸)時刻は8時になりました。ここから特集コーナー、ビヨンド・ザ・カルチャー。まずはこちらの曲をお聞きください。エルトン・ジョンの大ヒット曲『ロケットマン』を、とある方が歌っているバージョンです。
(宇多丸)はい。エルトン・ジョンのヒット曲『ロケットマン』をとある人が歌っているバージョンということで。まあ、歌っているのはエルトン・ジョンじゃないんですね?
(町山智浩)エルトン・ジョンじゃないんですけど。すごい上手いし、非常に近いんですけども。これ、歌っているのはなんとあの『キングスマン』の彼、タロン・エガートンくんなんですよ。
(宇多丸)あのヤンチャ坊主が?
(町山智浩)そう。今度のエルトン・ジョンの伝記映画で。日本だと8月23日から公開される『ロケットマン』の主題歌で。これ、この間の『ボヘミアン・ラプソディ』と違って本人……そのエルトン・ジョンを演じてるタロン・エガートンくん本人が全部歌ってます! すごいですよ、これ。これはアカデミー賞行くだろうと思いました。見てきたんですけど。
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— Elton John (@eltonofficial) 2019年4月18日
(宇多丸)いち早く町山さん、ご覧になったということで。今日はそのエルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』にまつわる、エルトン・ジョンがどんなことを歌ってきたのか?っていう特集を……ちなみにこの『ロケットマン』はどういうことを歌ってる歌なんですか?
(町山智浩)あのね、この『ロケットマン』っていう歌はバラードじゃないですか。で、全然ロケットな感じがしないんで、『ザ・ロック』っていう映画の中ではニコラス・ケイジが「『ロケットマン』っていう歌を知ってるか?」って。それで悪党が「知ってるよ。あのヘナヘナした歌だろ?」って言うシーンがあるんですけど、これは歌詞は実はヘナヘナした歌詞じゃないんですよ。実際には。
(宇多丸)実は。
(町山智浩)これ、『ロケットマン』っていうのは宇宙飛行士のことなんですけど。宇宙飛行士が家を出て……「ロケットの点火時間は午前9時。僕は凧よりも高く飛んでいく。地球がとっても恋しいよ。奥さんがとっても恋しいよ」っていう歌詞なんですけど。いったいこれ、どういう状況なのか?っていうと、これはリフレインのところでこう言うんですよ。「ロケットマンはヒューズが燃え尽きるんだと。いま、ここで孤独に(Rocket man Burning out his fuse up here alone)」っていうのが繰り返されるんですよ。
(宇多丸)はい。
(町山智浩)これ、どういうことかというとロケットから放り出されて、生命維持装置だけついた状態で宇宙空間に放り出されいてる状態です。そういう歌詞なんですよ。
(宇多丸)なんていうか、事故が起きているっていうか?
(町山智浩)事故が起きて、死ぬしかない状態なんですよ。でも、死ねないんですよ。生命維持装置がついてるから。で、地上に着くのはいつになるか、わからないんですよ。「それははるか先のことだろう(I think it’s gonna be a long, long time)」っていう。「もうどのぐらい僕は宇宙空間に浮いてるのかわからないんだよ」っていう、非常に恐ろしい歌なんですよ。実は。
(宇多丸)はー! 本当にSF的というか。
(町山智浩)原作がSF小説です。
(宇多丸)原作がある?
(町山智浩)『ロケットマン』というという小説が原作です。
(宇多丸)それは、誰の小説ですか?
(町山智浩)レイ・ブラッドベリです。SF作家の巨匠ですけども、1950年代に彼が書いた『宇宙船乗組員』とうい短編小説がありまして。それは宇宙船の乗組員の息子さんの立場から書かれているものなんです。「僕のパパが宇宙に行くたびにママはいつも泣いているんだ。いつも2人で言ってるんだけども、もしパパが火星で死んだら、もう僕もママも火星が空に出てる時は外に出ないようにする。もしパパが月で死んだら、月の出ている晩は外に出ないようにする」っていう風に言ってるんですけど……このパパは太陽に落ちて死んじゃうんですよ。
(宇多丸)ああー! じゃあね、太陽を見ないわけにはいかないけども。
(町山智浩)「僕とママはそれからお日様が出てる時は外に行かないことにした」っていう風に終わるんですよ。
(宇多丸)はー! そういう、それにインスパイアされてエルトン・ジョンが?
(町山智浩)エルトン・ジョンが書いたんじゃないんですね。エルトン・ジョンの歌はまあ、ほとんど全部がバーニー・トーピンという作詞者がずっと書いてきたんですよ。最初からずっと。
(宇多丸)ああ、そうなんですか? へー!
(町山智浩)これはコンビなんですよ。彼が作詞をして。先にバーニー・トーピンが作詞をしたものにエルトン・ジョンが曲をつけていくというコンビでずーっとやってきた2人組なんですよ。で、この『ロケットマン』っていう今回の伝記映画は2人の関係を中心に描いていっているんですね。ただ、その『ロケットマン』っていういま流れてる歌でわかるように、エルトン・ジョンというのはロックミュージシャンではあるんですけど、ロックンロールも歌ってるんですが、美しい旋律の耳に聞き心地のいい歌が多いんですが、バーニー・トーピンの書く歌詞は決してそういうものではなくて。意外な内容が歌われているので。
(宇多丸)うんうん。
バーニー・トーピンとのコンビで楽曲を作り続ける
(町山智浩)で、今回はその映画『ロケットマン』についての説明はちょこっとだけしますけども、それよりもエルトン・ジョンのその歌詞と曲の非常にアンバランスさが面白いっていう話をさせてください。たぶん知ってる、気が付いてる人はほとんどいないと思います。
(宇多丸)なるほど。ということで町山さんの音楽解説シリーズ。これ、非常に楽しみにしておりました。今夜はこのようにエルトン・ジョンの歌詞の世界に迫っていきます。題して映画『ロケットマン』公開記念、エルトン・ジョンの歌詞の世界特集 by 町山智浩さん! ということでございます。改めましてラジオでお聞きの方もRadikoでお聞きの方もこんばんは。『アフター6ジャンクション』、パーソナルのライムスター宇多丸です。そして……。
(熊崎風斗)月曜パートナー、TBSアナウンサーの熊崎風斗です。
(宇多丸)ということで、今夜の特集はもうすでに始まっております。世界的な人気歌手エルトン・ジョンの歌詞特集です。
(熊崎風斗)第72回カンヌ国際映画祭で4分間ものスタンディングオベーションを受けました世界的歌手エルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』が8月23日から日本でも公開されます。それに先駆けまして今夜はエルトン・ジョンはどんなことを歌ってきたのか? その歌詞の世界に迫っていきたいと思います。解説していただくのはもちろんこの方でございます。TBSラジオ『たまむすび』火曜日でもおなじみ評論家の町山智浩さんです。改めましてよろしくお願いします。
(町山智浩)はい、よろしくお願いします。
(宇多丸)町山さん、この番組は今年2月25日のアカデミー賞の時に来ていただきました。後はやっぱり音楽特集がね、町山さんはこの番組だと本当にいっぱいやっていただいて。頭脳警察の特集をやっていただいたり。
(宇多丸)あとは残念ながらこの4月に亡くなってしまいましたスターリンの遠藤ミチロウさんのお話もしていただきました。
(宇多丸)で、今回は映画の公開記念ではあるんだけど、音楽企画ということで。エルトン・ジョンの話です。ちなみにその映画の方の話をチラッとしておきますと、まあアメリカでは大ヒットしてるんですね? 先週末に封切られ、興収ランキング第3位。伝記映画ですよね?
(町山智浩)伝記映画です。ただ、監督は『ボヘミアン・ラプソディ』をブライアン・シンガーから受け継いで完成させたデクスター・フレッチャーとい人なんですよ。で、『ボヘミアン・ラプソディ』みたいな映画なのかなと思ったら、全然違います。あれは普通に演奏する時にその曲がかかるじゃないですか。演奏シーンで。
(宇多丸)はいはい。
(町山智浩)そうじゃなくて、普通にこういう会話をしてるところとかでエルトン・ジョンの歌の歌詞をみんながしゃべって、歌って……歌って踊って群舞してという。
(宇多丸)いわゆる本当のミュージカル?
(町山智浩)完全なミュージカルです。
(宇多丸)へー! ああ、そうなんだ。
(町山智浩)もういっぺんに全員が出てきてダンスをやったりとか。
(宇多丸)ああ、そうなんですね? 全然イメージが……僕、『ボヘミアン・ラプソディ』的なのをイメージしていました。
(町山智浩)違います。
(宇多丸)へー! しかもデクスター・フレッチャーとタロン・エガートンって『イーグル・ジャンプ』っていう、あれのコンビですけど。このタロン・エガートンが歌も歌って?
(町山智浩)歌を歌って踊って、すごいですよ。これはアカデミー賞行くだろうと思います。すごいです。
(宇多丸)へー! でも現実のエルトン・ジョンの人生を踏まえてもいる?
(町山智浩)それはすごくブロードウェイのミュージカルに非常に近い形なんで。現実とはかなり違います。だから曲なんかはその時に書かれていなかった曲をそのライブで歌ったり……要するに時間軸が違ったりするんです。その時にはまだその曲は存在しないのに、このライブで歌っているのはおかしいじゃないかとか、そういうのはもう全部、ぐちゃぐちゃです。それで時間軸も正確な形ではないです。非常に、なんというかポエティック・ライセンスと言われるような、ドラマを作るための脚色をめちゃくちゃやっています。だからそれは細かくファクトチェック、現実の事実関係とのチェックをするとだいぶ違います。
(宇多丸)うんうん。まあ、でもその作りがまずね、ちょっとびっくりの作りだったっていうね。そんなミュージカルだとは。まあ、非常に楽しみなんですけど。しかもその先ほどおっしゃっていた歌詞を書いていたバーニー・トーピンさんという方が結構フィーチャーされてるんですか?
(町山智浩)この人との関係が軸になってるんですよ。というのはですね、このバーニー・トーピンという人は天才的な作詞家です。ロック史に残るような作詞家なんですよ。
(宇多丸)エルトン・ジョンとしか組んでないんですか?
(町山智浩)エルトン・ジョン以外とも組んでます。スターシップの『We Built This City』っていう歌なんかも彼の作詞なんですけども。
(宇多丸)へー!
(町山智浩)ただこの2人のその微妙な関係が2人の作品を作っているんです。はっきり言うとエルトン・ジョンさんはゲイだったんです。で、バーニー・トーピンさんのことを愛していたんです。で、2人は一緒に暮らしたり、もう無二の親友なんですけれども、バーニー・トーピンは女好きなんです。永遠に報われない愛なんですよ、それは。でも、バーニー・トーピンはそのエルトン・ジョンの苦しみを歌詞にするんですよ。
(宇多丸)ええっ? わかっていて?
(町山智浩)すごい関係性なんですよ。これはすごいことなんですよね。
(宇多丸)すごい、まあ悲しい関係であると同時にちょっと怖いっていうか。
(町山智浩)怖いんですよ。だから普通だとちょっと考えられないような関係性で作られてきた、もうギリギリの芸術なんですよね。2人の歌っていうのは。で、どのくらいバーニー・トーピンの歌詞とエルトン・ジョンの曲っていうのはすごいかっていうと、それがすごくよくわかる歌があるんで、それをまずちょっと聞いていただきましょう。
(宇多丸)それではお知らせの後、エルトン・ジョンがなにを歌ってきたのか、町山さんに解説していただきます。
(CM明け)
(町山智浩)それでは、このバーニー・トーピンという作詞者の才能がよくわかる歌なんですけども。『Daniel』をお願いします。
Elton John『Daniel』
(宇多丸)はい。『Daniel』という曲を聞いていただいております。まあ、曲自体はすごいね、カーペンターズ調と言いましょうか。心地いい感じのね、ピクニックでも行こうかな、なんていうような。
(町山智浩)ところが、この歌詞をよく聞くと、こういう歌詞なんですね。「ダニエルは僕の兄弟。君は年上さ。まだ痛むのかな? 君の頭の傷は」って言っているんですよ。「心の傷」じゃなくて「頭の傷」なんですよ。で、「君の目はもう死んでしまっているけど、僕よりももっと多くのものを見ているんだね」って。
(宇多丸)「君の目は死んでしまっている」? なんだ? 心の傷を負ってしまっているということですよね?
(町山智浩)これはバーニー・トーピン自身が説明をしてるんですよ。これ、ベトナム戦争で脳に傷を受けた兵士を兄に持った弟の歌なんですって。
宇多丸;えええーっ!? なんか「ダニエルが飛行機で……」とかいろいろと言ってますけど。その、なんかそういうこう、そんな悲しい話っていうか?
(町山智浩)悲しい話なんですよ。これはだからダニエルがもう脳にものすごい損傷を受けてて、目がうつろなんです。何も考えられない状態になってるんですよ。まあ、なんていうか植物人間に近い形なんだろうと思うんですけども。それをその弟は悲しんでいるというシチュエーションなんだっていう風に作詞者のバーニー・トーピンは説明してるんですよね。
(宇多丸)こんなきれいなほんわかしたメロディーに乗せて? 想像もつかない。あと、歌詞の文字面上だけを読んでも、やっぱりいま町山さんがおっしゃったように、たとえばバーニー・トーピンのおっしゃっていることとか、行間をちゃんと考えたりしないと。ちょっとパッと聞きは英語はわかってもすぐには理解ができない感じですよね?
(町山智浩)そうなんですよ。だからこの世界はすごいんで、まあ天才的なそのバーニー・トーピンという作詞家とエルトン・ジョンは偶然に出会って。で、すごいコンビができあがったということなんですね。で、エルトン・ジョンはね、天才だったんですよ。王立音楽院でピアノを子供の頃からやっていた天才で。しかもクラシックも1回聞いたけで全部その場でコピーするような人なんですけども。ただ、詞が書けなかったんです。
(宇多丸)へー!
(町山智浩)詞が書けなかった理由というのは実はあるんですけれども。それは彼自身がイギリスではその頃、ゲイというものが法律で禁じられていて。刑罰を受ける状態だったから親にも言えなくて。誰にも打ち明けられなかった。だから自分の心を歌うことがすごく難しかったんですよ。
(宇多丸)なるほどね。本当の気持ちを歌えない時代だったんだ。それも悲しい……ひどい時代だ。
(町山智浩)そうなんですよ。悲しいんですよ。エルトン・ジョンという人はなにで有名だったかっていうと、ものすごい派手な衣装で有名だったんですよ。なんであんな派手な衣装を着なきゃいけないのか?
(宇多丸)やっぱりその心の鎧じゃないけども……。
(町山智浩)自分を隠すためです。僕は昔、ブーツィー・コリンズっていうPファンクの。あの人がすっごい派手な格好で、いつも「イエーイ!」っていう感じで。ベースの音もすごくて。あの人もそういう人だったですよね。寂しさっていうもの、孤独っていうものを逆にああいう派手な衣装でしか……まあ、あれは鎧みたいなもんなんですよね。
(町山智浩)で、エルトンさんはそういう人だったから。ただ、歌詞を書くってなると自分の魂をさらけ出すことがどうしてもできなくて。その時にバーニー・トーピンという自分よりも3歳若い……その頃まだ17歳の若者と会って。それで彼の歌詞を歌にしていくということで成功していくんですけども。で、最初に今回の『ロケットマン』という映画の中でも出てくるのが、最初のヒット曲が1970年の『僕の歌は君の歌(原題:Your Song)』という歌なんですね。で、これはバーニー・トーピン少年がその当時ハタチのエルトン・ジョンに初めて書いた曲なんですよ。
(宇多丸)どんな内容なんですか?
(町山智浩)これ、まあちょっと曲を聞いていただいてから。『僕の歌は君の歌』、お願いします。
Elton John『僕の歌は君の歌』
(宇多丸)はい。『Your Song』っていうタイトルでご存知の方も多いと思いますが。『僕の歌は君の歌』。もう曲自体はみなさん、誰でも聞いたことはある……。
(町山智浩)誰でも聞いたことがある。日本で映画にもなってるぐらいですからね。で、これはバーニー・トーピンが初めて、そのエルトン・ジョンの前で書いて。朝ご飯食べながら。オリジナルの歌詞にはコーヒーのシミがついてるらしいんですよ。で、「これ、書いたんだけど……」って。
(宇多丸)本当にさっとその場で……この歌詞の中でもね、「いま書いた歌でシンプルな歌だけど」って言ってるけど、本当にその通りなんだ!