町山智浩『ベイビーガール』を語る

町山智浩 クインシー・ジョーンズと楳図かずおを追悼する こねくと

町山智浩さんが2025年3月25日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『ベイビーガール』について話していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。

(町山智浩)今日はですね、今週公開になる2本の映画を紹介するんですが。1本の映画は犬についての映画で、もう1本の映画は猿についての映画なんですす。犬猿の仲の映画を紹介します。まず1本目、『ベイビーガール』という映画です。これね、音楽がすごいいい映画なんですけど。『ベイビーガール』というのはね、あのワンちゃんをね、「いい子、いい子」ってする時の言葉です。『ベイビーガール』って赤ちゃんの女の子のことですけど。英語ではその女の子のワンちゃんに対しては「ベイビーガール、ベイビーガール」って言うんですよ。「いい子、いい子」って。で、男の子に対し「グッドボーイ」っていうんですよ。

ところがこの『ベイビーガール』っていう映画はニコールキットマン扮する……彼女は今、57歳ですけれども。もうベテランの大企業のCEOの話なんですよ。ところがその彼女がですね、要するに何もかも手に入れて、大金持ちで企業のトップにいる彼女が、新入社員というか、新入社員ですらない研修生の若いお兄ちゃんに犬として調教されるっていう話なんですよ。

研修生に調教されるCEO

(町山智浩)昼から大丈夫か?っていう話なんで、あんまり深く話せません。お昼なんで。ただね、これすごい映画で内容はびっくりしました。で、そのニコール・キッドマンさんは57歳で、非常に美しくて、頑張ってるんですが。その頑張りをモロに見せちゃうんですよ。いきなりボトックスとか、注射してるの。ニコール・キッドマンってほら、世間的には「いっぱい顔、いじってるんだろう?」って散々、言われてるじゃないですか。これ、「はい、いじってますよ。悪かったですね?」っていう映画なんですよ。

「世間が私に若さを求めてるから、仕方なくやってんのよ」みたいなところもあると思うんですけど。そうすると、このCEOがエレベーターに乗ってるとその若いサミュエルという研修生が乗ってくるんですね。で、「あれ? 社長、顔に青黒い何か、ついてますね?」って言うんですよ。ボトックスって針で打つんで、内部で内出血をして青黒い痣が残っちゃうんですよね。まあ、それをファンデで消してるんですけど、それを見抜いて「社長、ボトックス、打ちましたね?」って言うんですよ。研修生が(笑)。

これ、ハリス・ディキンソンっていうイケメンの俳優さんが演じているサミュエルっていう研修生がもう、社長にタメ口を聞きまくるんですよ。最初。で、そのうちに彼女が逆にその研修生に……最初は怒ってるんですよ? 「なんて失礼な!」って。それが、コントロールされていっちゃうんですよ。精神的に。で、女社長は旦那が結構有名なニューヨークの劇作家で。

ただ、夫婦間の間にどうも性的な満足がないんですね。ちょっと大人の話をしますよ。はい。お互い還暦前後、アラ還なんですけれども。やっぱりそれがないと……子供も大きいですけど、夫婦仲はやっぱりうまくいかなくなってるんですよ。そこにこのサミュエルというね、セクシーの塊のような男が入ってくるという話で。エロい映画かな?って思うじゃないですか。これ、官能的な映画なんですけど後半、ちょっと驚くような展開を見せてくるんですよ。

これは言えないですが。さっき、『教皇選挙』の話をしてましたけど。ちょっと宗教的な感じです。これ以上は言えません。『教皇選挙』のラストと絡んでくるから、もう言えないんだ。これ、いい話になってるんですよ。このドロドロな感じで……だってこれ、彼女がね、「じゃあ、私を抱きなさい!」ってその研修生に言うんですよ。そうするとその研修生は「わかりました。じゃあ、そこにあなた、四つん這いになってください」「えっ!?」「社長、あんた犬になるんですよ」って言うんですよ。すごい展開でしょう?

もう話にくくてもめちゃくちゃ困ってますが。これね、女性を調教するって話だからちょっと差別的なのかなと思っちゃうんですけども。監督で脚本はハリナ・ラインという女性なんですよ。で、制作もニコール・キッドマンで。彼女は今、若手の女性監督に次々と映画を作らせてるんです。プロデューサーとして。で、ニコール・キッドマンは「女性が監督すると会社の上の方のトップはみんな、男ばっかりだからなかなか企画は通らない。だから私が企画を通してるんだ」って言ってるんですよ。

ニコール・キッドマンがプロデューサーとして企画を通す

(町山智浩)そういう点でもね、映画の内容と非常にだぶってくるんですよ。つまりニコール・キッドマンはCEOだけども、その裏には出資者がいるんですよ。じじいどもが。もう嫌らしいじじいどもがいっぱいいるんですけど、その中で頑張ってるのがニコール・キッドマンなんで。その彼女が……っていう話なんですけど。でね、62歳の僕としてはね、このアントニオ・バンデラスが奥さんを満足させることができないダメ夫役っていうのが、きつかった! バンデラスってね、80年代はね、世界一のセクシースターだったんです。世界一セクシーな男に選ばれていたし。男性用化粧品とか、モデルしまくっていた人なんですよ。アントニオ・バンデラス。セクシーの塊だったんですよ。そんな彼がね、もうダメおっさんをやってるっていうのは僕の世代にとっては大ショックですよ!

それまでほとんど映画出ると必ず上半身、裸になってましたからね(笑)。でも今はねもう渋いおっさんになってるんですが。これね、こんな話ですけども、いい話に落ちるんですよ?(笑)。これね、ぜひね、ご夫婦でも見に行っていただきたいと思います。ご夫婦で行ったり、カップルで行くといろいろな学びがあると思います。はい。

『ベイビーガール』予告

アメリカ流れ者『ベイビーガール』

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