荻上チキ スタン・リーを追悼する

荻上チキ スタン・リーを追悼する 荻上チキSession22

荻上チキさんがTBSラジオ『Session-22』の中で亡くなったアメコミ界の巨匠スタン・リーさんを追悼していました。

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(長谷部愛)スパイダーマンなどを生んだアメコミの巨匠スタン・リー氏死去。スパイダーマンなど数多くのスーパーヒーローを創作し、アメリカンコミックスの巨匠と呼ばれたスタン・リーさんが12日、ロサンゼルスで亡くなりました。95歳でした。リーさんは1922年にニューヨークで生まれ、1939年にマーベルコミックの前身となる出版社に入社。1960年代に現代社会のリアルな要素を盛り込んだ『ファンタスティック・フォー』がヒットし、その後原作者として『ハルク』や『アイアンマン』、それに『スパイダーマン』などアメコミを代表するキャラクターを次々に生み出しました。80年代以降はテレビや映画など映像分野で製作総指揮などを務め、数多くの作品に自らカメオ出演するなどマーベルコミックの顔とも言える存在として世界のポップカルチャーに大きな影響を与えました。

(荻上チキ)今日は起きてすぐ、知り合いからのメッセージでね、「スタン・リーが亡くなった」っていうニュースを聞いて、すごくショックを受けまして。本当に言葉がなかったですね。で、Twitterのタイムラインとかを見ると、世界各国のユーザーがスタン・リーの死を悼んでるわけですよ。なおかつ、スタン・リーの作品に出演したことのある人や一緒に仕事したことのある人たちが次々とコメントを発表していて。そのコメントひとつひとつを見るたびに、「ああ、本当なんだ」という風な実感というものが湧いてくるわけですね。

僕、最近仕事の目標のひとつにしていたものがあって、それが「近いうちにスタン・リーにインタビューしたい」っていうものが心の中で決めていた目標だったんですね。だから来年、夏休みを取った暁にはスタン・リーがいる国に行って……その時にどこにいるかわからないですけど、何とかアポを取ってインタビューしたいなとか。仮にアメリカだったら、どこにマーベルショップがあるのかなとか、いろいろな情報ををリサーチして、「行こうね」みたいな気持ちになってたんです。あるいは、たとえば「コミコン」っていうアメコミなどのファンイベントっていうものが日本でも開かれるわけですよ。東京コミコンということで。あの「コミケ」ってあるじゃないですか。あれのアメコミ版だと思ってください。ざっくりと。

それにたとえば去年かな? 一昨年もかな? 2回ぐらい、スタン・リーさんって来ているんですね。で、今年はゲスト欄にないので、「ああ、来ないのかな。でもサプライズ好きな人だから、どうなんだろう?」っていう風に思うところもあったんですけど。コミコンも行って、でもいつかインタビューをしたい。それまでにいろんな本とかももっと読んで、自分の好きなのヒーローのこともさらに自分なりの言葉にして……っていうことをいろいろと考えてたんですけれども、その夢はちょっと叶わないものにはなってしまいましたね。

ただ、スパイダーマンもそうですし、他のさまざまはヒーローもそうなんですが、僕にとってスタン・リー、あるいはマーベル作品が作り出した数々のヒーロー、あるいはヒーロー世界というのは、僕は大学生以降に出会ったものなので出会いとしては遅いんですけれども。ただ、幼少期よりはむしろ成人になってから人生の楽しみを得て。その世界に入り込んで、いろんなグッズを集めたり、あるいはコミックスを読んだり映画を見たいとか、関連ニュースなんかを楽しむっていうことですごい生きがいをもらったりしたんですよ。なおかつ、特にここしばらくのマーベルコミック……以前からそうなんですけれども、たとえばスタン・リーは戦前からこのマーベルコミックの前身である出版社に関わっていて、その頃からたとえば初代のキャプテン・アメリカのコミックスであるとか、そうしたものに関わって行ったり。

あるいは、あとは新しいキャラクターとしてはスパイダーマンとか、新しいシンパシーを得るようなキャラクターっていうものを次々と生んでいった。しかもそのキャラクターごとに異なる能力や異なる背景、異なるルーツを持ったキャラクターを次々と生み出していったわけですよね。で、向こうのスタジオ制度というのは日本の漫画の制度とは大きく違いまして、日本だったら『ドラゴンボール』は鳥山明さんが書くものとか、『ワンピース』だったら尾田栄一郎さんが書くものとかってありますけど、『スパイダーマン』とかあるいは『アイアンマン』と『ハルク』とか『ファンタスティック・フォー』とか『ドクター・ストレンジ』とか。そうしたキャラクターっていうのはいろんな脚本家が脚本を書いたり、いろんなイラストレーターが書いたりして、その都度その都度リブートされたり、リメイクされたり、別のものになったりというのがあるんです。

で、そういうようないろんなキャラクターに発展していく中でも、でも原点となるそのキャラクターらしさっていうのは一体何なのか?っていうことがとても大事になってくるんですね。最初から愛されないと、そもそもリブートされないじゃないですか。

(長谷部愛)そうですよね。魅力あるもので始まっていないと。

(荻上チキ)で、そもそもリブートされないキャラクターだっているわけですよ。世の中には山ほど。でも、そうした中でもう誰もが聞きいても「ああ、あのキャラクターだね」っていう風になるようなもの。あるいは、時代が現代になってもなっていくほど、より悩めるヒーローとか、一筋縄ではいかない問題。特に2000年代に入って9.11以降、アメリカのヒーローっていうのはいかに正義がない中で自分の役割というものをもう一度取り戻すか?っていうことで、すごく葛藤をするわけですよ。

あるいは『X-MEN』なんかもそうですけれども、マイノリティー運動のひとつの象徴として……つまり、ミュータントっていうのは力がある存在だけれども、人間から迫害される存在だという。そのような存在を、ひとつ公民権運動の象徴であったり、あるいは様々なマイノリティーの象徴だったりという形で、重ねて理解できてなおかつそうした魂や時代的意義を含める対象として描き続けてきていたわけですよね。だから、スタン・リー本人が実際には脚本を……直接のコミックスから離れていったとしても、その考え方っていうのはより高みに、より広く伝播していったということもありますし。

映画などのシリーズで映像化されて、昔の映像っていうのはたしかにちょっとチープ感あったりするようなとこあるんですけれども、だんだんだんだん時代ががコミックスの想像力に追いついてきて、CGであるとか様々な表現によって、私たちはいまマーベル・シネマティック・ユニバースの10周年で素晴らしい大作を見ることできて。来年にはもう『アベンジャーズ4』が……今月はいま『ヴェノム』が。これは別の映画会社だけれども、その『ヴェノム』の中でもスタン・リーがカメオ出演してるわけですよ。

そこでやっぱり新しいキャラクターが出るたびに、スタン・リーが一声そのキャラクターに声をかけると、「ああ、このキャラクターもスタン・リーの愛を受けていま映画を通じて私たちファンのところに届いたんだ」っていうことで、すごい安心感が出るわけですよね。というような、そういったその作品への愛。直接作品を生み出すということができなかったとしても、やっぱりカメオ出演などをすること、あるいは映画の宣伝なのにスタン・リーが出てくることによって、あれ種その公認印をポンと押されたような安心感というものがあったりしただけですよね。

しばらくカメオ出演の部分はいくつが撮りだめてるという風に聞いてます。なので、向こう何作品かは作品の中でスタン・リーの姿を見れると思いますし、スタン・リーの創造したキャラクターたちは生き延びていくので。これからもその創造世界に触れ続けていくと思うんですね。あのスタン・リーの決め言葉というか、コミックスの最後に「Excecior」っていう単語をよく書くんです。あるいは、映画のコメントとかでもそういった言葉をパッと言うことがあるんですね。それがファンの間ではひとつの定番になっていて。要は「より高みに」とか「より向上する」っていう意味だったりするんですけども。

「Excecior」

これは常にヒーローたちは完璧とかそういった存在ではないからこそ、時代の課題とかいろんなもので向き合っていく生身の苦しみとか、生身の課題と向き合っていく。で、ファンもファンで、そういうヒーローたちがどんどん増えていったり育っていったり、時にはポシャッていきそうな感じの雰囲気の時もあるけれども、それでも応援し続けるよというマインドを持ちつつ、「あのヒーローはいずれ自分がなるものはなんだ」とか、「あのヒーローは自分なんだ」っていう風に持って帰ってきて、現実でできることを探るということになるわけですよね。

(長谷部愛)うん。

(荻上チキ)スパイダーマンのピーター・パーカー。ピーター・パーカーの叔父のベン・パーカー。彼が死ぬ間際にピーター・パーカーに残した言葉、「大いなる力には大いなる責任が伴う」。すごく大事なセリフだと思うんですよ。そのような名セリフをたくさん生んでいるんですけど、そういうセリフっていま、いろんな政治家たちとかいろんな方にも聞いてほしい。あるいはいろんな若者たちに聞いてほしいセリフがたくさんあるし、その作品が問いかけてきたような言葉、あるいは姿って、これからもまだまだ生き続けていくリアリティーを持ち続けるものだったんですね。

まだ現実世界はむしろスタン・リーの想像力に追いついていないかもしれない。でもスタン・リーが残した宇宙の姿というものに、私たちは影響を受けて、より良き社会を作ろうっていう思いを持った人たちがたくさんいるので。多くのスタン・リーの子供たちが……日本のクリエイターたちもたくさんいるわけです。そうした様々な想像力がバトンリレーのようにつながっていくことをこれからは楽しみにしたいと思いますし、作品の中ではこれからも出会い続けるので。はい。死は死として受け止めながら、作品は受け続けていきたいなという風に思いますね。

<書き起こしおわり>

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