漫画家のヤマザキマリさんがTBSラジオ『荻上チキSession22』にゲスト出演。荻上チキさんと人文系学術の教育の重要性について、荻上チキさんと話していました。
(荻上チキ)ちなみにあの、イタリアでは、結局なにをされたんですか?それだけ長くいらっしゃって。
(ヤマザキマリ)ええ。だから一応名目上は美術をやるということで。ずっとね、絵を描くことだけは好きだったんですよ。で、まあ『この子は絵で食べていくしかなかろう』みたいな、そういう判断をうちの母もしてましたし。で、私もまあ、ちょっとやるだけやってみようか?っていうことで。それで、まあ日本にいてね、『絵描きさんになりたい』って言うと、みんな『ええっ?どうやって食べていくの?』って言うじゃないですか。
(荻上チキ)ああ、なんか『ああっ、グレた!』みたいな?(笑)。
(ヤマザキマリ)『とうとうそっち行くか』みたいなね。でも、その14の旅の時にフランスとドイツでいろんな現地の人たちと接触していった時に、『君は将来、何になりたい?』『絵描きさんとかになりたいけど、無理かも』『いやいや、ぜんぜん素晴らしい!絵を描くべきだ!』みたいな感じで。ものすごくね、賞賛されたんですよ。その、絵をやりたいという意志を。だからやっぱり絵をやるんだったら、もう当たり前に絵を描くっていうことが生活の中に染み入ってる国に行くべきなんだろうと思って。
(荻上チキ)うん。
(ヤマザキマリ)それで、まあイタリアに行ってみようと思った部分もあると思うんですね。背中を叩かれた後に。
(荻上チキ)へー。感覚がぜんぜん違いますね。
(ヤマザキマリ)違いますね。だってやっぱりもう、なんて言うか、ルネッサンス時代出あったりとか、古代ローマにさかのぼりますけども。普通に美術っていうものが、それこそいまは日本の大学は人文主義のね、カテゴリーをなくしてもいいなんて言ってるけど。あれがなきゃ人間って、科学的な方向にだって進んでいかないし。いろんな意味で、ひとつの要として大事なものであって。
(荻上チキ)いろんな問をね、考えることを失ってしまいますからね。
日本の大学における人文系学部不要論
(ヤマザキマリ)ものすごく、やっぱり美術芸術に対して重んじている場所ではあるわけですよね。ですから、まあそこで油絵をやりたいということで、油絵をやりつつ。油絵をやっているだけではダメなので、美術史をやったり、歴史をやったりという。はい。
(荻上チキ)あの、人文をなくすっていうやつは僕もとにかく反対で。僕、文学部出身なんですけど。ナメんな!と。たとえば、歴史で昔なにがあったか?これは崩し字を読めなきゃダメなんだ。崩し字を研究しているのはどこの学部か?文学部だとか。
(ヤマザキマリ)うんうん。
(荻上チキ)で、文学部の研究が実は昔の科学を解き明かすのに大事だとか。科学の話ともつながっているし、芸術ともつながっているしっていう。どの学問が欠けても、実は他の学問って成立しないんですよね。
(ヤマザキマリ)しません。だから本当に、人文的な学術っていうのは、よくスティーブ・ジョブズであったり、レオナルド・ダ・ビンチがたとえに挙げられるけども。その狭間にいてこそ、本当に素晴らしいものができる。だからどっちの見解もないと、やっぱりバランスも悪くなるっていうのがあるわけですよ。
(荻上チキ)うん。
(ヤマザキマリ)だから排除しちゃって合理的にいい方だけ、どんどん煮詰めればいいか?っていうと、そんな・・・とんでもないバランスの悪さになっちゃって。間違った方向に行っちゃうんじゃないかな?っていう懸念を私はヨーロッパの人に言われるんですよ。『お前、日本人か?』って言われて。やっぱり大学関係の人から、『なんか日本、ヤバくない?いま、大学って』って。
(南部広美)危惧される?
(ヤマザキマリ)危惧されてます。みんな。結構そのへんは話題になってますね。日本よりも海外の方が。
(荻上チキ)ああー、『大丈夫なの、ジャパンは?』と。『どこ行こうとしてるの?』と。
(ヤマザキマリ)そうそうそう。『そんなの排除しちゃったら、もう何も何もいいもの生まれなくなっちゃうじゃん』っていうことで、逆にね。うん。心配してくれている。
(荻上チキ)だから美術史がわからないと、たとえば美術の復元とか、そうしたような人を育てることもできないし。と、なると日本で何か海外の要人を招いて、『ここが日本の美術です』みたいな案内することだってできないし・・・とか。
(ヤマザキマリ)そうそうそう。
(荻上チキ)交流だってできないし・・・とか。
(ヤマザキマリ)そう。だからそれこそいまね、スティーブ・ジョブズの映画をやっているけども。なぜ、アップルっていう会社がひとつの大きな節目としてサクセスできたか?っていうと、やっぱりあれはそのジョブズの芸術的なこだわりっていうものがエキスとして投入されなければ、成立しなかったものですから。
(荻上チキ)はい。
(ヤマザキマリ)やっぱり機能性だけを重視していくと、そのギークっていうコンピューターの技能的なことだけに入り込んでいくオタクだけが楽しめるものしかできなかった。それを見た目でも素敵だねと思える方向に持っていこうってことに、やっぱりすごい、人文的見解がなかったらできないことでしたからね。
(荻上チキ)そうですね。
(ヤマザキマリ)それは何にでもやっぱり応用されることだっていう風には。まあ、ヨーロッパにいればいるほど、感じますけどもね。
(荻上チキ)うん。そのあたり、いろんなね、ところで考えてほしいですね。『人文系をなくす』みたいな議論をもしするような人が入ればですね。文科省の人、聞いてください!と。よろしくお願いします。
(ヤマザキマリ)うん。本当ですね。はい。
<書き起こしおわり>