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荻上チキ 上野千鶴子・東京大学入学式祝辞を語る

荻上チキ 上野千鶴子・東京大学入学式祝辞を語る 荻上チキSession22
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荻上チキさんがTBSラジオ『荻上チキSession-22』の中で東京大学の2019年入学式で上野千鶴子さんが披露した祝辞について話し、その中で取り上げられていた姫野カオルコさんの小説『彼女は頭が悪いから』を紹介していました。

(荻上チキ)金曜のオープニングはセッションプラスということで、週末にいろいろなコンテンツを楽しんでいただくために漫画とか映画とかを紹介するそんなコーナーなんですけれども。今日もちょっと春らしくですね、様々な大学で入学式が行われているということもありまして。新入生の皆さん、おめでとうございます。

(南部広美)おめでとうございます。

(荻上チキ)僕は今年はね、大学で教鞭をとっていないのでちょっと気が楽なんですけれども。

(南部広美)そういうものですか。

(荻上チキ)やっぱりその大学でね、授業をする際に「この大学でこの授業を受けてる段階で……」って。たとえば僕の授業だったらメディア論。「……メディア論の授業を受けてる段階で、あなたたちは世界中で上位1%以内に入るメディア論のエキスパートにもうなったということなんだ」っていう話をするわけです。

(南部広美)はー。

(荻上チキ)それは日本の大学進学率は2人に1人。50%程度ですよ。で、世界で見ると、もっともっと少ないわけです。で、日本の中で、たとえば僕が教えていた早稲田大学とかだと、受験戦争を勝ち上がってきて。それで特定の学問を学ぶということになるわけですよ。だからよくあの何かの学問で「教科書レベルしか書いてないな」とか、そういった言い方で本の悪口を言ったり。

「あいつは教科書レベルのことしか学んでないから、その先のこと知らないんだ」っていうような批判するっていうことが、特に学者同士のマウンティングだったりとか、何かの知識自慢の時に出てきたりするんですけども。教科書レベルを学んでる段階でエリートなんですよ。

(南部広美)本当、そう思います。

(荻上チキ)で、それは別に褒めているということでもなくて、だからこその自覚が必要ですよっていう話をいつもするんですけれども。まあ、私なんかよりはるかにそれを上手に、なおかつ時事問題と絡めながら、そして特定の学問をトップまで極めていったような、そんな方が今日ですね、東京大学の入学式の場で祝辞を述べて、それがWeb上で話題になっております。

で、その中で1冊の小説が紹介されているので、その祝辞を紹介した後にその小説を紹介することをもって、今日のセッションプラスと代えさせていただきたいと思いますけれども。今日、東京大学ではですね、ついこの間まで東京大学で教鞭をとっておられた女性学者の上野千鶴子さん。社会学者でらっしゃいますね。上野千鶴子さんが祝辞を述べたんですね。上野さんはとにかくおしゃべりが上手な方なので。そしてとにかくを人にカマすことが上手なので。

(南部広美)「カマす」?

(荻上チキ)うん。話のフックを持ってきて、その場をグっととらえて、相手の心を上手に揺さぶりながら結論に導いていくっていう。まあ、賛否両論いろいろとあったりとか、反対する方もたくさんいたりするわけですが。でも日本のある学問分野において、その分野を大きく前進させた方であるということには異論はないと思うんですよね。

そうした上野さんが今日、東京大学でね、祝辞を述べたことが朝日新聞だとかハフィントンポストだとか、いろんなWebサイトなり記事なりでどんどんと紹介されるということになっていて。で、ちょっとチラッと見たという方もいると思うんですよ。南部さんは読みましたか?

(南部広美)はい。ニュースになっているものを拝見して。「ああ、なるほど」と思っていたら、チキさんが今日、オープニングっていうか、セッションプラスで取り上げるっていうことなんだ。「ああ」とまた思うという。

(荻上チキ)そうですね。で、その祝辞なんですけど、読んでいないという方がむしろ多いと思うんです。まだ今日、発表されてばっかりですから。

(南部広美)そうですね。「記事になっているな」と思っていても、その祝辞、まるっとは目を通していないという方も。

(荻上チキ)で、その祝辞なんですが、東京大学のWebサイトに全文が載ってるんですね。いいですね、大盤振る舞いですよ。同じ祝辞を東京大学だけではなく、いろんな方々がいま、見ることができる。

(南部広美)話題になったことをやっぱり、その原文にあたれるという状況はいいですよね。

(荻上チキ)贅沢ですよ。そこですね、読んでないという方も多いと思いますので、僕がその祝辞の一部、「ここを読んで」というところを南部さんに指定しますので。そちらの方を南部さんに読んでいただきたいと思います。

上野千鶴子・祝辞(抜粋)

(南部広美)ご入学おめでとうございます。あなたたちは激烈な競争を勝ち抜いて、この場に来ることが出来ました。その選抜試験が公正なものであることを、あなたたちは疑っておられないと思います。もし不公正であれば、怒りがわくでしょう。が、しかし、昨年東京医科大不正入試問題が発覚し、女子学生と浪人生に差別があることが判明しました。2016年度の学校基本調査によれば、4年生大学進学率は男子55.6%、女子48.2%と7ポイントもの差があります。

この差は成績の差ではありません。「息子は大学まで、娘は短大までで良い」と考える親の性差別の結果です。最近、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんが日本を訪れて、女子教育の必要性を訴えました。「それはパキスタンにとっては重要だが、日本には無関係」でしょうか? 「どうせ女の子だし」「所詮女の子だから」と水をかけ、足を引っ張ることを「アスピレーションのクーリングダウン」。すなわち「意欲の冷却効果」と言います。

マララさんのお父さんは「どうやって娘を育てたか」と聞かれて、「娘の翼を折らないようにしてきた」と答えました。その通り、多くの娘たちは子供なら誰でも持っている翼を折られてきたのです。あなたたちは「頑張れば報われる」と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れた通り、頑張ってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています。

世の中には頑張っても報われない人、頑張ろうにも頑張れない人、頑張りすぎて心と体を壊した人たちがいます。頑張る前から「所詮お前なんか」「どうせ私なんて」と頑張る意欲をくじかれる人たちもいます。あなたたちの頑張りをどうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使ってください。

あなた方を待ち受けているのは、これまでのセオリーが当てはまらない、予測不可能な未知の世界です。大学で学ぶ価値とは既にある知を身につけることではなく、これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身につけることだと私は確信しています。知を生み出す知をメタ知識と言います。そのメタ知識を学生に身につけてもらうことこそが、大学の使命です。ようこそ東京大学へ。

(荻上チキ)というような祝辞なので、祝いの言葉があると同時に、この社会にどんな呪いがあるのかということを可視化しながら、そうしたものにあなたたちはぶつかるでしょうし、場合によってはあなたたちはその呪いをかけられている人たちに比べて恵まれているという風にちょっと水をかけつつ。しかしそこでこそ、「ノブレス・オブリージュ」って言ってますけれども。「高貴なる者の義務、持つ者の義務」ですね。恵まれてる者、あるいは勝ち抜ける者。そうした人ならではの責務を果たしてほしいという、先輩からのエールというか、元教師からのエールというような、その格好でしたね。

これは全文ではなくて、全体の1/10日ぐらいに大胆に編集したものなので、気になった方は全文をWebサイトで読んでいただければと思います。

この内容というのは最近の時事問題などでね、まだまだこの社会に女性差別……だけではなくて様々な差別が存在するということはニュースでね、よく触れることだと思うんですけれども。そうした現実に対して、むしろ敏感でなくてはいけない。いろいろと勝ち抜いた者が「自分は勝ち抜いたんだからこの社会は公正である。この社会は努力すれば報われる」というような、そういったバイアスを抱きがちな現実というのがあるんですね。

でも、メタ知識を身に付ける者というのは、そうしたようなこれまで自分が自明としてきてものを疑えるような能力を持つ者。そうした者にこそ、是非とも皆さんになってほしいという、ある種の知の体型、アカデミックな空間へのリクルートなんですよね。愛を感じますね。

で、こういったその文言の羅列から、ただただエールを受け取るだけではなくて、次にじゃあ自分がこの言葉を10年後、20年後、さらに若い人に向けて何か語るとするならば、「私たちの世代でようやくこの差別がなくなりましたが、皆さんは次は何をなくしますか?」というような、そうしたポジティブ・ストーリーを語られるような状況になればいいですよね。

(南部広美)うんうん。いま、どちらの側に自分が立っていくかっていうことを改めて考えさせられる言葉ですよね。温存する側に行くんじゃなくて、そこを変えていく側に立ちたいなっていう風に思いますよね。

(荻上チキ)まあ、この全体の祝辞の中では、その数字の使い方とかね、あるいは個別の言葉の使い方、そうしたものに対して異論がないわけではありません。ただ一方で、「ああ、それは大事だな」っていう風に思うところが共通してるところ、ひとつありまして。それはの1冊の小説をこの祝辞の中で紹介してるんですね。

(南部広美)小説ですか。

姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』

(荻上チキ)その小説は姫野カオルコさんの『彼女は頭が悪いから』という本。これ、かなり話題になりました。韓国ではね、その『82年生まれ、キム・ジヨン』という本が大変にベストセラーになって。フェミニズム論争をさらにブーストさせたような、そんな1冊だったりするんですが。

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昨年、この姫野カオルコさんの『彼女は頭が悪いから』。これは実際に東京大学であった暴行事件。そうしたものを受けて、それがなぜ起こったのかということをルポルタージュで追いかけていくというよりは、小説家の想像力を持って、そこに追いやられてしまう、そういった暴行事件というようなものに覆い隠されがちなというか、そういったものがのし潰してきたような女性差別の実態というものを当事者目線で追いかけていく。

実際の大学生になるまでの人生の過程を追いかけていくことで、どうして何か素晴らしいものとか、世の中ですごいとされているものに対して人は惹かれたり、それに対して恐れおののいたり、あるいはそれを権威として振りかざすようになってしまうのか。そうしたことを丹念に描いている小説なんですよね。

これはもちろんノンフィクションではなくてフィクションなので。実際の東京大学がどういった構造なのかとか、そういったものを告発的に描いたものというよりは、そうしたものをひとつの記号として参照にしながらも、しかし現実に間違いなくある権力の構造の凝縮されたものとして、ひとつの暴行事件が起きたんだということを解きほぐそうとしてるものなんですね。

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で、この本も『キムジヨン』もそうですし。あるいは上野千鶴子さんもそうですけれども。同じく論争的な本になっているんです。でも、その論争的な本に出会った場合には、まずは触れることをお勧めしたいんですよね。僕は上野さんほど立派な祝辞とか、あるいは演説とかはできないんですけれども、学生には常に「四年間はせめてミーハーでいてください」っていうことを言っているんですよ。

「『世の中であれが流行った』という風に見るやいなや、試してみてください。少なくともメディア論を学習するのであれば、TikTokであろうが、YouTubeであろうが、あるいは流行りの映画だろうが、アニメだろうが、ゲームだろうが。あるいは、どこかで何かイベントがあったならば、そこに行ってみる。でただ行って参加して喜ぶだけじゃなくて『観察する視線』というものを自分の心の中に持ってほしい。だからとにかくミーハーであれこれ試してみる。でも、ただのミーハーではなくて、クレバーなミーハーであってくれ」っていうようなことを伝えるんですね。

この姫野カオルコさんの本、一見の価値ありです。そこに対してどんな考え方を持つのかというものは人それぞれでしょうが、既に論争がこれだけ短期間の間に起こっていて、様々な人たちがそれに対して意見を述べている。そうしたものがリアルタイムで読めるというのは、いまだけなんですね。そしてその作品に対する、東京大学で行われた祝辞でどんな評価がその本に対してされているのかということを読むことができるのも、リアルタイム。現在を生きる私たちの特権ではありませんか。

というわけですね、この祝辞の全文を是非とも読んでほしいと同時に、姫野カオルコさんの『彼女は頭が悪いから』。この小説も素晴らしい本だと僕は思いますので。まだ読んでないという方は是非。

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ただしいつも紹介するような漫画と違って、「とても楽しい週末を過ごしてください」というような、そういうタイプの本ではありません。端的に言えば「胸クソが悪くなる本」です。なぜならば、それは差別の内面というものを丁寧に描いてるからですね。でも、そうしたものに触れることで、何がこの社会にあるのかを知ることができるので、是非とも手にとってほしいなと思います。

<書き起こしおわり>

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