(荻上チキ)「団結」という言葉もそうですけれども。「みんな同じように振る舞おうじゃないか」っていうの呼びかけにも捉えらえられていくことになるので。それがひとつの圧力行動に結びついていくということはあり得るわけですね。
(辻田真佐憲)そうですよね。だから、たとえば「日本の民度が高いからみんな、自ら進んで協力するんだ」っていうような言い方をする人もいるんですけれども。いろんなニュースを見ていると、たとえばその営業を自粛した居酒屋の店主に対するインタビュー。これ、朝日新聞デジタルに載ってますけれども。実際になんで店を閉めるのかっていうと、「そういう『お前のところはなんでやってるんだ?』という声や目が不安だ」っていうような言葉が載っていたりとか。だから実際は自発的に、日本人が民度が高いから協力しているというよりはですね、かなりそういった同調圧力みたいのが働いているじゃないかなと私は思いますね。
民度が高いからではなく、同調圧力が働く
(荻上チキ)ある種、道徳自警団みたいな人たちに叱られるからっていうような格好で、それを恐れて対応するっていうところもあるわけですよね。
(辻田真佐憲)そうですね。だから道徳自警団みたいのが出てくるっていうのはまさに、感染症と道徳自警団って関係ないですから。やっぱりそこに「戦争」といったものが入ることによって、道徳自警団みたいなものに大義名分を与えてしまっているというところがあるかなと思います。
(荻上チキ)先ほどの演説だと9年前の東日本大震災の話というものも出してきていて。実は今回のような感染症というのも「災害」ではあるはずで。たとえば災害の言葉、ボキャブラリーというものを使っていろいろ表現をしてたとえて、人々に分かりやすく伝えるという方法ではなくて、あえて戦争……「敵」「闘う」「勝つ」「乗り越える」「英知を結集する」云々っていう話があるわけですけど。この言葉づかいが災害対策モードというよりは戦争モードになることによる弊害ってのはどういう風にお感じになりますか?
(辻田真佐憲)そうですね。先ほどから申し上げている通り、「非日常」っていう印象ですかね。もちろん、災害もそうなんですけれども。戦争っていう感覚って我々にはあまりないわけですよね。これまで、災害に関しては何度も何度も経験しているんですけれども。そういった意味では、その「これまでとは違った状態になる」という感覚になる。そうすると常日頃で持っていたような価値観……たとえば防疫っていうことでいろんな差別みたいなのが生まれているわけですね。
「これまでとは違った状態になる」ことで生じる差別
長距離トラックの運転手の子供を学校に来させないようにしたりとか。これは単なる職業差別なわけですけれども。普通だったら「こういったものはマズい」という感覚が働いてやらないと思うんですが。やはり「これまでにない未曾有の事態だ」ということでちょっと我々の自制心みたいのが壊れてしまうっていう。そういうリスクが私はあるのかなと思います。
(荻上チキ)いろいろと過去に何度か炎上してニュースになったようなことが今、繰り返されている。たとえば飲食店などが入り口に「ジャパニーズ・オンリー」っていうような張り紙を張って。それで大きく問題になるっていうようなことがその1軒だけじゃなくて数件、続いていたりする。そうしたこともやっぱりリンクしていますよね?
(辻田真佐憲)そうですね。ここ1ヶ月、2ヶ月を見ただけでもものすごい数の量が出ていて。これ、1軒だけだったらずっと報道されてもおかしくないようなものがですね、あまりにも多いせいで1日で消えていってしまうというような状態というのはやっぱり異常だと思いますね。
<書き起こしおわり>