荻上チキさんが3月17日放送のTBSラジオ『Session22』の中で、この日、保釈された清原和博さんに対するメディアの報道姿勢とその問題点について話していました。
(南部広美)『清原和博被告が保釈 保釈金500万円を即日納付』。覚醒剤取締法違反の罪で起訴された元プロ野球選手の清原和博被告が今日、午後6時50分過ぎ、交流されていた警視庁本部から保釈されました。保釈時には清原被告が乗った車をヘリコプターで空撮するなど、多くのメディアが殺到しました。清原被告は弁護士を通じて『心よりお詫び申し上げます。みなさまを裏切ってしまったことを深く後悔するとともに、一から出直し、かならず更生することを決意しています』などとコメントを出し、今後は持病の糖尿病などの検査と治療のため、しばらく入院するとしています。
(荻上チキ)清原和博被告が保釈をされたというこのニュースなんですけども。ヘリコプターで空撮するなどの殺到した報道。メディアスクラムのあり方というのは非常に問題があるなという風に感じながら見ていましたね。
(南部広美)私もちょっと、テレビ、その時間にちょうど。夕方のワイドショーというかニュース番組の時間帯で見ていたんですけども。追いかける映像というのが何チャンネルか、映っているのを見て。ちょっとなんとも言えない気持ちになりました。
(荻上チキ)はい。あれ、映して、それから生放送とかで中継をして。何か意味があるんですかね?
(南部広美)そう。その追いかけていったのはどうしてなのかな?っていうのを見ながら思いましたけども。
(荻上チキ)何の本質もそこにはないですよ。ただ、移動しているだけですから。そこに対して何か、覚醒剤とかね、それから薬物とか、依存症とかの問題について議論するような材料は、空撮で撮り続けても、ひとつたりとも手に入らないですから。ただただ、画を追っていれば数字が取れるっていうような、問題意識のないような番組作りだったらやらない方がいいですね。で、改めてその依存症について話をしておくとですね、依存症というのは薬物だけじゃなくて、アルコールであるとか、買い物であるとか、ネットであるとか。
(南部広美)はい。昨日はギャンブルっていうことで(特集をしました)。
(荻上チキ)そうですね。ギャンブルであるとか。いろいろなものに対して依存をする。で、その依存対象になにかお金を使ったり、あるいは依存対象を手に入れるっていう行為に対して没頭したりする一方で、他のものとの優先順位というのがバランスを崩してしまった結果、たとえば人生の中の優先順位が変わって、他の人間関係を壊したりとか。あるいは、身体を壊したりとか。摂取し続けてしまった結果、体の構造が組み変わったりとか。いろいろな悪影響をもたらす。場合によっては借金をしたりとかね。
(南部広美)うんうん。
(荻上チキ)周りの人に暴力をふるったりとか、いろいろな副作用というものが出てくるわけですよ。そうした依存症なんですけども、そうした依存症の中ではニュースすることによって直ちに『犯罪』という風に認定される薬物依存症というようなものがあって。他の依存症と、そういう風に犯罪化された依存症っていうのは分けて議論されている節がこの国ではあるわけですね。
(南部広美)たしかに、そうですね。
(荻上チキ)で、依存症は病気なので。治療が必要なんですよ。薬物から、治療をすることによって根治するということはないんですけど。回復をして、薬物を断ち続けるとか、お酒を断ち続けるとか。そうした状態をキープするということは可能なわけですね。実際にそういった方、たくさんいらっしゃるわけです。
(南部広美)ええ。
(荻上チキ)で、薬物になぜ頼らなければいけなかったのか?他のものになぜ、依存したのか?その理由を考えつつ、依存しなくてもいいような生活づくりをしていくということが何より重要だということになるわけですけども。だから実際問題、薬物を打っていたからと言って、たとえば刑務所に入れる。それからしばらく時間が経つ。そこで反省する。そうしたことによってでは、依存症が回復するのか?というと、これは回復には効果がないどころか、むしろ逆効果になってしまうということになるわけです。
(南部広美)ええ。
(荻上チキ)だから、いま議論されているのは、薬物依存症の非犯罪化。薬物の合法化ではありません。薬物依存症の非犯罪化。つまり、薬物依存症というのは犯罪というよりは、治療が必要な病気だという風に捉えることによって、警察のお仕事というよりは病院の仕事とかですね、自助グループの仕事というような形でしっかりとつなげていくということ。
(南部広美)うん。
(荻上チキ)これ、アルコール依存症とか買い物依存症とか、他の依存症についてはこういう風な、治療が必要なものだっていう認識にすぐなるんですけど。薬物は所持した段階で犯罪だという風に定義されているので。この接続というのがすごく難しくなってしまっているわけですね。
(南部広美)うんうん。
(荻上チキ)たとえば、薬物について、『じゃあ非犯罪化すると流通してるのを放置しておくのか?』っていう話になってしまいかねないわけですけども。薬物の販売であるとか、製造であるとか。そうしたものは犯罪として位置づけたままでいいんですよ。だけど、薬物の摂取に対して非犯罪化。許すんじゃなくて、非犯罪化することによって、それを適切な治療に続けていこうというような。そうした議論は実は日本以外の様々な国で導入されたりしているんですね。
(南部広美)うん。流通の部分と、摂取したっていうことの部分を分けて管轄するということですね?
(荻上チキ)そうです。それはなぜか?っていうと、その方が科学的だからです。その方が治療に繋がるからです。で、治療に繋がるということは、そのことによって誰もが喜ぶ結果になるということになるわけですよ。犯罪ということにして取り締まっても、あまり誰も得しないんですよね。お金もかかるし。でも、効果出ないし。いろいろ仕事も増えるし。でも、治療だということにすれば、適切に当人も薬物に依存しなくてすむし。依存しなくなるということは、そのマネーがたとえば違法なグループに流れるということも、当然ながら抑えることができるわけですし。
(南部広美)たしかに。
(荻上チキ)そして、周りの人も回復してくれた方がいいし。適切な場所を作りなおすということで、社会というものが改善していくことになっていくわけですよね。だから、薬物依存というのは何か犯罪報道の枠組みで取り上げるのではなくて、福祉の領域の問題として考えるということこそが非常に重要になってくるわけですよ。しかし、今回の清原和博被告の報道を見ていると、まさに犯罪報道の典型例のような仕方での報道というのが続いているので。ちょっとなんか、道のりが遠いなという感覚を得ていますね。なので、いろいろなメディアの報道、これから増えていくことになると思いますけども。その報道の方がまだまだ改善の余地があるんだと。報道の方が反省の余地があるんだという観点もこれから、頭に入れた上でいろんな報道に触れていただきたいなと。それから、依存症の議論については、そういった注意点があるんだなということを知っておいてほしいなと思います。
(南部広美)はい。
<書き起こしおわり>
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