牧野アンナと宇多丸 三浦大知と満島ひかりを語る

牧野アンナと宇多丸 三浦大知と満島ひかりを語る アフター6ジャンクション

牧野アンナさんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』にゲスト出演。沖縄アクターズスクール時代の三浦大知さんや満島ひかりさんについて、話していました。

(宇多丸)ちなみに具体的にその「鍛え上げる」っていうプログラム、どんな訓練が当時はあったんですか?

(牧野アンナ)アクターズスクールのメソッドみたいなものがあって、当時は歌って踊る海外アーティストがどんどん増えてきていて。マイケル・ジャクソンはもちろん、ジャネット・ジャクソン、マドンナとかクリス・ブラウンとか。そういう人たちがなぜ、あれだけ踊っているのに歌がブレないんだろう?っていうのをうちの父(マキノ正幸)と一緒に徹底的に研究して。それでどんだけビートを踏んでもブレない……縦揺れで頭がブレちゃうとどうしても声がブレるんで。

(宇多丸)普通、どうしてもそうですよね。物理的にね。

(牧野アンナ)そうなんです。打ったビートをちゃんとかき消して歌の邪魔にならないようにするような身のこなしっていうのを発見して。

(宇多丸)つまり、おそらく彼ら……アメリカの歌って踊れるアーティストたちはそういうなんらかのメソッドというか。

(牧野アンナ)彼らは自然にやっているんですよ。それは向こうのアーティストの人たちが歩いている姿がすでにアフタービートだし、もうすでにダンスになっているし。彼らの歩き方がもう頭がブレないというか。その打ったビートがちゃんとしなやかに声になる邪魔にならないような動きになっているんですよ。

(宇多丸)体は動いていても頭の位置は動いていないというような身のこなしを。

(牧野アンナ)はいはい。縦に揺れないというか。歩きがそうなんですね。それが、日本人はそういう歩きじゃないんですよ。日本人は膝が曲がった状態で頭打ちで歩くので全部縦に頭がブレるんですよ。縦に動いちゃう。なので歌が声を出すと「あ~、あ~、あ~」って揺れちゃうっていう。

(宇多丸)この歩き方の文化の差は何なんですかね?

(牧野アンナ)これはでもやっぱり日本人は「エンヤートット」の世界じゃないですか。

(宇多丸)オンビートの。

(牧野アンナ)それが身についてしまっているので、どうしてもその歩き方、その身のこなし方で来ている人たちが急に欧米から来ている音楽に乗ろうと思うと、やっぱり無理があって。

(宇多丸)リズムが違いますから。

(牧野アンナ)なのでそれを体に叩き込まないといけない。で、歌の邪魔にならない動きを身に着けなきゃいけない。だからビートのレッスンというのを最初は徹底的にやって。本当にその声の出し方とか細かいことは一切やらなくて、要はその体の使い方というか。

(宇多丸)踊ってもブレない。

(牧野アンナ)そうです。ただ、(安室)奈美恵はこれを教えなくてもできる子だったんです。

(宇多丸)やっぱり最初からビートが入っている人だった。

(牧野アンナ)そうです。彼女は教えてないのにブレないんですよ。だからたぶん……。

(宇多丸)その歩き方を一発見てお父さん(マキノ正幸)が「この子、イケる!」ってなったのも……。

(牧野アンナ)たぶんそうなんですよ。

(宇多丸)いやー、この一発だけで鳥肌モノの……。でも同時に、僕が感じた、そして世間の人も後に感じた沖縄アクターズスクールイズムの衝撃っていうのにはちゃんと理屈付けというか。

(牧野アンナ)そういうレッスンをして。あと「歌って踊る」っていうのをセットにして、曲をバンバン流してみんなずーっと踊りながら歌うっていうレッスンをフリースタイルで全部やっているんですよ。なので、歌とダンスが別物っていう風なスタートラインに立たないというか。あとは教えないで自分で自由に歌う、踊るっていう風なスタイルを取るというか。

(宇多丸)要は振り付けではなく、ちゃんと自然に?

(牧野アンナ)自分で動き出す。だから本当に何のレッスンもなく突然来た子でド素人の子でも曲を流して「はい、自由にやってごらん」っていう風にするんですね。そうすると、だいたいできないんですよ。どうやっていいのか、わからないっていう。で、その「どうやっていいのかわからない」ところから、「どうしてもやりたいから恥ずかしいけどなんかがんばってみる」っていうそこのステップを踏んでいって。それで自分で「かっこ悪いな」って感じて「もっと上手くなりたいから研究してみよう」っていう気持ちの変化をちゃんと通っていくようにするというか。

(宇多丸)ああー!

(熊崎風斗)やらせるんじゃないんですね。

(牧野アンナ)そうです。最初に形を与えてしまうと受け身になって、自分からなにかを生み出すという力がなくなっちゃうので。振り付けを最初に教えたりとか動き方はこうですよって教えないでまず、かっこ悪くていいから1回心を開放してバーン!って自分のかっこ悪さを全部さらけ出せ!っていうところからスタートするっていう。

(宇多丸)本来、踊りってそういうことですもんね。外側から当てはめるものじゃなくて、内側から出てくるもの。

(牧野アンナ)「やりたい、踊りたい、乗りたい」っていう心から出てくるものをまず待つというか。

(宇多丸)しかもこれって後ほど、スーパーモンキーズを引かれて牧野アンナ先生がインストラクターに回られますよね。それを下の世代というか若い子に伝えていくにあたって、要するに「教育的要素」。そこが強く入ってくるわけですよね。人間的な殻を破っていく段階もちゃんと見据えながら。それぞれの段階を見据えながらっていうことですよね?

(牧野アンナ)そうですね。で、それぞれの成長のスピードも持っている課題というものも違うので。特に「この子、才能あるな」って思った子に関しては、その子に合った場所をちゃんと作ってあげるというか、環境を作るっていう。教えるとかじゃなくて、そういう環境の中に放り込むっていう。

(宇多丸)たとえば仕事をいきなりさせてみるとかですか?

才能は才能の中で磨かれる

(牧野アンナ)才能は才能の中で磨かれるというのがうちの父の考え方で。たとえば三浦大知っていう天才的な歌が歌える男の子が小学生で来ました。この子、子供たちの中に入っていても浮くんですよ。で、彼はその中にいると「俺ってできてる」って思っちゃうんですよ。なのであえて大人のものすごい実力のある先輩たちの中に放り込んで。そこの中で戦わせるというか。そうすると彼は自分の周りにいる大きいお兄さん、お姉さん。そこにたとえばISSAたちもいたし。そういう人たちを「うわっ、すごいな。こういう人たちみたいになりたいな!」って思って。「いまの自分はまだ全然ダメだ」って感じて「もっとやりたい」っていう気持ちにさせるという。なのでそれはたぶんこっちが口で教えるんではなくて、彼がそう感じるような環境を作ってあげるっていうことが大事というか。

(宇多丸)へー! だから本当に教育機関としても相当鋭いというか。

(熊崎風斗)全指導者に聞いてほしいというような、いろんなメソッドが詰まっているなっていう。

(宇多丸)大知くんもね……で、大知くんは僕の知る限り、いろいろとお会いしていく中であんな性格のいい子はいないっていう子じゃないですか。

(牧野アンナ)本当にそうですね。

(宇多丸)でも、やっぱり普通はあんだけ天才児なら君、ちょっとぐらい天狗になったりしないのか?って。でも、それがいまに至るまで全くないんですよ。それは最初の段階で、やっぱり天狗にならない環境、なりようがない環境にブチ込まれて。で、彼も常に上にいる人、上にいる人っていうのを見ながら。会うたびに「自分はまだまだです」って言っているから。最初に叩き込まれたその目線が身についているという感じですね。

(牧野アンナ)そうですね。子供の時は本当に危ないと思っていました。あまりにも……もうなんでもできちゃうんですよ。要はああいう子、歌える子って教えなくても最初から歌えちゃうし。踊りでも「立って」って言われたら1人だけかっこいいというか。なので、周りを見下しはじめやすいし、「自分はできている」って思ってしまいやすいし。まさにSPEEDは割とそれで苦労をしたので。もう4歳ぐらいから(島袋)寛子とかはいて。4歳ぐらいからあんな歌い方をしてるんですよ。

(宇多丸)もう上手い(笑)。

(牧野アンナ)もう上手いんですよ。童謡みたいな歌い方はしないんですよ。で、結構4歳とかから入っていると、10歳になるまでにキャリアが6年あって、飽きてきちゃうんですよね。「歌とかダンスってこんなもん。私、簡単にできるし」っていう風に思ってしまわないようにさせるのがすごく大変で。なのでそこで、やっぱり才能のある子っていうのには勘違いをさせないようにありとあらゆることを考えていかなきゃいけないんだなっていうことをそこで学んでいたので。大知の時にはやっぱり大事に大事に、「もっとできるんだ」っていうところに置いたっていう。

(宇多丸)へー! そのもともとできる子を増長させずに成長させるっていうやり方と、あとはそのちょっといまの段階では足りていないけど、その良さを伸ばして。そういう子が化けるパターンっていうのもあるんですか?

(牧野アンナ)ありますね。たとえば満島ひかりとかはたぶんスクールにいる時は全然、彼女はすごくルックスはかわいかったんですけど、そんなに抜きん出ているタイプではなかったんですよ。ただ、うちの父は彼女がオーディションに来た時に「この子、絶対にグランプリだ!」って言って。本当に色は黒いし細いしちっちゃいし。なにがいいんだか……。

(宇多丸)お父さん、眼力ヤバいっすね! まあ、でも何かを見抜いて。

(牧野アンナ)でも「この子の感性がすごい」って言っていたんですよ。だから歌えるわけではないし、踊れるわけではないし。で、ちょっとなんか子供っぽくない、子供らしくないところがあったので。ちょっと斜に構えているみたいな。どういう風にしていったらいいのか?っていう難しいところがあったんですけど。だから彼女は本当にデビューして。それで自分で女優っていうものに巡り合って開花したタイプなので。そこは彼女自身がやっぱりしっかりそこのラインを自分で作れたのかなという風に思います。

(宇多丸)でもやっぱり、こっちのラインがダメでも何かがある人っていうのは伸ばしようもあるし。あとは、やっぱり自分でちゃんと努力できる人っていう。当たり前のことかもしれないけど。

(牧野アンナ)いや、そこが大変です。結局すごい才能があるけど努力ができないでダメになっちゃった子はいっぱいいるので。逆に言うと、そこまで才能は大きくないけど、努力する才能とか根性がすごいとかっていう子もいるので。それこそ、MAXの奈々子(Nana)とかは、いま彼女はリーダーをやっていますけど。彼女は本当に、たぶん私が知っている中でいちばん根性のある子なんですよ。もともとはすごく不器用な子で。歌も苦手な子だったし、どっちかっていうと音程も取れなかったし。ダンスもすごく不器用だったし。ただ、ものすごい一生懸命で根性があるし。

(宇多丸)うんうん。

(牧野アンナ)で、一度発表会の時に彼女、暗転になって舞台からはける時、ちょっと視力が悪かったので壁に激突して。それで目がものすごく腫れたんですよ。で、その後にオーディションがあったんで彼女は眼帯をしたままオーディションに出たんですけど、踊っている間にどんどん眼帯がズレてきて。それこそたぶん本当だったらもう頭がクラクラして踊れないぐらいのはずなんですけど、彼女は眼帯をバーン!って取ってブワーッ!ってそのプロデューサーの前に行って踊りだしたんで……すっごい怖かったんですよ(笑)。

(宇多丸)フハハハハハッ!

(牧野アンナ)でも、その当時はたぶん13歳ぐらいなんですけど。13歳ぐらいの女の子が目をすごい腫れた状態で人前に出るっていうことだけでもすごくて。ものすごいガッツのあった子だったんで。

(宇多丸)で、その人柄は彼女のその後の活動の端々にやっぱり出てくるし。我々にとってはすごく好ましいっていうか、「ああ、この人はいい」っていう風に映りますもんね。

<書き起こしおわり>

三浦大知 沖縄アクターズスクールの教えを語る
三浦大知さんが2024年2月17日放送のJ-WAVE『DIVE TO THE NEW WORLD』に出演。 近年、牧野アンナさんが再始動させた沖縄アクターズスクールについて話す中で、自身がアクターズ時代に学んだことや、アクターズ独自の文化について話していました。
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