香山哲と宇多丸『ベルリンうわの空』とストリートテクニックを語る

宇多丸・中澤孝紀・宇垣美里 香山哲『ベルリンうわの空』を語る アフター6ジャンクション

香山哲さんが2020年3月17日のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』にインターネット経由で出演。宇多丸さん、宇垣美里さんと著書『ベルリンうわの空』やストリートテクニックについて話していました。

(宇多丸)ということで、ぜひこの『ベルリンうわの空』のお話もうかがいたいので。どういう本なのか、宇垣さんからご紹介をお願いします。

(宇垣美里)はい。『ベルリンうわの空』は今年の1月、イーストプレスから発売された香山哲さんのエッセイコミック。香山さんは2008年頃から漫画、イラスト、デザイン、エッセイを発表。またフリーのプログラマーとしてアプリやソフトウェアの開発などにも携わっています。2013年から日本国内、そして世界各地を移動し、2015年頃からドイツの首都ベルリンに在住。そんな香山さんがベルリンで感じたこと、出会った人などを優しく繊細な視点とちょっとシュールなタッチで切り取ったのが『ベルリンうわの空』。単行本発売直後からSNSなどで大きな話題となっています。

ベルリンうわの空
イースト・プレス

(宇多丸)ということで、宇垣さんはやっぱり海外とかもすごく旅行をいっぱいされますけど。そんな宇垣さんから見て『ベルリンうわの空』、ここが一番グッと来たみたいなところってありますか?

(宇垣美里)なんかやっぱり生活を描いているものって、もちろんその「旅行してこんなに楽しかった」っていうのは結構たくさんあると思うんですけど。生活を描いていて、かつそれが地続きというか……「日本ではこうだけど、ベルリンではこうなんだ。こんな優しいことがあるんだ」っていう。かつ、いかにも外国の方という絵ではなくて、ちょっと異星人、宇宙人っぽく書いてあるっていう。それが余計にスッと入ってくるのかな?って思いました。

(宇多丸)うんうん。この人々がそれぞれすごい変わった形というか、キャラクターとして描かれてるのがすごく面白いなというか。香山さんの目を通したベルリンっていう感じで。これはどうしてこういうのを思いついたんですか?

(香山哲)いろんな理由はあるし、この漫画に限らず昔からこういう感じで書いていて。やっぱり記号と内面を結びつけたくないっていうか。強そうだから強そうに書くとか、美形のキャラは美形に書くとか、そういう……まあ美形のキャラは美形でいいんだけども。外見だから。その、内面と外面は常識みたいなのがやっぱり漫画にはよくあるから。ちょっと自分はそこからずらして書きたいなっていう感じですね。

(宇多丸)特に僕、印象的なのは「差別について」っていう章のところで。街中でふと触れしまった他者の悪意みたいな。それの表現がすごく面白いっていうか印象に残ったんですね。

(香山哲)ああ、アメーバが4つぐらい縦に連なったキャラクターだと思うんですけども。あれ、僕は最初は大きい単細胞みたいに書いちゃって。でも単細胞って書くと、彼らは単細胞じゃないはずだから。だから複細胞っていうか、4つ単細胞がくっついているっていう。僕は単細胞とは書きたくないっていう感じでそう書いたんですね。

「差別について」

(宇多丸)まさにさっき、仰ったようなその記号化になっちゃいますもんね。そうするとね。だから実はその描かれているものとそれの距離をちゃんと取ろうとして……っていうところがあるわけですかね?

(香山哲)そう。だから自分が思い込みとか偏見とか、知識がないせいでこう見えてしまうっていうのをちょっとでも砕きたいというか、ワンクッションを置きたいとか、そういう感じですね。

(宇多丸)あと、やっぱりすごい印象的なのは先ほどもちらっと言いましたけど。すごく、やっぱりフラットに助け合ったりとか、声をかけあったりとか。なんかそのコミュニケーションがすごい開かれてますよね?

(香山哲)うーん。まあ僕がそういうものを求めて動いてるから拾えるのかもしれないし、その他の国で過ごした時に「ちょっと窮屈だな」とか思った時に、「こういうことができればいいのに」とかいろいろな思いを抱いていたから。ここではそれをやってる人が多いからっていうのもあるし。うん。より出会っていきたいと思って動いているからかも……。

(宇多丸)ベルリン特有というか、もしくはドイツなのか、そういうお国柄、もしくはその土地柄っていうのがあったりしますかね?

(香山哲)そうですね。これはなんかもっと長年住んだり、もっと比べないと分からないのかもしれないけど。少なくとも日本にいた時よりは多く感じてます。

(宇多丸)うんうんうん。なるほど。あと、これは事前にいろいろうかがっていてあれなんですけど。面白いなと思ったのは楽しい生活の様子を描くんじゃなくて、そこに至ろうとするまでのプロセスを描こうとしたというようなことをおっしゃられてるのが面白いなと思って。

(香山哲)そうですね。結果、こんなに楽しいっていうのはたぶん見て楽しいっていう感じだろけど。やっぱりそこに至るまでのプロセスっていうのが描けたら、どこに住んでいても関係ないし。やっぱり実家を継ぐとかで移動ができない人もいるから。そこで何かができるっていうのも、うん。なにか読んだ時に得られるものが多くなるのかなと思って。で、たとえばこの番組とかもそうだと思うんですけど。「この本が面白いよ」とか「この映画が面白いよ」っていうんじゃなくて、たとえば……僕はよく聞いているんですけども。

(宇多丸)ありがとうございます。

(香山哲)宇垣さんとかも番組の中で本とかを紹介される時、「こういう本屋でこういう風に出会った」とか。あとは「友達とこの場面で盛り上がった」とか。その面白がり方みたいなのを伝えていて。それってまだ見てない人とかあんまり面白がれない人が「ああ、こういう風に楽しんでる人がいるんだな」とか「こういう風に楽しむんだな」っていう、その方法がインストールされる感じで。いいなと思いますね。

(宇多丸)なるほど。楽しいとかいい作品のカタログ的な見せ方じゃなくて、それをどう楽しむかの様子の方がむしろプレゼンになってるっていうか。

(香山哲)そうですね。その至るところとか。そこがやっぱり持ってる人と持ってない人との差が大きいところだと思うので。情報って割と今、結構集まっちゃうから。

(宇垣美里)たしかに、どうアクセスするかというか。

(宇多丸)だし、そこにどう熱を持って……たとえば人に伝えるにしても熱の量のあり方とか角度とか。そこなのかな?って僕は思ってるんですね。たとえば対象はAKBでもEXILEでもいいんだけど、そこの切り口に熱とか角度があるか?っていうことが今、大事なのかな?っていう風に思っていて。

(香山哲)うん。そうですね。主観というか、自分がどう出会っていったかとか、面白く見つけていったかとか。

(宇多丸)その意味で言うと、香山さんは最近ストリートテクニックでおなじみのラッパーのMETEORくんとも昔からお知り合いだそうで。

(香山哲)そうですね。結構前から……でも、会ったことはなくて。

(宇多丸)ええっ? マジですか? 一緒にイベントをやったりっていう情報もありますけど、これは?

(香山哲)僕は中継で出て。ゲストで来てくれて。

(宇多丸)ああ、そのスタイル。テレワークスタイルを先取りですね?

(香山哲)フフフ、電話では何度も話してるし、仲良くしてくれて。彼はあの僕のことを「義兄弟」って呼んでいて(笑)。まあ義兄弟って一方的に言っていいのかな?って思うけども(笑)。お酒で契を交わしたりもしていないんですけども(笑)。

METEORと義兄弟

(宇多丸)会っていないのにすごいね。でも、まさにおっしゃったような、あるいはその『ベルリンうわの空』の香山さんの視点ととかって、やっぱり彼が今、高野政所くんとかとストリートテクニックっていう風にやっている、もうどこでもなんでも切り口それ自体で楽しめちゃうみたいな。そことやっぱりスタンスが通じるなと思ったんです。

(香山哲)そうですね、たとえばパリッコさんとスズキナオさんがやっているチェアリングとかもそうですけども。

(宇多丸)チェアリングね!

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(香山哲)この番組の他のコーナーもほとんどそうなんですけど。やっぱり生活をどう新しく楽しみなおすかとか。そういうものにすごく興味があって。

(宇多丸)なんかこれからの時代っていうか今、すごく楽しむところっていうのが、たとえば街とかがすごく日本は、たとえば渋谷なんかも要するに資本がガーンと入って。まあおなじみの店が入って……みたいな感じでペランとのっぺりとしてきているんですけども。そういう中の街の隙間の何かを見つけるみたいなのってすごい大事かなと思うんです。

(香山哲)そうですね。「これが面白い」とか「これがあれば快適」っていうのを、それは僕らが外注をしているわけじゃないですか。「こういう風に開発すれば、いい街になるんでしょう?」とかっていうのを一方的にお任せしてる。そうじゃなくて、ここが面白いっていうのを細かく見ていって。「僕らはこれが面白いんだ!」っていう風にこっちから見ていくっていうことなのかな?って。

(宇垣美里)探しに行くというか。

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