小袋成彬 Kanye West『Jesus Is King』を語る

渡辺志保 Kanye West『Jesus Is King』を解説する MUSIC HUB

小袋成彬さんがJ-WAVE『MUSIC HUB』の中でカニエ・ウェストの最新アルバム『Jesus Is King』についてトーク。カニエ・ウェストのアーティスト性やアルバム制作のコンセプト、収録曲の意味などについて話していました。

(小袋成彬)先週はですね、ケルンのホテルから本当に一切曲を流さずにダラダラしゃべったのをお届けしましたが。今日はパッとまとめたいなと思うんですが……何を話そうかってやっぱりもこの話題しかないでしょうっていうことで。カニエ・ウェストの『Jesus Is King』。いやー、本当に素晴らしいね。その本人のパーソナリティーに賛否両論はあるけど、やっぱり音はすごいね。この人って。

ちょっとこれについてね、ダラダラしゃべろうと思うんですが。まあ、じゃあ1回流していますか。1曲目から流そうかな。今日、何をかけるか全然決めてなかったんですけど。もうこの『Jesus Is King』をひたすらかけようと思っているんで。じゃあ、1曲目に行きましょう。『Every Hour』。

Kanye West『Every Hour』

お聞きいただいたのは『Every Hour feat. Sunday Service Choir』でした。そう。カニエ・ウェストはサンデーサービスっていうものをこの1年ぐらい、始めてるんですよ。で、どういうことかっていうと、フェスだったりあるいはある会場に出向いて、そのサンデーサービスをやる。サンデーサービスって何か?っていうと、日曜礼拝でみんなでゴスペルで歌を歌ったり、あとは説教を聞いたりっていう。それをサンデーサービスって言って。僕もね、日曜日じゃないけどね、1回ニューヨークの平日のゴスペル隊が出てくるような礼拝に行ったことあるんですよ。この話、しましたっけね。

で、それをいま、カニエが始めていて。各地で話題になっていて。で、ついにそのゴスペルのアルバムが出るってなった先週の金曜日。フタを開けてみたらいつも通りのカニエのめちゃくちゃなトラックメイクととんでもない凶悪な音とコンセプチュアルな内容ということで。みんな度肝抜かれたっていうのが先週の世界の音楽の話題でしたね。で、僕もね、配信1分後ぐらいに聞き始めていたんですけども。いやー、食らいましたね。

カニエ・ウェストって、僕の中では……あんまりね、人をジャンル付けしたり定義付けしたりするのって全く好きじゃないんですけど。まあ、もちろんどう考えても一角の音楽家以上のアートに対するアグレッシブさと知見がすごくある人で。僕はね、どっちかっていうとなんかモダンアートのアーティストっていう認識なんですよね。カニエって。

つまり、どういうことかっていうと、ある作品に対してかならずコンセプトが存在していて。そのコンセプトに沿って自分が作品を作っていくっていうのが彼の特徴というか、他にない……それをすごく上手くやっている。 経済的にも社会的な影響力に対しても、それをすごい、世界でいちばん上手くやっている人だなっていうのを僕は感じてるんですよ。モダンアートをね。

で、やっぱりそういうアートってコンセプトがありきだから一見、見ただけではわからないものっていうのが正直あって。今回もたぶん、単純に「ゴスペルにはハマってサンデーサービスっていうセットを始めて……」っていうのだとちょっとあんまりね、深い感動がないんですよね。このアルバムを聞くと。で、アルバムが出る2日前あたりから、ポンポンとね、インタビューがネット上に出始めたんですよ。

その中でも、Beats1のインタビュワーと対談している映像が2時間ぐらいあるんですけども。僕、それを見たんですよ。もちろん、英語力も乏しいし、2時間でちょっと飛ばしたところもあったりしたんだけど。まあほぼほぼ80%、90%ぐらいは見た。で、そこにね、彼の今回のコンセプトがあるわけですよ。ちなみにそのBeats1のゼイン・ロウとは何度もカニエは対談をしていて。そのたびに迷言がいっぱい出てきたり。ゼイン・ロウが聞き上手だからこそカニエがウワーッとしゃべっちゃうんですけども。

で、今回のアルバムはいままでね、「自分を神だ、Yeezusだ」って言ってきたりね。Yeezyっていうコレクションを出したり。あとはそのハイファッションが自分に何をしてきたか、どういう影響を与えたか。あるいは、インタビューの中ではヘネシーがどういう影響を自分に与えたのか。そういうことを歌ってたんだけど、今回は神様が自分に対して何をしてくれたか?っていうものを歌いたかった。これまで、何をしたか? それが彼の中でのね、今回のコンセプトなんですよ。だから「ゴスペルにハマった」とかそういう話はなく、改心をしたっていうことでもなく。彼の中でのプライベートのいろんな紆余曲折があって、「神が私に何をしてくれたか?」っていうのを歌ったアルバムだと。

『Jesus Is King』のコンセプト

で、このコンセントはやっぱり、とりわけ日本人にとってはなかなか理解しがたい。その「神」という概念が違うから、すごくアメリカ的な考え方じゃないとたぶん深い理解はないんだろうけど。ただその中でも1曲ね、その彼がやりたかったことがギュッと詰まっている『God Is』という曲があるので。ちょっと前半、それを流そうと思います。これが、もうめちゃくちゃ……なんだろう? 泣かしにかかってるからなんかね、腹立つんだけど(笑)。めっちゃ泣けちゃうんだよね。なんか。

いちばん最後にですね、まくしたてるラップの中で「This my wife, this my life」「Won the fight」「That’s what God is」っていう。「これが私の妻、これが私の人生」「私は戦いに勝った」……この「戦い」っていうのは彼が前作『ye』で「bipolar(双極性障害)」だっていうことを独白していましたけども。その自分の精神病に苦しんでいるっていう、それもたぶん示唆しているんだろうと僕は勝手に想像して。もちろん自分のことにも置き換えて。それで「Won the fight(戦いに勝った)」。そして「That’s what God is(これが神ということだ)」っていうね。

まあ、やっぱりグッと来るものがあるんですよ。もちろんその「God」のコンセプトはわからないけど、ゴッド的な自分のとても大切なものにその「God」を置き換えて聞いてみるとすごくグッとくるものがあるので、ちょっと聞いてみてください。『God Is』。

Kanye West『God Is』

お聞きいただいたのはカニエのニューアルバムから『God Is』という曲でした。そうなんですよね。だから、この曲が全てを物語っているというか。並々ならぬ想いみたいなものに僕はやっぱりグッと来ちゃうんですよね。この曲は。他にもね、すごくいっぱいいい曲があるんですけど。そう。僕の中ではね、そのカニエっていうのはただの音楽家というよりはもっとモダンアートに近い……モダンアートのアーティストというイメージなので。まあコンセプトありきで作品を作っていくっていうのがね、彼のスタイルだし。

そのコンセプトが正直、そんなに綿密に計算されて自分の中で咀嚼されたものではないんだけど、何かその方向としてはより外に高みにアグレッシブに。もっといいバイブスのほうに流れてるっていうのはやっぱり大前提としてあるんですよ。それを誰よりもね、エネルギッシュにやっている人だから、そこは本当に感服しちゃうんすよ。もちろんね、知ってる人もいっぱいいると思うんですけど、すごい失言が多かったり。あとはね、失態も多かったり。

2000年代後半のMTV VMA授賞式でね、テイラー・スウィフトからマイクを奪ったりとか。それは「自分が最高のアーティストだからだ」っていう自負があるからできることらしいんですけど。本人のインタビューを見たけども。すごいよね、そこまでできるってなんか。うん。やっぱりね、発言がな、ひどい時がある。あれもありますよね? 前作か前々作か忘れちゃったけど。「黒人の奴隷制、あれは黒人の選択だった」っていうことを言ったわけですよ。そこでね、TMZの某有名なレポーターが「お前は間違っている!」とその場で諭すっていうすごくセンセーショナルな事件があったんですけど。

あれもね、僕は本当にひどいこと言ってるなっていうのは承前なんですが。まあ、彼の言い分からすればその新しい概念、コンセプトを提示して。それが新しくてあまりにも突飛だから叩く人がいる。まあ、これはちょっと歴史理解とか知性との絡みがあるから、僕はそれを今回、その事件の言い訳にするのはあんまり適切ではないと思うんだけど。でも彼がしていること……新しい概念を提示して、それについて人類を前に進めていくっていうのは彼だからこそ、彼しかできないし。自分の中では反発心もありつつも、本当にそうだったんだろうかっていうのを自分の中で議論していくという良い題材になるんですよね。

だから僕、なんか憎めないというかね、すごく考えさせられるアーティストだなって思う。逆にもっとも尊敬できないのはそれが彼の中で咀嚼されていないっていうことが僕の中でね、すごく腹立たしいというか。「言ったもん勝ち」みたいなところがあるんで。そういう意味では他のアーティスト……それこそ、ジェイムス・ブレイクとかフラック・オーシャンの方がより内省的でしっかり咀嚼してて、言葉に重みがあるなって思うんですけど。

まあ、カニエはそういう役割な人じゃないんで。まあ、僕の勝手なね、好きだからこそのカニエ像なんですけども。他の人から見たら全くそんなことないのかもしれないけど。うん。僕はカニエはそう思ってますね。本当に面白いアーティストだと思います。ということでこの『Jesus Is King』、例にもれなく素晴らしいアルバムがあったので、後半も何曲かかけていきたいと思います。J-WAVE『MUSIC HUB』、まだまだ続きます。

(中略)

(小袋成彬)J-WAVE『MUSIC HUB』、ナビゲーターの小袋成彬です。先週、リリースされましたカニエ・ウェストの『Jesus Is King』があまりにも素晴らしかったので。まあカニエのことも話しながら、今回はそのアルバムから何曲か流していきたいと思います。次、どうしようかな? カニエ・ウェストの『Jesus Is King』から『Water』です。

Kanye West『Water』

お聞きいただいたのはカニエ・ウェストの新アルバム『Jesus Is King』から『Water』でした。これもね、すごいシンプルな詞子だけど。サビが「私を照らす光の乱反射をそのままにしておけ 塩素を抜いてピュアなままで……(Take the chlorine out our conversation Let Your light reflect on me I promise I’m not hiding anything It’s water We are water Pure as water」みたいな内容なんですけども。「塩素(chlorine)」って俺、初めて歌詞で見ましたね(笑)。わからなくて調べたんですけども。「ああ、これ塩素なんだ」っていうね。そんな歌でした。

実はこのラジオでカニエ・ウェストについて語ったっていうことはいままでなかった気がしますね。カニエの曲もたぶん1、2回ぐらいしか流してないのかな? あんまりね、ラジオで流せない曲なんですよね(笑)。お下品とか意味がわからないとか、あとはサウンドが凶悪的すぎてね。『Yeezus』っていう3個前のアルバム……1個前が『ye』で2個前が『The Life Of Pablo』で3個前が『Yeezus』。このアルバムはもうね、とんでもない。みなさん、聞いたことあるか……まあ、あるだろうな。ここのリスナーは。

あれはもう革新でしたね。音作りといい、言っている内容といいね。あれ、ちなみにね、全部ライタークレジットにマイク・ディーンが入ってるんですよ。で、最近話したかもしれないですけど、マイク・ディーンっていうミキシングエンジニアの人がいて。もちろん自分でコンポーズもするんですけども。『Blonde』だったり『Astroworld』だったり、それこそ『Yeezus』は全部彼がプロダクションに関わっていますからね。

マイク・ディーンのプロダクション

もう、いま彼がミックスしたものはだいたいトップテンに入るんじゃないかな? アメリカのビルボードのね。本当にそんぐらい……おじさんなんですけども、すごいかっこいい人がいるんです。あとはね、シンセサイザーがすごく好きみたいで。新しいシンセ買って試奏とかしてますね。もう今の音を作る人です。この人の音の特徴はバカデカい。そして、ギリギリ痛くない痛い音を作るのがすごい上手いんですよ。本当にね、インパクトがすごい音なんですよね。決して優しい音じゃないんです。

もうバーッと来るような、胸ぐらをつかみに来るような音作りをすることで有名です。他のエンジニアからするとね、マイク・ディーンは「ちょっとあいつ、うるさいな」っていう感じらしいんですけども。僕は自分のモードにもいま合っているんで。もちろんインスタもフォローしてますし、追っています。音作りをどうしてるんだろう?っていう。

で、今回もね、例に漏れなくマイク・ディーンが『Jesus Is King』、ミックスしてるっぽいですね。さあ、4曲目を流そうかな。全部いい曲なんだけどな。これかな。『Use This Gospel』。

Kanye West『Use This Gospel』

お聞きいただいたのはカニエ・ウェストの新アルバム『Jesus Is King』から『Use This Gospel』でした。ジャズの名サックス奏者ケニー・Gがフィーチャーされています。サンデーサービスのね、各公演でもたまに出てきたりするんで。かっこいいですよね。ここまでちゃんと尺を用意してもらうってね。意外とサックスって混ぜたりするとちょっとツィジーというか。なんかちょっとやっちゃっている感がすごくあって。僕も使うのを避けているんですけども。ここまでかっこいいと、もうなんでもありだよね。うん。ということで『Use This Gospel』という曲でした。

冒頭に話した通り、今回のカニエのアルバムを理解するにあたって、彼の持ち込んだコンセプト、設定したコンセプトを理解する必要があったかもしれないんですけども。いまね、4曲聞いて……冒頭の「神が私に何をしてくれたか? 神が私にどう作用したか?」っていうものを歌いたかったっていうコンセプトのもと、いま流した4曲を聞いてみるとやっぱり、すごくスピリチュアルな気持ちで作ったんだなっていうのがよく分かりますね。で、僕ね、それがめちゃくちゃ好きなんですよ。

僕はスピリチュアルな人間じゃないし、時々ね、「スピッてる」なんていう風に揶揄される言葉もあるんですけども。僕はスピリチュアルになることっていうのには意外と抵抗がないというか。すごくいいことだなと思うんですよね。だからその今回のバイブスがすごく……本当に「いいな」って思うんですよね。歌詞も汚くないし(笑)。「ああ、カニエってやっぱり素晴らしいな」って思うな。そのモダンアートの文脈においてね。ということでした。今日は『Jesus Is King』について語りましたが、みなさんいかがだったでしょうか?

僕の中ではもうカニエは偉大なアーティストであることには全く疑いはなくて。本当に彼の中でのもがきとかね、その中に見つけた救いみたいなものをちゃんと音楽に昇華しているのは……まあ、音楽にとどまらずね、パフォームしているっていうのはなんか、元気が出ますね。本当に。素晴らしいなって思う。まあ彼の提示したコンセプトは彼の中で咀嚼しきれてないっていうのが僕はいちばん腹立たしいというかね、どっぷり尊敬はできないんだけども(笑)。まあ、彼のエネルギーとか彼が持つ前に進む力っていうのは絶対に身につけるべき、見習うべきだなって本当に思いますね。

本当にね、最近なんか日本のニュースで3000円のパンケーキ……ある閣僚が3000円のパンケーキを食べて、それに怒っている人がいるみたいな話があったみたいだけども。ねえ。海外に住んでわかったけど、それを言っているのは日本だけだね。なんか、やっぱり節制とかが美徳なのかな?って思ったし。僕もそういう価値観で動いてきたけども。やっぱりカニエのアルバムを聞いて海外にいると、もっと……なんだろう? 「偉大でありたい」とか「高みに行きたい」っていう気持ちが悪いことじゃないんだなっていう風に後押しされる気持ちになりますね。本当にそう思います。

なので、僕は人に押し付けることはしないけど、少なくとも僕はね、今回の『Jesus Is King』を聞いて「God」というコンセプトはわかんなかったけど。何か自分が前に進めるような力を得たような気がしますね。本当に名盤でした。ぜひぜひみなさん、楽しんで聞いてください。

<書き起こしおわり>

渡辺志保 Kanye West『Jesus Is King』を解説する
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