町山智浩 是枝裕和『真実』を語る

町山智浩 是枝裕和『真実』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で是枝裕和監督、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の映画『真実』を紹介していました。

(町山智浩)今日はですね、フランス映画を紹介します。ただ、監督は日本の人です。是枝裕和監督の『真実』という映画について紹介します。音楽をどうぞ。

(町山智浩)はい。いま流れてる曲はですね、ご存知ですよね?

(赤江珠緒)はい。『シェルブールの雨傘』。

(町山智浩)ご覧になりました?

(赤江珠緒)いや、ちゃんと見たかな? 見ていないんですけど、曲だけ知っているのかもしれない。

(町山智浩)ああ、曲はみんな知っているっていう感じですね。これはこの『真実』という映画の主役のカトリーヌ・ドヌーヴさんがこの『シェルブールの雨傘』で世界的スターになったんですよ。1960年代ですけども。で、このカトリーヌ・ドヌーヴさんはおそらくいま現在、現役でやってる女優さんの世界最高峰にいる人だと思いますね。いまも、まあ長い現役の女優さん、世界中にいっぱいいますけども。いまも美人女優をやっている人はこの人だけじゃないかと。

(山里亮太)すごい!

(赤江珠緒)そうですよね。ずっとカトリーヌ・ドヌーヴっていますもんね。

(町山智浩)1943年生まれなんで現在75歳。だから吉永小百合さんも美人女優をずっとやっていますけども。カトリーヌ・ドヌーヴさんの方が歳上かな?

(赤江珠緒)いまでもやっぱり女性誌とかでね、なんかピックアップされたりしますもんね。カトリーヌ・ドヌーヴさん。

(町山智浩)それにはすごく理由があるんですよ。カトリーヌ・ドヌーヴという人は女優としてもすごかったんですけども、そのファッションアイコンとしてスターだったんですよ。あのね、1970年代、僕が子供だった頃なんですけども。この人は2つのビッグなメーカーのイメージモデルだったんですよ。ひとつはシャネルです。シャネル N°5っていう香水がありますよね? それのイメージモデルをずーっと10年以上やっていたんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ、そうか!

(町山智浩)それともうひとつはイヴ・サンローラン。イヴ・サンローランというデザイナーが死ぬまでずっと、カトリーヌ・ドヌーヴはトップイメージモデルだったんです。だから、いまでもファッション誌とか女性誌にいっぱい出てくるんですよね。

(赤江珠緒)そうか。もうゴージャスな正統派美女といえば……みたいな方ですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。この人のためにイヴ・サンローランはいろんなドレスをデザインしたんで。イヴ・サンローランのミューズでもあったんですよね。で、もうひとつはこの人、その当時世界一の美人女優であったんですよ。この人の顔、見てみてくださいよ。カトリーヌ・ドヌーヴの。

(山里亮太)いや、昔の写真がいま、手元にありますけども。いや、きれい!

(町山智浩)もう全く欠陥がないんですよね。

(赤江珠緒)文句のつけようがない、「これぞ美女!」みたいなね。

(町山智浩)完全完璧なんですよ。だからそういう意味でもすごかったんですけども。でも演技もすごくてね。まず、その『シェルブールの雨傘』っていうのはすごい若い頃に撮られてるんですけども。これは最近の映画にも非常に影響を与えてる映画なんですよ。いちばん最近の映画だと『ラ・ラ・ランド』が『シェルブールの雨傘』の影響で作られているんですよね。これ、ミュージカルと言ってもすごい厳しいミュージカルなんですよ。シェルブールっていうのは実在の港町なんですけども。

そこで若い男女が出会って恋に落ちるんですけど、戦争が始まって。アルジェリア戦争っていう、フランスが植民地としてアフリカに持っていたアルジェリアが独立しようとしたんで、それをフランスが武力制圧に行くんですね。そこに彼氏の方が取られちゃって、それで2人が離れ離れになって。結局、結ばれないで終わっていくんですね。『シェルブールの雨傘』って。で、最後にそれぞれの人生を歩んでる2人が再会するところで終わるというね。

(山里亮太)ああ、そうだ。『ラ・ラ・ランド』と一緒だ。

(町山智浩)『ラ・ラ・ランド』なんですよ。

(赤江珠緒)悲恋なんですね。うん。

カトリーヌ・ドヌーヴ×是枝裕和

(町山智浩)そうなんですよ。だからそういうすごい切ない映画で、いま見てもすごいんですけども。そのカトリーヌ・ドヌーヴがこの75歳で、日本の監督の是枝監督の映画に出たっていうことで。これはすごいことなんですよね。というのは、カトリーヌ・ドヌーヴっていう人はね、さっき言ったみたいに世界中の有名な映画監督の映画に出てる人ですから。是枝監督に僕、この間トロント映画祭で会ってきたんですけど。やっぱりものすごく緊張したって言っていましたよ。

(赤江珠緒)それはそうですよね!

(町山智浩)ねえ。だって「世界中の超有名な巨匠と一緒に仕事してきた人からどういう風に自分は見られるだろう?」って思いますよね(笑)。

(山里亮太)あと是枝監督ってよく台本なしで口立てでセリフを説明したりとか……。その方法もやられたんですか?

(町山智浩)そこがポイントなんですけども、今回はシナリオをきっちりと書いてやっていたんですけども……カトリーヌ・ドヌーヴさんね、現場に入ってきた時にセリフ、全然入ってなかったそうです。

(赤江珠緒)ウソーッ! そんな感じなの?

(町山智浩)この人、現場で全然セリフ入ってないんだって。

(赤江珠緒)それで大丈夫?

(町山智浩)その場で掴むらしいんですよ。そこが天才っていうか、もうだってこの人は60年ぐらい女優をやっているんですよ。

(赤江珠緒)いや、それはそうだけど、とはいえ……。

(町山智浩)でもキャリア60年だから、もう現場に来たらパッと掴むらしいんですよ。「すごかった」って言ってましたね。でね、この『真実』っていう映画はカトリーヌ・ドヌーヴがそういうキャリア60年のフランスの大女優を演じるんです。

(赤江珠緒)じゃあ、割とそのまんま?

(町山智浩)そのまんまなんです。彼女のまんまの役なんですよ。で、役名はファビエンヌっていうんですけども。ファビエンヌってういのはカトリーヌ・ドヌーヴのミドルネームなんです。でね、是枝監督はこのシナリオを書く時に何度もカトリーヌ・ドヌーヴさんに会って、いろいろな質問をして、彼女の人生を全部聞いて、それをシナリオに反映させたらしいんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから本人なのか、役柄なのかが非常に曖昧な役なんですね。で、大女優なんですけど、その家に娘が帰って来るっていう話なんですよ。で、娘は女優を目指してたんだけども、母親の光が強すぎてフランスで上手くいかなくて。で、シナリオ作家になってアメリカに渡って暮らしてるという設定なんですね。演じるのはジュリエット・ビノシュさんです。もともとこれ、ジュリエット・ビノシュが企画した映画なんですね。

是枝監督に「一緒にやりましょうよ」っていう話で、「じゃあ……」ってやっているうちにできた話なんですけども。で、ジュリエット・ビノシュ扮する娘はニューヨークで結婚してて。相手はイーサン・ホークなんですけども。それで小さい娘がいて。それがカトリーヌ・ドヌーヴのいる実家に帰ってくるんですね。そこでまず最初に娘が何て言うかっていうと、「お母さん、最近自伝(回顧録)を出したでしょう? 読んだけど、嘘ばっかりじゃないの!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)あらっ?

(町山智浩)そう。それで「あら、どこがおかしかったの?」って言うんですけど。「あなた、まるでいいお母さんみたいに書いてるけど、あなたはいいお母さんだったことなんて1回もないわよ!」っていう。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)「子育ても何もしてないし。ほったらかしで。自分は女優ばっかりやってて。私はもうあなたに母親として優しくされたことなんて1回もないわ!」って言うんですよ。

(赤江珠緒)あら。

(町山智浩)「でも、おかしいわね?」みたいな話で。この話は『真実』っていう映画のタイトルがついてるんですけど。この女優さんが語る「真実」がどこまで真実なのか?っていう話なんですよね。

(赤江珠緒)うん。面白い。なるほど!

どこまでが真実なのか?

(町山智浩)彼女はとにかくその自伝の中で世界中のあらゆる映画俳優や監督たちのことを書きまくってるんですよ。で、この映画の中でも1回、実名を出しているんですね。「○○っていう監督は私に惚れていたわ」とか。「○○っていう俳優はダメで」みたいな話をいっぱいするんですけども。それは、嘘か本当かわからないんですよ。

(赤江珠緒)フフフ、そうですね(笑)。そうなると。

(町山智浩)で、たしかめようとしても、彼女が話題に出す人のほとんどが死んでいるんですよ。もうみんな、死んじゃっているんです。だから、わからないんで。そのへんが面白いんですよ。で、しかもこのカトリーヌ・ドヌーヴ扮するファビエンヌっていう人はものすごい毒舌なんです。絶対に何も褒めない。お茶とか出されても、かならず「ぬるい」とか「熱すぎる」とか「銘柄が……」とかケチをつける。

(山里亮太)うわあ。めんどくさい……。

(町山智浩)すっげーめんどくさい人で。あまりにも意地悪なんで、孫娘は最初彼女のことを魔女だと思うんですよ。

(山里亮太)フフフ、そんなに?

(町山智浩)そう。もうひとつ、魔女な理由があって。75歳のおばあちゃんって聞いて会いに来たら、全然そう見えないんですよ。いまでも美人だから。バリバリにセクシーかましてるんですよ。だから、いわゆる「美魔女」っていう言葉があるけども。「この人、本当は魔法使いなんじゃないか?」って孫娘は思うんですよ。

(赤江珠緒)はー! そんなに現役バリバリ?

(町山智浩)現役バリバリなんですよ。で、まあ彼女はいま現在、映画に出てるんですけども。映画撮影をしていて。その現場でですね、監督をものすごく「あんた、監督?」みたいなひどい扱いをして。で、セリフが入ってないし……みたいな。そのへんは全部実話なんですけども(笑)。

(赤江珠緒)フフフ、いろいろと混ざっているな……(笑)。

(町山智浩)そう。だからこの映画は『真実』っていうタイトルなんですけども。その嘘と本当とか、フィクションと本当が混じり合っていて、その面白さなんですよね。

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