(赤江珠緒)じゃあ、フランスの方とかが見ると、余計に「カトリーヌ・ドヌーヴさんってこういう人?」みたいに思っちゃうのかな?
(町山智浩)あのね、フランスの人の気持ちはわからないんですけど、僕がこの映画を見ていて思ったのは、カトリーヌ・ドヌーヴさんがですね、樹木希林さんに見えるんですよ。樹木希林さんって結構インタビューとかを見たい人はわかると思うんですけども、ものすごく意地悪でしょう?
(赤江珠緒)はっきりね、信念を持って……っていう方ですからね。
(山里亮太)差し入れとかを「いらない」とかね。
カトリーヌ・ドヌーヴが樹木希林に見える
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(吉田豪)取材の時、お茶とか持っていくじゃないですか。「私、こういうのを持ってこられるのがいちばん嫌なの。こういうのをかならず持ってきてさ、残ったら置いていくでしょう? 迷惑なの。こういうの、本当にやめて!」って— みやーんZZ (@miyearnzz) October 8, 2019
(町山智浩)というか、ものすごい毒舌じゃないですか。絶対に褒めないし。樹木希林さんとカトリーヌ・ドヌーヴさんって同い年なんですよ。
(赤江珠緒)へー! ああ、そうか。なんか娘さんとの関係も、日本の親子にありがちな、寄り添う甘い感じじゃなくて割とパキッとされてますもんね。樹木希林さん。
(町山智浩)そうそうそう。そのへんとかも似ていて。で、また監督に対する上から目線とかもすごく似ているんですよ(笑)。
(赤江珠緒)フフフフフ(笑)。
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(吉田豪)「私はとにかくあの『東京タワー』の監督、どうかと思う!」っていうスイッチが入って。松岡錠司監督に対する刃が、そこでスイッチが入って。「とにかく脚本はよかった」って……— みやーんZZ (@miyearnzz) October 8, 2019
(町山智浩)これ、だからすごく思ったのは、フランス映画でフランス人のスタッフで。ハリウッド俳優であるイーサン・ホークとか、フランスの女優たち、大女優を使って是枝監督が映画を撮るって聞いた時に、どんな映画になるだろうと僕は思ったんですよ。ところが、見てみたらいつもの是枝映画でしたね。
というのは、是枝監督の映画で樹木希林さんが出てるシリーズみたいなものがあってですね。『歩いても歩いても』とかですね、『海よりもまだ深く』とか、そういう映画があるんですけども。それはどういう話かというと、阿部寛さんがダメな中年男で。で、仲の悪いその母親がいる実家に帰るっていう話なんですよ。どちらの映画も。そうすると、樹木希林さんがいてネチネチネチネチやられるという……(笑)。
(赤江珠緒)フフフ(笑)。
(町山智浩)その実家に帰った2日間ぐらいの話を映画にしているんですよ。どっちも。『海よりもまだ深く』と『歩いても歩いても』は。この『真実』っていう映画は、それに見えるんですよ。
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(赤江珠緒)へー! カトリーヌ・ドヌーヴさんが演じているのに?
(町山智浩)そう。超世界一の美人女優、カトリーヌ・ドヌーヴが樹木希林に見えるという奇跡を体感しましたね! うわっ!って思いましたよ。でね、イーサン・ホークはね、阿部寛さんに見えます。
(赤江珠緒)フフフフフ(笑)。
(山里亮太)この濃さもちょうど……そうか。
(町山智浩)イーサン・ホークはね、売れない俳優って役なんですけど。途中からですね、アル中でどうしようもない人だということがわかってくるんですよ。そのへんがね、阿部寛さんが是枝監督の映画に出る時って本当にどうしようもない……どうしようもない役なんですよ。いつも。高校生をカツアゲしているような役なんですよ。本当に。あと、別れた奥さんの真木よう子に別れているのになんか一緒にいると欲情してきて、セックスしようとしたりとかですね。
(赤江珠緒)最悪(笑)。
(山里亮太)是枝さんの中ではそういうイメージなのかな?(笑)。
阿部寛的なイーサン・ホーク
(町山智浩)そういう、いろんな意味で最悪の役をいっつもやっているんですけども。あの感じなんですよ。阿部寛感がすごくあるんですよ。だから、フランス映画でカトリーヌ・ドヌーヴでジュリエット・ビノシュで……おしゃれな映画じゃないの?っていう風に思う人も多いと思うんですけども。そういうクスクス笑いが絶えず試写の時もみんな、出ていましたね。見ながらみんな、クスクスクスクス笑っているんですよ。そういうね、是枝コメディの王道を行っている映画になっているんで、ちょっとびっくりしましたね。全然緊張せずに、フランスで自分の映画を作ってるんですね。是枝監督は。それがね、すごいなと思って。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)ただね、昔のフランス映画とかカトリーヌ・ドヌーヴの映画のファンの人も楽しめるようになっています。チラチラッとそういうところを出してくるんですよ。
(赤江珠緒)はー! 女優さんの役だから。
(町山智浩)女優さんの役だから。そう。でね、カトリーヌ・ドヌーヴの映画でぜひ見てほしい映画があって。『昼顔』っていう映画があるんですよ。
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(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)『昼顔』って最近だと斎藤工くんが出ていたドラマがありましたけども。あれの元になった……上戸彩さんとエッチしてましたけども。あれの本当に元の『昼顔』っていうのはもっと、あんなヌルいもんじゃないんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)カトリーヌ・ドヌーヴが大金持ちのハンサムなお医者さんの若奥さんなんですけども。何もかもが満たされてるから、かえって退屈でしょうがないんですね。で、ある日、ふと人妻風俗に入っちゃうんですよ。そこでSMの相手をやって、お客さんに鞭で打たれたり、ものすごい拷問をされたりすることに病みつきになっていくっていう話なんですよ。
(赤江珠緒)あらららららら……。
(町山智浩)お金持ちの若妻が。という強烈な映画がその『昼顔』なんですね。それはイブ・サンローランがずっとそのお金持ちの奥さんの服のデザインをしてるんですけど。その『昼顔』の中でカトリーヌ・ドヌーヴが着ている黒のですねミニドレスが非常に重要な役割をこの『真実』という映画の中で持ってくるんですよ。
『昼顔』のミニドレスが重要
是枝監督の『真実』を観る方は、『昼顔』でYSLのミニドレスを着たカトリーヌ・ドヌーヴを覚えておいてください。 pic.twitter.com/wBMuGwzadg
— 町山智浩 (@TomoMachi) October 7, 2019
(山里亮太)ふーん!
(町山智浩)だからそのへんはね、完全にカトリーヌ・ドヌーヴのファン向けだなと思いましたけども。でもね、この映画がまたね、是枝タッチでね。何回かね、ものすごく涙腺を刺激する、泣かせるシーンにグッと入る時があるんですよ。「これが真実か! この傲慢な女優は強がりばっかり言ってるけども、本当は心に優しいものを持っていて。娘もそれに反発してるけども、本当はお母さんを愛していて。それが真実か!」って思わせると、またひっくり返すんですよ。
(赤江珠緒)ひっくり返るのか(笑)。そこで終わらないんだ。
(町山智浩)是枝監督っていつもそれです。感動させるかに見えて、パッとひっくり返すんですよ。『万引き家族』でもそうだったですよね。あのへんで、その安易な感動に客が入り込まないようにする是枝イズムがなんかやっぱりすごかったですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)だからすごく面白くて。真実の中に嘘があるし、嘘の中に真実があるし。感動の中にも嘘があるんだけど、それをひっくり返したところにもまた本当の感動があるというね。これをやれる人は是枝さんだけだと思いましたけどね。「ネタバレするな」っていろいろ言われてるんで、苦労しながら話しましたけども(笑)。ということでね、『真実』っていうタイトルで重そうって思わないで、そういう樹木希林と阿部寛の掛け合いみたいな映画なので(笑)。団地の話みたいなものなんで。
(赤江珠緒)そうですね。グッと親近感のあるテーマだったんですね。
(町山智浩)身近なものとしてね、みなさん楽しんでもらえるといいかなと思います。これでひとつ思ったのはね、長生きするのが大事。誰よりも長く生きれば、その後に言いたい放題だから。
(赤江珠緒)たしかにね! そうですね! 歴史なんて、そうですね。生き残った人がどうとでも言えちゃいますもんね(笑)。
(町山智浩)「彼はね、私に惚れていたのよ」とか「彼とやったわ」とか、いくら言っても全然OKだから!(笑)。とにかく長生きしたやつが勝ちっていう映画でしたね。それが真実だ!
(赤江珠緒)アハハハハハハッ! そういうメッセージなの?(笑)。そうですか。是枝監督作品『真実』は今週末、10月11日公開でございます。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした。
<書き起こしおわり>