町山智浩・切通理作 ゴジラの父 本多猪四郎監督を語る

町山智浩・切通理作 ゴジラの父 本多猪四郎監督を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、切通理作さんとともにゴジラ第一作の監督である本多猪四郎監督を紹介。その偉大な功績について語っていました。

(赤江珠緒)それでは、アメリカ流れ者のコーナー。映画評論家 町山智浩さん。今週は帰国されておりまして、ラジオ生出演でーす。こんにちは!

(町山智浩)はい。どうもこんにちは!よろしくお願いします。

(赤江珠緒)よろしくお願いします。そして今日は町山さんともう一方。スペシャルゲストも一緒にお越しくださっています。町山さん、ご紹介いただきましょうか。

(町山智浩)ええと、切通理作くんといいまして、『くん』と言っても1964年生まれだからもう50か(笑)。ねえ、僕は本当に長いんですよ。彼とは。何年になる?最初に会ってから?

(切通理作)90年ぐらいですよね。

(町山智浩)あ、90年くらいだね。89年とかそのぐらいに会ってるから、もうすっごい長いんですけど。えっ?だからもう、25年?四半世紀の付き合いで。

(切通理作)いま50才なんですけど。

(町山智浩)彼は大学出てすぐですね。僕、会ったの。で、彼の最初の本を僕が編集したんです。

(切通理作)っていうか、町山さんに僕は著述業として世に出していただいたんで。そうじゃなかったら、いまここにもいなかったっていう感じなので。

(赤江珠緒)そうですか。ちょっとね、プロフィールをご紹介させていただきますが。切通理作さんは1964年 東京都お生まれの文化批評家でして、現在50才になられるということで。で、お名前がね、ペンネームのようですが、これは本名の切通理作さんでございます。

(山里亮太)本名なんですね。

(切通理作)そうなんです。はい(笑)。

(赤江珠緒)編集者を経て、1993年に『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』でデビューされました。

(切通理作)これが町山さんが作ってくれた・・・

(赤江珠緒)あ、そうなんですね。で、批評集として、『お前がセカイを殺したいなら』などを出版され・・・

(切通理作)これは町山さんに怒られた本。

(町山智浩)そう。ダメ!って(笑)。

(山里亮太)言われたんですね、その時に。

(切通理作)そうなんです。

(赤江珠緒)ご著書『宮崎駿の<世界>』でサントリー学芸賞を受賞されました。映画やドラマ評でキネマ旬報、映画秘宝、映画芸術などに寄稿され、新聞各紙や週刊誌でもコラムを執筆されています。特撮・アニメに関する執筆も多く手がけていらっしゃいます。そして、11月6日には構想・取材に20年かけたという評伝『本多猪四郎 無冠の巨匠』が発売されます。ということで。

本多猪四郎 無冠の巨匠

(町山智浩)これがやっと出たんですよ。20年かかって。これ、僕が20年前に出すはずだった本なんですよ。

(山里亮太)えっ?

(切通理作)担当編集者として、やってくださるはずだったんだけど。僕が書けなくて。まあ、逃げまわったりしててっていう。

(赤江珠緒)これ、超大作ですからね。

(町山智浩)とんでもないですよ(笑)。で、これ本を作る前にね、いろんな人に取材行ってるわけですよ。一緒に僕。切通くんと一緒に。その人たちに申し訳なくてね。本が出ないから。いつまでたっても。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)あの取材はなんだったんだ?と。

(町山智浩)そう。どうなってるんだよ?みたいな。

(切通理作)20年ぶりに僕、本が出ましたって手紙を出したんだけど。受け取った方、びっくりするんじゃないかな?

(町山智浩)あれ?まだ生きてたの?っていう。どうなってんの?と。

(山里亮太)もうみんなが、あれ結局なんだったんだろうな?って言ってスッと忘れたぐらいの時に。

(切通理作)やってたんだ!みたいな。本当、申し訳ない。

(赤江珠緒)そういう意味では、本当に思い入れもあるご著書になりますよね。今回ね。

(切通理作)いやー、もう・・・その度に町山さんさんが、僕が外でなにをしようと、『あ、まだ?あの本、まだ?』って。

(町山智浩)だって20年。僕らはもう、あれですよ。その頃童貞ですよ・・・

(切通理作)(笑)。そんなことはない。

(町山智浩)そんなことはないですけど。

(切通理作)でも、結婚はしてなかったですからね。

(町山智浩)結婚はしてなかったね。まだ子どもですよ。ツルツルでしたよ。

(切通理作)子どもみたいに。

(赤江珠緒)いやいやいや!

(山里亮太)成長、遅すぎるでしょ!

(町山智浩)あ、そっか。

(山里亮太)で、切通さんもね、やっぱり町山さんが言ったことを『そうそう』って言ってますけど。

(町山智浩)つられて思わず言っちゃって。

(山里亮太)そのフリ、乗っちゃダメでしょ、いまの!

(切通理作)町山さんはずっと、すでにキャリアありましたからね。僕はぜんぜん初めてに近い・・・

(山里亮太)20年間もその、なぜに逃げてたんですか。そんなに。

(切通理作)町山さんの構想が壮大すぎて、僕の知識量じゃ追いつかなかったっていうことがあって。

(山里亮太)じゃあ、やっといま追いついて、いまだ!っていう?

(切通理作)追いついてはいないんだけど、当時よりはややマシになったというか。

(町山智浩)いやいやいや。

(赤江珠緒)でも、お二人はどうしてもやっぱり本多猪四郎さんについて書きたい!と。

(町山智浩)そうなんですよ。本多猪四郎さんが亡くなって1年ぐらいした頃だっけ?

(切通理作)そうですよね。

(町山智浩)その頃だったんですけど。で、本多猪四郎監督っていうのはゴジラ1作目の監督なんですよ。で、その後もずっとゴジラシリーズを昭和に作っていたんですけれども。あの、あまりにも亡くなった時もゴジラの監督として紹介されるだけで。映画作家っていうか、監督としての評価っていうのはほとんどちゃんとされてなかったんですね。当時。

(赤江・山里)はい。

(町山智浩)ただ、僕とか切通くんとか怪獣マニアの人たちの間では、本多監督の作品っていうのは他の監督の怪獣映画と決定的に違うものがあって。明らかにこれは本多さんの世界っていうのがあるんだけど。それをなんとか文章にできないか?っていう気持ちがすごくあって。で、その中でひとつ大きかったのが、こっから話すことは切通くんは関係ないから、僕の意見なんですけども。

(赤江・山里)はい。

(町山智浩)ゴジラっていうのは、やっぱり本多さんの『作品』なんですよ。でも、それをあまり強く押し出すと、ゴジラっていう商品の版権の問題に発展しちゃうんです。これは。だから、本多さんっていう作家の、ゴジラに対してどのぐらいの力を持っていたか?どのぐらいの想像力ってのがゴジラに関して本多さんの想像力が大きかったか?ってことを強調すると、ゴジラの版権を持っている人が困るわけですよ。

(赤江・山里)あー!

(町山智浩)こういう問題があって。これは僕の意見なんですけど。その時、僕が切通くんに本を書いてほしかった理由っていうのは、青色ってかいて『せいしょく』って読みますけど、青色ダイオードとまったく同じ問題なんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)要するにあの、中村修二先生がね、ある企業の中に入っていて開発したんだけれども。その発明者としての権利であるとか、栄誉であるとか、利益っていうものをちゃんと得られなかったということがありますよね。で、結局彼は会社を飛びだして、日本を飛びだして、みたいなことになったんですけども。そういう問題っていうのは常に起こってるんですよ。

(山里亮太)映画の世界でも?

(町山智浩)映画の世界でも。いちばん大きな問題で、これはもうすでに過去のことなんで言っていいと思うんですけど、ウルトラマンシリーズってありますよね?で、ウルトラマンのデザインをしたり、ウルトラマンの怪獣。バルタン星人とか。そういうのをデザインした人は成田亨先生っていう人だったんですね。デザイナーの。ところが、彼のところにはその後、ウルトラマンであれだけずっとお金儲かっていたのに、ぜんぜんお金入んなかったんですよ。

(山里亮太)えっ?

(町山智浩)それは、ウルトラマンを作っていた円谷プロっていう会社自体の彼は社員だったんですよ。デザインをした時に。で、社員だった時にやったことっていうのは、さっきのダイオードと同じことで、辞めた後にそれがどれだけ利益を生むでも、入ってこない。だからどこでもそうですよ。だから僕なんか出版社にいて、編集した本っていうのが、僕が会社を辞めた後、文庫になったりしてるんですよ。結構。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)でも、なんにも入ってこないどころか、なんの連絡もないんですよ。でも、その本っていうのは全部僕が作ったものなんですよ。でも、入らないですよ。それは。そういう問題があるんだけども、ただ、映画って芸術じゃないですか。芸術の場合は、それでいいの?っていうことがあるわけですよ。すごく。

(山里亮太)根本を作ったものにちゃんと入るものが入らないと。

(町山智浩)そう。ただ、やっぱりそれだと、そういうことを言い出すと困るからってことでもって、ゴジラの版権を所有したい側の方が『あれは共同作業だったんだ。会社のものなんだ』ってことを強調するような本を逆に出したり。その路線の本を出したりするんだけど。で、本多監督っていうのは非常に謙虚な方でですね。そういうことを言われても、『僕の作品じゃないよ』って言っちゃう人だったんですよ。

(切通理作)だから『作品はみんなのものだから・・・』っていうね人なんですよ。『僕のことはあんまり特別扱いしないでほしい』とか。

(町山智浩)そう。でもそれ、謙虚すぎるんですよ。

(山里亮太)ほとんど全部作ったと言っても過言ではないでしょ?

(赤江珠緒)今回ね、この前書きにもありますけれども。巨大ロボットを怪獣と戦う映画、パシフィック・リムでエンドクレジットの最後にお名前も出てくる。そして2014年のハリウッド版ゴジラで渡辺謙さん演じる博士の名前が『Ishiro』であったというのも、この本多さんからお名前をとられている。

(町山智浩)そうなんです。だからね、これ面白いのは、日本ではあんまり評価がされないように。要するに会社ぐるみでもって本多さんの評価を下げないとマズいってことで下げてきたんですけども。海外ではそんなこと、関係ないわけですよ。ゴジラシリーズっていうのは本多監督の作品だけ特別であると。これはすごい!ってことでもって、評価がすごく高いんですよ。海外で。で、それこそフランスとか、まあアメリカでは本多さんっていうのは、もう巨匠なんですよ。

(赤江・山里)はー!

(町山智浩)黒澤明とか、宮崎駿監督とか、溝口健二とか、小津安二郎監督と同じ、日本を代表する作家なんですよ。

(赤江珠緒)日本が誇る。

(町山智浩)誇る作家なんですよ。

(切通理作)だからフランク・ヘネンロッターっていう監督なんかは、『ヒッチコックと匹敵する』っていうわけ。で、僕なんかは怪獣好きだけど、本多さんも好きだけど、でもそう言われてハッとさせられて。ヒッチコックと比較して考えたことが1度でもあっただろうか?っていう風にね、思っちゃうんですよね。

(赤江珠緒)私もね、今回切通さんのご著書を読ませて頂いて、本多監督の作品が見たいなと思って。初代のゴジラと、マタンゴを見ました。

(町山智浩)勉強家だなー!マタンゴ、すごかったでしょ?

(赤江珠緒)マタンゴ、すごかった!マタンゴ、ちょっとヒッチコックじゃないけど。そういうなんか、じわじわ来る怖さでしたね。

(町山智浩)マタンゴ、水野久美さんが、キレイな水野久美さんがキノコを口にくわえて『美味しいわよ!』っつって。子どもの時、本当困りましたね。見た時に。どうしよう?って思いましたよ。

(赤江珠緒)(笑)。強烈でしたね。

(切通理作)男は醜くキノコを食べて崩れるんだけど、女は色っぽくなるんですよ(笑)。

(町山智浩)そう。

(切通理作)どんどんどんどんエロくなっていくんですよ。

(赤江珠緒)なんなんだ、これは?っていう。

(山里亮太)どんどんどんどんエロくなる!?

(町山智浩)そう。キノコを食べるとエロくなるんですよ!スーパーマリオがそうだったら、大変ですよ!

(山里亮太)(笑)。ピーチ姫がえらいことになっちゃう!

(町山智浩)大変なことになりますよ!

(山里亮太)救う動機が変わってきちゃうっていう(笑)。

(町山智浩)大変なことになりますよ、ピーチ姫が。ねえ。

(赤江珠緒)もう、ズーン!ときますよ。

(山里亮太)あ、そう。

(町山智浩)マタンゴはすごいんですよ。南の島に金持ちのボンボンたちが遊びに行くと、そこに食べ物がないんで。でも、キノコはあるんですよ。それを食べると、男は怪物になるんだけど、女はどんどんセクシャルになってくるの。

(山里亮太)へー!その監督が、本多監督。

(町山智浩)そう。本多監督の作品なんですけど。あと、ゴジラの方はすごいでしょ?

(赤江珠緒)すごい。すごいんですよ。やっぱりね、面白いですし。あとね、私が思っていたより、ゴジラがなんかかわいいっていうかね、かわいそうみたいな。鉄の電熱線みたいなのでね、やっている時も、別に動いているだけなのに、まあ街中壊してしまうんですけど。なんかちょっと手とかも短いじゃないですか。なんかね、かわいいし、ちょっとかわいそうにも見える。なんかそういうちょっと、悲哀みたいなのも感じるゴジラなんですよね。

(町山智浩)そう。哀れなところもあるんですよね。そう。だからあれはすごく、それを見た三島由紀夫先生とかね、いろんな日本の哲学者であるとか、文学者であるとか。もういろんな考察をするぐらい深い話だったんですけど。で、ゴジラっていうのを作った時、日本ではいま『円谷英二が作った』みたいに言われてるんですね。特撮監督の。でも、ゴジラって、ね。この本にも書かれてる通りに、円谷英二さんはその時はカメラマンなんですよ。特技の。

(切通理作)特殊技術のもちろんチーフではあったけれども、監督は本多猪四郎さん1人で。予告編にも『監督 本多猪四郎』って出てくるだけなんですよ。

(町山智浩)そう。だからもう全部コントロールしてるんですよ。で、本多さんっていうは他の映画監督と違って、コントロールがすごくて。映画全部、徹底的にコントロールするんですよ。最初のデザインの段階、企画からシナリオ、セリフ。で、どのぐらいコントロールしてるかって、面白い話があって。ええと、ちょっといま、音楽かけてもらえますか?はい。

(山里亮太)あ、これはさすがに聞いたことあります。

(町山智浩)はい。『ドゥンガン カサンクヤン♪ インドゥムウ♪』。

(山里亮太)ご機嫌で歌ってました。町山さん。

(町山智浩)これ、本多監督のモスラっていう映画の主題歌なんですけど。これ、何語かわからないじゃないですか。ねえ。

(赤江珠緒)たしかに。

(山里亮太)これはどこかの言葉なんですか?

(切通理作)要するに、いろんな現地の言葉を研究して、それでこう本多さんが自分の日本語の言葉を訳してもらった。なんか助監督の人がそういうの、知っていたっていうね。南方の言葉をね。

(町山智浩)こういう歌も、監督が作詞をしちゃうんですよ。

(山里亮太)へー!なんでも。

(赤江珠緒)そういうところまで、全部。

(町山智浩)すっごい細かいところまで、全部徹底的にやるんですよ。だから、僕が非常に申し訳ないと思っていたのは、それがわかるには、本多さんが作品を作る時にメモとか脚本とかをいっぱいいじっている証拠みたいなのが存在するんですけど。それを全部保管している先生がいるんですよ。日大の・・・名前出していいの?

(切通理作)タジマ先生っていう。っていか、寄贈したんですよね。亡くなった時にね。

(町山智浩)で、そこに僕、行ってるんですよ。切通くんと一緒に。で、宝の山なわけですよ。で、『えっ!?』っていう。メモとか落書きとかで、わかるんですよ。『あっ、これは元はこういうシーンだったのか!』とか、『ここのセリフは本多さんが書きなおしているんだ!』とか。全部わかるんですけど。で、それから20年ですからね(笑)。資料見せてもらってから。山ほどあった資料が(笑)。

(切通理作)すいません。いや、その資料ね、整理するのが大変だったんですよ。

(山里亮太)見続けて、見続けて。整理して。

(切通理作)で、この本、480ページあるんですけど。いま、さっき控室で町山さんから怒られたのは、『新書ぐらいの薄さにすべきだった』って言われるんだけど。でもね、これにまとめるだけでもね・・・相当な・・・

(赤江珠緒)たしかに。相当な読み応えが。すごいですよ。

(切通理作)要するに、監督ってなにをやっているのか?原作者っているんですよ。ゴジラって。小説家の香山滋っていう人が。だから、そういう意味では本多さんっていうのは途中から入っている監督なんですよ。だからそういう意味では原作者じゃないじゃないかっていう言い方はできるわけですよ。でも、ゴジラで我々が見たら印象に残る部分とかっていうのの、たとえばゴジラが死んだ時に『あのゴジラが最後の一匹だとは思えない』とかっていうのは、その前、香山さんの原作、原案では『原水爆実験はもう今後やらないようになった』みたいなハッピーエンドなんですよね。つまり、核実験がゴジラを生んじゃったから、人類反省しましたみたいな。割と脳天気な終わりだったのを、本多さんが『いや、核時代にこれからね、日本も入っていく中でそんな甘いラストはないだろう』と。

(町山智浩)考えてるんですよ。

(切通理作)そう。『ゴジラは出てくるんじゃないか?』みたいなね。

(赤江珠緒)それがもう、山根博士の。

(切通理作)山根博士の言葉をちゃんと本多さんがこう、もちろん脚本家の方と相談した上で付け加えているわけですよ。

(町山智浩)テーマは本多さんが書いているんですよ。それでゴジラっていうものをいちばん問題だっていうのは、生物なのに口から光をもった放射能火炎っていうのをバーッ!って吐くっていうの自体が世界中に売れたんですけど。それまで、要するにドラゴンが口から炎を吐くっていうのはあったけれど、ああいう光線みたいなものを吐くっていうのは初めてだったんですよ。映画史上。あれは本多さんのアイデアで。要するにまあ、原子炉みたいな生き物っていう考えで作られたんですけど。その時に、背びれがブワーッと光るんですよ。吐く前に。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、ガーッ!っと吐くんですけど。あれでもう、なんていうか、あれで海外の人たちはびっくりしたんですね。これはすごい!って。

(切通理作)それでその日大に一緒に資料を見に行った時にね、スクラップブックを本多さんが作っていたんですよ。で、評論家とかが割と酷評とかをしててね。『特撮はいいけれども・・・』みたいな。で、その中で本多さんが自分で書き付けていた文章をその場で町山さんが読み上げたんですよ。それがこの本の冒頭にあるですね、『評論家がナンセンスと言った。動物が放射能光線を吐くことこそ、映画的アイデアの勝利としてアメリカ人が買い付けていった。そして、大当たりを取った。百科事典にまでゴジラの名が載るようになった』っていうのをですね、町山さんがその場で読み上げてですね。ほらっ!って読み上げたのを、それを僕は覚えていたんで。20年ぶりに本の冒頭にですね、引用させてもらったっていう感じなんですけども。

(赤江・山里)はー!

(山里亮太)勝った!って感じしますもんね。なんかね。

(赤江珠緒)でね、このゴジラの初回のやつを見させていただくと、私なんか物心ついた時にはもうゴジラっていうのが頭の中でイメージとして世の中に存在してたんで。『はあ、はあ』と思いながら見てるところ、あるじゃないですか。でもこれ、1回目の人たち、で、ゴジラが出てくる時の登場シーンから、島の漁民の方たちがゴジラをまず見つけるところから始まっていくんですけど。そこからの、『あっ、こんな見たこともないものを見たら人間ってこうなっていくよな。世の中にはこうやって伝わっていくよな。あ、国会でこんな議論が起きて、こうなっていくよな』みたいな。すごい細かいディテールが描かれてるんですよね。

(山里亮太)リアルなの?

(切通理作)そうなんですよね。

(赤江珠緒)そこがすっごい面白いんですよ。

(町山智浩)この中で、この切通くんの『本多猪四郎 無冠の巨匠』の中で書いてあるのは、本多監督自身はドキュメンタリー出身なんですよ。で、ドキュメンタリーのように映画を撮るんですよね。だから子どもの頃、すごくよくわからなかったのは、自衛隊が怪獣と戦うシーンっていうのはものすごくリアルなんですよ。本多監督の撮り方だと。ほとんど、実写フィルムを切ってきたみたいな感じに見えるんですけど。

(切通理作)実際、実写フィルムを切ってきたのも使ってるんです。

(町山智浩)ただ、違和感がないんです。混ぜるとわからなくなるんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)だから元々そういう監督だったんですね。だから子ども向けのものっていう風にはぜんぜん考えてなくて。本当にそういう事件が起こったっていうように撮るっていうやり方の人だったんですよ。

(赤江珠緒)だから本当にあの、船が最初にね、遭難して。ゴジラが現れてっていうところで、島の人たちに『帰ってこないんだけど。家族が』っていうようなところとかがね。

(切通理作)そうそう。それで係員がフッと耳打ちすると、なんか自分の家族になにか起こったんじゃないか?と思ってパーッと入り口に向かって殺到するシーンがあるんですけど。そこ、俺ね、何度見ても驚くんですよ。ハッ!って驚くっていう。忘れちゃうんですよ。

(赤江珠緒)本当に事件現場みたいなんですよ。

(切通理作)怪獣が出てくるところじゃないから忘れちゃうんだけど。見る度にそこで『おっ!』って緊張感が走るっていう。

(町山智浩)役名もない俳優たちの演技の付け方が非常に上手くて。それはたぶんね、彼自身が、本多監督自身が軍隊経験があって。すごくエキストラコントロールとか大部屋コントロールがすごくできた人だと思うんですよ。それで本多監督がすごいのは、演出。芝居とかもすごくて。僕、東宝に行って。昔、東宝に行くとスチール写真って言って現場で写真を撮ってるんですね。普通の。それ、記録が残っていて。全ネガ見れたんですよ。いま、見れないんですけど。昔は見れて。見ると、ほとんど全シーン、本多監督自身が演じてるんです。

(赤江珠緒)演じてる?ええーっ!?

(切通理作)驚くシーンとか、死ぬシーンとか。あと、ラブシーンなんかも、男の方も女の方もやるんですよ。

(町山智浩)ラブシーンは、ね。男役の人と女役の人がラブシーンするじゃないですか。すると、男側で本多監督がこうやってやっいて。女側で本多監督がやっていて。どっちも1人で演じてるんですよ。

(切通理作)水野久美っていう女優さんのおっぱいを触っているシーンがあると河崎実さんが指摘してましたよ。証拠写真だよ、これは!って。

(赤江・山里)(笑)

(山里亮太)演技指導として?

(町山智浩)演技指導。だからラブシーンとかこうやってるんですよ。徹底的に自分でコントロールする人だったですよね。何から何まで。本当に。

(山里亮太)そういう監督って本多監督以外って・・・

(町山智浩)いま、あんまりいないです。

(切通理作)要するにね、アメリカ人のエキストラとかっていうのは、もうわかっていて。喜んでギャーッ!とかやってくれるんだけど。まあ、最近はハロウィンとかあるからわかんないけど、日本人って照れ屋で。なかなかやってくれないと。で、照れちゃうと。だから本多監督は自分で、マジでやってみせると。

(町山智浩)だから黒澤監督の後期の作品っていうのは、モブシーンの演出は本多監督がやってるんですよ。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)それは上手いからなんですよ。できるからなんですよ。助監でやってるんだよね?黒澤監督の後期の作品っていうのは。だから、ほとんど群集ものじゃないですか。黒澤監督の後半の映画っていうのは。戦記ものだったり。戦場をコントロールするのは、最高に上手い人だから。だからそういう人だったんですけど。ただ、日本では本当に評価されてなくて。それはまあ、ゴジラっていうものがあまりにも儲かる商売だったからだろうなと思うんですよね。

(赤江珠緒)そうですか。

(山里亮太)そういう理由から、世の中の人はあんまりよく名前出ないようにされてたっていう考え方、すごいわ。

(町山智浩)それは、しょうがないなと思うんですけど。ただ、海外ではそのすごく、スティーブン・スピルバーグであるとか、ティム・バートンであるとか、この間のギレルモ・デル・トロ監督とかが。

(山里亮太)パシフィック・リムの。

(町山智浩)そう。本多監督っていうものを。

(赤江珠緒)リスペクトしてる。

(町山智浩)黒澤明と同じものとして考えている。

(切通理作)だからデル・トロなんかは、ゴジラっていう有名な作品の監督だから名前をあげているだけで。大して知らないのかと思ったら。したら、デル・トロがしゃべっているオーディオコメンタリーを聞いたら、全部知ってるんですよ。円谷英二、プロデューサー田中友幸っていう人がいて。ゴジラの中には中島春雄っていう人が入っていて・・・とか。みんな知った上で、本多猪四郎を評価してるんですよね。

(町山智浩)そう。だからそういう話をね、今度。もっと、あとはすごい濃い話とかを。もう時間ですよね?

(赤江珠緒)そうなんですよ。もうあっという間に時間が。

(町山智浩)ライブで切通くんと徹底的にやります!

(山里亮太)この温度で。

(赤江珠緒)そうですね。こちら、トークショーがあるということで。改めまして、切通理作さんの新刊『本多猪四郎 無冠の巨匠』ですけども。洋泉社から11月6日、税込み2700円で発売です。

本多猪四郎 無冠の巨匠
Posted at 2018.4.29
切通 理作
洋泉社

(赤江珠緒)で、この新刊の出版を記念しまして、切通さんと町山さんのトークショーがあるということで。会場はユーロライブ渋谷。開演が11月6日、7日。木曜日、金曜日。19時から。6日が本多猪四郎監督、7日が宮崎駿監督がテーマでお二人。

(町山智浩)実はこの2人はすっごくよく似てるんですよ。

(赤江・山里)へー!

(山里亮太)そこらへんの話も、トークショーで。

(赤江珠緒)そうなんですね。いやー、これちょっと・・・

(町山智浩)当日券がね、あります。若干。詳しくはユーロスペースのホームページで御覧ください。

(山里亮太)見てみます。ちょっと。とりあえず、マタンゴ。

(町山智浩)マタンゴはいいですよ、マタンゴは。マタンゴはこれ、絶対見た方がいい。あと、見ておいた方がいいものを言っておきます。妖星ゴラスだけは見てほしいですね。

(切通理作)あと、ガス人間第一号を見てください。

(町山智浩)あと、地球防衛軍と・・・どんどん増えていくんで。

(赤江珠緒)いっぱいあるじゃないですか!

(町山智浩)キングコング対ゴジラも絶対ですね。はい。

(山里亮太)ガス人間第一号って、舞台化されたやつ、僕出たんですよ。

(町山智浩)ええっ!?じゃあ、ガス人間になる役?

(山里亮太)いや、僕違います。僕、科学者の。ガスマニアの。あ、その監督なんですね!

(町山智浩)そうですよ!

(切通理作)ガス人間第一号は、ある踊りの家元と恋をしてっていうね。

(町山智浩)悲しい恋物語です。

(山里亮太)それ僕、舞台化されたの出たの。

(赤江珠緒)よかったね、山ちゃん。これは知らなければ。

(町山智浩)本多監督の作風として、悲しいラブロマンスっていうのもあるんですよ。

(山里亮太)そう。すっごい悲しいんですよ。

(切通理作)かならず心中を選んでしまうっていう。ちょっと神秘的な役をやった八千草薫さんのコメントもありますんで。

(町山智浩)宇宙戦艦ヤマトが最近、リメイクされましたよね?あれは、実は妖星ゴラスをもとにしてるんですよ。

(山里亮太)あ、ちょっと、見ます!

(町山智浩)是非見てください。

(切通理作)妖星ゴラスは『おいら宇宙のパイロット』っていう歌を是非、聞いてください。

(町山智浩)妖星ゴラスを見ると、宇宙戦艦ヤマトのアニメが楽しく見れます!

(赤江珠緒)盛りだくさんだよ、本当に!

(山里亮太)このお二人、すっごいスイングしちゃって!

(赤江珠緒)続きはトークショーでね。

(町山智浩)なに言ってるかわからないと思います。

(切通理作)なに言ってるかわからないと思います。

(赤江珠緒)お越しください。また、改めて。今日は初代ゴジラの監督、本多猪四郎さんのお話を伺いました。町山さん、そして切通さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

(山里亮太)ありがとうございました。

(切通理作)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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