町山智浩『アイズ・ワイド・シャット』を語る

町山智浩『アイズ・ワイド・シャット』を伊集院光にすすめる 伊集院光の週末TSUTAYAに行ってこれ借りよう!

映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『伊集院光の週末TSUTAYAに行ってこれ借りよう!』に出演。おすすめ映画として、スタンリー・キューブリック監督の『アイズ・ワイド・シャット』を紹介していました。

(伊集院光)余談が大変長くなってしまって申し訳ないんですが。さあ、それでは町山さんの今回の『週末これ借りよ』作品、なんでしょう?

(町山智浩)今回はですね、『アイズ・ワイド・シャット』という映画を紹介します。

アイズ ワイド シャット (字幕版)

(伊集院光)いま、資料をもらいました。キューブリック監督の遺作?

(町山智浩)そうなんですよ。スタンリー・キューブリックっていう名監督がいまして。『2001年宇宙の旅』がいちばん有名ですけど。その監督の最後の作品がアイズ・ワイド・シャットですね。

(伊集院光)あ、主演がトム・クルーズとニコール・キッドマン。

(町山智浩)はい。トム・クルーズとニコール・キッドマン、当時夫婦だった人たちが実際に夫婦を演じてて。これ、当時はトム・クルーズとニコール・キッドマン、撮影中に本当にセックスをしたっていう噂まで流れた映画ですね。

(伊集院光)まあまあ、夫婦なんだから・・・

(町山智浩)別になにが問題なの?っていう。

(伊集院光)っていう。で、こっち側も、『夫婦で夫婦役でそういう映画だろ?これはしてるな!』と思う、そういう感じの。

(小林悠)いやー!

(町山智浩)そう。思うんですよ。

(伊集院光)で、いま前で『いや!いや!』言っている小林アナですけど、これ見たの?

(小林悠)実は、告白すると19か20ぐらいの時に、実家のテレビでドキドキしながら見た記憶があるんです。

(伊集院光)ちょっと待って下さいよ。『いや!いや!』言ってたけど、いまの流れでその話すると、すげーエロいことになりますけど(笑)。その評判で見たみたいになりますから。

(町山・小林)(笑)

(伊集院光)えっ、見たの?

(小林悠)見たんですが問題がありまして。あのー、よくわかんなかったんです。

(伊集院光)よくわかんなかった?

わかりづらい映画

(町山智浩)これ、わかんないんですよ。この映画。やっぱり見ても。具体的にはね、舞台はニューヨーク・マンハッタン。お金持ちのお医者さんがトム・クルーズ。イケメンで、その奥さんがニコール・キッドマンで。超高級マンションに暮らしてるんですよ。その2人が。で、突然、あるパーティーに誘われた時に、その2人がバラバラになっちゃうんですね。それで、トム・クルーズの方が、あるパーティーを主催しているスケベなオヤジがトイレで自分の愛人にドラッグをやらせて、意識不明の状態になってそこに呼ばれるんですよ。『なんとかこの子の意識を戻してくれ』と。そこからだんだんおかしな世界に入ってくるんですね。トム・クルーズが。

(伊集院光)うん。

(町山智浩)それまで非常に真面目な男として、医者として夫婦仲良く暮らしていたのに、自分の友達が色っぽいお姉ちゃんとトイレでエッチしようとしていたらしいってことを知ってから、みんな自分以外の人間はエッチしようとしてるんじゃないか?って思いはじめるんですよ。自分以外の人間、みんな楽しんでるんじゃないか?ってトム・クルーズが急に思いはじめて、だんだんおかしくなっていくっていう話なんですよ。

(伊集院光)うん。

(町山智浩)で、奥さんのニコール・キッドマンにそういう話をした時に、トム・クルーズはボソッと『君は女だからわからないだろうけどね・・・』みたいなことを言っちゃうんですね。そしたら突然、ニコール・キッドマンが半ギレになって。『あんた、バカじゃないの?女っていうのは、精神的な愛だけで、女には欲望がないと思ってるの?あんた、なんにも知らないわね!私もあるのよ!』って言われてから、歯止めが効かなくなるんですよ。トム・クルーズが。

(伊集院光)うん!

(町山智浩)俺のカミさんが他の男に抱かれたいと思ったことがあるのか!?って思ってから、夜の街を彷徨いはじめるんです。トム・クルーズが。

(伊集院光)僕、いま頭の中で、それを見ている19・20の小林悠まで浮かんじゃってるもんだから、もうどうしていいか・・・これ、お昼放送されている番組ですけど、大丈夫ですか?

(小林悠)いや、実はいま話を聞いていて、そういう話だったんだっけな?って(笑)。

(伊集院光)まず、ポイントを挙げていきますか。

(町山智浩)はい。まずこの映画全体がね、謎だらけの映画なんですよ。まさしく観客に対して、この謎が解けるか?って挑戦してくるような映画です。だから観客は、とにかく次々とワケの分からないところがあったら、これは単に映画がわからないんじゃなくて、意味があるんだからわからなきゃなんないんですよ。考えて。

(小林悠)えー。

(伊集院光)その挑戦を受け止めるのは楽しさなんですね。楽しみ方なんですね。

(町山智浩)そういう映画です。これね、僕もはじめて見た時、何の予備知識もなく見たらわからなかったです。

(小林悠)じゃあ予備知識が必要な映画なんですか?

(町山智浩)そうなんです。予備知識っていうか、本当の一発ヒントでわかっちゃう話なんですよ。逆に言うと。

(伊集院光)そこを・・・

(町山智浩)言うか言わないか?なんですよ。僕がいまここで。

(伊集院光)町山さんがプロのさじ加減で言ってほしいのよ!あのね、よくゲームの攻略本ってあるじゃないですか。攻略本を見るのはイヤなの。だけど、ゲームに詳しいヤツがいいさじ加減でヒントを教えてくれると、ゲームって超面白くなるじゃないですか。そのさじ加減のやつをいただきたいんすよね。

(町山智浩)これね、すっげー難しいですけど、似たような映画があるんだけども、それを言わない方がいいのかな?

(伊集院光)まあ、じゃあ一応その似たような映画を。

(町山智浩)似たような映画はね、『トータル・リコール』です。

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(伊集院光)えっ?トータル・リコールって普通じゃないですか。SF映画ですよね?

(町山智浩)アーノルド・シュワルツェネッガーが火星に行くアクション映画で。あれが実はこの映画と構造は同じなんですよ。トータル・リコールっていう映画は、見て、『ああ、こういう映画だ』と思った人と、『いや、実は違う』っていう人と2つにわかれるんですよ。でも、それをいま言うと、全部ネタがバレる。ので、言わないです。具体的に言うと、トータル・リコールっていう映画はいちばんラストシーンに本来入っていたシーンっていうのをカットして公開されているんですよ。実際。

(伊集院光)うわー!俺、いま2本立てで謎(笑)。謎が2本立てになっちゃったよ。そうなんですか?

(町山智浩)そうなんです。この映画も、それと同じで全体がひとつのトリックになってるんですね。アイズ・ワイド・シャットっていうのは。ただ、そのトリック自体はハッキリと、こういうネタですよとは言わないで、そのまま映画が普通に終わっちゃってるんですよ。ただそのネタを言っちゃうと、みんな『ああ解けた!そういうこと?』ってわかっちゃうっていう。

(伊集院光)それは、『胡蝶の夢』みたいなことですか?

(町山智浩)ああー!素晴らしいですね(笑)。はい。

(小林悠)なんですか?それ。

(伊集院光)虚々実々。

(町山智浩)そう。いちばんのヒントは・・・一言だけ言わせてもらうと『フロイト』っていう言葉がヒントなんですよ。

(伊集院・小林)うーん・・・

(町山智浩)フロイトっていう人がいましたが、その人がヒントで。まあ、それ以上は言いませんが。はい(笑)。

(伊集院光)これ、1つ目のポイントが、まあ『謎』だと。

(町山智浩)『謎を解く』っていうことですね。で、いくつもの謎が映画の中にあるんですけど。いちばんの謎は、タイトルの謎なんですよ。ポイント2と言ってもいいんですけど。

(伊集院光)直訳だとなんですか?小林、これ完全に直訳すると?

(小林悠)あの、正しくは『アイズ・ワイド・オープン(Eyes wide open)』。目を大きく見開く。

(伊集院光)それを、アイズ・ワイド・シャットって・・・

(町山智浩)『ガバッと目を閉じて』って言ってるんですよ。これ、どうやるの?っていうタイトルなんですよ。でね、この映画のいちばん困ったなって思ったのは、日本で公開された時、1999年で。僕、まだ映画評論家になってないんですよ。その当時。どこを探しても、この映画のタイトルの意味を説明してくれる文章や記述が、一切日本には存在しなかったんですよ。

(小林悠)へー!

(町山智浩)僕は結構映画評論家になろうと思ったっていうのは、そういうことなんですよ。その時に、『なぜ誰も説明しないの?このタイトルに意味があって、こういう意味なんだよって。誰も説明しないんなら、俺がするしかないじゃない』っていう気持ちがすごく強いんですよ。っていうタイトルで。だから今日紹介したかったのと、あと僕、この当時見た時はあんまりわからなかったんだけども、だんだんわかってくるんですよ。

(伊集院光)なるほど。ポイント3が・・・

(町山智浩)3はね、『トイレ』ですね。この映画ね、トイレのシーンがすごく変な映画なんですよ。で、見るとちょっとこんなことあるの?っていうトイレの使い方してて。まあ、具体的に言っちゃうと、ニコール・キッドマンがおしっこします。この映画の中で。

(小林悠)あ、私唯一覚えているシーン、それだ!

(伊集院光)(笑)。あのさ、これ以上のカムアウト、危険だと思うよ!

(小林悠)そのシーンだけ、覚えてます。

(伊集院光)どういうの?

(小林悠)いや、旦那さんの前で、パンツをスッて脱いで、ジョーって用を足して、拭き拭きみたいな。『えっ?こんなの映画で流していいんですか?大丈夫?』って思った記憶があります(笑)。

(伊集院光)へー!

(町山智浩)そう。スタンリー・キューブリックっていう監督は、トイレに人生とかそういうもののいちばんの本質があるって思っている人なんですよ。でね、これはね、普通ハリウッド映画っていうのはトイレって描かないんですよ。

(伊集院光)それを、キューブリックは。

(町山智浩)それをなぜやるか?っていうとね、人間の本質みたいなところをね、暴こうとする監督なんですね。

(伊集院光)今日、すごく楽しみなのは、僕はその2001年宇宙の旅をすごい背伸びをして見た中学生ぐらいの時のあの恐怖から、たぶんちゃんとそれもわかんないままじゃなくて、謎を解こうと思ってこれを見るっていうのは、なんかまた僕、楽しそうで。

(町山智浩)これが上手いのは、謎を解かなくても、実は伝わるんですよ。映画の内容は。普通の映画だったら、冒険としていろんな悪いやつが次々と出てくる。そいつらをやっつけるっていうのが基本的な冒険ものですけど、アイズ・ワイド・シャットはトム・クルーズが出会う次々の冒険っていうのは、いろんなエッチな女の人が出てきます(笑)。で、いろんなエッチな誘惑があって、それを次々とトム・クルーズが出会ってっていう話なんですよ。

(伊集院光)謎を解くのを忘れちゃいそうです(笑)。町山さんにちゃんと言われてないと。小林アナウンサーが10代のころに見たって言わなきゃよかったって公開するとは思いますけども。ということで、今回映画評論家の町山智浩さんが選んでくださった週末これ借りよ作品はアイズ・ワイド・シャットでした。みなさんも、エッチなじゃなくて、町山さんが勧めるんだからしょうがないと。

(町山智浩)しょうがないんだって。俺、見たくないんだけど、これは・・・っていう。

(伊集院光)エッチなの見てるんじゃない。謎を解いてるんだぞ!っつって、見ていただければ幸いかと思います。町山さん、どうもありがとうございました。

(町山智浩)はい、ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

アイズ ワイド シャット (字幕版)
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