小袋成彬 チャンス・ザ・ラッパー楽曲とミキシングを語る

DJ YANATAKE Chance The Rapper『Hot Shower』を語る MUSIC HUB

小袋成彬さんがJ-WAVE『MUSIC HUB』の中でチャンス・ザ・ラッパーの新作アルバム『The Big Day』についてトーク。チャンス・ザ・ラッパーのミキシングの特徴の話や、スピーカーで音を鳴らしながら製作することで気づいた楽曲の聞き所について話していました。

(小袋成彬)お聞きいただいたのはチャンス・ザ・ラッパーの新譜でした。俺、チャンス・ザ・ラッパーあんまりね……最初の方はすげえ好きだったんですけど、なんかね、単純に歌がダメとかじゃなくて、なんかミックスがね、すごいボーカルがデカいんですよ。で、聞いていて疲れちゃうんですよね。いつも。それが二作前ぐらいから、ずっと「ボーカルがデカいな」って。それでエンジニア界隈でもなんか話題になってたらしくって。「チャンスのアルバム毎回、声でかくないか?」って。

チャンスのアルバムはボーカルがデカい

本当にね、よく聞くとね、特にでっかいスピーカーで聞くととめっちゃわかります。めちゃくちゃ声がデカいんで、ちょっとすごい疲れちゃうっていう。そうだ、「声が近い」で言えば平井堅の『思いがかさなるその前に…』。あれ、めちゃくちゃボーカルが近いっすよ。「近っ!」って思いますよ。平井堅さん。チャンス・ザ・ラッパーぐらい近いですからね、あれ。フフフ(笑)。

いつもね、俺はあれを聞くたびに「近っ!」って思うんですよね(笑)。聞いてみればわかると思います。まあまあ、チャンス・ザ・ラッパーはね、とにかく僕は曲は好きなんですけど。声も大好きだし。アティテュードも全て好きですけど、ミキシングだけが大嫌いなんすよね(笑)。まあまあ、そんなんで今回のアルバムも全く同じ路線だったので、1回聞いてこの曲がよかったんで流そうかなと思った次第でした。はい。

The Big Day [Explicit]
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(中略)

あとなんだろうな。こっちの面白い文化を紹介できたらいいけど……製作の話ってこの前、したのかな? そう。こっちでめちゃくちゃニッチっていうか、絶対に9割の人には伝わらなさそうな話をしていいですか? これを聞いてるエンジニアの人に聞いてほしい話なんですけど。ただのボヤキですよ。スピーカーでね、作業するようになったんですよ。日本の家、ちっちゃかったんでスピーカーで音を出せなくて。

でも230ボルトのを僕、実は買ってたんで。その家、降圧して使ってたんだけども、ポテンシャルが全然出てない。音が出せないんで。で、こっちに来て、そのスピーカーを持ってきて聞いて、食らったんですよ。そのスピーカーの良さもそうだし、まあ新天地っていうのもあるし。230ボルトのパワーにね、結構圧倒されちゃって。で、いいミックス、悪いミックスっていうのがなんとなくわかってきたんですよ。

どういうことかっていうと音がね、いままで白黒ぐらいしか判断できなかったものが、7色で判断できるようになって。もっとグラデーションが細くなってくると、「ああ、ここのスネアはもうちょっと高い方がいいな」とか、「もうちょっと低い方がいいな」とか。あるいはね、赤の方にいきなり青を入れてしまうと紫になっちゃうように、そのうまい具合にピンクの状態みたいに、だんだんだんだんじわじわさせるっていう。にじませるっていうようなのが音にもあるんですよ。

こことここが重なっちゃうと無茶苦茶なんか変な音になる。あとはどっちも生きない。どっちかが死んじゃうみたいなことがあるので。で、その知見が最近ね、曲に生かされるようになってきたんですよ。誰かのリミックスとか……『ART』はね、正直日本で作ったからまだまだ俺の中ではね、全然ダメで。甘甘なんですよね。

で、そう。だから帯域を意識しながら作れるようになると、ハウスとかテクノがいかによくできてるかっていうのはね、よく分かってくるんですよ。本当、音数が少ないですから、その中でどうグラデーションを作っていくかっていう作業になっていくんで。それがね、最近曲作りにも生かされる……特にね、J-POPだと「あの音も入れたい、この音も入れたい」で結局、のぺっとした真っ黒な音になっちゃう。真っ黒な音っていうかね、聞きどころがわかんない団子のような音になっちゃって。よくあることなんですけど。

帯域を意識して作るっていうのは僕、いままでやったことがないし。まあこの環境じゃなきゃできなかったんで。最近、面白いですね。それでね、トラヴィス・スコットとかを聞くと本当にすごい! 特にあのドレイクとやっている『SICKO MODE』。あの曲、マジですごい! 低音がめちゃくちゃきれい。人口ピラミッドみたいな滑らかさがある。日本の上の方の(笑)。なんかね、すごいのよ。で、トラヴィス・スコットの声もめちゃくちゃかっこいいの。

Travis Scott『SICKO MODE』のすごさ

その、ジリジリしてるんだけど。なんだろう。あれ、かっこいいんだよな。あれってやっぱり音を出したり、あとはEQを意識してないともちろん作れない音だし。いや、あれは食らいましたね。ぜひ、改めて『SICKO MODE』、聞いてください。あれマジでいまの音の全てが詰まってますね。1アイデアを飛ばすとかね。

1アイデアの、たとえば「チキチキ……」みたいな音をディレイさせてクルクル回して。「チキチキチキチキ……チキチキチキチキ……」っていうのをレイヤーで重ねるとかね。なんか少ない音ながらミックス、アレンジでうまく見せていくっていうのはね、かなり俺はこっちに来てびっくりした驚きですね。

ああ、結構しゃべっちゃったな。あの、「なんのこっちゃ?」って思ってる人がたぶん9割だと思うんですけど。まあトラックメーカーもきっと聞いてるだろうし。俺の最近の音楽の聞きどころだし、作り方のコツだったりするんで。共感する方はぜひメッセージを送ってください。

<書き起こしおわり>

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