町山智浩 Netflix『ブラジル-消えゆく民主主義-』を語る

町山智浩 Netflix『ブラジル-消えゆく民主主義-』を語る たまむすび

(町山智浩)これもすごく違法行為に近いんですけども。実際、要するに起訴をしていないわけですから。ところが、「彼らは絶対に不正をしている。腐敗しているんだ!」っていうのをマスコミにガンガンリークしていって。マスコミは彼、モロ裁判官をヒーロー扱いして。で、その反労働党、反ジルマ政権のひとつのムーブメントが起こっていったんですね。で、ただその後、実際に国会で弾劾になるんです。要するに、大統領っていうのは……日本は内閣制ですから。総理大臣っていうのは議会の議員たちによって信任を受けて総理大臣になるので。内閣不信任案が通れば総理大臣は辞めなきゃならないんですよね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ただ、大統領制度っていうのは議会ではなくて国民が直接選んだものだから。それを辞めさせるには議会が弾劾裁判というものにかけて辞めさせるという方法しかないんですよ。で、弾劾裁判をするということになっていくんですけども、その弾劾裁判もずっと、このカメラマンの人が現場で見ているんですけども、何ひとつその嫌疑自体がわからないんですよ。

(赤江珠緒)なんで弾劾をされるのか、わからない。なんとなくムーブメントというか、そういうムードで?

嫌疑自体が不明確な弾劾裁判

(町山智浩)そう。雰囲気なんですよ。で、議員1人ひとりに聞いていくんですね。「なんで弾劾にしなきゃならないんですか?」って。「いや、彼女は国庫からお金を借りて、長い間返さなかった」とかって言うんですよ。なんかそういう風によくわからないんですよ。で、その借りていたというお金をなにかに使ったというような証拠もなにも出てこないんですよ。で、本音もポロポロと出てきて。「いや、彼女は経済をよくない状態にしたからね」とか言う議員が出てくるんですよ。でも、経済がよくなくたって、別に弾劾をすることはできないんですよ。弾劾というのは不正行為であったり、国家に対する反逆とかがない限り、弾劾はできないんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから、全く根拠のない弾劾が行われていたんですよ。でもこれって全然わからなかったですよ。アメリカに住んでいたら。たぶん日本の人もほとんどわかっていないと思います。全く根拠のない弾劾なんですよ。でももうメディアヒステリーが起こっていて、メディアと議員たちがヒステリックに「あいつは許せない!」ってやっているから、なんだかわからないまま進行をしていくんですね。これはかなり怖いですよ。魔女狩りなんですよ。

(赤江珠緒)うんうんうん。

(町山智浩)ただ、そこで1人の議員が本音を言うんですよ。非常に若い議員で、その人は黒人の血が入っている珍しい議員なんですけども。その人はこう言うんですよ。「いや、彼女はやっちゃいけないことをやったからだ」「それはなんなんですか?」「彼女は妥協をしなかったからだ。この不況の状態で富裕層や銀行に増税をすることで、この経済危機を乗り越えようというようなことを言ったから、それを聞いたエリートたち、この国を支配している大企業や金持ちや地主や政治家たちが彼女を下ろすことにしたんだよ」って。

(赤江珠緒)ええーっ? やっちゃいけないことっていうか、それを民衆がみんな望んでやったのに、敵に回しちゃったからっていう?

(町山智浩)そう。だから民衆の方につきすぎてしまっているから。それをはっきりと言う議員もいて。「彼女は自分を支持している貧困層向けの政策しか取らないからだよ」とかって言う議員もいるんですけど、なんでそれで弾劾ができるんでしょう? だからすごい怖い感じなんですよ。で、結局弾劾をすることになって、2016年4月17日に弾劾を議会でやっている時に、その首都の議会の周りに弾劾を求める派と弾劾に反対する派が一堂に会して、そこでデモをしているんですけども。そこに写真があると思うんですが。

(赤江珠緒)ああ、かなり広大な場所にたくさんの人が集まっていますね。

(町山智浩)はい。それね、右側にいる緑と黄色の国旗を掲げた右派の人たちで弾劾を求めている人たち。で、左側の赤いのが労働党の赤い旗を持っている労働党支援の大統領弾劾に反対をする派なんですけども。これ、どっちが多いですか?

(赤江珠緒)赤い方が圧倒的に……。

(町山智浩)そうなんですよ。大統領を支持して弾劾に反対する方が人口的には多いんですよ。

(山里亮太)なのに……?

(町山智浩)それなのに、結局弾劾されてしまったんですよ。これもすごいんですよね。で、その後に結局、連立政権だったんで、さっき言った中道の巨大政党の党首が副大統領になっていたんですね。連立だったので。で、そのジルマさんが弾劾をされたので、彼が大統領としてその座を取るんですけども、彼もすぐに腐敗がバレて辞任に追い込まれます。で、今度はさっきジルマさんに負けた保守党のアエシオ・ネベスという人が出てこようとするんですけども、彼も汚職で失脚します。で、要するにいちばんの左派だった労働党が崩壊して、中道が崩壊して。それで保守党も崩壊したわけですよ。あとはなにが残る? 極右しか残らないんですよ!

(赤江珠緒)うわあ……。

(山里亮太)ああ、それで……?

(町山智浩)それで出てきたのがジャイール・ボルソナーロというキリスト教右派の元軍人の大統領候補なんですよ。

(赤江珠緒)それが最初に言っていたブラジルのトランプさんと呼ばれている……。

極右だけが残った

(町山智浩)そういう構造だったんですね。で、途中でさっき言ったエリートたち。富裕層や地主や大企業、メディアもそれに支配をされているんですが。全部結婚をして婚姻関係でつながっている一族なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)だからまあ、日本もそうですけども、メディアも大企業も金融関係も地主も政治家もみーんな、実はひとつの家族で。なんらかの血縁でつながっているんで、そのグループが結局ボルソナーロを押すしかないということで、押すことにしたんですよ。で、彼は最初、15%しか支持率がなくて。そこでルーラさんが出てくるんですよ。「これはヤバい!」っていうことでルーラさんが出てきて、大統領候補としての支持率がトップになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ルーラさん。あの人気があった、支持率が80%だった人でしょう?

(町山智浩)そう。そしたらモロ裁判官がルーラさんに対して「タダで業者からマンションをもらった」っていう疑惑をかけて、彼を逮捕することによって彼を排除して、ボルソナーロが大統領になったんですよ。

(赤江珠緒)えっ? モロが結構出てきますね。

(町山智浩)で、ボルソナーロ政権になった時、そのモロ裁判官はその功績を称えられて法務大臣に就任します。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)それがブラジルの実態だったんですね。ちょっとびっくりしましたよ。だからこれは『消えゆく民主主義』っていうのはまさにせっかく勝ち取った民主主義を軍人上がりの独裁者に結局渡してしまったということなんですよ。

(赤江珠緒)そうか。しかもまたこんなに短期間でね。

(山里亮太)しかも、いまもその状況がまだ続いているっていうことですよね?

(町山智浩)だから2018年にボルソナーロが大統領になったわけですからね。という、とんでもない映画で。ぜひこの『ブラジル-消えゆく民主主義-』、Netflixですぐ見れますんで。びっくりする内容なので。

(赤江珠緒)へー! そうですか。

(山里亮太)なんか納得。とんでもない人がなったなって思ったけども。

(町山智浩)いや、こういうのは内部から見ていないとわからないもんですね。

(赤江珠緒)ブラジルの政権のいまというのを非常に詳しく描いている映画でございます。『ブラジル-消えゆく民主主義-』はいま、Netflixで見ることができます。町山さん、ありがとうございました!

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>

タイトルとURLをコピーしました