町山智浩 Netflix『ブラジル-消えゆく民主主義-』を語る

町山智浩 Netflix『ブラジル-消えゆく民主主義-』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でNetflixで配信中のドキュメンタリー映画『ブラジル-消えゆく民主主義-』を紹介していました。

(町山智浩)実は今回はもう公開されているというか、配信が始まっている映画を紹介します。Netflixでもう6月から配信をされている『ブラジル-消えゆく民主主義-』というドキュメンタリー映画についてご紹介します。これ、なんでこれを紹介しようと思ったかというと、一昨日、クエンティン・タランティーノ監督の新作映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』っていう映画の記者会見に行ったんですよ。その映画の話はまだしちゃいけないんですけども。誓約書を書いたんで。

(赤江珠緒)ああ、なるほど!

(町山智浩)面白かったですよ。で、その記者会見の時に隣りに座ったのがものすごいぽっちゃりな男の人で。話しているうちに……というか、その人が着ているTシャツがあまりにも変だったんで。クエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』のユマ・サーマンが鼻血を出しているというとんでもないTシャツを着ていたんですよ。

(赤江珠緒)ほうほう(笑)。

(町山智浩)で、「オタクなんじゃないの?」って聞いたら「オタクだよ!」って話が盛り上がっていったんですね。で、その人がDeive Pazosという人でなんとTwitterで55万人ぐらいのフォロワーがいる、ブラジル最大のオタクだったんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)オタクの王様みたいな人です!

(赤江珠緒)ああ、そうですか。この方が。

(山里亮太)町山さんと惹かれ合うものがあったんでしょうね(笑)。

ブラジル最大のオタク・Deive Pazos

(町山智浩)だから2人でね、「あらゆる映画の中で最高の握手シーンは『プレデター』のシュワルツェネッガーとカール・ウェザースの握手だよね!」とかそういう話をずっとしていたんですけども。

(赤江珠緒)握手シーン!

(山里亮太)やっぱり一気に距離が縮まるんですね。同じ愛があると。

(町山智浩)オタク同士は言葉はいらないんですよ。で、そういう話をしていたら「ブラジルって最近、どうなの?」っていう話になったんですね。そしたら「ブラジル、大変だよ。ブラジルのトランプと言われているボルソナーロという大統領のせいで国がめちゃくちゃだ!」っていう話をしたんですよ。で、どういう大統領かというと、いわゆるキリスト教の右翼の大統領なんですね。で、2018年に大統領になって、それから国内でめちゃくちゃなことを言ったりやったりしている人で。まあ、トランプ大統領とはすごい仲良しなんですけどね。

(赤江珠緒)はー……。

(町山智浩)だからこの人がトランプと仲良しなのがよく分かるのは、たとえば女性議員に対して「お前みたいなブスはレイプする価値もねえな!」みたいなことを言ったりしているんですよ。これ、最近トランプは同じことを言いましたからね。「レイプされた」っていう被害者に対して、「お前は俺のタイプじゃない」って言ったんですよね。だから仲良くなるだろうと思うんですけども。

(山里亮太)似てるんだ……。

(町山智浩)あとは「俺の息子たちは誰も黒人女とはデートさせねえぜ」とかね。

(赤江珠緒)ええっ?

(山里亮太)なんでそんな人が大統領に就任するんだろう?

(町山智浩)大統領になっちゃったんですよ。で、アマゾンのジャングルを開発するということで。「先住民なんかには土地はやらねえよ」って言ったりね。あと、大学の助成金を3割ぐらいカットしたんですよ。その理由は「大学に行くとインテリになって左翼になるからな」っていうことなんですよ。

(赤江珠緒)ひどいですね……。

(町山智浩)「それで、めちゃくちゃになっちゃったよ」ってそのオタク帝王が言ったんですね。で、ただ僕はその話を聞いて「どうしてそうなっちゃったんだろう?」って思ったんですよ。というのは、ブラジルって2000年代にはGDPが世界で第7位で、ものすごく経済がよくて。

(赤江珠緒)そうそう。「BRICS」とか言われてね。

(町山智浩)そう。これから発展する国って言われて。で、大量の債務も返して。国際通貨基金から借りていたお金も全部返して。貧困も解決してあれだけひどかった犯罪も全部、その犯罪がなくなったという。もうブラジル、すごい!って言われていたんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。オリンピックとかもあったし。

2000年代、絶好調だったブラジル

(町山智浩)ねえ。「それが10年足らずでなんでそんなヘンテコな大統領を選ぶような事態になっちゃったの?」って聞いたんですよ。で、「それはブラジルをよくした労働党という政党の大統領が弾劾をされたからだ」「ああ、それは聞いたことがある。なんかすごい不正をやって弾劾をされたんだよね?」って僕が言ったんですよ。「それで民衆が怒ってデモとかが起こったの、テレビで見たよ」って。でも、「その世間一般、世界中に知られているその労働党の大統領が不正をして、国民のデモで弾劾をされたのは嘘だ!」っていう風に言われたんですよ。

(赤江珠緒)うん?

(町山智浩)「その報道は間違っている。本当はいったいなにがあったのか、それはこの『ブラジル-消えゆく民主主義-』というドキュメンタリーに描かれているから、それを見た方がいいよ」って言われたんですよ。

(赤江珠緒)ああ、その方に?

(町山智浩)はい。お仲間、オタ仲間から。「そこに描かれていることが本当だから」って言われたんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、慌てて見たんですよ。不勉強だからブラジルで何があったのか、知らなかったんですけど、それを見てびっくりしました。大変なことがあったんですね。で、この映画は監督は女性なんですけども。そこに監督の写真とか、あるかな?

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)非常にびっくりするような、女優さんみたいな方ですね。このペトラ・コスタさんという人が自分でカメラを持って。まだ30代のドキュメンタリー監督で自分でカメラを持って撮っていっている映像なんですね。だから、この大統領制度が崩壊していくのを本当に現場でカメラで自分でしゃべりながら撮っているっていうすごい映画なんですよ。

ペトラ・コスタ監督

(赤江珠緒)ふーん! うん。

(町山智浩)リアルタイムで現場に行って。で、まずその2000年代の奇跡のブラジルの躍進を成し遂げた大統領はルーラ・ダ・シルヴァという人なんですね。「ルーラ」という風に呼ばれているんですけども、この人は貧しい労働者から労働組合……鉄鋼労働組合の組合長になって、そこから政治家になっていった人なんですが。この人が政治家になろうとした時はまだブラジルは韓国と同じで軍事独裁政権で選挙が行われていなかったんですよ。

(赤江珠緒)ええ、ええ。

(町山智浩)軍隊が全部を支配していまして。で、軍隊が地元の地主と大企業とメディア全てに浸透をしていて、全部が結託して貧しい人が出てこれない社会になっていたんですね。で、貧困層を搾取して支配階級がその上に君臨するという、非常に少ない支配階級が大量の人たちを奴隷化していた社会だったらしいんですよ。それに対して彼、ルーラさんはずっと戦ってきて。もう何度も逮捕されたり暗殺されそうになりながら戦って、とうとう1989年にブラジルははじめての選挙をします。

(赤江珠緒)89年か……。

(町山智浩)軍事独裁政権は20年ぐらい続いたんですね。でも、なかなかルーラさん、労働党から出てきたんですけども、当選して政治家になれなかったんですね。というのはその当時、そこまで支配階級によって全てが支配されていて、貧しい人たちが大学にも行けなかったので、ほとんど文章も字も読めないような人がいっぱいいたんですよ。だからその当時、国会議員は全部で433人いる中で、貧困層・労働者階級出身の人はたった2人しかいなかったんです。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)あとは全員が地主とかそういった企業関係とか金持ちのお坊ちゃんばっかりだったんですよ。

(赤江珠緒)露骨な割合ですね。

(町山智浩)ほとんどが世襲で。で、そこに戦いを挑んでいって、結局ルーラさんは2002年にやっと大統領になるんですね。61%の票を獲得して。というのはね、これもうひとつ問題があって、ブラジルって白人が48%ぐらいなんですよ。で、それ以外の人たちは先住民とか黒人とか混血なんですね。ところがこの48%の白人がほとんど政治も財界も支配をしちゃっているんですよ。で、議会の映像とかを見ると、本当に数えるほどしか肌の浅黒い人はいないんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからなかなかこのルーラさんは勝てなかったんですがとうとう2002年に……人口自体は有色人種の方が多いし、貧困層や中産階級以下の方が実際には人口が多いので。それでとうとうルーラさんは勝つんですよ。でも、彼自身が勝っても、彼の政党自体は小さいので。さっき言ったみたいに政治基盤が小さいから、参政できる人、字が読める人とかが少ないから、政党の議員の数が少ないから、最大の中道政党があって、それと連立をするんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だから日本でも公明党と連立しないと政権で過半数が取れないっていうのと非常に似ていて。PMDBっていう中道政党と連立して、とうとうやっと政権を取るんですね。このルーラさんは。で、ここから怒涛の勢いでさっき言った改革をしていくんですよ。で、いちばんの改革はボルサ・ファミリアと呼ばれる2000万人もいた貧困層にお金、生活費を毎月支給するっていう、一種のベーシックインカムをやるんですね。これで貧困層を救済するんですよ。あとは学費の援助もして、それまでに大学に行けなかったような人たちが大学に行けるようになるんですね。それをやったおかげで経済の底上げができたんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それまではお金持ちばっかりが得をする社会だったのを、いちばん下から無理やり上げたんですね。だから経済が全体でブワーッとよくなっていきなり貧困から国自体が脱出をしたんですよ。

(赤江珠緒)見事な手腕じゃないですか。

ルーラ・ダ・シルヴァ大統領の経済政策

(町山智浩)見事な手腕なんです。で、国際通貨基金から借りていたお金も全部返したんですよ。それで財政も黒字になって。黒字国家になったんです。だからこのルーラさんが8年後、任期を全うして大統領を辞めた時の支持率は87%という驚異的な数字だったんですよ。

(赤江珠緒)すごい。へー!

(町山智浩)で、その後に自分の後継者である同じ労働党のジルマ・ルセフさんっていう人を大統領に推薦して、彼女は選挙に勝って2011年から大統領になるんですね。

(赤江珠緒)今度は女性が大統領になった。

(町山智浩)で、この人はブラジルではじめての女性の大統領なんですよ。それで支持率も70%以上だったんですけども、その後で少しずつ彼女の体制が崩壊していくんですよ。で、経済が悪くなったのがまずいちばん大きかったんですけども。だんだんと失業者とかが増えていって、調子が悪くなっていったんですね。でも、その後の2014年の選挙では彼女は勝つんですよ。大統領選で。ところが、その時にその対抗馬だった右派政党、保守政党のアエシオ・ネベスという党首が選挙で負けた後、「勝ったジルマ・ルセフたちは不正をした!」って言い始めたんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)なんの根拠もなく、悔しいから「不正をやった」って、それだけをポロッと言ったんですよ。そしたらそこから1回、火がついちゃって。「弾劾せよ!」っていう大変なデモに発展していったんですよ。

(山里亮太)だってそんな、嘘ですよね?

(町山智浩)この段階では根拠もなにもないです。で、その時にちょうど政府が持っていた石油会社があって。その石油会社のお金を巡る不正が発覚したんですね。ただ、その不正はジルマさんとルーラさんとは関係がない不正だったんですよ。ただ、それをフレームアップしていってメディアが「ルーラはやめろ!」みたいな形で新聞やテレビが騒いで。それでデモに発展をしていったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、その時にそれを主導して「彼らは不正をしているから大統領をやめさせるべきなんだ。労働党を政界から叩き出せ!」っていう運動をしていたのが裁判官なんですよ。セルジオ・モロという裁判官がいまして。この人がやたらとマスコミに対して、まだ証拠もないし起訴もしていないのに「労働党にはこういう不正があるんだ!」ってしゃべりまくったんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

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