町山智浩さんが2021年12月28日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で『浅草キッド』を紹介していました。
〝芸人だよ、バカヤロー〟
ロックは悲しみを大声で歌うものであり、喜劇は悲しみの中に。
なんて素晴らしい作品なんだ‼️
笑いのない一年、無駄な一年などない。
2021年よ?ありがとう✨#大泉洋#柳楽優弥#Soulコブラツイスト#桑田佳祐#ビートたけし#劇団ひとり pic.twitter.com/CdsHKoLmeZ— 中西正樹 (@ultramasakyee) December 15, 2021
(町山智浩)ということで『ノー・ウェイ・ホーム』がもう今年のベストなんですが……もう1本、ベストがありましてですね。それが、劇団ひとりさんが監督した『浅草キッド』なんですよね。これ、Netflixでもう既に配信済みなんですけど。ご覧になりました?
(山里亮太)見ました!
(赤江珠緒)見ました。
(町山智浩)すごかったですね、これね。
(山里亮太)いやー、すごい。かっこいい!
(町山智浩)すごかった! これ、原作は1988年にビートたけしさんが書いた自伝小説で。大学を中退してふらふらしてたたけしさんが、浅草にあったフランス座というストリップ劇場でバイトをしていた時に、そこでコントをやっていた実在の人物ですが。深見千三郎さんという芸人さんに弟子入りして、修行をして。そこから漫才師としてえデビューして……っていう話なんですね。それが『浅草キッド』という小説なんですけども。これもね、『スパイダーマン』とよく似ているところがあって。今まで3回、映像化されていて。たけしさん役は3人、いるんですよ。
(山里亮太)ああ、そうか。なるほど。
(町山智浩)たけし1、たけし2、たけし3ですよ。で、一作目は天宮良さんで。まあ、タップダンスをするシーンがあるんで。彼、タップダンサーなんで出てきているんですけども。2代目はなんとね、浅草キッドの水道橋博士なんですよ。彼が師匠であるたけしさん役を演じているんですよ。だからアメージング・たけしという感じなんですよ。「アメたけ」なんですが。で、今回の劇団ひとりさん監督版では柳楽優弥さんがたけしさんを演じてるんです。
(山里亮太)すごいですよね!
(町山智浩)すごい! これがすごい。驚いた。
(赤江珠緒)一瞬「あれ? ご本人の映像を使ってる?」と思っちゃうぐらい。
(町山智浩)そう。現在のたけしさんの部分は特殊メイクなんですけども。その若い頃の修行中のたけしさんを演じるところがすごくて。ご覧なりました? これ、すごいのは何もしないで立ってるだけでも、たけしさんに見えるんですよね。柳楽さんが。
(山里亮太)そう。首の角度とか、全部研究されつくしているというか。
立っているだけでたけしさんに見える柳楽優弥
(町山智浩)その通り。立っていて、シルエットが見えるだけでたけしさんなんですよ。で、楽屋のその座敷みたいなところに座ってるだけでもたけしさんに見えるんですよ。
(山里亮太)顔はね、全然もう柳楽さんだから似てはいないんだけども。
(町山智浩)顔自体は似ていないんですけども。骨格というか、体型の作り方で完全にたけしさんなんですよ。あとね、しゃべり方がすごいんですが、あのたけしさんのなんというか、ちょっと詰まる感じ? あの、なんていうか詰まり方まで完全にたけしさんなんです。しゃべり方が。あれ、すごいですよね。
(山里亮太)しゃべり方、本当に若い頃のたけしさんっていう。
(町山智浩)これね、たけしさん演技指導でね、松村邦洋さんが入ってるんですよ。
(山里亮太)ねえ。最後、それがわかって「ああ、なるほど!」っていう。
(町山智浩)松村さんがずっと現場にいて、その全てのシーンでたけし演技指導をしているという。すごい職業ですけどね。
(山里亮太)でも、なんか柳楽さんがやっているのはモノマネじゃないんですよね。なんか。
(町山智浩)そう。内面的な部分なんですよね。
(山里亮太)それがすごいなと思って。
(町山智浩)そう。すごいんですよ。たけしさんがすごく……たけしさんって、ギャグを言う時に自分で笑っちゃう癖があるんですよ。そこまでコピーしてるの。すごいですよ。『その男、凶暴につき』とかでギャグを言う時に自分で笑っちゃっているんですけども。あの感じとかまで掴んでいて、すごいんですけど。これね、アカデミー賞をもう取るべき演技でしたね。ただ、アカデミー賞候補の条件に入ってないんですけどね。アメリカの劇場で公開していないからね。
でもね、それでも僕が実はすごく感動したのは、たけしさんの師匠の深見千三郎さんなんですよ。大泉洋さんが演じているんですけど。彼はその頃、ストリップ劇場っていわゆるボードビルということをやっていて。そのストリップの裸の踊りがあると、その間にコントがあったり、芝居があったり、歌があったりするような、そのバラエティショーだったんですね。元々、昔のその寄席と言われるようなものっていうのはね。で、寄席っていうのは元々、「寄せる」っていう意味で。いろんな芸が寄せられているものだったんですよ。曲芸があったりね。
で、それの伝統を守り続けているのが深見千三郎さんなんですよ。ところが、それがこのたけしさんが弟子入りした頃にはもう、滅びつつあるんですね。テレビに押されてしまって。でも、彼はテレビに出ないんで、その寄席芸を守り続けようとしている人なんですよ。深見千三郎さんは。で、その大泉さんの演技といい、プライド……素晴らしかったですね。あの「俺たちは笑われてるんじゃねえんだよ。笑わせてるんだよ」っていうあの、もう本当に芸人としてのプライドが本当に素晴らしくてですね。
ただ、僕自身はすごくこの映画を見た時に、本来だったらたけしさんの方に観客は感情移入して見る人が多いと思うんですけども。もう僕は深見さんの方にしか感情移入できない歳になっちゃったんですよね。それは、この深見千三郎さんが亡くなったのは59歳なんですよ。あ、今、『浅草キッド』が流れてますけど。僕は同い年なんですよ。
深見千三郎に感情移入
(町山智浩)で、この頃の寄席というのは要するにお笑いあり、涙あり、あと時事コントもよくあったんですね。時事漫才。その時々のニュースを牧伸二さんとかが批評するっていうのが結構あって。つまり、テレビっていうのはその寄席でやってたことをバラバラの時間帯にしたのがテレビですよね。バラバラな番組にしたのが。寄席はそれを2時間か3時間ぐらいにしているんですよ。テレビの全番組を。
でも、それは僕にとっては雑誌がそうだったんですよ。雑誌ってほら、笑える記事があって、エッチな記事があって、考えさせる記事があって、物語があって……寄席じゃないですか。僕はそれが作りたくて雑誌界に入ったんですけど。雑誌の編集者をやっていたんですけど。雑誌も今、滅びつつあるわけですよ。だってキヨスクがなくなっちゃったし。コンビニに雑誌を置いてないし。
(赤江珠緒)たしかに。
(町山智浩)だから僕はね、深見さんが寄席と共に滅びていくのはね、自分の雑誌というジャンルが滅んでいくという、このものすごいつらい感じとねダブって、もうつらくて見てられなかったんですよ。
(赤江珠緒)そういう思いでね。なるほど。町山さんは。
(町山智浩)しかも、59歳でね。「もう、終わりかな」と思いましたね。
(赤江珠緒)いやいやいや、結論が早い! 町山さん、それは(笑)。
(町山智浩)ということでね、見る人によって全然違うと思うんですけども。とにかく『浅草キッド』、すごかったですよ。もうぜひご覧になっていただきたいと思います。
『浅草キッド』予告編
<書き起こしおわり>