町山智浩 マ・ドンソクの魅力を語る

町山智浩 マ・ドンソクの魅力を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で韓国の俳優マ・ドンソクの魅力をおすすめ作品を交えながらたっぷりと語っていました。

(町山智浩)今日はですね、僕がいま本当に夢中になっている映画俳優について話させてください。

(赤江珠緒)町山さんが夢中?

(町山智浩)いま、もうこの人に夢中なんですよ。マ・ドンソクという人なんですけども。これ、写真がありますか?

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)どうですか?(笑)。

(山里亮太)この方……『新感染 ファイナル・エクスプレス』のめっちゃかっこいいおじさん?

(町山智浩)そう。お父さんが幼い娘を連れてソウルから釜山に向かって、ものすごい押し寄せるゾンビから逃げていくという映画が『新感染 ファイナル・エクスプレス』だったんですけども。その主役のお父さんよりもですね、映画でいちばんみんなの印象に残ったのはこのゾンビと素手で徹底的に戦うおじさん、マ・ドンソクなんですよ。

(山里亮太)かっこよかった! ボッコボコにして。

(町山智浩)もう武器も何も使わないで素手で押し寄せるゾンビを1人で押さえて。最後はもう、この人が犠牲になってみんなを助けて死んでいくんですけども。

(山里亮太)そう。あれ、泣けるのよ。奥さん、めっちゃかわいいの。

(町山智浩)それがね、主役じゃなかったのにいちばん人気が出ちゃって。この後、いきなり主演俳優になっていったんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(山里亮太)ああ、あれきっかけなんですか?

(町山智浩)あれがきっかけですね。あれがやっぱり印象強かったんで。

(赤江珠緒)まあ体格のいいおじさんっていう感じですね。

(町山智浩)この人、体格がいいなんてもんじゃないんですよ。この人、腕周りが50センチから60センチぐらいあるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? ちょっとした女性のウエストぐらいありますね。

(町山智浩)あのね、カラテカの矢部さんのウエストぐらいだと思います(笑)。

(赤江珠緒)ああーっ!

(町山智浩)だからね、両肩から2人、矢部さんが出ている感じですね。で、この人ね、もともとはボディビルダーなんですね。アメリカで育って。18歳から。それでボディビルダーとして成功して韓国に来た人なんですよ。だからまあ、トレーナーとしても非常に有名な人だったんですけども。で、この『新感染』の後に出た映画がすごくて。『犯罪都市』っていうタイトルの映画で。2018年に日本で公開されたんですけども。これは彼、マ・ドンソクが刑事役なんですね。で、普通は刑事って拳銃を使ったりするじゃないですか。でも、一切使わないんです。

『犯罪都市』

(山里亮太)まさか……?

(町山智浩)この人、武器は「腕」だけなんです。それもね、その腕であんまりいろんなことをしないんですよ。この人、だいたい基本的にはビンタですね。

(赤江珠緒)ほー!(笑)。

(町山智浩)で、ものすごいごついやつらが……だから、敵の用心棒とかいっぱいいるわけですよね。暴力団と戦うんですけども。そうすると、すごい用心棒にビンタをバーン!ってカマすと、もう用心棒は動かなくなっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)立ったまま、気絶しているんですよ。脳震盪を起こして。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)そういうものすごい……いままで、いろんな刑事がいろんな武器を持っていましたよね。銭形平次の銭に始まり、ダーティハリーのマグナムとかね。この人はビンタなんですよ(笑)。すごいんですよ。でね、これがあまりにもすごくてもう一気にスター俳優になっていったんですけども。今年の春、韓国の映画の記録的な大ヒットになった映画がありまして。これが『悪人伝』っていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)『悪人伝』。はい。

『悪人伝』

(町山智浩)これね、大ヒットして。ストーリーはまず最初に連続殺人鬼が出てきます。で、その男はヒョロヒョロなんですけども、人を殺すということに中毒になって、無差別に夜道でいろんな車にぶつかって。「なんだよ、お前。ぶつけやがって!」って出てきたのを柳刃包丁でグサグサに刺して殺すっていうのを毎日繰り返しているような男なんですよ。

(赤江珠緒)ひどい……。はい。

(町山智浩)もう完全な快楽殺人中毒者なんですね。それを追いかけている刑事が登場します。ところがこの刑事も、タイトルが『悪人伝』っていう通りにいい刑事ではないんですよ。ものすごい暴力刑事で、たとえば暑い日に渋滞して車が進まないとイライラするから。ムシャクシャするっていうことで車を降りていきなり近所のヤクザの事務所に殴り込みをかけて。ヤクザをボコボコにのして憂さ晴らしをするというような暴力刑事なんですよ。

(赤江珠緒)ほうほうほう(笑)。

(町山智浩)ひどい刑事なんですよ。ところが彼は、勘がよくて。その殺人が次々に起こっているけども、これは全部無差別で、犯人は1人だということに気づくんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)ところが、警察側は被害者側に全く共通点がないので。「これは連続性がない」っていう風に考えた上の方の人が、その彼の進言を取り上げないんですね。「これは全然関係ない。犯人はバラバラだ」って言っているんですよ。で、もう協力してくれないから自分1人で操作するしかないってその暴力刑事は思っているんですけども。そこにマ・ドンソクが出てくるんですよ。で、このマ・ドンソク兄貴は今回、いちばんの悪いやつです。

(赤江珠緒)えっ? じゃあ、マ・ドンソクさんはこの時は刑事じゃないの?

(町山智浩)刑事じゃなくて、暴力団の組長なんです。

(赤江珠緒)ああ、暴力団側?

(町山智浩)それで彼はそれこそ腕の力1本でのし上がってきた組長の中の組長なんですね。で、とにかく敵がナイフを持ってこようが、拳銃を持ってこようが、全部素手でぶっ倒しちゃうんですよ。で、素手でぶっ倒すだけじゃなくて、素手で一撃で人を殺したりしていますからね。この親分は。

(赤江珠緒)熊みたい(笑)。

(町山智浩)まあ、あれで殴られたら死ぬと思いますけども(笑)。で、その彼がたまたま運転手を使わないで車で夜道、家に帰ろうとしていたところをその連続殺人鬼に襲われちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)ところが、連続殺人鬼がグサグサと彼のことを刺すんですけど、彼は全身筋肉なんですよ。で、首なんかもほとんど筋肉でないんですよ。で、腕が50~60センチでしょう? 胸とか腰とかもすごい筋肉だから、ナイフでいくら刺しても全然内臓まで届かないんですね。で、逆にその連続殺人鬼はボコボコにされちゃうんですよ。マ・ドンソクに。でも、彼は出血多量で病院に担ぎ込まれるんですね。あまりにもたくさん刺されたから意識不明で。そうすると、彼の周りにいるヤクザの子分たちは「これは対立する組織や彼のことを暗殺しようと思っている別のボスたちの仕業なんだ!」っていうことで、ヤクザの大抗争が始まっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うんうん!

(町山智浩)報復で。で、そこに来たのがその暴力刑事で。「俺は知っている。これは連続殺人鬼のやり口だ。警察は俺に協力をしてくれないから、お前はヤクザとして素人に刺されてしまったというメンツがあるだろう? だから一緒に協力してあの連続殺人鬼を探し出そうぜ!」っていうことで、その腕力組長と暴力刑事が手を組むっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)そこが組むのかー! なるほど(笑)。

(町山智浩)だから『悪人伝』で全員が悪人なんですよ。もうこれ、めっちゃくちゃ面白いですよ。しかも刑事はその犯人を逮捕しなきゃならないんですよ。でも、マ・ドンソク兄貴はメンツがあるから殴り殺そうと思っているんですよ。だから犯人を見つけても、マ・ドンソクに殴り殺される前にその犯人をさらって逮捕しなきゃならないという、三つ巴の戦いになっていくんですよ。

(赤江珠緒)ああー、そうか。最終目的は違うのか。

(町山智浩)そう。刑事はマ・ドンソクの腕力から犯人を無事逮捕できるのか?っていう別のサスペンスまで出てくるんですね。そういう非常に複雑な映画がその『悪人伝』で、これは韓国でめちゃくちゃヒットしているんですよ。

(赤江珠緒)へー! でも写真を見ましたら、たしかに似合いますね! 組長とかが似合う!

(町山智浩)まあ、すごいですよ。この人、全身入れ墨でね。もう、この組長がとんでもない……ストーリーにかかわるんで言えないんですけども。なんでもあっさりと、サラッと人を殺すような人なんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ!

(町山智浩)ものすっごく悪いやつなんですけど、それが連続殺人鬼を追いかけるっていう正義をしなきゃならなくなるっていう面白さなんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)この映画がすごいのは、検死係の女の人以外、女の人はほとんど誰も出てこないんですよ。セリフがある人はその人ぐらいで、あとはもう全部男ですよ。それもヤクザと刑事。すごいですよ、この映画。夢のような映画ですね!(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)でね、この人の映画、『悪人伝』はまだ日本公開は決まっていないんですけども、新作がもうすぐ、6月28日から公開されるのが『無双の鉄拳』という映画なんですよ。で、これがね、『無双の鉄拳』というタイトルでだいたいわかると思うんですけども。

(赤江珠緒)やっぱり腕なんですね(笑)。

『無双の鉄拳』

(町山智浩)ただ、いままで話したところだとマ・ドンソクって怖い人っていう印象しかないでしょう?

(山里亮太)そうですね。暴力的な。

(町山智浩)全然違う人なんですよ。今回は。『無双の鉄拳』は主人公はたしかにマ・ドンソクなんでめちゃくちゃすごい体なんですけども。昔、ヤクザなことをしていたんだけども、奥さんと恋に落ちていい人になったっていう設定なんですよ。ところが、その奥さんが人身売買グループにさらわれちゃうんですよ。売春をさせるために。奥さん、美人なんでね。で、その奥さんを探すためにこのマ・ドンソクが片っ端からぶん殴って奥さんを探していくっていう話なんですけども。

(赤江珠緒)ええっ?

(山里亮太)ゲームみたい(笑)。

(町山智浩)これはいわゆる、こういう映画のジャンルがあって。これは映画秘宝っていう雑誌のライターの、僕が名前をつけた男なんですけどもギンティ小林という男がいるんですけどね。彼がこういうジャンルに名付けたんですよ。僕が名前をつけた男が、このジャンルに名前をつけたんですけども。それがね、「ナメてた男が○○でした」っていう……この場合は「ナメてた男がマ・ドンソクでした」っていうジャンルなんですね。この手のやつってすごくたくさんあるんですよ。この間、公開されたジャッキー・チェンの映画『ザ・フォーリナー』は娘がテロリスト組織に殺されてしまうんですけども。その娘のお父さんがジャッキー・チェンだったっていう話でね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ジャッキー・チェンの娘を殺しちゃったもんだから、もう組織全員がジャッキー・チェン1人に皆殺しにされちゃうんですよ。それが「ナメてた男が○○でした」っていうジャンルなんですけども。この『無双の鉄拳』はマ・ドンソクをナメるって……どう考えても間違っているんですよ(笑)。「お前、どこに目をつけてるんだ?」っていうね。見ただけでそれはナメないだろう?っていうね。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)その奥さんの旦那がマ・ドンソクだって犯人側はわかっているのに、あえて誘拐していますから。これはもうバカなんだと思いますけども。

(赤江珠緒)いや、そうでしょう。

(町山智浩)もう死ぬしかないんですよ。でもね、この『無双の鉄拳』がすごくいいのは、このマ・ドンソクは奥さんが大好きで、奥さんの前だともう借りてきた熊みたいになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ねえ。普段はグリズリーみたいに一撃必殺なのに(笑)。

(町山智浩)かわいいの。もうなんかね、奥さんに好かれようとして一生懸命プレゼントしたりね。そんなことばっかりしている人なんですよ。で、よく見るとこのマ・ドンソクって顔がかわいいんですよ。

(赤江珠緒)えっ、いまんところあんまりかわいい表情を見せていないんですけども?

ラブリーなマ・ドンソク=マブリー

(町山智浩)いや、韓国ではあまりにもかわいいから、マ・ドンソクのあだ名って「ラブリーなマ・ドンソク」っていう意味で「マブリーちゃん」って言われているんですよ。

(赤江珠緒)あ、そんなに? ああ、最後の方にあった写真をいま見て、プライベートみたいな写真を拝見すると、ああ、なるほど!

(町山智浩)そう。結構かわいいんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。かわいい、かわいい。

(町山智浩)で、こういう筋肉でガチムチの兄貴で顔がかわいいっていうのは理想でしょう、これ?

(赤江珠緒)フフフ、「理想でしょう?」って急に言われても……。

(町山智浩)いや、本当にだからすごくいいんですけども。で、もう1本、日本では続けてマ・ドンソクの主演映画が公開されるんですね。それが『守護教師』というタイトルで8月2日から公開なんですが。

(赤江珠緒)はい。

『守護教師』

(町山智浩)そっちは『守護教師』って、「守護天使」みたいな言葉があるじゃないですか。「ガーディアン・エンジェル」。それが先生で、マ・ドンソクがなんと女子校の体育教師です! めちゃくちゃ浮いています。女子校の中に彼がいると。完全に居場所が違うっていう感じで。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)マ・ドンソクの映画で面白いのは、マ・ドンソクって飲み屋とかバーとかディスコとかに行くと、かならずセキュリティーの人だと思われちゃうんですよ。

(山里亮太)いかついから。

(町山智浩)そうそう。どう見ても用心棒かセキュリティーの人にしか見えないんですけども。そういうギャグがいっぱい入っているんですけども。これはね、その『守護教師』っていうのは田舎の腐敗した街でそこにマ・ドンソクが赴任した学校の女子高生が1人、行方不明になって。それを探している友達の女子高生を助けて、その裏にある陰謀を暴くっていう話なんですけども。基本的にミステリーになるはずなのに、マ・ドンソクだからあんまりミステリーにならないんですね。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)だってこの人、全部鉄拳でドアだろうとなんだろうと全部ブチ破っていくから(笑)。

(山里亮太)謎解きじゃないんだ(笑)。

(町山智浩)サスペンスがそこで盛り上がらないんですよ(笑)。「ここにどうやって入るんだ?」ってみたいな時、すぐにそれをバーン!って破っちゃうんですよ(笑)。犯人とかが車の中に乗るとするじゃないですか。普通は車に乗られちゃうとどうしようもないじゃないですか。でもこの人、ガラスごと殴り飛ばしますから。防げないんですよ、この人のパンチは(笑)。だからサスペンスがサスペンスにならないというのは非常に問題のある人なんですけども。

(赤江珠緒)へー!(笑)。

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