山下達郎と松尾潔 90年代R&Bを語る

山下達郎と松尾潔 90年代R&Bを語る 松尾潔のメロウな夜

(松尾潔)長いです。特にキース・スウェットの場合は、さっきのひとつひとつの話が繋がっていて。テディ・ライリーの手引きによってニュージャックスウィングのところで初めは人を踊らせるために出てきたキース・スウェットが、どんどんどんどんベッドルームの帝王に近づいていくという。

(山下達郎)なるほど。でもね、この『Nobody』っていうのは本当に聞いた。1日に100回ぐらい聞いた。

(松尾潔)ねえ。これは結構都市伝説化しているんですけども。「山下達郎が『Nobody』を延々と聞く」っていう(笑)。

(山下達郎)ひたすら寝る前に聞きまくった。

(松尾潔)この同時期に同じアルバムから『Twisted』っていう曲もありましたけども。達郎さんは『Nobody』派でしたか?

(山下達郎)『Nobody』ですね。この起承転結。で、これはアルバムだと繋がってるから。そのイントロが繋がっているのが嫌で。CDシングル買って。

(松尾潔)ああっ! その気持ちわかります! さっきジョーの名前が出ましたけども、ジョーの『All The Things』っていう曲もあれ、フェードインで始まる曲だったりとかして。結構、よく「イントロ命」とかって言う割にはそこに無頓着な人たちもたくさんいた時代ですね。

(山下達郎)そうですよ。だからどうしようかな?って思って。たとえばビヨンセなんかでもアルバムなんかだと繋がっちゃっていて。「シングルバージョン、ねえのかよ!」っていうね(笑)。

(松尾潔)フフフ(笑)。アメリカの場合は、もうあの人たちって基本的にラジオ局しか考えずに作ってるはずなんですけど。達郎さんもご存知でしょうけど、アメリカのプロモーションシングルって丸っこいシールで「Play It Say It」って書いてあるの、覚えていません? あれってDJに向かって「曲名、ちゃんと言ってね!」ってメーカーがお願いしてるわけなんですけども。

(山下達郎)なるほど。

(松尾潔)逆に、「それさえ言ってくれればまあイントロはどんな形でもいいや」っていうのはちょっと透けて見えますね(笑)。

(山下達郎)なるほどね。うん。でも、そういうノーナレーションに固執するDJもいますからね。

(松尾潔)そうですね。特に深夜のヴォーン・ハーパー(Vaughn Harper)スタイルとかは、割と最後にまとめて言うみたいな人もいるし。何も言わない人もいますもんね。

(山下達郎)まあ、あんだけラジオ局が多ければ統一なんかできないしね。

(松尾潔)そうですね。まあShazam登場以前の話を我々、延々としていますけども(笑)。

(山下達郎)フフフ(笑)。

(松尾潔)じゃあ、キース・スウェットの『Nobody』を聞いていただきましょうか。キース・スウェット feat. アシーナ・ケイジで『Nobody』。

Keith Sweat Featuring Athena Cage『Nobody』

(松尾潔)お届けしたのはキース・スウェット feat. アシーナ・ケイジ。アシーナ・ケイジっていうのはカット・クロースというキース・スウェット子飼いの3人組の女性ボーカルグループの中心だった人ですけどもね。

(山下達郎)他愛のない歌なんですよ、これ。もうシンセの音はチープだしね。ドラムマシーンも付け合せみたいなやつだしね(笑)。

(松尾潔)キース・スウェットっていうのはなにか、歌詞の中でストーリーを描こうとはしてないですからね。

(山下達郎)しませんよ。全然、もうそれについての歌しかないっていう(笑)。

(松尾潔)ある「状態」を歌っているだけで(笑)。この人は物語じゃなくて、状態なんだよな。

(山下達郎)でも、いいんですよ。これ。なにがいいんだかわからないんだけど。とにかくね、今日持ってきたやつは全部ね、少なくとも100回、200回は聞いているやつなので。だからベタになっちゃうんですよね。だから、誰も知らないのとかそういうんじゃないんですよ。

(松尾潔)いや、けどね、今日ご紹介した曲の中で、まあR.ケリー『Your Body’s Callin’』。トニ・トニ・トニ『Thinking Of You』。これはどちらもアルバムの1曲目ですね。で、ブライアン・マックナイトの話もさっきしましたけど、『Back At One』なんていうのもこれ、アルバムのタイトル曲ですし。やっぱりそのアーティストが真っ先に聞いてほしい1曲目の曲だったり、アルバムのタイトル曲とかっていうのに達郎さん、反応されることが多いんですね。

(山下達郎)ラジオプレイのやっぱりヘビーローテーションですからね。だからアメリカなんかはたとえばWBLSとかに行ったらもう1時間に1回、かならずかかるような曲ばっかりですね。

(松尾潔)そうですね。そういうスタイルですね。まあ、僕も自分の本の中でも書きましたけど、R&Bっていうのは第一義としてラジオミュージックなので。もうラジオで映える……まあ、今風に言うと「バエる」曲がいちばん偉いんです!(笑)。

(山下達郎)フフフ(笑)。だからそこでイヤーキャッチっていうか、そこでグッとあれして、でも10回聞いても飽きない。そういうような耐久性とファーストインプレッションというか。それが両立するっていうのはなかなか難しいから。

(松尾潔)いや、おっしゃる通りですよね。飽きられずにね。

(山下達郎)これもそれから25年とか経ってるけど、でもまだ聞けますからね。「聞ける」っていうのも変な言い方だけど。

(松尾潔)いや、本当にそうですね。僕も初めて聞いた時の気持ちいをそのまま取り戻してくれますもんね。

(山下達郎)やっぱりポピュラーミュージックの優れたところっていうのはそこですよね。
(中略)

(松尾潔)さて、楽しい時間ほど早くすぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。ということで今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)、今夜は来週もお越しいただけます山下達郎さんの特に『メロ夜』リスナーはみんな大好き。『あまく危険な香り』。今日は平成元年にリリースされましたライブアルバム『JOY』に収録されているライブバージョン。こちらを聞きながらのお別れです。次回も引き続き山下達郎さんとお届けしていきますのでお楽しみの。これからお休みになるあなた。どうかメロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのはあなたです。次回は来週6月3日(月)、夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔と……。

(山下達郎)私、山下達郎でした。

(松尾潔)それでは……。

(松尾・山下)おやすみなさい。

山下達郎『あまく危険な香り』

<書き起こしおわり>

山下達郎と松尾潔 2000年代・2010年代のR&Bを語る
山下達郎さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』に出演。松尾潔さんと平成、特に2000年代・2010年代のR&Bについて、自身が選曲した楽曲を聞きながら話していました。 【松尾潔のメロウな夜】今夜は、山下達郎さんゲスト回・パート2達郎さんが...
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