松尾潔とK DUB SHINE メロウなR&B対談

松尾潔とK DUB SHINE メロウなR&B対談 松尾潔のメロウな夜

K DUB SHINEさんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』にゲスト出演。松尾潔さんと、自身が選曲したメロウな楽曲を聞きながら、音楽談義をしていました。

(松尾潔)改めましてこんばんは。『松尾潔のメロウな夜』。2018年はじめての放送。そしてはじめてのゲスト。僕、ずいぶんと長い付き合いなんですけども、実は『メロウな夜』はもちろんのこと、ラジオでこうやって一緒の番組に出演するのははじめてです。今日のゲスト、K DUB SHINEさんです。

(K DUB SHINE)あけましておめでとうございます。K DUB SHINEです。よろしくお願いします。

(松尾潔)本当に礼儀正しい人ですよね。いつもね。

(K DUB SHINE)いや、年の始めなんでね。いい印象を付けたいと思いまして(笑)。

(松尾潔)フフフ(笑)。なんか、いままで公開のイベントとかはやったことあるじゃん?

(K DUB SHINE)そうですね。

(松尾潔)「へー、いままでなかったっけ?」って、ちょっと恥ずかしいところ、ない? 照れみたいなの、ない?

(K DUB SHINE)いやもう、いま脇汗がすごいですよ(笑)。

(松尾潔)アハハハハッ! 僕はね、いまだに僕のこのホームグラウンドである『メロウな夜』で、たまたまここで一緒になっていないっていうだけなのかもしれないけど、なんかの話の流れなんかで、「この間ケーダブがさ」みたいなことを普通に話したりするじゃない? そしたら、「えっ? お知り合いなんですか?」ってよく言われるの。

(K DUB SHINE)へー。

(松尾潔)だから、「あっ、なかなかそういう交わりって見えないものかな?」って思って。

(K DUB SHINE)でもR&Bとラップは割と近いとも思うし……。

(松尾潔)そうなんだよね。僕からすると、そのどこが珍しいんだろう?って思うんだけど。たとえば僕はライムスターとかはさ、割と昔から一緒にいるところとか、いろんなところで出てたりしているけど。ケーダブのこのラップの世界における位置づけっていうのはやっぱり特殊なんだろうなって、その度に思うわけ。

(K DUB SHINE)そうですかね?

(松尾潔)誰とでも話す人でいて、誰とも違う孤高の人みたいな感じ、あるんじゃないの?

(K DUB SHINE)へー。それ、ちょっと孤独なんじゃないですか?

(松尾潔)そんなことはないと思うんだけど(笑)。はい。それで、いまなぜ『おーさか☆愛・EYE・哀 MURO Rexmi』という曲で始めたかといいますと……。

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これはMUROさんといえばいろんな側面がありますが、MISIAの98年のデビューシングルの『つつみ込むように…』のリミックスでラップしていたことでも、R&Bファンには知られているわけですが。

で、そのMISIAの続くセカンド・シングル『陽のあたる場所』でラップをしていたのがK DUB SHINEということでね。

(K DUB SHINE)そうなんです。

(松尾潔)僕はね、その頃MISIAのスタッフの1人だったんですけど、その頃は全然会ってないんだよね。

(K DUB SHINE)そうですね。あ、その頃からそういうの、やっていたんですか?

(松尾潔)やりつつある頃ですね。本格的プロデュースというよりも、音楽ライターの傍らで海外のコネクションを紹介したりとか、そういう、いわゆるブレーンみたいな仕事をやっていたんだけど。その時から面白いなと思っていましたよ。まあ、もっと前で言うとキングギドラの最初にデビューした時のインディーズで出していた時、僕はそこが出している『Black Music Review』っていう雑誌のレギュラーライターだったから。

(K DUB SHINE)はい。僕、それ読んでましたよ。

(松尾潔)そこに僕、編集部に電話かけるたびに保留音がキングギドラだったわけ。

(K DUB SHINE)アハハハハッ! 「見回そう♪」ですね。

(松尾潔)そう(笑)。それでキングギドラっていうのがまずインプットされたっていうのがあるんですけど。

(K DUB SHINE)だからブラックミュージックっていう接点で松尾さんもR&Bからソウル、ブルースとかも詳しいのを知っていたし。絶対にどこかで知り合ったら教われるんじゃないかなっていうのはずっと思っていました。

(松尾潔)マルコムXのスピーチをまとめた本の序文を書いてなかったっけ?

(K DUB SHINE)帯のなんかを書いたかもしれないですね。

(松尾潔)帯だっけ? ああいうこととかでなんかすごい……ラッパーっていろんな人がいたわけじゃない。いまでもそうだけど。日常を歌う人もいれば、社会的なことを題材にする人もいれば、パーティーのことを中心にラップする人もいれば。けれど、「ああ、ケーダブっていうのはすごいコンシャスな……」って。まあ、後に社会派ラッパーって呼ばれるようになるわけだけど。最初に世に出てきた時のイメージなんて本当にわからないじゃない?

(K DUB SHINE)うーん。

(松尾潔)後々、時間をかけてあぶり出されるその人の本質みたいなものにまだたどり着いていなかったから。だから、ケーダブを最初に知ったのは90年代だけど、こんなにメロウな音楽とかが好きな……。

(K DUB SHINE)フフフ(笑)。

(松尾潔)ロマンティック・ガイだなってことは2000年代になってから知ったのよ。

(K DUB SHINE)僕もバラードとかも、それこそ80年代からずっと好きで。同じアーティストでもバラードで判断するようなところもありましたよ。

(松尾潔)なるほど。今日はそんなケーダブさんのメロウな選曲もたっぷりお楽しみいただくわけなんですが、じゃあまず、K DUB SHINEの数あるメロウなレパートリーの中から、僕との接点でもある平井堅さんをフィーチャーした、これは2000年の作品になるのか。

(K DUB SHINE)そうですね。セカンド・アルバムの『生きる』に入っているやつで。

(松尾潔)じゃあ、これはご本人から曲紹介をしていただきましょうか。

(K DUB SHINE)はい。K DUB SHINEで『セントオブアウーマン 夢の香り』。

K DUB SHINE『セントオブアウーマン 夢の香り』

(松尾潔)お届けしたのは今夜のゲストK DUB SHINEさんで『セントオブアウーマン 夢の香り』。フィーチャリングコーラスは平井堅さんでした。これはケーダブの2000年リリースのアルバム。セカンド・アルバムだね。『生きる』に収録されています。このことからわかるのはメロウ好き、映画好き、カーティス・メイフィールド好き(笑)。

(K DUB SHINE)ああー、全部バレちゃいましたね(笑)。

(松尾潔)けどさ、これなんかいま聞くとさ、ケーダブと僕は同世代ですからね。もう50代に今年から入るのか。

(K DUB SHINE)ですよねー。

(松尾潔)なんだけども、まあこれは20代の終わりとかに作った……もっと言うと、そのぐらいの、その時の女性観、恋愛観が反映されているわけじゃない?

(K DUB SHINE)ちょっと甘酸っぱいのがね、聞いていてはずかしいです。

(松尾潔)まあちょっと俗っぽい言い方をすると、アラフィフのおじさんたちがアラサー時代をいま、思い出して……(笑)。

(K DUB SHINE)フフフ(笑)。

(松尾潔)どうなの? けど、ケーダブなんてずっと独身だしさ。変わってないところは変わってないんじゃないの?

(K DUB SHINE)でもなんか、『失楽園』みたいなイメージは自分に全然ないですね。

(松尾潔)アハハハハッ! いきなり大ネタ持ってきたね! 『失楽園』のイメージはない?(笑)。

(K DUB SHINE)あと、これを聞いた人が「あんなイカつくて、テレビでたまにふざけているやつがこんなに女々しいのか?」って思われちゃうんじゃないか?っていう不安も隠せないです(笑)。

(松尾潔)いや、まあ誰にでもいろんな面はあるし。特に恋愛というステージにおいては、その当事者じゃないと見ることができないところってあるんじゃないですか?

(K DUB SHINE)松尾さんもじゃあ、人に提供する曲で自分の過去の、これはちょっと人にはあんまり言えないな、みたいなのを実は内緒に忍び込ませたりしているんですか?

(松尾潔)あのー、僕はそういう自分の作るものをそういう意味での自己承認欲求の具として使うっていうことはないんだけど。自分で歌うわけじゃないからね。ないんだけど、ただ結果としてそうなってしまったかな?っていうのはありますね。だから僕のことを、ある一時期を深く知っている人とかからすると、「これはあの時のことじゃん!」って言われることは、ごく稀ですけどもありますよね。

(K DUB SHINE)そういう人がいるんですね。誰か、それを見つけ出す人がね(笑)。

(松尾潔)そうでしょうね(笑)。けど、音楽ってやっぱりパーソナルな何かを引き出してくれるものっていうのが、大衆音楽の尊いところだと思っているので。

(K DUB SHINE)もちろん、そうですよね。

(松尾潔)それこそ、小説なんかでも太宰治の小説を読むと「なんで俺のことを知っているんだろう?」って思いながら読んじゃうみたいな、そういういろんな定義がある中で名曲のひとつかもしれないから。それで言うとケーダブなんていうのは、「ケーダブさんはもう俺のことをわかってくれている!」って……。

(K DUB SHINE)ああー、言いますね。

(松尾潔)ねえ。言われるでしょう? だって、あれは何年前だっけ? ケーダブと一緒に近所のあるコーヒーショップに行った時にさ、なんか若い男の子がダーッ!って駆け寄ってきたから、僕なんか身構えたら、「ケーダブさん!」って。

(K DUB SHINE)身構えて(笑)。

(松尾潔)そう。あの時はだって、ケーダブからするとしょっちゅう会っているようなBボーイかもしれないけど、僕からすると「なんだよ、急に?」って感じだったんだよね。

(K DUB SHINE)イカつい中肉中背のボウズ頭がこう、やってきて(笑)。

(松尾潔)そう。あの時、面白いなと思ったのは、それでファンなんだなってすぐに気づいたけど。「ちょっとサインしてもらえますか?」って言って。「いいよ。どこに書けばいいの?」って言ったら、「ここに」って言って、その彼が自分の履いていたスニーカー。足を突き出して「ここに書いてください」って言って。

(K DUB SHINE)新品のね、真っ白なやつにね。「いいの?」って俺、聞いたけど、「いいっす!」って言うから、思い切って書いちゃいました。

(松尾潔)フフフ(笑)。いや、だから「自分の宝物にサインしてもらうっていうことなんだな」って思って。Bボーイ同士ならではの。

(K DUB SHINE)でも飾る気はないなっていう気はするから。

(松尾潔)いいじゃない(笑)。日常に溶け込んでいる音楽っていうことで言うと、すごいそれは象徴的なあれなんじゃない? 飾ってほしかったの?(笑)。

(K DUB SHINE)いや、靴だったらそのうちに汚れちゃうじゃん。

(松尾潔)アハハハハッ! なんだよ、その普通の心配(笑)。

(K DUB SHINE)アハハハハッ!

(松尾潔)いやいや、そんなK DUB SHINE。この人こそ、自分にとってのナンバーワンラッパーっていう方はたくさんいることを僕は知っていますが、その人たちでも、もしかしたらケーダブのその本当に一人きりになった時、もしくは女の子と二人きりになった時に聞く音楽まではわからない人、いるんじゃないかなと思って。

(K DUB SHINE)そうですよね。おそらく。

(松尾潔)なんか家に帰ってまでもずっとハードコアなヒップホップを聞いていると思われたり、していない?

(K DUB SHINE)たぶんそうだと思います。ギャングスタラップしか聞いていないとか。古いソウルとか、そういうのを聞いていると思われたりしてるかもしれないけど。

(松尾潔)いや、今回選曲をね、お願いしたら、もうちょっと番組の中に収まりきらないぐらいのアーティスト名をたくさん、ケーダブが言ってくれて。今日はBGMで流れる曲も含めてケーダブセレクションでお届けしているわけなんですけども。

(K DUB SHINE)ありがとうございます(笑)。

(松尾潔)K DUB SHINEが「いやー、ちょっとあのSOSバンドも入れたいんですけど……」。また数日後には「いや、ちょっとあの……ギャップ・バンドに変えてくれます?」とか。「マックスウェルはどうでしょう?」みたいなそういうやり取りが、まあファンの人たちはどう思うかわからないけど、僕は「もうケーダブ、かわいいな。どんだけ選曲に時間、かけてんだよ?」って思って。

(K DUB SHINE)やっぱり松尾さんとの一騎打ちなんで、ちょっと感心させたいなっていうのがあります。少なからずありました。

(松尾潔)ああ、そう? 勝ち負けじゃないんだけどね(笑)。今回、どれぐらい時間をかけたの?

(K DUB SHINE)もう自分のライブラリ、プレイリストとかとにらめっこしながら、だいたい15時間ぐらい……。

(松尾潔)15時間ですか(笑)。

(K DUB SHINE)まあ、聞くじゃないですか。都度、それぞれの曲を。

(松尾潔)まあね。選曲しながらも時々聞いているのが楽しくなっちゃったりっていうね。

(K DUB SHINE)そうです、そうです。引っ越しの途中で漫画を読むみたいな。

(松尾潔)アハハハハッ! ちょいちょいパンチラインを挟んでくるからね、このケーダブさんはね! ラッパーつかまえて「パンチライン」はないだろ?っていう話だけど。当然か。じゃあちょっと話は延々と続けたいんだけど、曲の方も聞いてみましょうかね。

(K DUB SHINE)お願いします。

(松尾潔)これはまず、僕が曲紹介しますので、曲を聞き終わった後に思い入れとかも聞かせてもらおうかなと思います。まずはこちらから。1980年にリリースされたザ・ギャップ・バンドのアルバム『The Gap Band III』に収録されていました。『Yearning For your Love』。

The Gap Band『Yearning For your Love』

Al Jarreau『Mornin’』

(松尾潔)今夜のゲスト、K DUB SHINEさんのセレクションで2曲続けてご紹介いたしました。まずは1980年、ザ・ギャップ・バンド『Yearning For your Love』。そして1983年に夜に出た大ヒットナンバーですね。アル・ジャロウで『Mornin’』。ちょっとメロウな夜にしてはかなり朝な……(笑)。

(K DUB SHINE)フフフ(笑)。モーニングですもんね。

(松尾潔)この番組を8年やって1回もかけてないよ。このアル・ジャロウの『Mornin’』は。別の曲はかけたことあるけど(笑)。

(K DUB SHINE)いや、これは『メロウな夜』には向いてないのかもしれない(笑)。

(松尾潔)アル・ジャロウ……いや、逆にそこに遊び心を感じますけども。アル・ジャロウが、あとやっぱり去年亡くなったという、そういうトリビュートの意味も込めたのかな?

(K DUB SHINE)はい。そういう思いもちょっと込めました。

(松尾潔)この頃、80年代前半のサウンドは僕らでいえばちょうどこれは中学校に入るか入らないかとか、高校に入るちょっと前とか、そのぐらいの要は思春期。洋楽にガーッと影響を受け始めたような頃。これはリアルタイムで聞いていたの?

(K DUB SHINE)僕、アル・ジャロウはリアルタイムで。たぶんトップ40とかああいうのに入っていて。

(松尾潔)そのトップ40の中で、いまみたいにネットとかですぐに調べられる時代じゃないから、聞いただけだとそのアーティストの顔とか、もっと言うとそのバックグラウンド。レイシャルなところも含めて。アフリカン・アメリカンなのか、それともまあ白人と言われる人たちなのかっていうのを、聞いてわかっていた?

(K DUB SHINE)ええと、『ベストヒットUSA』とかと並行して見ていたり、あとは輸入レコード屋が近くにあったんで、壁に貼ってあるビルボードとかをにらみながら、「たぶんこれだな」みたいなところで当たりをつけて。

(松尾潔)やっぱり僕もね、当時は輸入盤店に行って、週に1回ぐらい、だいたいコピーが貼り出されていたんですよね(笑)。僕もやっぱりそういうのをチェックしていたけど、同じことを同時多発的にやっていたんだね(笑)。

(K DUB SHINE)やってましたね(笑)。その時に友達になればよかったのに(笑)。

(松尾潔)アハハハハッ! まあ、僕はその時は九州の福岡のね、輸入盤ショップで同じことをやっていたわけですけどね。そうそうそう。黄色の袋のお店とかによく行ってましたけどもね。そうかそうか。ケーダブはね、普段からいろんなところで……まあもちろん「渋谷」っていうこの地名でありカルチャーの名前でもあるところの申し子であるということは、いろんなところで。まあ「渋谷のドン」っていう。

(K DUB SHINE)いや、もうNHKも子供の頃から見学コースをもう何十周もしていますよ。僕は。

(松尾潔)そうか。いや、本当にいまここから番組をお聞きになった方のために言いますけどもね、ラッパーのK DUB SHINEさん。生まれも育ちも渋谷で、そして渋谷にずっと住み続けていて。

(K DUB SHINE)もういちばん近くに、いまで言う神南小学校っていうところに通っていたんで。通学路上にこのNHKがあるんですよ。意識しないではいられない環境だったんで。

(松尾潔)そうだよねー。

(K DUB SHINE)今日はうれしいです(笑)。

(松尾潔)まあ、そんな渋谷育ちであり、かつ80’sカルチャー育ち。

(K DUB SHINE)っていうことですかね?(笑)。

(松尾潔)まあ、もう年が明けて一昨年になりますけども、『新日本人』という、いまのところ最新アルバムがありますけども。

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K DUB SHINEさんがblock.fm『INSIDE OUT』にゲスト出演。渡辺志保さんと新作アルバム『新日本人』について話していました。 #inside_out 2016年最後のゲスト!! 高低差を強調する @jinmenusagi...

その中に『My Dear…』っていう曲があって。僕は『新日本人』っていうアルバムは本当に興味深く何度も聞いたんだけど、この『My Dear…』っていう曲がすごくね、訴えるものがあるのね。

(K DUB SHINE)特にこれは僕は「これはこう」みたいなことを何も言っていないんですよ。ただ並べて……。

(松尾潔)雑文、雑記っていうの? それゆえになにか、僕の知る素のケーダブがそばで僕のために歌ってくれている感じがするのね。

(K DUB SHINE)ああー。なにもこう、導こうっていう気がなく作った曲なんで。

(松尾潔)へー。昔はそういう作風、なかったよね。

(K DUB SHINE)そうですよね。それをすごい気に入ってくれてうれしいなと。

(松尾潔)一筆書きの面白さがあって。その中で80’sカルチャーの影響っていうのを割とストレートに言っているから。まあ、前々から知っていることではあるんだけど、曲の形になってそういうことを言うっていうのは、特に最近またそういう思いが強いのかな? とも思って。

(K DUB SHINE)まあ日本とアメリカの関係性みたいなの、いろいろと考えさせられますよね。

(松尾潔)やっぱりこう、そんなに当時意識していたわけじゃないけど、すごくやっぱり対米従属的な動きに行きがちだったんだなっていまになって思うこと、よくあるじゃない? 「アメリカ、かっこいい」みたいな。まあ、そうなんですね。それで……。

(K DUB SHINE)ちょっとだから自分の中の複雑な、好きでもあるし、ちょっと納得いかない部分もあるし……みたいなのも両方出して、「あなたはどう?」みたいなことを突きつけるような曲にはなっているかなと思います。

(松尾潔)なんか「K DUB SHINEの作り方」。「The Makings Of K DUB SHINE」っていう感じでね、本当に僕は……またこういうことをてらいなく語れるっていうフェイズにいま、ケーダブがいるんだなっていう風に。……すごいいま、真面目な話してるでしょう? そういう風に思いながら聞いていたんですよね。まあケーダブ本人からアルバムができた時にもらって、ずーっと感想をきちんと言っていなかったのでいま、こうやって言っているんだけど。

(K DUB SHINE)はい。

(松尾潔)まあ、そんなK DUB SHINE。いまラッパーとしてすごく面白いところにいるし、50代を迎えるラッパーが何をラップしていくか?っていうのはヒップホップの世界がまだ体験していなかったことなんだよね。

(K DUB SHINE)ですよね。これからのテーマになりますよね。

(松尾潔)本当に海の向こうでも、パブリック・エネミーとかもそうだしね、もちろんジェイ・Zとかもね。だってまあ、早い話がまだ老衰で亡くなったラッパーっていないわけだよ?(笑)。

(K DUB SHINE)アハハハハッ! たしかに、病気か事故ですよね。

(松尾潔)だからやることなすこと、いまやっていることが前例になっていくという、そういう……。

(K DUB SHINE)そうなんですよ。ちょっと責任も重いかなっていうのもあるけど、まあやっていかなきゃしょうがないし。歳相応な発言をラップにしていかないと。聞いている人も「なんだよ、こいつ昔はリスペクトしてたけど……考え方俺らよりガキじゃん?」って思われると、ちょっと商売上がったりかなっていう。ありますよ。

(松尾潔)アハハハハッ! 「商売上がったりかな」っていうのに逆にいま、照れを感じたけどね。それは本当に、アーティストとしての活動を長くやりたいっていうことを真面目に考えるなら絶対に向き合わなきゃいけない問題ですよね。

(K DUB SHINE)まあラップをね、「ハッスル」っていう、「儲けるために」とか考える人もいるけど、僕は割と真面目に、最初の頃に「キャリアだ」って考えたんで。まあ、結構ずっとやっていくんだろうなってことを想像して考えています。

(松尾潔)なるほどね。そんなK DUB SHINE、いまの話を聞いたんですけど、15年前の曲をこれから聞いてみたいと思います。これはテーマを最初に言うと、女性賛歌なんだよね。

(K DUB SHINE)そうですね(笑)。

(松尾潔)ちょっとそういうK DUB SHINEの眼差しをみなさんも感じていただければと思います。じゃあ、曲紹介をお願いします。

(K DUB SHINE)2002年に出した曲です。K DUB SHINE『マキシマムリスペクト』。

K DUB SHINE『マキシマムリスペクト』

Cameo『I’ve Got Your Image』

(松尾潔)2曲続けてお楽しみいただきました。まずは今夜のゲスト、K DUB SHINEさんの2003年リリースのアルバム『世界遺産』に収録されていた、まあアルバムの中のリードシングルだったって言ってもいいのかな? すごくチャーミングな女性が出てくるビデオでも僕は記憶しております。『マキシマムリスペクト』。そしてまた青春時代の曲ということで、1985年のキャメオのアルバム『Single Life』の中から『I’ve Got Your Image』。これは僕もこの番組でも何度かオンエアーしている曲で。

(K DUB SHINE)これ、ちょっと流行っていないところをあえて狙ったんだけど……。

(松尾潔)いや、いちばんメロウな曲でしょう。

(K DUB SHINE)やっぱりメロウの中のメロウな人にはわかっちゃいますか?

(松尾潔)アハハハハッ! 「メロウの中のメロウな人」(笑)。いやいや、そのまんまオウム返しで返したいぐらいですけども。

(K DUB SHINE)途中のギターソロがかっこいいなと思って。

(松尾潔)ああ、チャーリー・シングルトン。いやいや、けどキャメオのことをね……しかも1985年のキャメオを2018年の正月にこうやって語り合うっていうのは、幸せなことだねえ。

(K DUB SHINE)いや、本当は『Candy』とかの方が無難かな?って思ったんだけど、あえて狙ったのにでも、しょっちゅうかけられていたっていうのはショックです(笑)。

(松尾潔)いやいやいや。僕なんかは「見抜かれているな」と思って。だから、勝ち負けで言うと「松尾さん、こういうのどうですか?」っていうのは立派にあなたの勝ちですよ(笑)。

(K DUB SHINE)いや、だから今回ね、「メロウ」っていう言葉の定義をこんなに考えたことはなくて。

(松尾潔)ああ、どう? ケーダブの定義で言うと。

(K DUB SHINE)なんとなくね、「スムーズ(Smooth)」みたいなイメージだったんだけど、もうちょっとおだやかというか。あんまりセクシーだったり……まあセクシーって言っても官能的な方向だったりとか。どちらかと言うと、「ナスティー(Nasty)」?

(松尾潔)まあいわゆる肉の感じではなくてね。

(K DUB SHINE)ダーティー、ナスティ-でもなく、ブラックミュージック特有のファンキーでもないのかな?っていうところで、おだやかな、割とゆっくりゆっくり進んでいくような曲を選ぶべきだと思って、これかなと思ったんですけどね。

(松尾潔)ばっちりじゃない? なんかこう、「果物が熟す」っていうような意味も「メロウ」にはあるから。これなんていうのはたしかに、フレッシュなフルーツっていうよりもやっぱり成熟した何かを感じさせるよね。

(K DUB SHINE)そうですよね。やっぱりバラードはね、女々しいか悲しいか、割と寂しげな内容が多いんですけども。今回選んだのは、だからメロウっていうのはそういうことなのかな?って思ったんだけど。みんなその、なんて言うか淡い恋心っていうか。これから発展するものに対する曲だったり、好きな人……たぶん出会ってまだすぐぐらいに好きな人を思うような気持ちが割とメロウっていう定義には合うんじゃないかな? とね、結論を出したんですよ。

(松尾潔)年の頭からね、50がらみのおじさん2人で甘酸っぱいことを話してますけどね(笑)。まだけどほら、ケーダブの場合はね、さっき「渋谷」とか「80’s」っていうキーワードを出したけど。あとやっぱり、長いことさ、アメリカ生活も。留学をしていたからさ。当然、洋楽でもあると同時に、歌詞もきっちり吟味しながら聞いているから。そこの視点っていうのもケーダブの場合は大きいんじゃない?

(K DUB SHINE)やっぱり流行っている歌は何度もかかるし。で、サビがずーっと聞こえてくると、自然に覚えちゃうし。で、だんだん内容も「ああ、こういうことなのかな?」みたいにわかってくるから。

(松尾潔)ケーダブはええと、高校と大学の時だっけ? 留学をしていたのは。

(K DUB SHINE)そうです。高校で交換留学して。

(松尾潔)その時に、向こうのたとえば寮でラジオで聞いた曲とかで思い出深いものとかって、どんなの?

(K DUB SHINE)ええっ? 『Oh Sheila』とか?(笑)。

(松尾潔)アハハハハッ! レディ・フォー・ザ・ワールド(笑)。

(K DUB SHINE)レディ・フォー・ザ・ワールドとか。それこそあと、シーラ・Eとかですよね。

(松尾潔)『Oh Sheila』とシーラ・E(笑)。

(K DUB SHINE)『The Glamorous Life』とか。

(松尾潔)「シーラ」ネタが続くね(笑)。それそこ、メロウっていうことで言うとレディ・フォー・ザ・ワールドだったら『Oh Sheila』もすごくいいけど、『Love You Down』とかさ。

(K DUB SHINE)ああ、そうですね。次のアルバムの。はいはいはい。

(松尾潔)ああいうところっていうのは結構メロウな扉を開いてくれたりしたひとつだったりするんじゃないの?

(K DUB SHINE)僕、だからそこをすごくメロウだと思ったんだけど、よく聞くとちょっとエロいというか。

(松尾潔)ナスティーすぎると。なるほど。

(K DUB SHINE)もうちょっとなんか、離れている彼女を思うみたいな。だから『Yearning For your Love』も『Mornin’』もそういう曲だったんですよ。

(松尾潔)なるほどね!

(K DUB SHINE)「浮ついている感じ」っていうと問題だけど(笑)。

(松尾潔)それこそ、ケーダブの好きなフォース・MD’sの曲で『Walking On Air』とかっていうフレーズあるもんね。

(K DUB SHINE)はいはいはい。

(松尾潔)「浮遊感」っていうの?

(K DUB SHINE)あの、R&Bじゃないけどポリスの曲で『Walking On The Moon』っていうのはまさに、月の上を歩いているような気分だっていう。そういうのも一種のメロウかもしれないですけどね。

(松尾潔)なるほどねー! さあ、いまバックで流れておりますのはミシェル・ンデゲオチェロの『Dreadlocks』でございます。これはちょっと今回選んでもらった曲の中では1個、異色といえば異色な感じもするんだけども。まあ、ラップと言えなくもない……まあ、ポエトリー・リーディングかな? まあ、ミシェル自体がちょっと定義しづらい人ですけども。これはあれだよね。『Plantation Lullabies』だっけ? ファーストに入っていた曲だよね?

(K DUB SHINE)はいはい。僕はね、これCDシングルを当時、買いましたね。なぜか。

(松尾潔)ほう! シングルとしてね。ふーん。

(K DUB SHINE)紙のジャケットでね、なんか惹かれて買った記憶があるなー。

(松尾潔)なるほどねえ。まあ、こういう曲が入っているからちょっと面白いよね。人の選曲、プレイリストって本当に楽しいんだけど。

(K DUB SHINE)なんか時代をわけて今回、選んだんですけど。もうずーっと聞いていると92、3年ぐらいにメロウな感じの曲がすっごい多くて。そこから選ぶのがもう大変だったんですよね。

https://miyearnzzlabo.com/archives/22932


(松尾潔)いま、いいこと言った! そこ、試験に出るんだよ(笑)。

(K DUB SHINE)本当? もうすぐセンター試験ですからね(笑)。

(松尾潔)アハハハハッ! 時事ネタを入れてくれるね! いや、この番組では何度か言っているし、自分の本の中でも書いているんだけど、94年っていうのはアメリカのR&Bシーン的に言えばR.ケリーの年なのね。だからやっぱりあのあたりの音っていうのが、いま僕らが言っているメロウの基調だと思うよ。

(K DUB SHINE)もしかしたらそれはヒップホップの影響もあるのかもしれないけども、割とミッドテンポっていうか、BPMでいうと88ぐらいから93ぐらい?

(松尾潔)いや、ヒップホップの影響はすごいあるって。だってヒップホップとさ、R&Bとどっちも聞いているんだもん。当たり前だけど。

(K DUB SHINE)だから93年にDr.ドレーのGファンク。『Nothin’ But a G Thang』が出て。で、なんとなくヒップホップにもメロウな……。

(松尾潔)そこにちゃんとフィードバックしてるんだよね。

(K DUB SHINE)流れができるじゃないですか。だから僕は93年ぐらいがもうメロウな曲が氾濫しているなと思って。で、そこから選ぶのにはちょっと変わったやつじゃないとな……っていうのでこれにしたんですけども。

(松尾潔)僕もね、その90年代の前半の頃ってまだR&Bに特化した仕事じゃなくてヒップホップの仕事もよくやっていたけど。その頃、たとえば(EPMDの)エリック・サーモンにインタビューをしたらずっと延々とルーサー・ヴァンドロスの話をされて。

(K DUB SHINE)アハハハハッ! 本当?

(松尾潔)あとは、テディ・ライリーの弟のグループ、レクス・ン・エフェクトと話をしていたら、ずーっと「ブライアン・マックナイトは素晴らしい」っていう話をされて。「なんだろうな、この人たちは?」って思ったんだけど。いまになってみるとよくわかるんだよね。

(K DUB SHINE)僕もそのタイプですよ。ラップやっているんだけど、そういうバラードばっかり聞いているっていう。

(松尾潔)「だって家に帰ってチルしている時にヒップホップを聞くか?」ってよくラッパーに言われていたの(笑)。

(K DUB SHINE)でしょう? あとね、まあブラザーたちはみんな女々しいんですよ。

(松尾潔)今日何回「女々しい」って言ってるんだよ?(笑)。

(K DUB SHINE)いや、女々しさこそ、男らしさ。

(松尾潔)ああ、そう。僕ね、「女々しい」っていう言葉をいま、マイクに向かってしゃべっていいのかな?って何度も思っていたんだけども。「それこそが男らしさ」っていうところで全部これ、ひっくり返ったね。

(K DUB SHINE)だって女性のことを「女々しい」って言わないじゃないですか。男にしか使われないから、男の特権ですよ。

(松尾潔)アハハハハッ! 男の人って、ロマンティストだねえ(笑)。

(K DUB SHINE)アハハハハッ!

(松尾潔)そんなK DUB SHINEですけども、ケーダブと言えば常に社会、とりわけ若い人たち。自分より年下の新しい世代に向かってメッセージを積極的に発してきたし、また直接対話を試みてきたという、そういう印象も強いんだけど。よくほら、一時ほどではないかもしれないけども、渋谷区の若者たちとの会話とかよくやっていたでしょう?

(K DUB SHINE)やっていましたね。90年代、2000年代最初ぐらいまで。

(松尾潔)あれは、なに? パネルディスカッションみたいなことだったり、もうタウンミーティングみたいなこと?

(K DUB SHINE)タウンミーティングみたいなことですね。区が主催してとか。

(松尾潔)で、数年前には渋谷区の成人式で、新成人のために作ったオリジナルのラップチューンを披露ということもありました。

(K DUB SHINE)7年ぐらい前ですかね?

(松尾潔)で、その時の作品というのが後に録音をされて、作品化されたわけですけども。

(K DUB SHINE)ベスト盤に入ります。

(松尾潔)今日は奇しくも成人の日なので、その時の曲を聞いていただきたいと思います。2010年にリリースされた『自主規制』というベスト・アルバムに……。

(K DUB SHINE)いろいろと言いづらいことをいっぱい言っているという『自主規制』なんですけども(笑)。

(松尾潔)じゃあ、曲紹介をお願いします。

(K DUB SHINE)はい。では新成人たちに贈ります。K DUB SHINE『新しい時代へ』。

K DUB SHINE『新しい時代へ』

(松尾潔)お届けしたナンバーは今日、成人の日にふさわしい1曲でしたね。『新しい時代へ』。K DUB SHINEでした。

(中略)

(松尾潔)さて、楽しい時間ほど早くすぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。どうでした? ケーダブ。

(K DUB SHINE)もうお正月早々、松尾さんとこんなに音楽の話ができてうれしい限りですよ。

(松尾潔)今日はケーダブの音楽好き、メロウ好きっていうところを存分に出してもらいましたけども。さっきも言ったけど、とにかく本当にロマンティックなのね。

(K DUB SHINE)ええーっ? そんなこと、あまり言わないでくださいよ(笑)。

(松尾潔)おセンチちゃんだよね?(笑)。

(K DUB SHINE)アハハハハッ!

(松尾潔)ということで今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)。こちらももちろんK DUB SHINEさんの選曲です。今夜はルーサー・ヴァンドロスの『Wait for Love』を。ルーサーの数ある曲の中でも、この曲を選ぶ人は少ないよ?(笑)。

(K DUB SHINE)本当ですか? でもあえてね、逆を張ってみたんです。

(松尾潔)逆を張りましたか。じゃあ、逆張りメロウでみなさん、楽しんでいただければと思います。これからお休みになるあなた、どうかメロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くというあなた。この番組が応援しているのはあなたです。次回は来週、1月15日(月)。夜11時にお会いしましょう。今夜はゲストにラッパーのK DUB SHINEさんをお迎えしました。ありがとうございました。それでは……。

(松尾潔・K DUB SHINE)おやすみなさい。

Luther Vandross『Wait for Love』

<書き起こしおわり>

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