松尾潔 R&B定番曲解説 Bernard Wright『Who Do You Love』

松尾潔 R&B定番曲解説 Bernard Wright『Who Do You Love』 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でR&Bの定番曲、Bernard Wright『Who Do You Love』を紹介。様々なカバーバージョンを聞き比べながら解説していました。

(松尾潔)続いては、いまなら間に合うスタンダードのコーナーです。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。さて、R&Bの世界でも、ジャズやロックと同じように、スタンダードと呼びうる、時代を越えて歌い継がれてきた名曲は少なくありません。そこでこのコーナーでは、R&Bがソウル・ミュージックと呼ばれていた時代から現在に至るまでのタイムレスな名曲を厳選し、様々なバージョンを聞き比べながら、スタンダードナンバーが形成された過程を僕がわかりやすくご説明します。

第18回目となる今回は、バーナード・ライト(Bernard Wright)が1985年に発表した名曲『Who Do You Love』について探ってみます。そうですよ。もうこの『Who Do You Love』が世に出た時に生まれた人がいま、ヒットチャートを賑やかにしてくれていますね。1985年と言いますと、もう30年以上も前ですが。この番組でよく、「いまのR&Bシーンが作られる分水嶺みたいになったのは88年」っていう話をしますけども。88年よりも前ですね。

つまり、テディ・ライリー(Teddy Riley)のニュージャックスウィングがこのR&Bシーンの音の景色を一変させるその前です。まあ85年の時点でジャム&ルイス(Jam & Lewis)はもう活躍していました。ですが、テディ・ライリーやベイビーフェイス(Babyface)はそこまでの存在感はありませんでしたね。まあ、我々ソウル好きはその頃、ニューヨーク・サウンドとか、西っぽい音作りとか。そういう言い方をよくしていたような気がしますね。

で、これからご紹介するバーナード・ライトはまさにニューヨーク・サウンドでしたね。バーナード・ライトは本当に、キーボードプレイヤーとして、まずジャズの世界で天才少年として10代の時に出てくるんですね。80年代前半の話なんですけど。その時に、彼の後見人だったのがドラマーのレニー・ホワイト(Lenny White)でございます。で、レニー・ホワイトは非常に目利きとして知られる人でございまして。鍵盤のバーナード・ライトだけじゃなくて、ベーシストのマーカス・ミラー(Markus Miller)。この人もレニー・ホワイトのサークルから出てきたような人なんで。

「あっ、いまレニー・ホワイトは今度はバーナード・ライトにお熱なんだな」っていうような、そういう捉え方でした。で、この85年に出した『Mr. Wright』っていうアルバムでバーナード・ライトはそれまでの天才キーボードプレイヤーっていうところから、歌い手っていう側面をグッと全面に押し出してくるんですね。で、そのアルバムの中で最も注目された曲がこれからご紹介する『Who Do You Love』という曲。先ほどからバックに流れておりますLL・クール・J(LL Cool J)の『Loungin’』。

これはね、『(Who Do Ya Luv)』というサブタイトルが付いているように、リミックスバージョンなんですけどね。『Loungin’』っていう曲の。この『(Who Do Ya Luv)』っていうバージョンでは、このバーナード・ライトの『Who Do You Love』が大変に印象深く使われていました。で、オリジナルの曲のフックの部分をLLのこの『Loungin’』で歌っているのがトータル(Total)という3人組でございました。まあ、そういった人たちも巻き込んで『Loungin’』のリミックスバージョンをヒットさせた時は、もうあくまでこのバーナード・ライト『Who Do You Love』ありきだったんですね。

で、このLLの『Loungin’』のさらに余勢をかって出たのがシェイズ(Shades)というモータウンからデビューした4人組の『Tell Me』という曲ですね。この『Who Do You Love』という曲の再評価はLL・クール・Jの『Loungin’ Who Do Ya Luv Remix』から始まったと言って差し支えないでしょう。90年代の話なんですが。

その話の続きは、またこの後に。じゃあ曲を聞いてもらいましょう。バーナード・ライトで『Who Do You Love』。そして、そのバーナード・ライトの師匠であり、この曲の共作者でもあります。レニー・ホワイトがチャカ・カーン(Chaka Khan)をフィーチャリングして出した、ある種のセルフリメイクですね。『Who Do You Love』。2曲続けてどうぞ。

BERNARD WRIGHT『WHO DO YOU LOVE』

Lenny White ft. Chaka Khan『Who Do You Love』

今夜のいまなら間に合うスタンダード。バーナード・ライトの1985年のヒット『Who Do You Love』を取り上げております。まずはバーナード・ライト。サード・アルバムですね。85年にリリースされました『Mr. Wright』に収録されていた『Who Do You Love』のオリジナルバージョンをお楽しみいただきまして、そして、このバーナード・ライトの共作者でありプロデューサーでもありますレニー・ホワイト自身による『Who Do You Love feat. Chaka Khan』で続けていました。1995年。これ、10年後のカバーだったのか。まあちょっとリズムの解釈がね、よりベースの生感とかを強調して。バンド・サウンドっぽい仕上がりにしているのがレニー・ホワイトっぽいと言えば、ぽいんでしょうけども。

まあ、なんと言ってもチャカ・カーンのボーカルに持っていかれますね。この曲調というか、こういうアレンジ、チャカ・カーンは合うんですよね。で、さっきもお話しましたように、この曲の再評価というのはレニー・ホワイトのカバーと言うよりは、96年のLL・クール・Jの『Loungin’』ですね。この曲で引用されたというのが大きなきっかけになっております。ちなみに、そちらはR&Bチャート最高位四位。そしてポップチャートで三位。これは大ヒットですね。

バーナード・ライトの『Who Do You Love』。これもね、当時R&Bチャートの六位まで行ってるんですが。ポップチャートにクロスオーバーしてないんですよね。わかりやすく言うと、アメリカ国内の中でもブラックコミュニティーで支持された、そういう人種的に言えばちょっと局所的なヒットだったんですが。それが、LL・クール・Jの『Loungin’』のヒットによって開かれたと。そういう言い方が可能かと思います。

で、いまこの曲が語り継がれている時は、やっぱりLLによって曲に付加価値というのが発生していますから。それありきでございます。いま、バックで流れているオール・4・ワン(All 4 One) feat. ロブ・ヤング(Rob Young)の『Who Do You Love』。これなんかは去年に出たバージョンなんですけども。

このラップのパートの中でLL・クール・Jのことにも言及していますね。で、あとはそうですね。レゲエアーティストでシャインヘッド(Shinehead)っていう人がいます。シャインヘッド。有名なところでいいますと、『Jamaican In New York』という曲がございますけども。そのシャインヘッドもこの曲の中の印象的な歌詞で「Never Been In Love Before」っていうのがあるんですけど。それをそのまま曲のタイトルにして。『Never Been In Love B4』っていうタイトルでレゲエカバーしております。

あとはゴスペルアーティストでデトロイトにワイナンズ(Winans)っていう名門グループがいますね。で、彼らの子供たち。息子たちであるとか、甥っ子とか。あるいはいとこ同士で作ったワイナンズ・フェイズ2(Winans Phase 2)っていうユニットがありますけども。この人たちも『Who Do You Love』という。これはちょっと前の話になりますけども。それでも、21世紀になってからのカバーでございました。

もういま、名前を挙げただけでも結構カバーされているんだなと。特に今日、この曲を初めて知った方は、「へー! 自分の知らないところで、そんなどんどん上書きされるような歴史があるんだ」ということに少なからず驚かれたんじゃないかと思いますけどもね。まあ、このいまなら間に合うスタンダードっていうコーナーの趣旨は、このコーナーの冒頭でお話しておりますように、たとえばジャズとかロックと同じように、時代を越えて受け継がれてきた名曲。そのR&B編ですということなんですが。

まあ、その「時代を越えて」という非常に大きな表現の中には、「その時代の中で価値の意味を変えながら」という。そういうニュアンスも僕は込めてお話しているんですね。で、このバーナード・ライトの『Who Do You Love』。この曲がそのままの形では、「あ、80年代っぽいね」ということで終わってしまった曲かもしれません。それが、LL・クール・Jがこれをラップに取り入れたことで、この曲はR&Bとかフュージョンとか、そういった言葉でくくられて世に出てきた曲だったんだけども、いまはヒップホップという意味を背負って、新しい世代に歌い継がれているという。こういうところが面白いんですよね。

さて、ちょっと話が『Who Do You Love』から逸れましたけども。この『Who Do You Love』、いままでカバーですとかサンプリングされた曲っていうのをたくさんご紹介してきましたが。これからご紹介する曲は、この曲から派生した曲っていうことでお楽しみいただきたいと思います。まあ、「派生」と言えば随分ときれいなんですが、「2匹目のドジョウ」って言うとね、急にビジネスの色が出てきますが。まあ、そのどちらでもあるという曲です。

このバーナード・ライト、そしてそのプロデューサーでありますレニー・ホワイト。そして、さっきちょっとお話しましたレニー・ホワイトファミリーの中からマーカス・ミラー。このあたりは一時、ジャマイカ・ボーイズ(The Jamaica Boys)っていうユニットを組んでいたんですね。で、そこのジャマイカ・ボーイズでリードシンガーだったのがマーク・スティーブンス(Mark Stevens)という男なんですね。このマーク・スティーブンスっていうのは、何を隠そう、先ほどご紹介したチャカ・カーンの実の弟でございまして。

レニー・ホワイトはチャカ・カーンとかマーク・スティーブンスのパーンと張った声の質が大好きと推測されるんですが。チャカ・カーンのそのボーカルの系譜に位置づけることができる、ララ(La La)という女性シンガーがいます。ソングライターとしてもホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston)の『You Give Good Love』の作者として知られる人ですが。このララが87年にリリースした、その名も『La La』というね、セルフ・タイトルドのアルバムの中で、レニー・ホワイトがプロデュースしている『We’ll Keep Striving』という曲がございます。

これがね、『Who Do You Love』の2年後の2匹目のドジョウに他なりません(笑)。しかし、これもね、『Who Do You Love』に負けず劣らずの名曲であるということを、力を込めて言いたいと思います。そして、その派生したバージョンであるということを証明するかのように、バーナード・ライトをデュエットパートナーに迎えております。そうなんです。これ、ララとバーナード・ライトのデュエットなんですけども。ですから、バーナード側の歴史として言えば、『Who Do You Love』の続編という形でララのアルバムに客演したとも言えるかもしれませんね。

もちろん、曲作りにもバーナード・ライト本人が関わっております。聞いてください。ララ feat. バーナード・ライトで『We’ll Keep Striving』。

La La & Bernard Wright『We’ll Keep Striving』

お届けしたのはララ feat. バーナード・ライトで『We’ll Keep Striving』でした。バーナード・ライトは1963年生まれ説、65年生まれ説と2つあるんですけども。まあ、2つある時は古い方だというのが吉岡正晴さんがこの番組で強くおっしゃってましたから。まあ、1963年生まれが正しいのかなと推測できます。それにしても、『Who Do You Love』を世に出した時はまだ22才ぐらいだったということですね。

そしてこのララとデュエットした時でもまだ24才ぐらいということで。随分と早熟といいますか、老成しているというか。まあ、なにしろバーナード・ライト、初めてのアルバムを出したのがまだ16才っていう風に当時、言われてましたね。これも18才かもしれないんですが。なんにせよ、ティーンエイジャーの時に天才キーボードプレイヤーとして世に出てきて。で、20代になってシンガーとしてのステータスも得て。じゃあ、この後に輝かしき90年代が待っているかと思いきや、それからゴスペルの世界に行きましてね。

もちろん、ミュージシャンとしていろんなところでいまでも名前を見かけるんですけども。やっぱり基本的には、神について歌う歌が増えましたね。もしかしたら、この若すぎる成功でビジネスに嫌気がさしたのかもしれません。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32677

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