(beipana)そうですね。懸念点があります。それがなにかっていうと、EUが著作権法を改正……これはもう可決したんですけれども。昨年の秋頃にしまして。これ、どういう内容か?っていうと、「著作権を無視した作品はもうYouTubeとかでアップロードできないようにします」っていうことなんですね。これ、どういうことか?っていうと、いままではYouTubeとかはユーザーがその著作権NGのものをUPしたら、それはユーザーに責任があったんですけども、それをYouTubeそのものに責任を問うっていうことにするんですよ。そうすると、YouTube側は「それはもうリスクが高すぎるんで。著作権がグレーなものはブロックせざるを得ない。そういう選択肢しかないです」っていう風に言っているんですね。
(宇多丸)うんうん。
(beipana)そうすると、著作権NG的なものはあらかじめ、もうブロックされちゃうことになる。
(宇多丸)つまり、サンプリングで若者たちが……要するにサンプリングをクリアランスするお金なんか当然ないですし。というか、そんなつもりで作ってもいないですし。要するにお金を儲けるつもりじゃなくて作っているような、そういうサンプリングベースの音楽とかがオールアウトになってしまうっていう。
(beipana)NGですね。
(宇多丸)聞けなくなってしまう?
(beipana)UPできなくなる。
(宇多丸)だから、そもそも存在すら、わからなくなってしまうっていうことですもんね。
(宇内梨沙)じゃあ、そのコミュニティーはなくなってしまうっていうことですか?
(beipana)そういう可能性はすごく高くて。で、YouTubeは「そこがなくなるの、みんな大丈夫なのか?」って煽っていて。今日もストライキがあって。ウェブのストライキっていうのがあって、すごい面白いんですけども。
(宇多丸)ウェブのストライキってどうやってやるの?
(beipana)ドイツのウィキペディアが意図的に今日はシャットダウンしているんですよね。
(宇内梨沙)えっ、ウィキペディアが?
#Wikipedia Germany has shut down its page today in protest against the planned changes to the EU copyright law. The freedom of speech question has been put up for discussion https://t.co/Tu7MfGuuhN
— Dominique St. John (@dom_stjohn) 2019年3月21日
(beipana)ウィキペディアが。本当にそのぐらいの状況になっていて。で、3月25日は結構な規模のデモがあったりしますね。「ふざけんな!」っていう。で、EU市民500万人ぐらいの署名も集まっていて。「そんな法律改正、許せない!」みたいな人たちもいるということで。
(宇多丸)明らかに、文化全体にとってはすごく息苦しいというか、細くなっていくしかないような法律の縛りですよね。
(beipana)そうですね。
(宇多丸)あと、やっぱりね、古いヒップホップなんかはもうね、存在すら認められないっていうか。もちろん、それはグレーっていうか……真っ黒なんだけど(笑)。でも、文化ってそういうもんじゃねえだろ?っていうところもありますよね。
(beipana)で、2通りあって。サンプリングのクリアランスの問題と、あとはそもそもオーナーが勝手にそのビートメイカーの曲をUPしている可能性もあるんですね。で、ビートメイカーがそれで良しとしてても、その行為自体がYouTube的にNGだったらそれもブロックされちゃうんで。
(宇多丸)たしかにそれ自体はちょっと……それは逆にやっぱり。
(beipana)まあ、本当はダメなんすけどね(笑)。
(宇多丸)ダメだし、それこそ作り手に還元がね。
(beipana)そうです。それはまさにおっしゃる通りで。そこはそうなるべきっていう風に考える人たちもちゃんといるので。そこが整備されるのはいいことなんじゃないかと。ただ、そもそものそのサンプリングの部分っていうのが結構……。
(宇多丸)となると、さっきのL’Indécisさんみたいにある程度音楽的な素養を持っていて、自分で演奏もできて……って。まあ、ヒップホップの進化そのものも実際はそういう風にしてきているわけですからね。サンプリング、80年代は人の曲を取って「イエーイ!」ってやっていたんだけど、それが怒られて。お金を要求されて。当然のことなんだけど。これは当たり前の権利なんだけど。で、やっぱりみんな、「じゃあ演奏をしよう」っていう感じになってきたのが進化の過程なので、まあそれに倣っているというか。
(beipana)そうかもしれないですね。
(宇多丸)あと、その他にも予想ってありますか?
(beipana)もうひとつが、これは勝手な僕の仮説なんですけども。まあ、そういう懸念はありつつも、いきなりなくなってしまうというわけでは当然ないですし。僕の希望としては、Lo-fi Hip Hop……90年代の日本語ラップが世界中で聞かれるようになるんじゃないか?っていう風に思っていまして。
(宇多丸)それはすごい。なぜですか?
90年代日本語ラップが全世界で聞かれるかもしれない
(beipana)なぜかっていうと、80年代シティポップ……日本の竹内まりやさんとかがYouTubeで流行っているじゃないですか。で、あれの背景としては、シカゴのDJの方が話していたんですけども。「アメリカの若者っていうのはリサイクルされた、リメイクされまくって自国の過去の記憶っていうものがすでに消費され尽くしちゃったんだ。なので他者のノスタルジーを求めてシティポップくみたいなものを聞いてるんじゃないか?」って。
(宇多丸)自分たちの国にはなかった、過去のノスタルジーを?
(beipana)だから、「80年代のものとかいろんなものにすでに手垢がつきまくっていて。だから、他者の80年代にノスタルジーを求めるしかないみたいな。そこが、懐かしさが保存されているというか。なので、いまシティポップが聞かれているんじゃないのか?」という。
(宇多丸)これね、音楽だけじゃなくて、ファッションとかも。アメトラ……アメリカントラッドを日本人が解釈してファッションを発展させてきたっていうのにもちょっと似てますね。なんかね。
(beipana)そういう風にしていま、シティポップというものが流行ってはいるんですけども。結局、でも80年代のものなので、そこはいつか尽きる。そうなった時、どうなるのかな?って僕は思ってるんですけど、次に90年代に行くんじゃないのかなと。で、90年代のノスタルジーも結局、90年代的なものもいま、すでにリバイバルされていますし。まあ手垢がつきまくっている。そうなると、また同じように日本の90年代に手を伸ばすんじゃないかな?って。
(宇多丸)そうなるとしかも、Lo-fi Hip Hopのルーツにどんどん近づいてくるっていうか。
(beipana)その可能性がすごくあるんじゃないかなって。で、いまBGMで流れているのはスチャダラパーさんの『アフター ドゥービー ヌーン』という曲で。これもなぜかYouTubeに上がっているんですけど、コメント欄を見ると英語ばかりで。
(宇多丸)ああ、そう? そういう要素として?
(beipana)いや、「ローファイ」とは名言はされていないですけど。数も少ないですけど、ただ英語圏からのコメントが多いんで。なんかそういう兆しはあるんじゃないかな?って。
(宇多丸)へー! 面白い!
(beipana)で、こういう文章を書いていて。なんの文章か?っていうと、杏里さんのライブ公演の文章で。それはすでに音源としてリバイバルされたものがちゃんとライブ公演としていまは杏里さんが現地に行ってライブをされているっていうことも考えると、もしかしたらそこをフックに、まあすごい先のすごく楽観的な画なんですけども。90年代日本語ラップが消費されるようになって、海外でRHYMESTERやスチャダラパーが認知されて。実際に北米でライブ公演をするみたいな未来があるのかもな?って。
(宇多丸)なるほど。面白いですね。それもね。あと、ライブ方向っていうか。EUのその著作権法の問題で言うと、そういう意味ではオンラインからそのよりライブの世界、オフラインの世界に移行していくみたいな動きもあったりしますか?
(beipana)そうですね。レーベルによってはちゃんとライブイベントをやったりとか。フィジカルなものをリリースしたりっていうのもやっていますし。あとは、歌ものに戻ってくるっていうか。そういうLo-fi Hip Hop的な質感で歌を歌うみたいな人もいたりして。88risingっていうすごく人気のあるアメリカのレーベルの代表的なシンガーのJojiなんかは結構Lo-fi Hip Hopの影響が大きいんじゃないかっていう風にリスナーからは捉えられていたりもするので。まあ、そういう風にインスパイアされるアーティストもいま、徐々に出てきてるという状況ですね。
(宇多丸)でもやっぱりこれ、時代の流れとsちえ、そのアメリカのメインストリームのヒップホップとか流行っている音楽そのものがやっぱりバッキバキのハイファイな状態がずーっと続いたから、いつかはローファイ的なものに揺り戻しはどこかで来るだろうなと思っていたら、思わぬ方向から……「そこ?」みたいなところから来たのがすごく面白いなって。
(beipana)ベッドルームから直結というか、ベッドルームで始まっていたみたいな感じですね。
(宇多丸)「Welcome to my room」は本当だったっていうね。で、あとはやっぱりいわゆるミューザックっていうくくりというか、あとはヴェイパーウェイブっていう。ああいうのとも近い感じがするんですけども。
(beipana)でも、まさに結局そうなんだっていうか。インターネットの音楽的なミームというか、そういう消費のされ方をしてるという。
(宇多丸)同時にでも、若い人があるシーンとしてその中にいないと。僕は「じゃあヴェイパーウェイブを聞いてみようかな?」って思って掘ろうとしてみてと、後から普通にサブスクとかで掘ろうとしても堀りようがなかったりして。なんか、その全貌がすごい見えづらいところも……本当の意味でのアンダーグラウンドっていうか、若いシーンなんだなっていうのはすごく思うんですけど。やっぱり、そのインターネットの中、シーンの真ん中に飛び込むしかないっていうところなんですか?
(beipana)そうですね。だと思いますね。僕ももともと、こういうトリップホップが好きで。自分も作ろうと思って、こういうのが流行ってるっていうのが分かって。いろいろとコミュニケートしながらようやくわかってきたというものなので。結構本当に外から見ているとざっくりしすぎてわからないっていう。
(宇多丸)ですよね。しかも、音だけ聞いても「いや、まあ……まあ割とおとなしめなインストだよね。別に新しくなくない、これ?」ってなりかねない音だから、余計にわからないですよね。
(beipana)わからないですよね。だから「10代の子たちがそれを聞いている」っていうことがわかると、「ああ、じゃあこれは彼らにとってフレッシュなんだな」っていうか。そこまで深掘りして、「誰が聞いているのか?」までを追わないと、もうわからないっていう感じかなと思いますね。
(宇多丸)でも今日のbeipanaさんのお話でだいぶ僕、見取り図もできましたし。あとはやっぱりNinjoi.とかを聞いていても「ああ、あれか!」みたいな。それでなんで小袋成彬さんとか宇多田ヒカルさんがそこに接近していたのか?っていう理由がようやくわかったから。すごくめちゃめちゃ勉強になりました。
(beipana)いえ、こちらこそ。ありがとうございます。
(宇多丸)で、これは、学生さんの……?
(beipana)ああ、そうですね(笑)。またおかしな状況が起きていて。こういう勉強しているアニメの絵みたいなのがLo-fi Hip Hopの絵として用いられているんですけども。いま、YouTuberたちがこの格好をしてLo-fi Hip Hopを流しているっていうような……意味わかりますか?(笑)。
(宇多丸)「代表的ポーズ」になっている。
(beipana)本当にこういう風に勉強している風景を自分で撮って、BGMとしてLo-fi Hip Hopを使うという逆転現象というか。そういったことが起きていて。
(宇内梨沙)それを配信しているんですか?
(beipana)配信してるんですよ。
(宇多丸)自分が勉強している姿を?
「Study With Me」動画
(beipana)「Study With Me」っていうジャンルがあって。「一緒に勉強しよう」みたいな。
(宇多丸)ああ、でも一緒に勉強を……ってありますよね。友達の家に行ってとか。
(beipana)なんですかね? 「知的な私を見てほしい」みたいな? まあ、両方ありますよね。
(宇内梨沙)カフェとかで勉強するモチベーションって「素敵な勉強する私を見て」だし。
(宇多丸)あとは家じゃなくてちょっと人がいるところで……図書館で勉強するとかじゃないけども。あと、「みんながんばっている」っていうのがその自分の孤独感とかを癒やしてくれるとかもあるじゃないですか。だから夜に1人でこうやって勉強して「ああー……」っていう時に「1人じゃないよね!」って。
(宇内梨沙)これを再生したら励みになるかもしれないですね。画面の向こうで生きている人が同じような勉強しているんだったら。
(宇多丸)で、こんな優しい感じの曲でさ。ああ、これが勉強映像?
(beipana)勉強映像の後ろでLo-fi Hip Hopが流れているっていう。
(宇多丸)流れているんだ。フフフ、人の勉強しているところを見てどうしよう?って思うけど、でもやっぱり同じような世代で自分も勉強をしなきゃっていうような人だったら、もうちょっと思うところが絶対にありますよね。猫がウロチョロしていたり(笑)。
(beipana)結構ね、ToDoリストでこういうのを使っているんだよみたいなのをたまに見せたり。
(宇多丸)なんだろうね。この感性?
(beipana)とにかく早いんですよ。取り込むのも早いし、消費するのも早いし。とにかく「早い」としかいいようがないというか(笑)。
(宇多丸)ネットの速度というか。うんうん。という意味で、ひょっとしたらあっという間にまた下火になってしまうかもしれない。
(beipana)そうですね。その可能性は大いに。
(宇多丸)ということでいま勉強しておいてよかったです。いま教えてもらっていなかったら一生わからなかったかもしれない。
(beipana)いまはいちばんいいタイミングだったかもしれないです(笑)。
(宇多丸)まあ、そのEUの件もあるのでね。ということで、曲を聞きながらお話をうかがってまいりました。より詳しく、Lo-fi Hip Hopについて知りたい方はbeipanaさんのブログ。「Lo-fi Hip Hop(ローファイ・ヒップホップ)はどうやって拡大したか」をご覧ください。
本日、21日(木)のビヨンドザカルチャーにご出演していただいたbeipanaさんが「Lo-fi Hip Hop(ローファイ・ヒップホップ)」について詳しく解説しているブログはこちら!!#utamaru #アトロク #tbsradio #LofiHipHop #ローファイ・ヒップホップhttps://t.co/wvrrJ5Ml5x
— after6junction (@after6junction) 2019年3月21日
(宇多丸)ということで、勉強になりました!
(beipana)こちらこそ、ありがとうございました。
(宇多丸)それではお知らせなどを。
(beipana)今日、ご紹介したL’Indécisというアーティストの日本独自コンパイル盤のライナーノーツを担当していまして。それが3月20日、P-VINEから発売しています。
Pヴァイン・レコード (2019-03-20)
売り上げランキング: 6,907
(beipana)あとは4月6日に東日本橋のCITANというユースホステルの地下のダイニングバーでBGM的にDJをしていますという(笑)。まあ今日と同じように。BGMが僕、やっぱり好きなんですね(笑)。
(宇多丸)いや、でもわかりますよ。僕もサブスクでずっと音楽を流す時、歌が……英語であっても歌が入っているとちょっと邪魔だな、みたいな。できるだけそういうアクがないけど、心地よさだけ残した、耳が取られないやつはないのか?って、割とハウスみたいなところで掘っていたんですけど。こっちですね。
(beipana)こっちっすね(笑)。
(宇多丸)そういう意味でも勉強になりました。ということで、謎が謎を呼ぶ新たなヒップホップ、Lo-fi Hip Hop特集をお送りしました。beipanaさん、本当にありがとうございました! あ、そうだ。このコーナー、ライブコーナーがあるのでライブでも来てくださいよ。
(beipana)ああ、じゃあトークの後ろでやります(笑)。
(宇多丸)アハハハハハハッ! ああ、番組のBGMを生でbeipanaさんがミックスするっていう(笑)。そんな贅沢な番組(笑)。でも今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました。
(beipana)はい。よろしくお願いします。
(宇内梨沙)ありがとうございました。
<書き起こしおわり>
特集:宇多丸も知らない謎ヒップホップ「Lo-fi Hip Hop」とは?特集 https://t.co/cxIzuDhnMI
— みやーんZZ (@miyearnzz) 2019年3月30日