(宇多丸)とはいえ、『カウボーイ・ビバップ』も『サムライチャンプルー』も渡辺信一郎作品はもうめちゃめちゃスタイリッシュですからね。めちゃめちゃかっこいい。で、僕はすごい感慨深いのは、だからもちろんアメリカ発のヒップホップ文化を消化した日本のトラックメイカーとかの作品を日本のアニメ監督である渡辺信一郎さんが作品中で使い、それにさらに向こうのアーティストが影響をされ……っていうこの文化のDNAのミックス感というか。この話、超いいじゃん!って思って。ワクワクする!っていう。
(beipana)いや、本当にいろんな可能性が今後もあるんじゃないかなっていう気がしますね。
(宇多丸)もちろんね、Nujabesくんとかそういうのの流れで、前にJ Dilla特集をやりましたけども。宇内さん、J Dillaのビートの特徴、なんだっけ?
(宇内梨沙)ズンッ、カッ! ズンッ、カッ!
(宇多丸)はい。J Dillaのモタり感。これを表現していただきました(笑)。だからまさにそういう一連の流れっていう感じですよね。すごい! といったあたりで、彼らに影響を与えたというNujabesさんの曲を。2010年に亡くなられてしまいましたが。ああ、そういえば、テニスの錦織くんがNujabesを聞いているなんてのもありましたよね。だから、まさにそれもクールな文化としてのアニメからのNujabesなのかもしれないね。ちょっと誰か錦織くんに次、突っ込んで!
(beipana)フフフ(笑)。
(宇内梨沙)じゃあ次、お会いできる機会があったらNujabesさんのお話を(笑)。
(宇多丸)じゃあ、beipanaさんから曲紹介をお願いします。
(beipana)はい。Nujabesで『tsurugi no mai』。
Nujabes『tsurugi no mai』
(宇多丸)ということでNujabes『tsurugi no mai』をお聞きいただきました。こちら、『サムライチャンプルー』のサントラからということで。『サムライチャンプルー』、改めて説明しておきますと『カウボーイ・ビバップ』の渡辺信一郎監督の2004年の作品。江戸時代を舞台とした剣戟アクションとヒップホップの組み合わせが画期的だったという。劇中で使われるBGMは全てインストのヒップホップで。
手かけていたのはNujabesとかFORCE OF NATUREとかTSUTCHIEとかFat Jonとか、一流のプロデューサーたち。本当に日本が誇るトラックメイカーたちがこういう形で世界に出ていたんだっていうことですよね。オープニング曲はNujabes feat. Shing02の『battlecry』という曲で、この映像を手がけていたのは僕、知らなかったんですけども。細田守さんがこのオープニングアニメーションを。これ、ノンクレジット?
(古川耕)クレジット、細かく見たらされていると思います。あんまり一般的には知られていないっていう。
(宇多丸)いやー、これ知らなかったっすわ。はいはい。で、DVDのブックレットやオフィシャルムックを手がけているのは、この番組アトロクの番組構成作家。恥ずかしながら恥ずかしながら、古川耕さんでございます!
(宇内梨沙)すごーい! ということで、ここでなんとこの方からコメントがメールで届いています。『カウボーイ・ビバップ』『サムライチャンプルー』を手がけた渡辺信一郎監督からです!
(宇多丸)おおっ、すごい! よいしょー!
渡辺信一郎監督にLo-fi Hip Hopを質問する
(宇内梨沙)渡辺信一郎監督。通称ナベシンさんにLo-fi Hip Hopについてどう思っているのか? こちらから3つほど質問をさせていただきました。まずひとつ目の質問です。「Lo-fi Hip Hopについてどう思いますか?」という質問に対して渡辺監督は「そんなジャンルがあるとは伝え聞いていました。最初はスムースジャズの現代版みたいなものじゃないの? とナメていたけれど、実際仕事しながらYouTubeチャンネルを聞いてみると、なかなかいいなと。チル感、アンビエント感みたいなものが現代にフィットしている感じがします」との回答をいただいております。
(宇多丸)なるほど。やはり作業にね。作業用BGMとして最高という。そして?
(宇内梨沙)2つ目の質問、こちらをさせていただきました。「アニメにヒップホップ音楽を当てるという試み、当時は極めて斬新でしたが、なぜこの組み合わせを考えたのでしょうか?」という質問に対して、「音楽というよりヒップホップそのものの概念に影響を受けて作りました。たとえばサンプリングというアートフォーム。過去の音楽の一部をサンプリングして新しいエッジのきいた音楽に作り変えるというやり方に影響を受けて、時代劇という古いジャンルの作品たちの面白かった部分をサンプリングしつつ、新しい作品に作り変えようと考えました。
またMC・ラッパーというものもあり方にも影響を受けました。『周りの空気を読みつつ、浮かないように出る杭にならないように行動する』というのが日本人の特徴と言われるけれど、果たして昔からそうだったのか? そんなの、ごく最近の日本人の特徴じゃないの? という疑念がずっとあり、それとは正反対のマイク1本で自己主張しまくるラッパーのようなキャラクターを出したいと。そしてそれはサムライのようじゃないかとも考えました」ということです。
(宇多丸)そこまで考えられてのフィーチャーだったんだね。なるほど。
(宇内梨沙)そして最後の質問です。「『サムライチャンプルー』がこのような形で世界に影響を与えたことについて、監督としての感想は?」という質問に対して、「『チャンプルー』の一部分を勝手に拡大解釈したような感じだと思うんですが、そこが逆に面白いなと。あとNujabesの音源を最初に聞いた時、その音楽の持つ情感みたいなものがすごくサウンドトラックに向いていると思って彼にオファーをしたんですが、それをさらに受け継いでくれている感じがします」という。
(宇多丸)いやー、これは貴重な証言が。
(beipana)世界中でこれを読みたい人、いっぱいいると思います。
(宇多丸)この証言ね。これ、英語に訳して、それこそね。
(beipana)いや、本当にすごく貴重ですよね。
(宇多丸)ちょっとbeipanaさん、これ、ねえ。
(beipana)あ、僕ですか? そうですね(笑)。
(宇多丸)ぜひお願いします(笑)。
(宇内梨沙)ということで、そんな渡辺信一郎監督が総監督として手がける新作アニメが4月から始まります。タイトルは『キャロル&チューズデイ』。人類が移り住んだ火星を舞台にミュージシャンを目指すキャロルとチューズデイという2人の孤独な少女が出会う音楽のストーリーです。ベニー・シングスやカナダのプロデューサーMockyなど、世界中のコンポーザーやプロデューサーたちが参加をしています。
(宇多丸)ベニー・シングスさん、この番組にも来ていただきました。
(宇内梨沙)4月10日、フジテレビのアニメ放送枠「+Ultra」にて放送開始。毎週水曜日深夜の24時55分からスタートです。Netflixでも4月10日から配信開始ということで、皆さんこちらもどうぞよろしくお願いいたします。
(宇多丸)はい。相変わらず音楽のセンス、敏感なものがありますね。
(古川耕)ちなみに、ナベシンさん。この発表されているメンバーもすごいんですけど、まだこれ発表まだ発表されてないこの『キャロル&チューズデイ』に参加するメンバーがめちゃめちゃヤバいことになっているんで。
(宇多丸)だって音楽劇なんですもんね?
(古川耕)完全に今回、音楽をメインに扱うということで。本気のキャスティングをされているので、すごいメンバーがこれから続々発表されていくと思います。
(宇多丸)というあたりで、『キャロル&チューズデイ』。こちらも楽しみにしてください。とにかく渡辺信一郎さん、コメントありがとうございました。世界的に価値のあるコメントをいただきまして。
(beipana)本当だと思います。これ、知りたい人、めちゃめちゃ多いと思います。「なんで使ったの?」っていうのは。
(宇多丸)ということでbeipanaさんにいろいろとLo-fi Hip Hopシーンというものについて、成り立ちとかを教わってきたんですけども。ピークが先ほど、2016から2017にすごく盛り上がったっていう風におっしゃっていましたけども。Lo-fi Hip Hop、今後まだまだ盛り上がっていく感じなんですか?
(beipana)一応、そうですね。おそらく聞く人もやる人もいるとは思うんですが……ちょっと懸念されることが何点かあります。
(宇多丸)あ、すいません。俺、めちゃめちゃ台本飛ばしちゃいました(笑)。あとで聞きます(笑)。
(宇内梨沙)ということで、後半に行かせていただきます。ウィル・スミスも愛用? Lo-fi Hip HopとYouTubeの関係。
(宇多丸)はい。ということでLo-fi Hip Hop、インターネットで広がったという風におっしゃいましたが、具体的にどういう風に人気は広がって行ったんですか?
(beipana)そうですね。さっきのライブストリーミングっていうのもすごく有効だったというか。それでたくさん、24時間365日ずっとストリーミングしていたので。で、YouTubeのアルゴリズムっていうのが、ストリーミングをしているチャンネルを優先的にトップに表示するっていうか、上位表示させるというものがあるんですよ。要するに、彼らはテレビの代わりになりたいので。まあ、そういうことをやっているチャンネルを優先するという。
(宇多丸)ずーっとやっているところをね。
(beipana)そうですね。それでたくさん人の目に届くようになりましたというところもあります。あともうひとつが、YouTuber。アメリカのYouTuberたちがこういうLo-fi Hip Hop的な音楽を彼らが配信しているコンテンツのBGMとして使ってるんですよね。
(宇多丸)なるほど。やっぱり邪魔にならないっていう感じなんですかね。
(beipana)そうですね。で、すごく主要どころの人としては、Casey Neistatさんっていう、もともとは映像作家としてもすごく賞とかも受賞されている人がYouTuberを始めて。その方、編集がすごく上手で。すごくスタイリッシュなんですね。結局、それで彼がBGMとして使ってるというところで、フォロワーも同じようなローファイというか、チルなビートを使うっていうことが生まれている。
(beipana)その中で、ウィル・スミスも同じようにYouTubeみたいなものを始めまして。そこで使われているのもいわゆるこういうチルなビートっていう感じなんですよ。
(宇多丸)へー! ウィル・スミスはね、だってもともとはフレッシュ・プリンスっていう古株ラッパーで。お前、ヒップホップ……しかもむしろどっちかって言うとオールドスクール寄りど真ん中だったろうが!っていう。それが「Lo-fi Hip Hop」ってやっているっていう。そのチャラさがやっぱりウィル・スミスっていうか。
(beipana)どういう経緯なのかわからないですけど。冒頭で紹介したChillhopっていうLo-fi Hip Hopを普及させたというか、主要なチャンネルのレーベルに所属するL’Indécisっていう人の楽曲をウィル・スミスが採用したということで。まあ、厳密に言うとインスタなんですけども。
ウィル・スミスもLo-fi Hip Hopを採用
(beipana)それでインスタで公開したら、そこのコメント欄にクエストラブが「これ、誰の曲? かっこいいね!」みたいに反応を寄せて。「L’Indécisっていうんだよ」みたいな感じで返していて。
Will Smith used "L'Indécis – Soulful" in one of his Instagram videos, @questlove asked about the track in the comments and Will himself replied. Pretty surreal, never figured legends to be discussing our music and Will Smith himself to be the one to step up & credit. Great stuff. pic.twitter.com/qBIQq65DrE
— Chillhop Music (@Chillhopdotcom) 2018年7月22日
(beipana)で、このL’Indécisくんはまだ20何歳かなんですけども。もうYouTubeでそのせいで3000万回ぐらい再生されていて。まあ、働きながらビートメイキングしていたんですけど、いまではビートメイキング1本で食っていけるようになったみたいな。
(宇多丸)へー! たしかにNinjoi.くんもすごい若かったし、全体にすごい若いんですかね?
(beipana)若いですね。
(宇多丸)なるほど。じゃあ、さっそくですがそのウィル・スミスにフックアップされたというL’Indécisさんの曲を聞きましょうか。
(beipana)はい。L’Indécisで『Soulful』です。
L’Indécis『Soulful』
(宇多丸)はい。ウィル・スミスがフックアップして世界的にブレイクしてしまったL’Indécisという方の『Soulful』という曲を聞いていただいています。これは、あれですね。非常に音楽的だし、展開もしているし。あと、楽器の演奏の感じがあったりとか。すごく音楽的でこれは普通にいいですよ。めちゃめちゃいい。
(beipana)そうなんですよ。だから本当にこのLo-fi Hip Hopっていうジャンルが分かりづらい理由がまさに、さっきみたいなペナッとしたものもありつつ、しっかり作ってる人も全部、チャンネルオーナーをさじ加減で「これはLo-fi Hip Hop」みたいなくくりでまとめられちゃうんで、より分かりづらくなってたり。やっている側もちょっと「なんか、うーん。違うんだけどな?」みたいな風に思っている人もいるっていう。
(宇多丸)自意識として「Lo-fi Hip Hopアーティスト」というつもりはないですよっていう人は当然いると。まさにそのL’Indécisくんなんかはそうっていうことですね。
(beipana)はい。
(宇多丸)これだけ音楽を作れればね。あと、日本のビートメイカーは? だって日本初なんだから。もともと、ある意味。日本人のビートメイカー、いますか?
(beipana)はい。これも実は先ほど話題になった小袋成彬さんに教えてもらったんですけども。沖縄のビートメイカーでMinthazeさんという人がいて。彼も19歳なんですが。もうSpotifyで700万回ぐらい再生されているんですよ。
(宇多丸)マジで!?
小袋成彬 SpotifyとApple Musicの違いを語る https://t.co/gPiFaPzPUn
(小袋成彬)19歳の沖縄のトラックメイカーMinthazeくん。彼なんかはまさにBig in Spotifyの人ですね。再生回数なんか僕の40倍、50倍ぐらいあるんじゃないかな? っていうか、日本でワンオクに匹敵ぐらいじゃないですかね?— みやーんZZ (@miyearnzz) 2019年3月30日
(beipana)誰も知らないんですけど、実はものすごく再生されて。そういう、本当に草の根的にリスナーが増えてきているっていう感じなんですね。
Minthaze Spotifyhttps://t.co/m2Jb1BbQbm
— みやーんZZ (@miyearnzz) 2018年12月30日
(宇多丸)これ、でも聞いている側はさ、さっきから言われているように職場とか作業場とかで作業用BGMっていう感じだから。そのアーティストとして匿名性が高い感じで聞いているわけですよね。アーティストとして意識して……というよりは。
(beipana)そうですね。おっしゃる通りです。
(宇多丸)ひとかたまりの何か。要するに有線チャンネルでずっと店のBGMで……みたいな。そういう感じなんですかね。
(beipana)そうです。そうです。でも、おそらく大半のビートメイカーがそういう感じで消費されちゃってるんですけど、中にはちゃんと名前を認識してもらって、その人として聞いてもらうっていうようなケースも出ていて。彼、Minthazeくんはそれでしっかり彼自身の曲がものすごく再生されているんじゃないかなって。
(宇多丸)ねえ。でもこれはシーンとして、もちろん大元が日本のサブカルチャーであるということもそうだし。インストだから日本人アーティストも割と世界に打って出やすいジャンルなのは間違いないですよね。しかもそんなに複雑なことをやらなくてもとりあえずできる音楽でもあるし。俺もやるかな?
(beipana)フフフ(笑)。あれなんですよ。小袋さんがなぜ、僕と話したいって思ったかっていう、そのきっかけというか、目的のひとつが彼、いまイギリスに移住をしていまして。その理由というのが、レーベルをイギリスで立ち上げているんですよ。そこで、インドネシアで彼が偶然出会ったビートメイカー(pxzdv)を売り出したいっていう。そのビートメイカーの彼もLo-fi Hip Hopっぽいんですよ。
(宇多丸)うんうん。
(beipana)だから小袋さんも同じようなことを考えていて。結局、これはチャンスというか。かつ、日本がすごくプレゼンスがある状態でLo-fi Hip Hopをやるっていうのはすごくチャンスという。だから仕事をやってみたい。「なんでそういうことをやっているのかということを、もしよければブログに書いてもらえないですか?」っていうので。すごい面白いですね。
(宇多丸)へー! 非常にでも、はっきりした戦略を持ってやられているんですね。
(beipana)もうオーナーとして行っているんですね。アーティストとしてではなくて。
(宇多丸)でも、おっしゃる通り、日本発というアドバンテージがある状態で。やっぱり、とはいえその90年代ヒップホップ的なものがベースになっているから。で、やっぱり僕は日本人の感性にいちばん自然にね――まあ、もちろんどのヒップホップの形でも日本の中に面白いものはあるけど――いちばん自然にフィットするのは90年代ヒップホップだと思うから。そうすろと、やっぱりたぶんいいアーティストが出やすいと思うんですよね。だから、そういう意味でもすごい可能性を感じるかなと思いました。といったあたりで、メールを?
(宇内梨沙)はい。ここでメールを読ませていただきます。「Lo-fi Hip Hopですが、YouTubeの生放送でひたすら音声を流すチャンネルをよく聞いているんですけども、こちらもめちゃくちゃチャンネルが多いです。僕の中ではネット上のクラブだと思っております。ループさせる映像もVJ的に流すイメージだと思います。その中でもこのループ映像が自分の琴線に触れる――たとえばジブリや80年代アニメなど――そこのクラブに行って、そこに居合わせた人たちチャットをする。『今日はこのクラブに行くか』みたいな感覚で仕事中に聞きに行くような、そんな感覚だと思います」という。
(宇多丸)ああー、そうか。クラブに……「チャットする」っていうとあれだけど、みんなクラブに集まって、いろんな人と話をしたりするっていう、そういうイメージって考えると、現場というのがクラブからインターネットに移ったんだって考えると、なるほどなって感じがしますね。あと、それぞれ全く別の要素であったものがなんとなく、シーン全体でひとつのジャンルをなすっていうのはそもそもヒップホップも最初はそんなもんだったじゃんっていうのもあって。そういところもワクワクさせるものがあるかなって思ったりしました。ということで、さっきのです。飛びすぎなんだよな。タイムスリップが起こっちゃった。
(beipana)フフフ(笑)。
(宇多丸)Lo-fi Hip Hop、今後まだまだ広がっていく可能性はあるんでしょうか?