宇多丸さんがTBSラジオ『タマフル』秋の推薦図書特集で映画ポスターアートの巨人の作品集『The Art of Drew Struzan : ドリュー・ストルーザン ポスターアート集』を紹介していました。
(宇多丸)ええと、私の推薦本、いかさせていただきたい。まあ、私だいだい映画本なんですけど。あのですね、最近、『スターウォーズ』なんかも公開されて。スターウォーズのポスタービジュアル、あるじゃないですか。エピソード7の。あれも描いている人なんですけど。ドリュー・ストルーザンっていう方、みなさん、名前聞いたことありますかね?ドリュー・ストルーザン。映画のポスターを描いている人なんですよ。たとえば、いちばん有名なのは『レイダース』『インディー・ジョーンズ』シリーズとかですかね。あと、『スターウォーズ』も全作描いています。
(伊藤総)なんかいま、『遊星からの物体X』も。
(宇多丸)『遊星からの物体X』も描いていたりますね。
(伊藤総)あれ、そうなんですね。へー。
(宇多丸)で、ですね、ドリュー・ストルーザンさん。たぶんこれ、『スターウォーズ』タイミングってことなんでしょうね。最近、作品。ポスターアート集みたいなのがですね、にわかに日本でも出版されておりまして。2冊。『コンプリート ワークス オブ ドゥルー・ストゥルーザン』。これはマール社というところかな?ここから出ている。これは音楽ジャケとかもやっていて、完全に網羅する系はこっちもいいんですけど。
(しまおまほ)へー。
(宇多丸)僕ね、おすすめしたいのはこっちのね、『ドリュー・ストルーザン ポスターアート集』。ボーンデジタルさんっていう、前におすすめしたやつですね。『マスターショット』かな?なんだっけ?忘れちゃった。タイトル。前におすすめした本の出版社の本なんですけど。この本、面白いのはね、要はドリュー・ストルーザンが巨匠としてですね、いまや完全にコンピューターで画を描くようになっちゃって引退されちゃって。半分引退。
(しまおまほ)ふーん。
ボツになった案も多数掲載
(宇多丸)で、たぶん今回、『スターウォーズ』で呼び戻された感じなんですけど。要はカンプっつって案ですね。『こういう図柄で描こうと思います』っていう、ボツになった案も何種類も。で、下書きの段階とか、そういうのも載っているのがこっちの『The Art of Drew Struzan : ドリュー・ストルーザン ポスターアート集』の特徴で。たとえばこれ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。みなさん、いちばん有名なのはあれですね。デロリアンで。
(しまおまほ)ああー。
(宇多丸)マイケル・J・フォックスが時計を見て、驚いている画じゃないですか。もう、これじゃないですか。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』って。でも、ここに至るまでにこんだけの試行錯誤があるんですよ。
(伊藤総)へー!
(宇多丸)こう、いろんな構図、いろんな・・・
(伊藤総)ぜんぜんイメージ違いますね。
(宇多丸)ぜんぜんイメージ、違うじゃないですか。しかもね、この人のポスターを作る時ってだいたい工程上、そんなに余裕がないので。要するに、俳優さんを毎回呼んでくるわけには行かなかったりするので。男は自分の写真。女は奥さんの体。子供は自分の子供みたいな。
(しまおまほ)ふーん!
(宇多丸)だから、だいたいのポスターはこのマイケル・J・フォックスの体はドリュー・ストルーザンさんの体なんだってさ。
(伊藤総)へー!
(宇多丸)で、こうやっていろんな試行錯誤の過程が。このね、僕はやっぱりね、できあがったすごいものを見せられるのもいいんですけど。そこに至るまで、どんな取捨選択があったのか?みたいなのを見るのがすごい好きで。
(伊藤総)はいはい。ああー。
(宇多丸)あの、それによって使われなかったアイデアと使われたアイデアの差みたいな。たとえばですね、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の例で言うと、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は1作目、これで行くじゃないですか。もう、バッチリですよね。これね。超いいじゃないですか。他のもいいけどね。ちょっとノスタルジックなテイストのやつとかもあったりするんですけど。
(しまおまほ)うん。
(宇多丸)で、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の2と3。同時進行で作られていた。もう当然、いまね、我々が見ている『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』は、未来の格好に2人ともなっていて、今度はドクが後ろになっていて。2。2人いるから2だと。
(しまおまほ)うん。
(宇多丸)で、3はもう1人、後ろにいるから3人。これで3だと。これ以外、考えられない感じするじゃないですか。
(伊藤総)はい。
(宇多丸)ところが、やっぱりその手前の段階でこんだけいろんな2用の案があって。で、いろいろゴチャゴチャゴチャゴチャやった挙句、『待て待て。1作目のアイデアがいいんだから、あれにもう1人足すのがいいんじゃねえか?』『そりゃそうだ』みたいなことで2を描くと。で、当然もう1人後ろに足すのがいいだろうと思って進めるんだけど。ドリュー・ストルーザンは。まあ、映画会社がいろんなことをああでもないこうでもないって言ってきて。で、やった挙句、最後に『あの3人のやつがいい』『そりゃそうだろう』ってこの形にするとかですね。
(しまおまほ)ふーん。
(宇多丸)あの、試行錯誤の過程が見えて。我々がいま、特にドリュー・ストルーザンさんが手がけているのはいまとなっては古典になっているような感じの作品。ポスターが多いので。『インディー・ジョーンズ』とか。要は、これが名作の当たり前の、最初からこうだったみたいに我々、思っちゃうんだけど。その過程にはいろいろと・・・
(伊藤総)違う可能性もあったと。
(宇多丸)名作になる手前にはいろいろあるんだ、名作感の前には。例えば、『インディー・ジョーンズ』のこの有名なポスター。ありますよね。1作目のね。インディーがこう立っていて、割とコラージュ的な感じですけど。
(伊藤総)はい。
(宇多丸)最初はこのポスターにドーン!ってナチのマークがのっかっている。で、映画会社が『ナチのマーク、ドーン!はやめてくれ』みたいなことでこれを取る。これ、だいぶ印象違いますよね。ナチがドーン!ってあると。あとはですね、ドリュー・ストルーザンさん。今回、『スターウォーズ』で帰ってきましたけど。キャリアの結構ね、後期めの方でたとえば『スターウォーズ エピソード3』。
(伊藤総)はいはいはい。
(宇多丸)これ、我々がいま見ているのはこれ。真ん中にアナキンがいて・・・みたいなやつなんですけど。
(しまおまほ)うんうん。
(宇多丸)要は、ダースベイダーがバカでかいじゃないですか。これ、ドリュー・ストルーザンさんはやっぱり嫌だったんだけど、会社が『とにかくダースベイダーはデカくしろ』っつって。全体の構図とかを無視して、切り貼りして。要するに、最初はこのぐらいのバランスだった。もうちょっと小さめだった。なんだけど、バランスを無視してこうやって切り貼りされたりとかしててですね。こんだけの天才アーティストなんだけど、いろんな口出しとかをされながら、やられる時代になった。
(伊藤総)へー。
(宇多丸)で、ついには彼がもう引退を決意する作品っていうのがあって。それは、なんとこれなんですね。ギレルモ・デル・トロ『ヘルボーイ ゴールデンアーミー』。要は、ギレルモ・デル・トロはむちゃむちゃ尊敬していて。彼と話しあって素晴らしいポスターアートができたのに、会社はなんだかんだと理屈をつけて、『コンピューター合成したポスターの方を使います』と言い張って。
(しまおまほ)ああー。
(宇多丸)それでもうとにかく、『もう、俺の時代は終わりました。こんな目に遭うなら、やめます』っつって、ドリュー・ストルーザンは引退状態だった。だけど、今回、エピソード7でやっぱり呼んできたわけですよ。
(伊藤総)うんうんうん。
(宇多丸)だから今回、エピソード7は脚本もローレンス・カスダン呼んできたりとか。いろいろ要するに、もともとのスターウォーズサーガの良かったところみたいなのを呼び戻しているというか。ファンがどこを喜んだか?みたいなことをわかった上でやっているんですけど。あの、まあその過程というかですね、ポスターもそうなんだということが非常にわかるあれじゃないでしょうか。
(しまおまほ)うん。
(宇多丸)ということで、駆け足でございましたが『ドリュー・ストルーザン ポスターアート集』。ボーンデジタルさんから出ています。2700円(税込)ということでございます。あ、私がね、ボーンデジタルの本、前に紹介したのは『Filmmaker’s Eye -映画のシーンに学ぶ構図と撮影術』。構図でどう照明を当てているか?みたいな本。あれ、ブックフェアでめちゃめちゃ売れたっていうね。
(伊藤総)ああー。
(宇多丸)これもやっぱりね、手に取るとぜったいに欲しくなる本ですよ。これ。
(伊藤総)いや、わかります。すごい面白い。
(宇多丸)むちゃむちゃ面白いです。はい。ちょっと口で説明するには限界がある本なんで。ぜひですね、手に取って見ていただきたいと思います。
<書き起こしおわり>