吉田豪 萩原健一を語る

吉田豪 萩原健一を語る TBSラジオ

吉田豪さんが2008年3月にTBSラジオ『ストリーム』コラムの花道で萩原健一さんについて話していました。

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(吉田豪)今日はショーケンこと萩原健一さんの特集ということで。

(小西克哉)前にやったことなかったっけ?

(吉田豪)やっていますね。ただ、新刊が出ました。今月、講談社から自伝『ショーケン』が出たんですね。

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(小西克哉)今月出たんだ。『ショーケン』。

(吉田豪)装丁がすごいわかりづらいんですけど、これショーケンさんが書いた絵ですね。

(小西克哉)ああ、そうなんだ。ちょっとかっこいいじゃないですか。黒枠で。

(吉田豪)文芸っぽい。厚いし、ハードカバーだしで。なんですけど……たしかに、すごいいい本なんですよ。「衝撃の自伝」って書いてあるだけあって。あまりにも面白いんで、僕は面白いところは折っていくんですけど、折るところが多すぎてキリがなくなって途中で諦めちゃったぐらいです。

(松本ともこ)へー。すごい!

(小西克哉)付箋をつけているなんて、珍しいじゃなですか。

(吉田豪)そうなんですよ。付箋をつける派じゃないですからね。で、どういうことか?っていうと、もう本文の2ページ目からオープンで。「朝からマリファナ、ビール。マリファナを吸っちゃあ、ビールを飲む。昼になったら酒、コカイン。酒をあおっちゃコカを吸う。スーッと鼻から、たまらねえ」っていう(笑)。正直なね(笑)。

(小西克哉)フハハハハハハッ!

(吉田豪)まあ、タレント本にはまずない表現。「たまらねえ」が効いてますね(笑)。反省が全然見えない感じっていうのがこの人の本当にいいところで(笑)。

(松本ともこ)2ページ目から(笑)。

(小西克哉)それ、今月出た本ですよね? なんか80年代とかじゃなくて。

(吉田豪)昭和の本だったらわかりますけどね。すごい密度で。で、僕の大好きな梶原一騎先生がドラッグの常用を疑われて別件逮捕されるきっかけとなった映画『もどり川』っていうのがありまして。

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(小西克哉)ほう。

(吉田豪)それは製作・総指揮が梶原先生で主演がショーケンさんだったんですけども。その時も「こういう役には麻薬がいると考えて、撮影している間はずっと大麻とコカインを吸っていました」っていう(笑)。

(小西克哉)その本の中で告白してんの?

(吉田豪)告白していますよ。そのせいで、梶原先生もやっていると思われて。

(小西克哉)ああ、そう?

(吉田豪)で、梶原先生はその頃、膵臓が悪くて、トイレで痛み止めを飲んでいたんですね。だからいつもイライラしている梶原先生がトイレに入るとスッキリした顔で戻ってくるから「あいつは絶対にやっている!」っていう話になったんですけど、ただ膵臓が悪かっただけだったっていう(笑)。

(小西克哉)フハハハハハハッ! いろいろ疑われるんだなー。

(吉田豪)よりによって一緒に映画を作っちゃったせいでという。で、そんな感じですごい面白い本なんですけど、正直読んでみると僕にはすごい既視感、デジャヴな感じがあって。「どこかで読んだ話だな?」みたいなのが大量に出ていまして。というのは、前も紹介したショーケンさんのものすごい素晴らしい名作『俺の人生どっかおかしい』っていう、これは1984年。大麻で捕まった直後ですね。ワニブックスから出た作品です。

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(小西克哉)1984年。24年前か。

(吉田豪)その時に出した本とほぼ、エピソードは重なっているんですよね。面白いとされる話は実はすでにここに出ていますっていう話なんですよ。まあ、中学時代にオナニーをしていてバレたというエピソードがまず出てくるんですけど、それも思い切り出ています。全く同じです。たとえば『ショーケン』の方だと「末っ子の僕は母の隣で寝ていて、朝の早いお袋が寝入った頃を見計らい、いそいそと自分の股間に手を伸ばした。そんなある日、『敬ちゃん、もういい加減にしたら!』。突然、お袋の怒声が飛んできた。びっくりした。ものすごいショックだった」って書いているんですけど、結構サラッとしている気がするんですよ。

(小西克哉)フフフ(笑)。これでもサラッとしている?

(吉田豪)これでもサラッとしているんですよ。『俺の人生どっかおかしい』だと「中学の頃、私は人並みにマスターベーションを覚えた。当時、お袋の隣で布団を敷いて寝ていたが、マスターベーションをする場所といったらそこしかない。お袋は寝床につくのも早い。てっきり寝入っているものと思いガサゴソとやっていたら、いきなり一喝を食らった。『敬ちゃん、もういい加減にしたら!』。これはショックだった。マスターベーションを見つかった少年としては最もショッキングな叱られ方だった」。このマスターベーションを連呼とか……(笑)。すごい効いているんですよ。

(小西克哉)フハハハハハハッ! これはやっぱり80年代の方がインパクトあるな!

(吉田豪)同じエピソードでも描写の濃さが……本としては薄いんですけども、要はそういう幼少期のエグめな話だとか、ドラッグ絡みの話とかをものすごい密度で書いているのがこっちで。

(小西克哉)だってその状況がもう画になって見えてくるよね。80年代の方がね。

(吉田豪)で、『ショーケン』っていうこっちの新しい方はすごい広くいろいろと押さえていていい本なんですけども、多少駆け足になっちゃっているんですね。で、童貞喪失の話とかも重なっているんですけど。いちばん違いが出ているのが「パー券」っていう描写がありまして。いわゆるパーティー券ですね。ヤンチャな人たちがパー券を売り払うみたいなの、あるじゃないですか。

(小西克哉)はいはい。

ショーケンとパー券

(吉田豪)で、この頃の不良はパー券をいろいろと後輩たちに「お前、売れ!」って押し付けて……みたいな話で。で、「面倒なパー券を抱え込むといろんな友達や後輩が僕のところに相談に来て。『俺が話をつけてくる』って。『あいつら、俺の友達だからさ。これで勘弁してくれよ』『じゃあお前がさばいてこい!』『いや、そういうことはできないから』。結局はだいたい勘弁してもらった」とかすごいサラッと書いているんですけども、そんな話じゃないんですよ。この話、実は。

(小西克哉)80年代の方は。

(吉田豪)もともと、「銀座のロコという清川虹子さんや越路吹雪さんのやっていた喫茶店があって……」とか、そのへんから話が始まって。「リキパレスのパー券をさばけと言われた」とか、まずディテールがいいんですね。

(小西克哉)ディテールが。

(吉田豪)で、「パー券がさばけなくて。お袋の金を盗んで……」とか。いろいろとあって。で、さらに結局お金が足りず、話に行くわけですよ。それで「『パー券のお金ですけど……』って。35000円集めろと言われたが、2000円しかない。『お前、ふざけるな! なんだ、このガキ! なめるな!」っていきなり蹴りが飛んできた。私の腹に命中した。『うっ!』と体を2つに折った瞬間、隠していた刺身包丁が床に音を立てて転がった。『しまった』と思って私は慌ててそれを拾った。『マズいものを見せた。隠さなきゃ』と思ったが、相手は余計に慌てた。一斉に店の外に逃げ出した」という。

(小西克哉)ああ、びっくりするね。

(吉田豪)で、ショーケンはショーケンでパー券の決着をつけないといけないから、包丁を再び懐に隠した格好で彼らを追いかけた。そして警察に店のウェイトレスが通報をし、それでもショーケンはずっと呑気に追いかけて大騒ぎになってしまい警察沙汰に。さらには「お前、包丁を持って高校生を追い回したそうだな」ってことで捕まる。ところが、これがひとつの転機になって。「あいつは中3なのに包丁を持って高校生を追い回した」ということで、妙なところで株が上がり。そして、その追い回した仲間の大ボスの先輩やCさんという番長が「お前はすごい」と褒めてくれて。その大ボスの先輩が「ダイケン」と呼ばれていて。Cさんっていうのが「チューケン」。それでいちばん小さいから「ショーケン」っていうあだ名になったという。

(小西克哉)なるほど!

(吉田豪)で、「落っこちた包丁を慌てて拾って胸に隠したはずの男がいつの間にかヒーローになってしまったのだから、不良少年の世界は面白い。いつもいじめられていたショーケンがこれで株が上がった」という。そして今度はパー券を売る側に回るみたいな。ディテールがすごい濃いんですよ。で、さらにそのパー券を売る側に回ったら、すごい強引な売り方をしたせいで、ヤクザに売っちゃったらしいんですよね。で、ダイケン、チューケンとのバトルになって。ショーケンは逃げたんですけど。それでもヤクザは本気で怒り狂っているから、「その最中にアイスピックで刺されたやつが出てきて。それが最終の都電にハネられた。そのためにこの事件は翌日の新聞の三面を飾ることになる」っていう。すごい大問題になっているんですよ(笑)。

(小西克哉)都電にハネられちゃうの?

(吉田豪)ええ。で、これはヤバいっていうことでショーケンは逃げようとしたんだけど。このまま捕まったら最後、リンチされて下手したら殺されるかもしれないということで、仲間の1人がどこからかムスタングを直結して盗んで持ってきて。それで逃げて。でも、指紋が付いているので見つかるということで、それを川に乗り捨てて。

(小西克哉)ええーっ?

(吉田豪)さらにもう1台盗んで……とかを繰り返すみたいな。すっごい大変な騒ぎを、新しい方ではものの10行ぐらいで終わらしてしまっているんですよ。

(小西克哉)新しい方で?

(吉田豪)さっきのパー券の話から、「ダイケン、チューケンというのがいて、私はショーケンになった」っていう風になっていて。

(松本ともこ)すごい省略(笑)。

(吉田豪)重要なのはそこ、そこ!っていう(笑)。

(小西克哉)すごいいちばん大事なところじゃない。名前の由来が出てくるところだもんね。

(吉田豪)そうなんですよ。というような感じで「あれっ?」っていうのがいくつかある惜しい本で。たとえば、あれですね。まあ大麻で捕まった後、仏門に入るんですよね。

(小西克哉)ああ、ありましたね。いつ頃でしたっけね?

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