町山智浩 映画『運び屋』を語る

町山智浩 映画『運び屋』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でクリント・イーストウッドの監督・主演・製作作品『運び屋』について話していました。

(町山智浩)それで今回紹介する映画は先週ご紹介できなかったやつで、クリント・イーストウッド監督の『運び屋』という映画です。あ、いまカントリーミュージックがかかっていますけども。

(町山智浩)『On the Road Again』っていうすごい有名な、「また俺は旅に出るぜ」っていう歌なんですね。で、これは実際にあった90歳の運び屋の話です。いま、空港に行くと「運び屋は絶対にやっちゃダメ!」とか書いてありますけども。ポスターが。

(赤江珠緒)そりゃそうです(笑)。

(町山智浩)「麻薬の運び屋、やっちゃダメ!」って書いてありますけども、これはやっちゃった人ですね。10年ぐらい前、2011年かな? ある運び屋が逮捕されたんですけど、それが白人の87歳の老人だったんですよ。で、その人がものすごい量のコカインをメキシコとアメリカの国境のアリゾナから北の方のデトロイトまで何回も何回も運んでいたということで問題になって。1回ごとにですね、1000万円ぐらいの報酬と引き替えに、だいたい1回ごとに2億円ぐらいの量のコカインを運んでいたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからトラックいっぱいなんですけども(笑)。ただ、90歳近い老人で、しかもノロノロと走っているから警官は誰もこの人が運び屋だなんて思わないから、全く捕まえることができないままかなり長い間運んでいて。ただ、ものすごい大量のコカインがデトロイト周辺に入ってくるもんだから、警官は「いったいどうして? どうやって?」ってまあ、困っていたんですね。麻薬捜査官とかは。全くルートがわからないっていうことで。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)「片っ端からメキシコ系のやつを捕まえろ!」みたいな話になっても、全然わからないですよ。誰も持っていないし。で、それを白人のおじいちゃんが運んでいたっていう実際にあった事件なんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、その運び屋を演じるのがクリント・イーストウッドで。クリント・イーストウッドという人はたぶん、赤江さんたちの世代だと映画監督としての巨匠中の巨匠ですよね。

(赤江珠緒)『ダーティ・ハリー』が……。

(町山智浩)そう。『ダーティ・ハリー』とか『夕陽のガンマン』とかの西部劇のガンマンのイメージですよね。でも今回はそういう感じじゃないんですよ。この彼が演じる運び屋さんは。「運び屋」っていうとすごい怖いギャングみたいなイメージがあると思うんですけど、今回このイーストウッドが演じるその運び屋は実際の運び屋と同じく、園芸家でお花を育てるおじいさんなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)これね、デイリリーという非常に特殊な百合があって。1日で咲いてすぐに枯れちゃうらしいんですけど。その百合を次々と新種を作り出す園芸家だったんですね。この運び屋のおじいちゃんは。(元ネタとなった人は)レオ・シャープっていう人なんですけども。

(赤江珠緒)すごい人じゃないですか。

(町山智浩)それでこの人、どのぐらい園芸界ですごいかっていうとホワイトハウスに呼ばれているぐらいなんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)そのぐらい巨匠で、百合の園芸家としてはアメリカでいちばん有名な巨匠中の巨匠だった人なんですよ。で、その役をクリント・イーストウッドが演じるんですけども。ただ、その園芸場の経営があまり上手くいかなくなって。で、メキシコ系の友達に誘われてこの運び屋をやるようになるんですよ。でね、このイーストウッドが運び屋をやっている時の姿がもう全然ハードじゃなくて。いま聞いたようなのんびりしたカントリーをずっと歌いながら。イエーイ! みたいな感じでおじいちゃんがゴキゲンで旅をするっていう話になっているんですよ。

(赤江珠緒)ああー、たしかにそうですね。なかなか疑われないですね。

(町山智浩)疑われないですよ。もう楽しそうだしね。で、しかも疑われないし、お金がたくさんもらえるから。それで車を高級車に買い替えていくんですよ。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)だから最後の方とかはリンカーンとかに乗っているんですよ。リンカーンのトラックってあるんですね。だから、そんな高級トラックでやっているもんだから、まさか運び屋をやっているとは思わないんですよね。おじいちゃんが乗っているから。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、どんどんどんどん運ぶ量も増えていくんですけど。で、すごく面白いのはこの運び屋の私生活がほとんどわからなかったんですよ。イーストウッドが映画化する時、脚本家と一緒に調べても。だから、この人の私生活を描きたいと思った時、イーストウッドはそこに自分の私生活を重ねたんですよ。事実関係はわからなかったので。で、どういう人として描いたか?っていうと、イーストウッドは「非常に自分を出した」っていう風に言っていて。

(赤江珠緒)はい。

イーストウッド自身を投影

(町山智浩)まず、賞をいっぱい取っていて、それこそその道では巨匠として称えられているという点では、イーストウッドと同じなんですね。だから、アカデミー賞みたいなところに行くんですよ。百合のアカデミー賞に。そうするともうみんな「巨匠! 巨匠!」みたいな感じで絶賛するんですよ。で、ニコニコしながら賞を受け取ったりしているんですけども、家に帰ると「人間のクズ」っていう風に言われているんですよ。どうしてか?っていうと、もう百合を作るのに夢中で家をほったらかしにして。奥さんとかもほったらかしにして、子供もほったらかしにして、娘の結婚式にも卒業式にも行かなかったんですね。

(赤江珠緒)あらららら……。

(町山智浩)家を完全にほったらかし。それでそこらじゅうに女を作って遊んでいて。だからもう、家の中では「クズ中のクズ」って言われているんですよ。

(赤江珠緒)えっ、イーストウッドもそんな感じだったんですか?

(町山智浩)そういう人なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?(笑)。

(町山智浩)イーストウッドという人は、この人自身が認めている伝記作家がいるんですけど、その人の伝記を読むとものすごく細かくこのイーストウッドの女性遍歴が書いてあるんですね。で、とにかくもうやりまくり。

(赤江珠緒)ほー!

(町山智浩)もう14歳の頃から次々と、いろんな女性とセックスしてきている人なんですよ。このイーストウッドっていう人は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、正式な結婚は2回しかしていないんですけども。それ以外に数々の女性とお付き合いをなさってですね……フフフ、なにを俺は敬語を使っているんだ?(笑)。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(町山智浩)まあ、僕尊敬してますからね(笑)。で、子供が8人いるんですけど。

(赤江珠緒)8人!?

(町山智浩)8人いて、それぞれに違う5人の女性との間に8人のお子さんをもうけていて、でも結婚は2回しかしていないっていう数字が全然合わないんですけども(笑)。すごい人なんですけど。どうしてそういう計算になるのか?っていう謎の人なんですけど。で、この映画ですごいのはその娘として出てくる女優さんがこのイーストウッドに向かって「お父さんなんか父として思ったことはない。家をほったらかしだし、お母さんを泣かすし。私の大事な時に1回も来てくれなかった。育ててもらったこともないわ!」って怒鳴り散らすところがあるんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)映画の中でね。それを演じているのは、イーストウッドの長女です。

(赤江珠緒)フフフ、ああ、実の娘?

(山里亮太)気持ちが入ったんだろうね。

(町山智浩)気持ち、入っているんですよ。思いっきり。アリソン・イーストウッドさんっていう人がそれを言うんですけど、実際にこのアリソンさんっていう人は1972年に生まれているんですけど、彼女が幼い頃にはイーストウッドはもう家を出ちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)家を出ちゃっているっていうか、まあ別居をして。自分はソンドラ・ロックという自分の映画のメイン女優さんと同棲を14年間するんですよ。だからこのアリソンさんは長女なのにほとんどイーストウッドに実際には育てられたことがないんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だからそれがね、全くその通りのセリフを言うから「これは全然芝居じゃないだろ?」っていうね(笑)。「普通にあったことを言ってるな、お前?」みたいなしーんなんですよ。

(赤江珠緒)へー! でも、時を経ていま、共演という形で一応ね、出ているわけですもんね。

(町山智浩)でも彼女はね、家にお父さんがいない頃、11歳の頃にお父さんの映画に出ているんですよ。それで、11歳の時、1984年にイーストウッドが製作・主演した『タイトロープ』っていう映画に出ているんですね。娘役で。でね、またその映画もすごくて。イーストウッドがその『タイトロープ』で演じるのは刑事なんですけど、風俗嬢が次々と殺されていくっていう連続殺人事件を調査するため、その風俗のお店に聞き込みに行くんですけど。聞き込みに行った先々でその風俗のお姉さんたちとエッチしちゃうんですよ。イーストウッドさんが。

(赤江珠緒)ほう(笑)。

(町山智浩)で、毎回毎回エッチしてるんですけど、その間、その11歳の娘はもっと幼い年下の妹の面倒を見させられているんですよ。これ、やもめの役なんですよ。奥さんがいない役で。で、11歳の娘にもっと幼い娘の面倒を見させながら、自分は風俗通いするっていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)その役を実の娘に?

(町山智浩)実の娘とそれを親子でやっているんですよ。それをイーストウッド自身が制作もしているというね。なんか、露悪趣味のような変な人なんですけども。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

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