町山智浩『ブラック・クランズマン』を語る

町山智浩『ブラック・クランズマン』を語る たまむすび

(町山智浩)で、スパイク・リー監督はこの当時のKKKとかが暴れて黒人をリンチしたりしている状況と現在がどう違うのか?っていうことを言いたいんですよね。で、この映画はいちばん最初は『風と共に去りぬ』から始まるんですよ。

(赤江珠緒)南北戦争の。はい。

(町山智浩)南北戦争の『風と共に去りぬ』のシーンから始まるんですよ。で、『風と共に去りぬ』って南部の旗だった南部連合旗がやたらと出てくる映画なんですね。南部の話だから。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)いま、あの旗って公共の場では掲げちゃいけないんですよ。

(赤江珠緒)はー! うん。

(町山智浩)で、『風と共に去りぬ』って日本では名作、名作って言われてますけども、アメリカの黒人たちにとっては憎むべき映画なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか? いまだに「スカーレット・オハラ、風と共に去りぬ」みたいに言われてますけども。

(町山智浩)はい。日本ではもう無邪気にみんな「いい映画だ!」みたいに言っていますけど、黒人の人たちはいまでも憎んでいますね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)なぜならば、あの映画でいちばん許せないところと言われているところは、奴隷制度の上に成り立っている南部の貴族的社会を素晴らしいものとして描いているところですね。で、「あの頃はよかったわ」っていう話になっているんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか!

(町山智浩)そう。「戦争に負けなきゃ私たち、よかったのに。黒人の上にふんぞり返っていれたのに……」っていうのを無邪気に描いているっていう。

(赤江珠緒)ああ、たしかにね。

(町山智浩)ということで、すごく嫌われている映画なんですけども。だからもう徹底的な批評、批評なんですね。その後には『國民の創生』という映画もこの中では出てきて。それは1915年の映画なんですけども、アメリカ映画というか全世界の映画の基本的な文法を作った、映画史上でも最高の映画と言われている映画なんですが。内容は南北戦争の後で、KKKが結成されて選挙に投票に行く黒人たちをリンチするっていう話なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、「KKK最高! 正義の味方! 黒人なんてリンチしろ!」っていう話なんですよ。「國民の創生』は。それが世界最高の映画って言われてきているんです。だからそれもこの映画の中では引用をされてきて、KKKがその『國民の創生』っていう映画を見ながら「イエーイ!」ってやっているというシーンが出てくるわけですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから徹底的にアメリカの映画史に対して「お前の映画史は間違っているよ!」っていう映画になっているんですよ。ものすごい反逆的な映画なんですね。で、しかもトランプ大統領も出てきます。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)だから縦横無尽なんですよ。そこもすごいんですけども。これ、KKKのさっき言った、この映画に出てくる実在のKKK団長というか会長というか最高指導者のデビッド・デュークっていう人はトランプ大統領が出てきて「メキシコ人たちは強姦魔だ!」って言ったり「国境に壁を築け!」って言ったり「イスラム教徒たちを叩き出せ!」って言った時に最初の方で全面支持を表明したんです。それがKKKだったんですよ。

(赤江珠緒)ああ、うん。

トランプ大統領を支持するKKK

(町山智浩)「このトランプ大統領は我々が求めていたものだ!」って。で、この1970年代にはまさかKKKに支持される人が大統領になるなんて想像もつかないことだったんですよ。だからいま、この映画を作ったんですね。

(赤江珠緒)だってあそこに支持されているっていう時点で恥ずかしいっていう感じでしたもんね。

(町山智浩)とんでもないことですよ。トランプ、いま支持率が50%ぐらいになっていますよ。だからスパイク・リーはこの映画を作らなきゃいけなかったんですね。だからものすごい戦闘的な映画ですよ。「このアメリカの状況は許せねえぞ!」っていう映画になっています。

(赤江珠緒)そうなのかー!

(町山智浩)でもね、じゃああの70年代、60年代の人権を勝ち取るための戦いっていうのはいったいなんだったんだ?っていうことでもありますよね。「なんだよ、結局戻っちゃってるじゃん」みたいな。

(山里亮太)「なにも変わってないじゃないか」っていうのをみんなにもう1回、気づかせるために。

(町山智浩)そうなんです。その通りなんですよ。

(赤江珠緒)根本的なところは変わっていないっていうことですか。残念な話ですけども。

(町山智浩)そうなんです。残念な話ですけども。あの、途中でね、アレック・ボールドウィンっていう俳優さんが出てくるんですね。この人が、これも日本の人は見ていて「なんでこの人が出てくるのか?」って全然わからないと思うんですけども。ものすごい差別的な白人の役で出てきて、もうすごい黒人差別をこの映画の中で言いまくるんですけども。なんでこの人が出てくるのか、わからないんですよ。実はこの人、『サタデー・ナイト・ライブ』っていう前にも話したお笑い番組で毎週ドナルド・トランプの真似をしている俳優さんなんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! なるほど!

(町山智浩)この人、昔はハンサムな二枚目だったんですけど、最近はドナルド・トランプの真似俳優になっちゃったんですけども。だからアメリカ人は彼が出てくると「あ、ドナルド・トランプだ」って思うんですよ。

(赤江珠緒)ああ、なるほど!

(町山智浩)それでものすごい差別的なことを言うとか。かなりトリッキーなことをいっぱいやっている映画なんで。僕、解説します(笑)。

(赤江珠緒)ああ、またね、町山さん解説が日本であるんですね。

(町山智浩)笑いどころがわからないと思いますんで。

(赤江珠緒)『ブラック・クランズマン』のジャパンプレミア試写会が公開を前に渋谷シネクイントで2月21日(木)に開催されます。この上映後に町山さんの映画解説付きということで。こちら、様々なWEBサイトで試写会プレゼントを行っております。「『ブラック・クランズマン』ジャパンプレミア試写会」で検索してみてくださいということですね。

(赤江珠緒)そうかー。そういう思いを全て込めて……。

(町山智浩)でもね、スパイク・リーがすごいのは、この映画は楽しい映画なんですよ。

(赤江珠緒)だってさっき、コメディーになっている部分も……っておっしゃってましたよね。

(町山智浩)コメディータッチなんですよ。サスペンスになるのかと思うと笑わせて、でも怖い話もあって。もう、だからすごい中でひどいリンチの話とかが出てくるんですね。そのちょっと前の頃、戦前なんですけどもレイプ疑惑のあった黒人の男の子を刑務所から引きずり出して、白人の群衆たちが広場でズタズタにして焼き殺して、しかもその死体をバラバラにしてお土産で持って帰ったっていう事件があったんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)そう。その話とかも出てきて、ものすごい強烈なんですけど、でもすぐにコメディーが入ってきたりして引っかき回される映画なんですよ。

(赤江珠緒)はー! すごいですね。エンターテイメントにそれを織り込むのがすごいな。

(町山智浩)すごいです。で、いまかかっている曲はプリンスのこれは『泣かないでメアリー(Mary Don’t You Weep)』っていう歌なんですけども。

(町山智浩)これは前に話したアレサ・フランクリンさんが歌ったゴスペルソングで。その頃、ひどい差別にあえいでいた黒人の人たちに対して教会で「でも泣かないで。いつか誰かが救ってくれるから」っていう歌なんですね。

町山智浩 アレサ・フランクリンの偉大さを語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で亡くなったアレサ・フランクリンさんについてトーク。その偉大さについて話していました。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)これをね、スパイク・リーが最後にかけているっていうのもすごく泣けるところでした。

(赤江珠緒)そうですか。

(町山智浩)ということでね、笑いながら泣いたり怒ったり、また笑ったり、ノリノリで「イエーッ!」って言ったりっていう素敵な映画が『ブラック・クランズマン』でした。

(赤江珠緒)そうですか。アカデミー賞でも6部門にノミネートということで。本当に評価されてほしい映画ですね。それを聞けば聞くほどね。

(町山智浩)はい。

(赤江珠緒)日本では3月22日公開でございます。で、2月21日に町山さんの映画解説付き。渋谷シネクイントでございます。町山さん、今日もありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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