町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でスパイク・リー監督の最新作『ブラック・クランズマン』を紹介していました。
【俺たちのKKK】
70年代、コロラド州で。
「クー・クラックス・クラン会員募集」という新聞広告に、軽い気持ちで応募した黒人刑事がいた。
こんな大冒険になるとは思いもせずに……当の本人が書いた驚愕の実話!
あのスパイク・リー映画『ブラック・クランズマン』原作。https://t.co/tfaxgPsNTQ pic.twitter.com/5dOBHZGtjR— 丸屋九兵衛 (@QB_MARUYA) 2019年2月4日
(町山智浩)今日はですね、カンヌ映画祭グランプリを受賞して今度のアカデミー賞でも作品賞、監督賞、その他6部門にノミネートされている映画『ブラック・クランズマン』という作品を紹介します。音楽をどうぞ!
(町山智浩)これは1968年にソウルのゴッドファーザーとかファンキー大統領とか言われているジェームス・ブラウンさんが出したレコードで『Say It Loud I’m Black And I’m Proud』っていう曲なんですよ。これがこの『ブラック・クランズマン』っていう映画の中でかかるんですけど。これはどういう意味か?っていうと、「大きな声で叫べ。私は黒人でそれを誇りに思っている」という。「大きな声でそう叫べ!」って言い続けているんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、なぜこの歌がこの映画でかかっていて重要かというと、黒人たちはアメリカではそれまではそうじゃなかったんですよ。ちっちゃくなって生きていたんですよ。でもこの時に……まあ、その前の1965年にキング牧師の戦いによってやっと南部の黒人にも白人と同等に人権と選挙権が認められたんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)だからそれを高らかに謳歌する形でこの歌を歌っているんですけども。この時、「ブラックパワー」っていう言葉が出てきたんですよ。「ブラックパワー」って聞いたこと、ありますか?
(赤江珠緒)ええっ? いや、ないですね。
(町山智浩)ああ、そうですか。僕が子供の頃、まさに物心がついた頃。小学校に入るぐらいの頃にブラックパワーという言葉がすごく、まあ日本にも伝わってきて。一言でいうと、世界中のいろんな人種の人たちがアフロヘアーにしたんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)子門真人さんであるとか。松鶴家千とせさんであるとか、林家ペーさんとか……って、どうして芸人ばっかりなんだ?(笑)。もっとミュージシャンがね……(笑)。黒人音楽が好きなミュージシャンたちがそういうアフロヘアーという大きな、チリチリの毛に白人の人もして。アジア人もして、ブラックパワーっていうアフリカ系の人たちへの経緯と憧れを示していた時代なんですよ。
(赤江珠緒)へー! 50年ぐらい前に。
(町山智浩)そうです。なんでその頃の人たちってみんなアフロヘアーにしているのかって、知らなかったでしょう?
(赤江珠緒)そうですね。アフロヘアーのブームの時、ありましたもんね。
(山里亮太)流行りっていうことなのかな?って思っていたんですけども。
(町山智浩)非常にそれは黒人文化と黒人の革命に対する賞賛から始まっているんですよ。それまではアフリカ系の人たちもアメリカの中では自分の人種を主張しなかったので、髪の毛を短く刈っていたんですよ。でもそうじゃなくて、俺たちはこれがいいんだ!って髪の毛を伸ばして。女の人なんかも大きいアフロヘアーにしていたんですよ。そういう時代があって、それは非常に政治的なものだったんですよ。で、それを背景にした映画が今回の『ブラック・クランズマン』っていう映画なんですが。「クランズマン」っていうのは「KKK」という白人至上グループ……これはご存知ですか?
(赤江珠緒)はい。クー・クラックス・クランですね。
(町山智浩)そうです。クー・クラックス・クランなんで「クラン」っていうのは「一味」っていう意味なんですけども。『ブラック・クランズマン』っていうのは「黒人のKKKメンバー」っていう意味なんですよ。
(赤江・山里)ええっ?
(山里亮太)それは、成り立つんですか?
(町山智浩)変でしょう? KKKというのは黒人が選挙に投票に行ったり、あとは「あの黒人が生意気だ!」って言って殺したりリンチしていたグループなんですけども。この映画は黒人の主人公が自分を偽ってKKKに入会しちゃうっていう話なんですよ。
(赤江珠緒)ええーっ? でも、入会できます? 白人至上主義者なのに……。
(町山智浩)これね、電話だけだったんですよ。電話をかけて、身分証明が必要じゃないのか?って思ったら、KKKのリーダーのデービッド・デュークっていう男が電話を取って、「私はしゃべり方で黒人か白人かはわかるから。電話を聞いてればわかるから。君は白人だと思うよ」っていうことで入団を許可しちゃったんですよ。
(赤江珠緒)ああー、はいはい。
(町山智浩)それでこれ、実話なんですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)1978年にコロラドの警察の職員だった黒人のロン・ストールワースという人がKKKの会長、団長であるそのデービッド・デュークに直接電話をして。白人だと思い込ませて入団をして潜入捜査をしたっていう実話をもとにしている映画なんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)でも、途中から「じゃあ顔出せよ」っていう話になってくるんですよ。
(赤江珠緒)そうでしょうね。
黒人警官がKKKに潜入捜査
(町山智浩)で、「しまった!」っていうことで今度は白人の同僚警官がこの主人公のロン・ストールワースのふりをしてKKK内部に入っていくんですけどね。という、潜入捜査物なんですね。ただ、そう聞くと刑事物みたいな話を想像するんですけど、全然そういう映画じゃないんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)いま言った部分っていうのは事実の部分で、そこ以外はもうめちゃくちゃです。
(赤江珠緒)めちゃくちゃ?
(町山智浩)もう全然事実とか時代考証とかは完全に無視。好き勝手で映画自体もさっきの話を聞くとアクションスリラーというか推理物みたいな、刑事物だと思うじゃないですか。ところが映画は時々コメディーになったりミュージカル風になったりドキュメンタリー風になったり。スタイルが安定しないんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)あっちこっちに行っちゃうんですよ。で、これはね、監督がスパイク・リーという監督で、この人は黒人の監督として非常にレイシズムとかと戦ってきている監督なんですけども。『ドゥ・ザ・ライト・シング』とか、あとは『マルコムX』というキング牧師と並ぶ黒人の人権運動家の人の伝記映画で有名な人なんですけども。この人の映画というのはスタイルが自由気ままで、場面ごとにタッチが全然違うんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(山里亮太)それは見ていて違和感で見づらいみたいなのはないんですか?
(町山智浩)ああ、違和感がちょっとある人もいると思いますよ。あのね、だからバラエティーでよくワイプが入るじゃないですか。話しているとその話題のものが画面に割り込みで入ってきたりするじゃないですか。それがあるんですよ。
(赤江珠緒)映画で?
(町山智浩)映画なんだけど、バラエティーみたいなんですよ。作りが。そこが面白くて監督賞とかにノミネートされているんですけども。前に紹介したブッシュ大統領の副大統領、ディック・チェイニーの『バイス』っていう映画も、あれも監督がバラエティー出身の人なんでバラエティーみたいで。ワイプもあるし。コメディータッチになったり、ドキュメンタリーになったり、ニュースみたいになったり、ミュージカルみたいになったりするんですね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)だからこの2つの映画っていうのは非常によく似ていて。ちょっと「なにこれ?」っていうところもある人も多いと思うんですけども。で、いちばんこの『ブラック・クランズマン』っていう映画がとんでもないのは、実際にあった事件が1978年の話なんですけど、時代設定を1972年にしちゃっているんですよ。で、どうしてか?っていうと、その時代がブラックパワーの時代だったからなんですよ。で、そのファッションとかもすごく、その当時のかっこいい黒人のファッションで。それでバカな白人をやっつけるっていう話になっていて。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)でね、ちょっと音楽を聞いてほしいんですけども。『黒いジャガー(Shaft)』のテーマです。
(町山智浩)これがその1971年、2年にすごく流行っていたブラックムービーの代表作『黒いジャガー』の主題曲なんですね。これね、僕はリアルタイムで体験をしているんですけども。映画もその黒人アクション映画ばっかりになっていた時代っていうのがあるんですよ。1972年ぐらいに。
(赤江珠緒)へー! ええ。
(町山智浩)で、かっこいいアフロヘアーの黒人のヒーローたちが悪い白人たちをめっちゃめちゃにやっつけて。で、あらゆる人種の女の子たちにモテモテっていうシリーズがどんどん作られていったんですよ。それで、もうファッションについても白人もアジア人たちも黒人のファッションを真似をしてるっていう時代だったんで。そういう映画のバカバカしいところも含めたスタイルっていうのを全部この『ブラック・クランズマン』では真似しているんですね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)だから、70年代のブラックムービーのスタイルを現代に真似するっていうパロディーみたいな映画になっています。すっごい複雑なことをやっていますよ、これ。
(赤江珠緒)すごいですね。その実話のKKKに潜入するところも入れながら。
(町山智浩)そう。入れながら。だから日本でやると、その当時の……なんだろうな? 『仁義なき戦い』とか『太陽にほえろ!』とかその頃の映画のスタイルをそのままやるみたいなことをやっていて。だから全然それを知らないと「いったいこれは何をしているの?」って思う人も多いと思うんですよ。
(赤江珠緒)そうかー。
(町山智浩)だからこれは難しいなって。僕なんかはもう完全に懐かしい世界なんですけども。ただ、ちょっとこの映画のすごく変なところというかすごい攻撃的なところというか問題を起こしたりしているところっていうのがありまして。これ、なんでいまこんな映画を作るのか?っていうことなんですね。問題は。
(赤江珠緒)うんうん。