町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で取材で訪れているフィラデルフィアについてトーク。フィラデルフィアとトランプ大統領の対立やプロレス団体CZW、映画『ロッキー』とスタローンの人間性などについて話していました。
(赤江珠緒)今日はフィラデルフィアということなんですが、やっぱり町山さん、いままだ行われて終わったばかりという米朝首脳会談について。アメリカではどうですか? どの程度ニュースになっています?
(町山智浩)ええと……いま、ホテルの部屋でテレビを見ているんですけども。こちら、夜中の2時なので。だから周りの様子はわからないんですよね。ただ、テレビではずーっと臨時ニュースが続いている状態ですね。このフィラデルフィアという街自体は街全体が反トランプですけどね(笑)。
(赤江珠緒)そうですか。
(町山智浩)フィラデルフィアはアメフトのNFLのイーグルスというチームがあるんですよ。いま、トランプ大統領はプロフットボール界全体と戦争状態なんですよ。国歌斉唱の時に選手たちが膝をついて起立しないという形で、警官たちによる黒人を殺す事件に抵抗するという運動をしているんですね。アメフトの選手たちが。そしたら、トランプ大統領が「そういう選手たちは全部処分しろ!」ということを言っていて。それで選手たちは「これは自分たちの政治的な意見を示すための権利だ!」っていうことでそれに反発をしているという状態で。で、フットボールや野球などの優勝チームというのは本来、ホワイトハウスに招かれて大統領から祝福されるんですよ。それがアメリカの決まりなんですよ。毎回毎回の。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)ところが、トランプはそれで自分に逆らう優勝チームのフィラデルフィア・イーグルスをホワイトハウスに呼ばないという形になって、イーグルス側も「俺たちも行かねえよ!」みたいな感じでものすごい対立している状態なんですよ。フィラデルフィアという街と。街はもちろんイーグルスの全面的な味方ですからね。
トランプとフィラデルフィア・イーグルスの対立
We seldom take sides in sports rivalries, but we back Super Bowl champions the Philadelphia Eagles against Donald Trump. We honor the courage of players who protest. In ancient Rome, gladiators were also forced to pledge allegiance to Caesar, but that didn't stop Spartacus. pic.twitter.com/eeIFypgf4c
— CrimethInc. (@crimethinc) 2018年6月5日
(町山智浩)で、さらに、フィラデルフィア市自体が「サンクチュアリ・シティー」を宣言しているんですね。サンクチュアリ・シティーというのは不法移民の子供たちに対して移民局が強制的な国外退去をしようとしても、それに対して抵抗をするということを宣言している街なんですよ。
(山里亮太)じゃあ、全く逆なんだ。
(町山智浩)そうなんですよ。いま、ドナルド・トランプ大統領は不法移民の子供たちを……その子供たちは自分たちがなにをやっているのかわからないぐらいの年齢の時に親に連れられてアメリカにやって来た人たちなんですけども。そういう人たちがいっぱいいるんですね。親の背中に背負われて赤ちゃんの時にアメリカに入ってきたような人たちがいるんですけど、ドナルド・トランプはそういう人たちをみんな叩き出せ!って言っているんですよ。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)それに対してフィラデルフィア市自体が戦っているんで。だから2つの意味で完全にそのフィラデルフィア市とドナルド・トランプは対立している状態なんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そうですか。そういう街にいま、いらっしゃる。
(町山智浩)で、フィラデルフィア市がそれをやるということはものすごい重要なんですよ。
(山里亮太)と、言うと?
(町山智浩)アメリカはフィラデルフィアから始まったからです。フィラデルフィアで独立宣言が書かれて、アメリカという国がそこから建国されたんです。
(赤江珠緒)そうか。だから独立記念館とかもフィラデルフィアの、あのあたりにある。
(町山智浩)そうなんですよ。独立宣言っていうのは非常に有名な「我々人間は全て平等に作られている」というところから始まりますからね。だから自由と平等と独立と友愛がこの街のモットーなんですよ。そして権力に対しては徹底的に戦うっていう気持ちがもともとあるところなんですよね。もともとだからアメリカっていうのはイギリスの独裁的な政治的圧力に対して抵抗して革命を起こして生まれた国なので。国のモットーは「国家に逆らうこと」なんですよ。
(赤江珠緒)そうか、そうか。
(町山智浩)「そうか」じゃなくて、「それ、矛盾してませんか?」って言った方がいいですよ。もともと革命を起こして人民が立ち上がった国なので、アメリカのモットーというのは「権力に逆らう」っていうことが「保守」なんですよ。
(赤江珠緒)うん、うん。
(町山智浩)っていうか、日本と逆でしょう?
(山里亮太)そうだ……。
「権力に逆らう」ことがアメリカの「保守」
(町山智浩)権力に逆らうことがもっとも伝統的な保守的なことなんです。アメリカっていうのは。
(山里亮太)日本は逆だもんね。
(町山智浩)そこがアメリカと日本のいちばん大きな違いなんですよ。権力に逆らうと、日本ではなんて言われますか?
(赤江珠緒)まあ、そうですね……。
(町山智浩)なんて言われますか? インディペンデント、独立が国是なので国民にとっていちばん大事なことなので。だから「トランプ大統領から祝福されますよ」って言われても、たとえばNBA、プロバスケットボールの優勝チームであるゴールデンステート・ウォリアーズは「トランプの祝福は受けない!」って拒否をするという形を取ったんですね。(町山さんの住むバークレーの隣町の)オークランドのチームですけども。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)そういうことをすると、日本ではなんて言われますか?
(山里亮太)ええと、非国民的な感じ?
(町山智浩)フフフ(笑)。そう言われるでしょう? ところが、アメリカではそれこそが正しいアメリカ人のあり方なんですよ。
(山里亮太)正しいことをしているぞと。
(町山智浩)そう。権力にはひざまずかない。それはアメリカという国の成り立ちと関係していて、それがこのフィラデルフィアから始まっているんですよ。そういうところがすごく大きく違うと思いますね。
(赤江珠緒)町山さんはそういう感じでフィラデルフィアの取材に行かれているんですか? トランプさんの……。
(町山智浩)ああ、違います。今回はこっちでCZWっていうプロレスのデスマッチの試合があったので取材に来ています。
(山里亮太)全然違いますね(笑)。
(赤江珠緒)全然違う。たまたま行かれたところが、ちょうど。
(町山智浩)全然違うんですね。
(山里亮太)デスマッチ?
(町山智浩)ここフィラデルフィアはデスマッチプロレスの中心なんですよ。CZWっていう団体があって。大仁田厚選手も去年ここで電流爆破デスマッチをやりましたね。
(山里亮太)去年?
(町山智浩)去年やっていますよ。フィラデルフィアとかニュージャージーとかこのあたりがCZWっていうインディペンデント団体の……やっぱりインディペンデントですね、はい(笑)。その団体の本拠地です。すごかったですよ、もう血みどろで。これはテレビで放送します。僕がやっている『アメリカの”いま”を知るTV』というので。
(山里亮太)結構向こうのデスマッチってすごいんじゃないですか?
(町山智浩)ものすごかったですよ。もうパックリ割れてグッチャグチャで。今回のデスマッチはお客さんが持ってきた武器を使うっていうデスマッチで。いろんな家庭用品とか芝刈り機とかいろんなものがあって。それをリングの上に全部並べて相手を傷つけ合うっていうデスマッチでした。
(山里亮太)絶対血まみれだ……。
(町山智浩)でも、いちばん痛そうで強烈だったのはXboxっていうゲーム機でしたね。ものすごく重いんで、あれで殴られると「ゴォ~~~~ン!」って音がしてすごく痛そうでしたけども。
(赤江珠緒)ゲーム機が!
(町山智浩)ゲーム機も凶器として使っていました。あと、取材したのはフィラデルフィアは『ロッキー』のロケ地なんで、ロッキーのそっくりさんがやるロッキーツアーっていうのでロッキーの名所を回ってきました。
(山里亮太)楽しんでますね、フィラデルフィアを(笑)。
(町山智浩)そうですね。その人、ロッキーのそっくりさんだったんだけど、シルベスター・スタローンに「お前、そっくりなら俺のそっくりさんやって金稼いでいいよ!」って言われてやっているんですよ。
(山里亮太)オフィシャルだ。公認。
(町山智浩)オフィシャルなんですよ。普通、そっくりさんがそういうことをやってお金を稼いでいると「そんなこと、勝手にするな!」っていう人も多いんですけど。芸能人であるとかね。でも、スタローンはそういうことは言わない人なんですね。
(赤江珠緒)寛大ですね。
寛大すぎるスタローン
(町山智浩)寛大なんですよ。寛大っていうかスタローンは敵だった人をみんな味方にする人なので。もともとライバルだったアポロっていうチャンピオンを親友にしていって。いま『クリード2』っていうロッキーシリーズの新作が撮影が終わった後なんですけども。そこではずっと敵だったロシアのボクサー、ドラゴを演じているドルフ・ラングレンが復活して。ドラゴの息子とアポロの息子が戦うっていう話なんですよ。『クリード2』っていうのは。
(赤江珠緒)ふんふん。
(町山智浩)そこですごいのは、ブリジット・ニールセンっていうドラゴの妻の役の人も今回、復活するんですけど。ブリジット・ニールセンとスタローンは以前結婚していてね、ブリジット・ニールセンがトニー・スコットっていう『トップガン』の映画監督と浮気をしたんで離婚をしたんですけど。アメリカのカリフォルニアでは、離婚した場合は理由に関係なく財産は二分割するんですよ。
(赤江珠緒)はいはい。以前におっしゃってましたね。
(町山智浩)でも、スタローンはブリジット・ニールセンのせいだったのかな? その前に1回離婚をしていて、財産が半分になっているんですけど。で、ブリジット・ニールセンに浮気されて離婚をしたので財産がさらに二分割で、財産が1/4になったんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)ところが、ブリジット・ニールセンをスタローンに紹介したのはシュワルツェネッガーなんですよ。シュワルツェネッガーはもともとブリジット・ニールセンと付き合っていたんですけど、ケネディの姪っ子と結婚をしたいがためにスタローンにブリジット・ニールセンを押し付けたんですよ。
(赤江珠緒)ええーっ!
(町山智浩)それで、浮気をされてお金を取られたから、普通だったらシュワルツェネッガーを憎むのにシュワルツェネッガーが隠し子騒動で世間に叩かれている時にスタローンはかばって、彼を映画に出したんですよね。
(山里亮太)スタローン、いい人!
(町山智浩)で、ブリジット・ニールセンはそのスタローンから奪った財産をチャラチャラ遊んでいるうちに全部使ってしまって一文無しになったんですけど、今回は映画に出して。スタローンは自分から金を奪った元嫁を救っているんですよ。
(赤江・山里)ええーっ!
(山里亮太)スタローン、いい人すぎだろ……。
(町山智浩)それがスタローンなんですよ。ウェズリー・スナイプスが脱税で逮捕されても、「お前が刑務所から出てきたらいちばん最初に使うよ!」って言ってその約束を果たすし。それがスタローンという男で。ジャン・クロード・ヴァンダムが離婚とかいろんなことでお金がないと、やっぱり映画に出してやるし。メル・ギブソンが差別発言でハリウッドから干されていると、誰も触らないメル・ギブソンに「お前、俺の映画に出ろよ!」って言ってハリウッドに復帰させるしね。
(赤江珠緒)へー! じゃあスタローンさんはハリウッドでも人脈というか、人気もあるんですか?
(町山智浩)だから本当にみんなが……調子のいい時はみんな調子がいいけど、スタローンがいちばんすごいのは世間から忘れられている俳優。逆に「あいつに仕事を回すな」って言われて干されている俳優を助けていくんですよ。彼は。調子がいい時にはみんな寄ってくるけども、調子が悪かったり嫌われている人を助けるのがスタローンなんですよ。スキャンダルとかで叩かれている人とか。それはロッキーもそうなんで、それがダブってくるんですよね。ロッキーもみんな敵を味方にしていく。そのへんがすごくフィラデルフィアっていう街が「brotherly love(友愛)」っていうのがモットーなんで。すごく一致していて面白いですね。
(赤江珠緒)フィラデルフィアの街の雰囲気と合っているというか。
(町山智浩)あっ、でも時間がすごくたっちゃって。今日、すいません。話しすぎた。今日は本題の『万引き家族』の話をしないといけないんですけど……。
<書き起こしおわり>
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