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町山智浩『地下鉄道 ~自由への旅路~』を語る

町山智浩『地下鉄道 ~自由への旅路~』を語るたまむすび
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町山智浩さんが2021年5月18日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でアマゾンプライムビデオで配信中のドラマ『地下鉄道 ~自由への旅路~』を紹介していました。

(町山智浩)ということで、今日はもう5月14日(金)から配信が始まっちゃったアマゾンプライムのドラマ、『地下鉄道 ~自由への旅路~』という10話完結のドラマシリーズについてちょっとお話します。これ、全10話を監督している人が『ムーンライト』という映画でアカデミー作品賞を受賞したバリー・ジェンキンスという人なんですね。だから超一流の監督なんですけども。で、製作はブラッド・ピットですね。

(赤江珠緒)ブラピも。へー。

(町山智浩)ブラピはね、製作者としてすごいんですよ。

(山里亮太)ねえ。よくここでも名前が出てきますよね。

(町山智浩)すごいんですよ。アカデミー賞をすごいたくさん取っている人なんで。それでこれ、地下鉄道っていうのはね、日本の人に聞き慣れない言葉なんですけど。「Underground Railroad」って英語で言うんですが。これは南北戦争の時に南部に奴隷制度があった時。黒人奴隷たちが逃げ出すわけですよ。で、北部の方には奴隷制度がないから、北部に逃げればいいんですけど、その奴隷たちを逃がすためにあったのが地下鉄道というものなんですね。

(赤江珠緒)ふーん。

(町山智浩)で、そう聞くと、地面の下にトンネルがあって、地下鉄みたいにして鉄道が走ってるように思うじゃないですか。でも、そうじゃなくて実際は奴隷が農場から逃げ出して、近くのあるところまで行くと、そこにたとえば教会があるわけですよ。その教会の地下に隠し部屋があって、そこに一晩、匿ってもらう。それを「Station(駅)」って呼ぶんですよ。で、その後はまた1日、なんとか走って北に行くと、そこにある農家があって。その農家にも隠し部屋があって。屋根裏とかに。そこに一晩、匿ってもらう。

そういう形で、その「駅」と呼ばれてるところを転々と移動しながら北に向かって逃げていくというシステム、そのネットワークが地下鉄道と呼ばれたんですね。で、それはどうしてかっていうと、南部でその黒人を逃すことというのは法律で固く禁じられていたんですね。だから、スラングとして鉄道の話をするようなふりをするんですよ。

(赤江珠緒)ああ、隠語でね。

(町山智浩)そう。逃がす人たちが。で、ステーションとか駅とか言っても分からないから。そういうね、なんというか秘密のネットワークのことを地下鉄道って呼んだんですね。で、これが当時、すごく厳しかったのはその黒人奴隷の価値というのはものすごく高かったんですよ。

(赤江珠緒)財産として?

(町山智浩)財産として。だから高級自動車とか……時には高級自動車以上の価値があったんですね。だから1人奴隷が逃げると、それはだから何千万円という資産が逃げ出したことになるわけですよ。だから、それを必死に探すスレイブパトロールとか、スレイブキャッチャーっていうプロフェッショナルがいっぱいいたんですよ。奴隷狩り人っていう人たちがいっぱいいたんですね。そういう人たちが逃げた奴隷たちを徹底的に探してくるんで、それと戦いながら逃がしていくという形なんですね。

で、たとえばだからその奴隷狩り人たちが犬なんかを使ってくるから、逃げ出した奴隷はかならず川の中を移動したり……だから、匂いを消さなきゃならないんですよ。ドブの中を移動したりするみたいな感じで。だから、そういうシステムとかやり方みたいなことを教える人たちの集団を地下鉄道って呼んだんですね。

(赤江珠緒)でも要所要所にそういうネットワークが一応あったんですね。

奴隷を逃がすためのネットワーク、地下鉄道

(町山智浩)あったんです。特にキリスト教徒の人たち。熱心なキリスト教徒の人はやっぱり「奴隷制度、これはおかしい」と思うじゃないですか。だから、なんとかしなきゃっていうことで、秘密に奴隷を逃がすグループを作っていったんですよ。で、その地下鉄道の中で最も有名な人はハリエット・タブマンという人で。これはね、『ハリエット』という映画にすでになっていて、日本でも公開されたんですけど。

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(町山智浩)この人は元々、黒人奴隷で。自分が地下鉄道を使って北部に逃げたんですが。自分だけ幸せになっちゃおかしいということで、その後も何度も南部に密かに潜入して。戻って、南部の奴隷たちを次々に助けていったんですよ。で、少なくとも80人。多い時は300人と言われる奴隷を北部に逃した人なんですね。女性なんですけど。で、この人のことを今度、アメリカの20ドル札の図柄にしようという動きがあるんですよ。で、そういうガイドの人のことを「車掌さん」と呼んだんですよね。

そうやって会話をしてると、なんの話をしているのかわからないじゃないですか。というものが地下鉄道なんですけども。で、これはそのドラマ版で、舞台は南部のジョージアというところで。ここは『風と共に去りぬ』の舞台ですね。そこの奴隷農場で綿花を摘んで働いている若い黒人女性のコーラさんという人が主人公です。で、とにかくその奴隷の女がひどくて。逃亡しようとした奴隷は見せしめのためにムチでめちゃくちゃに叩かれたり。

あと、ひどいのは黒人の男の子に白人の奴隷を所有している男がね、「お前、独立宣言を言ってみろ」とか言うんですよ。言えるわけがないんですよね。ジョージアでは当時、黒人が読み書きをすることを厳しく取り締まっていたんですよ。そういった文字とかを書けるようになると、その黒人たちが結託したり、情報を交換したりするから。だから独立宣言とか言えるわけがないのに「言えないのか?」って言ってその男はその子供をムチで叩くんですよ。で、それをコーラが庇おうとすると、「じゃあお前もだ」っていうことでムチで叩くんですけど。

そのムチで叩くっていうと、まあミミズ腫れ程度だと思っている人も多いと思うんですね。でも、それはSM用のムチとかでの話で。当時、黒人奴隷を叩いていたムチっていうのは1発叩かれるごとに肉が裂けるんですよ。それを子供に対してやったりしてるようなところなんですね。それで「これはいられないわ」っていうことで、このコーラさんは脱出するですよ。で、ただ脱出する最中に追手の白人の少年をまあ、殺してしまうんですけどね。

で、最初のステーションというところに行くんですね。駅と言われている、白人で黒人奴隷を助けるために協力している人のところに行くと、「じゃあ、ここに入れ」って言われて。それで隠し部屋かと思って入っていくんですけど、ハシゴがどんどん下に降りていくんですよ。どんどんどんどん。で、ものすごい下に降りたら、下がトンネルになっているんですよ。で、レールがあって、蒸気機関車が走ってくるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)「ええっ? 本当に地下に鉄道があったの?」っていう話なんですよ、これ。

(赤江珠緒)ああ、実際にはないのに、ドラマの中では本当に鉄道があるっていう?

(町山智浩)出てくるんですよ。だからこれね、全然知らない人が見ると「ああ、地下鉄道っていうのはこういうものなんだ」と思っちゃうんですね。でも、地下鉄道っていうのはメタファーで暗号で。本当は人間のネットワークであって、そんな鉄道はなかったっていうことを知ってる人は……だから僕はその気持ちで見ていたら、いきなり本物の鉄道が出てきたんで、びっくりしたんですよ。「なんだ、こりゃ?」って思ったんですけど。これ、原作がね、一種のSF小説なんですよ。これ、日本でも翻訳が出てるんですね。コルソン・ホワイトヘッドっていう人が書いていて『地下鉄道』っていうタイトルで。

(町山智浩)で、これはね、このコルソン・ホワイトヘッドさんが学校で地下鉄道について教えてもらった時に、子供だったから本当に地下鉄のことだと思ったんですって。

(赤江珠緒)ああ、そうか。勘違いをして。

(町山智浩)そう。だから大人になって「じゃあ、本当に地下鉄だったっていう話にしたら、面白いんじゃないか?」ということで書いたのがこの話だったんですよ。で、いろんなところで、歴史的事実がどんどんずれていく不思議な不思議な話なんですよ。

歴史的事実がどんどんずれていく不思議な話

(町山智浩)で、その地下鉄道で脱出したコーラさんはサウスカロライナっていうところに行くんですね。そこは南部の街なのに、なぜか黒人が差別されてないですよ。で、みんなちゃんとした服を着て、教育を受けて、仕事をもらって。黒人が奴隷扱いされないで、白人からも尊厳を持って扱われてるっていう街なんですよ。そんな街は実は歴史上、実在していないんですよ。南部には。南部にはなかったのに、この物語にはいきなりそういうところが出てくるんですよ。しかも高層ビルが建っていて、そこにエレベーターまであるんですよ。

(赤江珠緒)あら? 時代も変わっている?

(町山智浩)おかしいんですよ、これ。南北戦争前なんで1860年代なのに。エレベーターはドイツで1880年代に発明されたものなんですよ。20年、時間がずれているんですよ。で、見てる方は「なんかおかしいな」と思って見るんですよね。すると、そこでは黒人たちがちゃんと扱われてるんですけど、黒人はビタミン剤を与えられるんですね。ビタミンっていうのもその頃はまだ、発見されていないんですよ。

(赤江珠緒)ほう。うん。

(町山智浩)なんだろう?って思うですよ。で、ヒロインのコーラは「おかしい」と思うんですよ。「これはなんか、おかしいわ。黒人はいっぱいいるけど、黒人の子供は1人もいない」って気がつくですよ。で、その街にひとつある高層ビルには医者がたくさんいて。その黒人たちの診療をしてくれているんですね。それで、とうとうわかるんですが、実は彼らは黒人を使って人体実験をしてるんですよ。

(赤江珠緒)うわっ! ええっ?

(町山智浩)で、女性たちには密かに不妊治療をして。男性たちにはビタミン剤と称して毒を与えていたってことがわかってくるんですね。で、これはフィクションなんだけども、実際にあったことをモデルにしているんですよ。

(山里亮太)ええっ!

(町山智浩)というのは、アメリカでは南北戦争の時代にちょうど、ジェイムズ・マリオン・シムズという産婦人科医がいたんですね。で、彼は「産婦人科の父」と言われていて。女性の子宮とか、そういったものの手術の方法を実際に編み出したので非常に尊敬されていた医者なんですよ。ただ、それだけの手術のメソッドを生み出すために、大量の黒人奴隷の人に人体実験を行なっていたんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ! ええーっ?

(町山智浩)それで今では大問題になって。彼、ジェイムズ・マリオン・シムズの銅像はアメリカ中にあったんですけれども、それは全部、撤去されました。

(赤江珠緒)そうですよね。それを知っちゃうと本当……。

(町山智浩)大変なことなんです。

(赤江珠緒)「産婦人科の父」なんて言わないでってなるな。本当に。

(町山智浩)で、さらに黒人の男性に毒を与えて実験してたっていうのも実際にやっていて。これは結構最近で。戦後なんですよ。第二次大戦後にアメリカのタスキーギっていう街で、アメリカのCDC(疾病医療センター)が梅毒の人体実験を黒人に対してしていたんですよ。これも1970年ぐらいまで続いたんですよ。

(赤江珠緒)70年? ええっ?

(町山智浩)そう。すでにペニシリンが発明されているのに。梅毒が人体を破壊していくのをデータを取っていたんですよ。だから、この『地下鉄道』っていう話はSFなんだけれども。エレベーターが出てきたり、おかしいってなるんですけども、この中で出てくる恐ろしいことっていうのは実際に行われていたことなんですよ。これは実話じゃないけど実話だっていう、非常に変なドラマですね。で、そこから脱出して。

「うわっ、これはひどい街だ!」ってコーラさんが脱出して、隣のノースカロライナというところに行くと、今度は州に入るところに黒人の死体がいっぱい木からぶら下がっているんですよ。で、それはなんでだと思ったら、この間までノースカロライナ州では黒人奴隷を使ってたけれども、人種が混じるのは危険だということで、黒人完全禁止州になったっていうことなんですよ。で、これも実際にあった話で。オレゴン州っていうところが一時、黒人完全禁止州だったんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? あった話?

(町山智浩)あった話なんですよ。で、そこに紛れ込んじゃったからコーラさんは1人だけ、地下鉄をやってる人の家の屋根裏に匿ってもらうんですね。そうすると、そこに少女がいるんですよ。で、その子は「ずっともう何年も、この屋根裏で暮らしてるの」って言うんですね。で、この人は実在の人物なんですよ。この女性は。ハリエット・ジェイコブズという女性で、日本でも翻訳が出てるんですけど。『ある奴隷少女に起こった出来事』という本を書いた人なんですね。

(赤江珠緒)ああ、この本、読みました!

(町山智浩)ああ、読みました? この子が突然、ここで出てくるんですよ。名前は変わってるんですけど、明らかにハリエット・ジェイコブズさんなんですよ。

(赤江珠緒)そうそう。ずっと屋根裏に隠れてるっていうね。

(町山智浩)その奴隷の所有者から性的に虐待されたんで、逃げ込むんですよね。その話がここに出てきて。だからこれも本当の話なんですよ。しかもそのコーラがずっとその地下鉄を使ってアメリカ中を渡り歩きながら地獄巡りをしていって。で、逃げ続けるんだけれども、それをスレイブキャッチャーっていう奴隷狩り人がずっと追いかけていくというストーリーなんですね。これは。で、なんでこんな話をこのコルソン・ホワイトヘッドという人が書いたかというと、彼は「『ガリバー旅行記』をやろうとした」って言ってるんですよ。

『ガリバー旅行記』ってガリバーが最初、小人の国に行くでしょう? で、巨人の国に行ったり、あとは馬の国みたいなところに行ったりしますよね。で、いろんな国に行くんですけど、日本も出てきますが。日本以外は全部、架空の国なんですよね。ただ、そこでガリバーを巡ってそれぞれの国がいろんな政治的な論争をしたりするんですよね。その部分は全部、実話なんです。それはその当時、イギリスで起こっていた政治的な事実関係を別々の国の話にして比喩にした、からかった小説が『ガリバー旅行記』なんですよ。

(赤江珠緒)ちょっと子供向けストーリーみたいに見えますけど、実は、元はそういう現実を比喩して?

(町山智浩)そう。元はものすごく政治的なコメントなんですよ。「ラピュタ」とか出てきますけどね。実は子供向けに読まれているけど、大人向けの、おっさん向けの政治批評小説なんですよ。『ガリバー旅行記』って。だから、ほら話なんだけれども、中でも書かれているのは実話っていう非常に難しい……。

(赤江珠緒)そうか。じゃあ、今回もそういうことだ。

(町山智浩)そう。「この『地下鉄道』っていうのはそういうことをやろうとしたんだ」と言っているので。現代のパロディみたいなことも出てきます。あと途中で黒人たちがすごく豊かに生活してる街があって。みんな、事業で成功してお金持ちになってるんですけど。それを嫉妬した白人たちがそこに殴り込みをかけて皆殺しにするっていうシーンが出てくるんですね。で、これも本当にあったことないですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)これはタルサという街で黒人たちが非常に事業で成功したら、白人たちが嫉妬をして街が焼かれちゃったんですけどね。だからね、これは黙って見てると何が事実で何が事実じゃないかが非常に分かりにくいんですよね。だから、ここから見てもらって「一体これは何を言おうとしてるんだろう?」っていうのは調べてもらうと、いろんな歴史的なことが勉強になるかと思います。

(赤江珠緒)そうなんですね。ちょっとSFっぽい感じだけど、実はそういう社会派なドラマなんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。はい。ということで、『地下鉄道 ~自由への旅路~』はアマゾンプライムでもうすでに10話、配信中です。

『地下鉄道 ~自由への旅路~』予告

(赤江珠緒)はい。わかりました。またこれが事実っていうところがね、衝撃ですよね。

(町山智浩)そう。「そんな、バカな」って思うんですけども、大抵本当です。

(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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