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荻上チキ『相棒』「シャブ山シャブ子」問題を語る

荻上チキ『相棒』「シャブ山シャブ子」問題を語る 荻上チキSession22
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荻上チキさんがTBSラジオ『Session-22』の中で人気ドラマ『相棒』に登場した覚醒剤依存症キャラクター「シャブ山シャブ子」の問題点について話していました。

(荻上チキ)オープニングから気になったことがあったので、しゃべりしたいなと思うんですけども。『相棒』というドラマがいますね。刑事ドラマです。

(長谷部愛)かなりヒットしてますよね。

(荻上チキ)大ヒットですね。シーズンで言うと17ぐらいまで来てるのかな? だからそれだけ続くドラマというのはやっぱり多くのファンに支えられてるわけですね。で、多くのファンに支えられてるからこそ、あるいは人気があるからこそ、その表現っていうものに対してはより注目あるいは注意が必要かなと思うんですけれども。一部、ネットなどで記事をご覧になったことがあるという方もいるでしょうし、あるいは実際にその『相棒』のドラマ、11月7日放送分をご覧になった方もいると思うんですが。その中に登場する、あるキャラクターが波紋を広げてるというか、問題視されてるんですね。

(長谷部愛)ええ。

(荻上チキ)それはどういったキャラクターなのか?っていうと、「シャブ山シャブ子」っていう名前で、簡単に言うと覚醒剤を使って薬物依存症になった人が、ある種ヒットマン的に活用されてキャラクターの一人に暴力を働く、殺害をするっていう、そうしたシーンがあるわけです。その時の奇天烈な行動とか叫び声とか注射痕とか。あるいは幻覚を見ている様や歩き方ののそのそとした感じっていうのがものすごく怖いっていうことで。まずはその演技力とかキャラクターのインパクトみたいものが話題になり。でも、そうしたことを含めて今度は専門家の目にとまって、その専門家たちが「いや、こんな薬物依存症患者の描写をいまの時代やられると、いろんな努力が水の泡だ!」っていうことで応答が行われてるという、いまはそういった状況なんですね。

(長谷部愛)はい。

(荻上チキ)で、たとえば精神科医の松本俊彦さんとか、斎藤環さんとか、具体的な発言力のある精神科医の方、臨床の現場でいろんな患者の方を見ている先生方が「そういった典型的な描写としてドラマの中に出てくるような人というのは本当にごくごく稀なことで、一般的な患者の描写からはかけ離れてる」と。

(長谷部愛)と、すると、「誤解を生んでしまう表現」という?

(荻上チキ)ということになるわけですね。で、そのドラマの表現っていうものはもちろんフィクションではあるわけですけれども、そのフィクションであったとしてもそこには「学習効果」というか、物事を伝達するイメージを伝えるという効果があるわけですね。で、実際にTwitterとかの反応を見ていると、「そのキャラクターがリアルで怖い」という風な反応してる人がたくさんいたんです。で、「リアルで怖い」といってもたくさんの人たちは実際に依存症の当事者を見たことはないはずなんですね。でも「リアル」という風に感じてしまう。それはなぜかというと、似たような表現が他のドラマとか映画とか漫画とか、いろいろなフィクションの中に登場することによって、「こういうものなんだ」という風にすでに学習をしてるんですね。

(長谷部愛)ああー。

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依存症当事者を見たことがないのに「リアルで怖い」

(荻上チキ)そういう風に思い込みを抱いている、その像にあまに近いから「リアル」という風に感じるわけなんですよ。こういった現象を少し前のフランスの哲学者ジャン・ボードリヤールという人がですね、「ハイパーリアル」という風に言ってたんですね。つまり、「リアル」っていうのは現実のことですよね。だから実際にいる人をうまく描写できれば、「リアリティーがあるな」っていう風に言うんですけど。「ハイパーリアル」というのは実際には存在しないんだけれども、フィクションなど、あるいはメディアなどだけで存在する記号を「ああ、リアルだな」っていう風に錯覚させてしまう現象のことをハイパーリアルという風に表現するんです。いま、まさにドラマで表現されたこの依存症患者の振る舞いというのはこのハイパーリアルなんですね。

でも、ハイパーリアルなんだけど、多くの人にとってはそれが実際のものだという風に錯覚をしてしまう。そのことによって、たとえばいろんな政策決定とか、いろいろな議論の場の場に影響を与えてしまうということがひとつの問題になるわけですよ。で、どういう問題かというと、もうひとつ。今回のネット上の反応をいろいろ見て行った中で、ひとつは「フィクションに目くじら立てなくても……」みたいな意見もあれば、もうひとつ。「怖さを伝えるという意味では、こういった描写はありなんじゃないか?」という意見があったんです。

(長谷部愛)ええ、ええ。

(荻上チキ)つまり「薬物を使うとこういう形になりますよ」という。「それはとても誇張されていたり、大袈裟のように見えるかもしれないけれども、それで1人でも(薬物使用を)思い止まるんだったら、それはそれで効果があったということでいいじゃないか?」っていう擁護論もあるんですね。でも、これは実はもう薬物依存症問題では何年も前に通り過ぎた道なんですよ。昔、薬物については「ダメ。ゼッタイ。」とか「覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか」っていうようなスローガンを使って。まあ、怯えさせる。「使ったら人間おしまいなんだ」というようなことをメッセージとして発信することで予防しようという目論見、企てがあったわけですよ。これはとにかく失敗していくんですね。一方で、実際に使った人が医療機関につながることをむしろ遠ざけてしまうような効果が出てしうものなんです。

(長谷部愛)ええ。

(荻上チキ)なぜかというと、怖がらせる。怖がらせるということは周りから白い目で見させる。本人も自分を責めさせる。そうすることによって、回復するために医療機関にかかろうっていうような、そうして思いから遠ざけてしまう。また日本だと薬物を使用すること、所持すること……まあ薬物の所持で逮捕とかっていうことがよく報じられますけれども。そうしたこと自体が刑罰の対象になってるので、より医療機関につながりにくい。でも諸外国は考え方を改めて、薬物の使用や所持そのものは罰しないようにしよう。その代わり、医療機関につなげることでより回復に近づけようという議論に進んでいるんですよ。で、いま日本もそういった方向に進もうとしている最中にあって、改めて「怖さを伝えるから効果があるじゃないか」という議論は20年ぐらい時計の針を戻してしまうような議論になるんですね。

(長谷部愛)そうですね。はい。

(荻上チキ)だから今回、とても視聴率の高い人気ドラマの中での表現であるわけですけれども、フィクションもやっぱり表現で、そこには啓発効果があるし。むしろハイパーリアルを作ることによって、人々の認識というものを強調する。そしてドラマで見た、あるいは漫画とかアニメとかいろんなもので見たイメージで、「じゃあ、そういった人たちだったら厳罰の対象にしたらいいじゃないか」とか、「そんな人たちに税金を使うのはどうか」とか、そうしたような議論の判断で使われてしまうとこれはまた問題ということになるので。そこに対してはやっぱりひとつひとつ、レスポンスが必要だなという風には思ったんですね。

(長谷部愛)そうですね。

(荻上チキ)あとね、ちょっと前にフジテレビでとんねるずの番組で保毛尾田保毛男というキャラクターを復活させて、問題になったことがあったじゃないですか。

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「保毛尾田保毛男」問題と同じ構造

荻上チキ とんねるず「保毛尾田保毛男」問題を語る
荻上チキさんがTBSラジオ『Session-22』の中でフジテレビ『とんねるずのみなさんのおかげでした』で数十年ぶりに復活して非難を浴びているキャラクター・保毛尾田保毛男問題について話していました。

それと僕は同じ問題だという風に思ってはいるわけなんです。という風にTwitterに書いたら、「生まれながらのホモセクシャル、ゲイの方やレズビアンの方と、自分で薬物に手を染めてしまった依存症当事者を並べて語るのおかしい」っていうような指摘もあったんです。でも、僕は並べて語る必要があると思うんですよ。つまりいま言ったハイパーリアルの問題もそうです。そこから生まれてしまう偏見の再生産もそうです。それから薬物の使用がどこまで本人の意思なのかというのは実は難しいんですね。

親が何かの依存症だと、子もその依存症になる確率っていうものが高まってしまいます。貧困とかDVや暴力を受けた環境で育った人は、やはり依存症のリスクが高まってしまう。本人が生まれながらじゃなかったとしても、選択できない環境でそのようになってしまうことや、人生にいろいろな引っかかり、失敗を重ねていった中で、たまたま逃げる先が薬物やお酒や他のものしかなかったという人もいろいろといて。そのことをまずは「認める」というところから回復というのは始めるんですね。

だから社会が叩くんじゃなくて……「叩く」ということはむしろ回復を遅らせることになるので。受け入れていく。そうしような方向に向かっていくっていうことが重要だという。そういった意味では、その排除の仕方がおかしい。語り方がおかしい。テレビがステレオタイプなキャラクターを作り上げることによって、むしろ誤解が広がっている。そうしたようなことをいろんな対象に広げて議論していくことが必要だなという風に思ったんですね。

(長谷部愛)「同じ問題を含んでいる」ってものがあるっていうことですよね?

(荻上チキ)そうですね。だからやっぱり何かと何かを並べるっていうのはもちろん違う点はあるので、「ここは違うじゃないか」と言われれば違いますけど、「メディアが発信した偏見」という構造の中で同じように偏見を発しないようにしましょうという風に学習しあうことが重要だろうと。だから脚本を書く時もよりクリエイティブな作品を作る際には、いろいろな学習をしたり、当事者の取材をしたり。いろんな努力が必要だなということを思うわけですね。まあ、この番組では「薬物報道ガイドライン」というものを番組で作って、Web上でいまでも全部聞けるようにしてますし、文字起こしも掲載してますし。そのガイドラインも全文載せてます。

なので、こういう風に話題になったタイミングには是非とも、報道あるいはメディアと依存症などの当事者のいる問題をどう考えればいいのかということを考えるきっかけにもなると思いますので。まずはそういった放送を振り返ってほしいなという風に思いますし、これからもこうやって発信していきたいなと。

(長谷部愛)そうですね。機会がある都度、それを考えてみるっていうのは大切ですよね。

(荻上チキ)そうですね、はい。

<書き起こしおわり>

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