渡辺志保 R.KELLY告発ドキュメンタリー『Suriviving R.Kelly』を語る

渡辺志保 R.KELLY告発ドキュメンタリー『Suriviving R.Kelly』を語る INSIDE OUT

渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でR.ケリーを告発するドキュメンタリー番組『Suriviving R.Kelly』について話していました。

(渡辺志保)ここで今日の特集に入っていきたいなと思います。なかなかちょっと明るいトーンでは私も話したくないなっていうような感じなんですけども。皆さん「#MuteRKelly」というハッシュタグ、もしくは「#SurvivingRKelly」というハッシュタグがタイムラインに上がってきたことはございますでしょうか? 今日はそのR.ケリーについてこれからまあ20分、30分ぐらいお話ししたいなと思うんですけれども。

『Surviving R. Kelly』というタイトルのドキュメンタリーシリーズ……ドキュシリーズ(docuseries)って言うんですけども。テレビ番組がアメリカで放送された。その余波がかなり大きいことになっておりまして、ちょっと今日はその話を皆さんにお伝えしたい。それとともに、私が私なりに考えた問題点であるとか、感想というところをシェアしたいなという風に思っております。で、この『Surviving R. Kelly』なんですけども、Lifetimeというテレビ局が制作したドキュメンタリーシリーズになっております。全6話。

アメリカでは2019年明けてすぐの1月3日、1月4日、そして1月5日の3日間にわたってオンエアーされたドキュメントシリーズになっております。で、エグゼクティブ・プロデューサーを務めた女性の1人がドリーム・ハンプトンさんという方なんですけども。彼女はデトロイト出身で、元々は私よりも年下の方とかはあんまり馴染みがないかもしんないけどソースマガジン(The Source Magazine)っていう本当にヒップホップカルチャーを語る上では欠かせない有名な雑誌がありまして。いまもウェブサイトとして残ってるんだけれども、そのソースマガジンのお仕事にも従事しておりまして。

で、私が彼女を知ったきっかけはジェイ・Zの『Decoded』っていう本があるんですけど、その共著者であるということで。これまでにも、ビギー。ザ・ノトーリアスB.I.G.に関するドキュメンタリーの映像を作っていたりとか、ご自身が編集、ライター、そして映像監督の仕事もするというなかなかの才女です。そのドリーム・ハンプトンさんが中心になって作ったドキュメンタリーシリーズです。

で、ですね、ドキュメンタリーなんですよ。タイトルも『Surviving R. Kelly』。まあ「R.ケリーとの生活を生き抜いて」というような……まあ、生き延びた人たちの証言をメイントピックにして構築されたテレビ番組なんですけれども。あのね、実際に被害を受けた被害者の女性であるとかその家族、あとはR.ケリーの地元でありますシカゴの新聞記者でずっとこの事件を追いかけていたような記者の方たち。あとはミス・インフォとかウェンディ・ウィリアムズ、あとはシャーラメイン・ザ・ゴッドといった普段、アメリカのヒップホップサイトとかヒップホップのラジオ番組とかを追いかけている人であれば一度ならず二度、三度といつも目にしているような方たちも出ております。

で、こういうヒップホップジャーナリストとか黒人の音楽ジャーナリスト……ネルソン・ジョージ先生も出てらっしゃいますね。彼らにとってもやっぱりこの番組に出て、自らの意見を発するというのはかなり厳しい決断と言いますか。だってさ、絶対に絶対にR.ケリーの音楽とか彼について、そういったジャーナリストの方も絶対に一度や二度は口にしたりとか文章にしているはずだし。彼の音楽やアーティスト性っていうことを肯定していることがあるとは思うんですよね。

で、私ももちろん彼について文書……そんなにたくさん書いたことはないですけど、たとえばあのニートTOKYOに出させていただいた時にも私、ちょっとR.ケリーの名前を出していて。それが多分いまもYouTubeに残ってると思うし。

なので、ミス・インフォもいこのドキュシリーズの中でちょっと言ってましたけれども、ジャーナリストとしてこういうことを発する、意見するっていうことは彼女たちにとっても少なからず大きな意味があったんじゃないかなと思ってますね。あとはミュージシャンの方たちですね。もうR.ケリー……わざわざ『INSIDE OUT』で「R.ケリーってこういう人だよ」っていうことはちょっとね、皆さんも多分ほぼほぼご存知の方も多いとは思うのでわざわざ言わないですけれども。

まあ彼の長いキャリア、そしてもうヒット曲がたくさんありますから。R.ケリーとこれまでに仕事してきたミュージシャンっていうのは本当にたくさんいるんですよね。ドリーム・ハンプトンによりますと、ジェイ・Zやエリカ・バドゥ、メアリー・J.ブライジ、あとセリーヌ・ディオン、レディー・ガガたちに出演のオファーをしたらしいんですけれども、みんな断ったらしいんですよ。で、唯一、ジョン・レジェンドが取材に応じてくれた。

なので、ドリーム・ハンプトンとってはジョン・レジェンドはもう本当にヒーローみたいに見えたという風にもインタビューで語っておりまして。で、一連の取材とはまた違う映像でチャンス・ザ・ラッパーもかつてR.ケリーと一緒に曲を作ったアーティストとして出演しているんですけれども。まあ唯一、そうね。男性アーティストとしてはこのジョン・レジェンドとチャンス・ザ・ラッパーだけが出演していると。

あとはもうその被害者としてですね、R.ケリーのサポートによってデビューしたスパークルという女性シンガーがおりますけれども、まあスパークルはほぼほぼ全エピソードに渡って出てくるというような感じです。で、なぜアメリカでこんなに話題になっているか? そしてラジオ局によっては「もう金輪際R.ケリーの曲はかけません=ミュート。R.ケリーをミュートする」っていうことで「#MuteRKelly」のハッシュタグが広がっているのか?って言いますと、やっぱり彼がしてきたことですよね。

番組の概要

で、ちょっと最初にですね、R.ケリーが何をしてきたのか、番組でどんなことが語られているのかというところをちょっと皆さんにお伝えしたいと思います。彼は80年代後半から音楽活動を始めまして、90年代にデビューをした。そこから長年にわたって、約25年から30年ほどの間、女性を性的ないしは肉体的に、そして精神的に苦しめてきた。まあ日本のメディアでも去年から報じられてるかと思うんですけども、「セックスカルト」と呼ばれる……セックスカルト集団を形成していた。

本人はそういった、囚われている女性たちのことは「ファミリーだ」と言っているみたいなんですけど、そういったことになっていた。で、ですね、被害者となっているのは主に10代の女の子なんですね。大体が皆さん、「14歳の時にR.ケリーに会って」とか「17歳の時にR.ケリーに会って」とか。そこからずっと彼に軟禁されているような状態であると。ただ、R.ケリーはそういう女の子たちを捕まえて洗脳して自分のそばにずっと置いているわけなんですけども、ただ洗脳しやすい女性であれば年齢は関係ないというケースもあったそうで。

実際に30代や40代でR.ケリーと出会って、被害者となってしまった女性たちも番組には出ていました。たとえば「歌手になりたい」「ダンサーになりたい」っていう女の子がふとしたきっかけでR.ケリーと親しくなることがあるわけですよね。たとえば知り合いに「今度、ケルズのパーティーがあるから来ないか?」とか「ミュージックビデオの撮影があるから来ないか?」っていうところで接点を持つこともあれば、ちょっとびっくりしたのが両親……お父さんの誕生日に一緒にお母さん、お父さん、娘の3人でR.ケリーのコンサートに行った女の子が、よくありますけどステージ上に女の子があげげられるようなことがありまして。

その中の1人としてたまたまステージ上にあげられて……もちろんR.ケリーが「あ、かわいいな」と思ってあげられた。で、そこにはお父さんとお母さんも一緒にいたんだけれども、ステージにあげられた娘がなかなか戻ってこないから「おかしいぞ」って思ったら、バックステージでR.ケリーに電話番号を渡されていて。「今度、オーディションしよう」みたいな感じで誘われて。それがきっかけで洗脳されてしまったっていうこともあったそうですし。

だから本当にそういうきっかけでどんどんね、女の子が……まあ彼は自分のことを「R&B界のパイド・パイパー(ハーメルンの笛吹き男)」っていう風に言っていましたけども。本当ハーメルンの笛吹き男みたいに女の子たちが連れ去られていくようなことがあったという。で、あとはR.ケリーがその児童ポルノ所持の容疑で裁判を重ねていたわけですけども、その裁判を傍聴していて。で、彼のことを応援していた14歳の女の子なんかも「君のことを覚えてるよ。僕の裁判を見に来てて、応援してくれてた子だよね」っていう理由で誘われて被害者になってしまったというケースもあるということで。本当にね、驚くべきことだなと思うんですけども。そうしてどんどん女の子をつかまえていったという。

ちなみに、その彼がどうやって女の子を洗脳……まあブレイン・ウォッシュって言いますけども。洗脳をしていくか?っていうことも語られておりました。最初は小さな要求からスタートするそうなんですね。たとえば、つかまえられた女の子たちはR.ケリーのことを「ダディ」と呼ばねばならなかったそうなんですよ。で、最初は「じゃあ僕のことをダディって呼んでね」っていう、そういう小さい要求から始まるらしいんですね。で、女の子が「はい(Yes)」って答えたら、「うん? 『はい』だけじゃないでしょ?」って言って。「ああ、はい。ダディ」みたいな感じで。そういう感じで徐々にトレーニングが始まっていくんですって。

で、最初はその「ダディ」から始まって、その次は着る洋服もR.ケリーが「俺が選ぶよ」って選ぶ。で、その後に、たとえば食事の時間であるとかお手洗いに行く時間なんかもR.ケリーに決められて。で、彼の許可なしにはご飯も食べられないし、おトイレにも行けない。何かR.ケリーの神経を逆撫ですることをしてしまった場合には、もう何日間も食事を抜かれるようなこともあったという風に言ってました。

で、すごく恐ろしい話だなと思ったんですけれども、語られていた内容によると、女の子たちを自分のシカゴのスタジオか、アトランタにある大きいお家に泊まりさせていて。そこでそのセックスカルトというのを形成していたわけなんですけども。女の子に個室が与えられているんですって。で、そこには部屋の隅っこにバケツが置かれていて。それはもう、排泄用のバケツなんですって。しかも中身もR.ケリーに「捨てて来い」って言われないと捨てられないらしくて。なので、そこまで女性たちの生活がR.ケリーの管理下に置かれていたということなんですよね。

だからそういうことが、もう一つ一つがやっぱりさ辛い……聞いてて辛い、見てて辛い。実際に被害にあった女性たちが涙を流しながらそういうたことを証言するわけなんですけれども。あと、驚いたのが中にはちょっとヤンチャな女の子のことを「トムボーイ」っていう風に言いますけれども、そのトムボーイ的な女の子がいた。その子はちょっとR.ケリーに歯向かうこともあったらしいんですよ。その子、ドミニークちゃんっていうんですけども、ドミニークちゃんは頭を短く剃られて。シェイブされて、ヒゲまで書かれて。お洋服も男の子の服を着させられて、「男の子のようにふるまえ」っていうのをR.ケリーに要求されていたらしいんですよね。

そういう風にさせられたドミニークちゃんは、お母さんが粘りに粘って彼女がLAのホテルにいたところを救出して生還してきたわけなんですけども、そういうストーリーもあった。というわけで、そんな感じで女性たちをどんどん洗脳していって自分のそばに置いていったという。

で、R.ケリーは結婚もしていて娘もいるんですけれども。妻であったアンドレア・ケリーさんっていう方がいらっしゃって、そのアンドレアも長々とご自身の体験を証言してるんですけれども。アンドレアに関しては結婚した後にやっぱり外部とのコミュニケーションを全部断たれて。アンドレアも他の女性と同じくR.ケリーの許可なしには外出もできない。美容院とかにも行けなくって、美容師さんが家に来てアンドレアの髪を整えたりとかしてくれたらしいんですけれどもね。あと、やっぱり外部と遮断されているような状況だから、R.ケリーが外でどんな風に報じられているかもよく把握してなかったらしいんですよ。

それでまあ、アンドレアと同じ部屋に住みながら、そのひとつ屋根の下には他の女の子たちも住まわせているんだけれども、アンドレアは「1回も他の女の子たちの姿を見たことない」っていう風にも言っていて。いかにめちゃめちゃ細かく彼女たちの生活を管理していたのか?っていうのがわかるんですけども。そのアンドレアもある時、「もうこのままだと死んじゃう」と思って、DV(ドメスティックバイオレンス)のホットラインに問い合わせたところ、なんかDVのチェック項目っていうのが17個並んでいて、そのうちの15個が当てはまったらしいんですよ。R.ケリーにされていたこととして。

その段階で初めて、「ああ、自分はドメスティックバイオレンスの被害者なんだ」っていうことに気づいて、3人の子供を連れて逃げたという風にも語ってました。このドキュメンタリー番組がオンエアーされた後に、R.ケリーの娘さんも実際に証言をして。「私のパパはモンスターです。なぜなら私だってあの家の中にいたんですから」っていうことを証言していて。さぞかし辛い体験だったんだなという風に思います。まあ本当にね、繰り返すけども、こういったことがずっと語られる。それが6話分、エピソード6まであるんですけれども。積もりに積もったエピソードがなんで今頃、こういう風に明るみに出たかというところがひとつ、問題としてあると思うんですね。

私も先週末、何人かの人とやっぱりこのR.ケリーの話題になりまして。1人、「なんで昔の事件をこうやっていま、ほじくり返すのか?」みたいなことをおっしゃっていた方がいたんですけれども。でも逆に言うと、30年近く被害にあってきた女性たちの意見というものが非常に軽んじられてきた結果なのかなという風にも思います。で、この番組のテーマのひとつになっているのは、「被害にあったのが黒人女性だったからこそこの事件、R.ケリーがしてきたことが明るみに出てくるまでにすごく時間がかかってしまったのではないか? 被害にあったのが白人の女の子だったら、もうすぐにえらいことになってたんじゃないか?」っていうことも言われてまして。

被害者が黒人女性だったので時間がかかった可能性

その人種をめぐる犯罪というかね、ジャスティス(正義)のあり方っていうことも問われている内容になってます。……あの、ちょっとちょっと水をもらえます? すごい暗い気持ちになってしまったんですけども。まあ、だから本当に辛いです。あ、最初に言うのを忘れた。この番組はまあ、いま日本では見れないんですよね。これがね、HuluさんとかNetflixとかが買い取るとかライセンスをして、字幕を付けて日本でも見られるような環境になればいいなと思うんですけれども。

この番組に関しては既に池城美菜子さんがすごい素晴らしいブログの記事をアップしてくださっておりまして。池城さんは実際にR.ケリーいも取材をされたことがある。プラス、長年ニューヨークにもお住まいだったから、私よりも深くこの事件に関してはすごい俯瞰的な視点もあり、という感じて述べることができる方なのでないかと思うんですけども。

私も人生で1回だけR.ケリーのコンサートに行ったことがあるんですよ。それはね、たぶん2008年ぐらいだったと思うんですけど。『Double Up』っていうアルバムを出した後のツアーだったと思うのね。で、ニューヨークにたまたまその時に1人でしばらく滞在していて、R.ケリーのコンサートがあるから。しかも結構デカい会場であったから、「これはチャンス!」と思って速攻でチケット取ってね、ウキウキで行ったんですよね。まあ、
ニューヨークに滞在してる間に「私、今週R.ケリーのライブ行くんだよね!」みたいなことをやっぱり現地に住んでる普通の黒人の男の子とかに話すと、やっぱりみんながみんな、「えっ? お前何であんなやつのコンサートに行くの?」って。

で、そのツアーっていうのが、これまたこのドキュシリーズの中でも語られてるけども、彼が児童ポルノ所持の疑いで捕まって、その後にずっと裁判を実際に起こすまでにめちゃめちゃ時間を……あえて時間をかけて裁判そのものまでの時間をかけて引っ張っていたんですけども。その、すごく注目を浴びた裁判(Trial)が明けた一発目のツアーだったんですよね。しかも、その裁判では彼の無罪が立証されてしまいまして。まあ、言い方によっては「晴れて無罪の身」となったR.ケリーがシャバに復帰して一発目のツアーみたいな感じだったんだけれども。

その裁判がなぜ無罪になったか?っていうこともこのドキュシリーズでは語られているので、見れる人は見てほしいんですけれども。まあ、その一発目だったのね。で、私はそんなに彼の裁判の経過とかも細かく追っていなかったから。まあ有名な話なんですけども、R.ケリーは飛行機が大の苦手ということで。これは池城さんのブログにも書いてあるんですけど。絶対に日本で見れないだろうなっていうアーティストの1人だったわけね。だからそんなアーティストをニューヨークで見ることができるから、私はすごいエキサイトして。で、「いいでしょ、いいでしょ?」みたいな感じで現地の男の子とかにも喋っていたんだけども。

彼らはやっぱりね、一様に「なんであんな子供のレイプ野郎のライブに行くのか?」みたいに言われて。その時に私は初めて、「ああ、こんなにもギャップがあるんだな」というのを気づいた次第でした。ただ、その時もR.ケリーはね、本当にヒット曲をバンバン飛ばしまくってた頃だったから、マジソンスクエアガーデンのサブアリーナみたいなところで私はライブを見たんですけども。本当に満席で。やっぱりちょっと年配の黒人女性の方が多かったけど、みんなヘネシーを片手にめちゃめちゃ気持ち良さそうに踊りながらね、彼のライブを見たりもしていて。私は本当にいろんな意味でショッキング……いい意味でのショッピングも含めて、いろいろとショッキングなライブだったな。

ちなみにその時、前座がK・ミッシェルっていう女の子シンガーだったんだけど、K・ミッシェルもこれまたR.ケリーの後ろ盾、バックアップでデビューした女の子で。彼女もやっぱり、まあ最初にR.ケリーがセックスカルトを形成してるみたいな報道の時にしばらく経ってから、去年の暮れぐらいですかね? インタビューに答えていて。「やっぱり彼の家は非常に異様な雰囲気だった」っていうことを訴えていますので。あの時、K・ミッシェルを見て、私はK・ミッシェルのライブにもすごく感銘を受けたんだけど、彼女が当時、どんな思いでR.ケリーと仕事をしていたかっていうことも改めて考えさせられたことではあります。

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