宇多丸さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でR&Bシンガー、R.KELLYの性的虐待を告発するドキュメンタリー『Surviving R. Kelly』が放送された件について話していました。
Don’t miss all three parts of the docuseries #SurvivingRKelly, starting right now. pic.twitter.com/LTK3g4O3na
— Lifetime (@lifetimetv) 2019年1月6日
(宇多丸)で、ですね、いま音楽の話題が出ちゃったんでこれ、言いますけども。カルチャーニュースでいま結構話題になっているんですけど。アメリカでね、R.ケリーっていう歌手の人、宇内さん知っています?
(宇内梨沙)私、この話は知らなかったです。
(宇多丸)あのね、まあめちゃくちゃ売れたR&B歌手というか、R&Bを超えてもうポップチャートでめちゃくちゃ売れて。どんだけ売れたか?って記録みたいなのはここに出ていないけど、とにかくめっちゃくちゃ売れているわけ。本当に世界の音楽史、ポップミュージック史に記録を残す級にめちゃくちゃ売れている歌手の人で。それは大前提として、後に出てきたいろんな歌手とかに本当に拭い去りがたい影響を与えている人で。音楽家、歌手としては非常に偉大な足跡を残した人なのね。
なんだけど、前に僕、土曜日にやっていた『ウィークエンド・シャッフル』という番組の人気企画で「R&B馬鹿リリック大行進」っていう企画があって。要するにR.ケリーっていう人はすんごいきれいなメロディーを書く素敵な……要するに僕らって洋楽を聞く時、英語の歌詞の中身はなんとなく置いていて「素敵♪」って聞くじゃないですか。なんだけど、R.ケリーの曲っていうのはめっちゃくちゃエロいっていうか、もっと言えばゲスい下ネタっていうか。歌詞が結構そういう感じなんですよ。ゴリゴリの下ネタで、割としょうもない、本当に歌詞を字面で意味を分かってみると、すんごいしょうもないことを歌っているみたいな。
そんなことを二重構造というか。歌としては素敵なんだけど、歌詞を見るとこんなにしょうもないことを歌っていますよっていうのをゲラゲラ笑いながら楽しむなんていう「R&B馬鹿リリック大行進」というので、R.ケリーの楽曲を中心にやって人気企画になって。それこそ高橋芳朗くん主導でやって大人気で、めちゃめちゃその企画も面白かったし、本になったりもしたんだけど。
(宇内梨沙)うん。
(宇多丸)ただ、R.ケリーという人は前から、たとえば未成年との日本で言うところの淫行の疑惑であるとか、いろんな性的なよからぬことの嫌疑がかけられては示談になったりとか、そういうのを繰り返していて。で、歌っている内容が内容だし、はっきり言ってこれはね、本当に音楽ファンとしてちょっとその自分たちも甘かったなというところでもあるんだけど。まあ、「ひょっとしたらこいつ、本当にヤバいんじゃないか?」っていうのはなんとなく、薄々ありながらの、ここに来て、2019年1月3日から5日にかけて、アメリカのテレビでドキュメンタリーシリーズ『Surviving R. Kelly』っていう……「R.ケリーを生き延びて」ですよ、タイトルが。
(宇内梨沙)どういった内容なんですか?
(宇多丸)過去にR.ケリーと仕事をした女性アーティストとかの証言で、やっぱり単に漁色家、見境なくヤリまくっているとかっていうだけじゃなくて、結構暴力的支配とかっていうことも……僕はまだちょっとこの番組は見れていないんで。だし、その実際に起訴をされたりどうこうっていうのはここから先の話でしょうけども。まあ、そういうような結構エグい話も出てきたり。現状も、それこそ日本では……これは宇内さんはわからないかな? 千石イエスとかああいうような感じで、個人でハーレムを作って。ハーレムを作るのは勝手なんだけど、女の人のその家族とかが「洗脳をされてしまっている。うちの娘を取り返したい」って言っているんだけど、結構異常な状態になっているとか、そんなことになっていて。
(宇内梨沙)はー!
(宇多丸)で、要するにはじめて本格的に告発されたっていう動きがあって。
(宇内梨沙)それがテレビ番組になるってすごいですよね。
『Surviving R. Kelly』
(宇多丸)だからすごい丹念に取材したんでしょうけど。で、やっぱり「R.ケリーと言えば……」っていうことで、当時から一緒に仕事をしていたような人たちの証言とかもあったりして。だから結構音楽ファン的には「うわあ……」っていう。
(宇内梨沙)ついに爆発した?
(宇多丸)要は、「ヤベえんじゃねえか?っていう感じはしていたんだけど、本当にだったのか!」っていうので。これ、要は番組としてもそういう「R&B馬鹿リリック大行進」っていう、「こんなひでーこと歌っているんだよ」って指摘する内容ではあったけど、やっぱりゲラゲラ笑えるような内容っていうので、もちろん我々も「ああ……」っていうところはあるんだけど。これは本当に世界の音楽ファンが、要はR.ケリーの音楽ってやっぱりすごく影響も大きいし、はっきり言ってその影響ってなかったことにするのは不可能なぐらいなのね。でも、そういう人が実際にはこういうひどいことをしていた。「ひどいこと」って言ってもレベルによると思うけど、やっぱり女の人に対する暴力とか、ちょっとさ……それで愛だの恋だの歌われても、もう聞いてられねえやってなるじゃない?
(宇内梨沙)そうですね。
(宇多丸)なので、こうやってアーティストが作った作品が後にそのアーティストの行いで……特に、時代が変わることによってもうこれは許されないっていう感じになって、後にその作品の見え方とか聞こえ方みたいなのが決定的に変わっちゃうみたいなことは今後もいっぱい、これからさらに出てくる。それ自体はいいことだと思うのね。だから、それはそうなんだけど……同時にしかし、R.ケリーを音楽史上からなかったことにするのはこれは不可能ですぞ、みたいな。
(宇内梨沙)うん。
(宇多丸)これ、たとえば映画で言えば、アルフレッド・ヒッチコックという「サスペンスの神様」っていう言い方をされている人。なんとなく見たら、雰囲気わかるでしょう? あの人もまあ作品にもそれはかなり現れているんだけど、まあ結構本気のアウトなセクハラ親父で。まあ当時のハリウッドはそれこそね、ワインスタインショックみたいなことが横行していたと思うんだけどね。普通にね。で、しかもヒッチコックの場合は作品性に彼のヤバさが相当深く、不可分に入っちゃっているような人だから。はっきり言って、いまの目で見ると本当に不快だっていう人もいるだろうし、こんな人を崇めるのはやめろ!っていうようなのももちろん意見としてわかるんだけど。
(宇内梨沙)うんうん。
(宇多丸)でもやっぱりさ、文化ってとはいえ、この人がやったことをベースに作られてるようなところもあったりするし。それとか、ヒッチコックの作品で言うと僕が好きって言っている『めまい』とかはその自分の病的な、完全にアウトな人間であることっていうのをちょっと自覚した上で、逆説的に懺悔してるというか、そういうところもあるようなのもあったりして。なかなかね……まあヒッチコックとR.ケリーは全然方向は違いますけども。だからこういうのが出てくる時、その都度すごく「ああ……」って。じゃあこれ、どうやって今後、そういういままでは普通に享受していたアート作品とかポップ作品とかを……。
(宇内梨沙)なるほど。ちょっとフタをされてしまうような?
(宇多丸)フタというか、でも自分的にももちろんいま、たとえばR.ケリーの曲を昔と同じように楽しく聞けって言われたって、そうはいかないよっていうのは当然のことで。だからもちろん「R&B馬鹿リリック大行進」、扱っていたのはR.ケリーだけじゃなくて。あと全てのエロソングを歌っている人がもちろんR.ケリーみたいな人ばっかりじゃないから。エロソングそのものが悪いわけじゃないし。なので、まあ今後「あの企画はもう二度とやりません!」とかそういうことじゃないけど、ただまあ「R師匠!」とかって言ってウヒャウヒャ言っているような……。
(宇内梨沙)表に出てしまうと触れにくくなっちゃうし。
(宇多丸)だし、これはやっぱり忸怩たる思いと言うべきか……たぶん、R.ケリーに関しては僕だけじゃない。みんな、世界中の音楽ファンが「こいつ、でも本当はヤバいやつなんじゃないかな……?」って、ちょっとは……。
(宇内梨沙)歌詞から?
(宇多丸)歌詞とか、その都度その都度の疑惑というか、示談にはなっていたりしたけど、疑惑というか限りなく黒に近いグレーだなっていうのはみんな予感しながらの。だからこれはやっぱり、「見て見ぬふり」っていう言い方をしていいかはわからないけど。というようなところもあったりして。ただ僕、このドキュメンタリーを自分ではまだ直接見れていませんし、ちょっとまだこれをジャッジできるような立場ではないし。法的にどうなるか? みたいなのも全然これからの話なんですけど。ちょっと、一応そういう特集とかをやっていた身としてはこういうことがあったということを……僕もそこまで考えが整理しきれているわけじゃないんだけど。まあ、とりあえず、ねえ。「R師匠!(ウヒャウヒャ!)」みたいなのはもう二度とやらないし、できないなっていう感じはありますね。はい。というようなことがございました。
<書き起こしおわり>
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