荻上チキ 財務省・福田次官セクハラ問題 テレビ朝日記者会見後のコメント

荻上チキ 財務省・福田次官セクハラ問題 テレビ朝日記者会見後のコメント 荻上チキSession22

財務省・福田淳一事務次官の記者に対するセクハラ問題について、テレビ朝日が自社の記者が被害者だったと記者会見を行った件に対し、その会見後に速報的な形で荻上チキさんがTBSラジオクラウドでコメントをしていました。以下、そのコメントの書き起こしです。

(荻上チキ)ラジオクラウドをお聞きのみなさん、荻上チキです。こんにちは。いまは速報的に収録を行っています。4月19日の午前0時、東京都港区でテレビ朝日が記者会見を開きました。その会見の内容は、テレビ朝日の女性社員が財務省の福田事務次官からセクハラ被害を受けていたという内容のものです。また、その女性社員が上司に相談をしたという経緯がありながらも、報道が見送られていたというような事実も会見で明らかにされました。この記者会見の内容について、このラジオクラウドでは後半部分でフルでお聞きいただきたいという風に思います。その前に、僕自身の今回の会見を受けてのコメント手短に述べたいという風に思います。

まず現状としてはどういった状況なのかというと、テレビ朝日側と福田事務次官側とで発言が食い違っているということになります。これは被害を受けた側が被害を訴えている。それを会社が代弁しているという状況なのに対して、加害を行ったとされる福田事務次官は「そうした事実はない」と真っ向から否定しているという状況です。これは双方の言い分が出てきたという段階であって、まだ何かの事実が確定したという段階ではありません。検証が必要な段階ではあります。ただ報道機関……違う報道機関2社が報じるという判断をしたこと、検証をした上で報じるという判断したということはとても重い受け止めが必要なものですので、これについて福田事務次官、それから財務省の側からの説明というのは求められる状況になってるでしょう。

こうした前提を確認した上で、まず今回の会見についてなんですけれども。テレビ朝日が記者会見を開き、そして当事者本人ではなくて、報道局長や広報局長が代弁をするという格好を取ったこと。この対応自体はとても重要で意味のあるものだという風に思います。というのも、財務省の求めに応じる形で記者が名乗りをあげなくてはいけないという状況自体がすでに二次被害を増長するような状況だった。「それには当然乗れないよ」ということを、ひとつの姿勢をもって示すということをした。これはとても重要だと思います。

また、今回会見の中では繰り返しテレビ朝日は「自らの社員を守る」というような決意を発表してます。このこともとても重要だと思います。他方で、最初にその女性社員が「告発をしたい」という風に上司に求めた際に、上司が応じなかったということ自体はやはり問題です。この件について、テレビ朝日としては間違いを認めている。「不適切な対応だ」という風に認めているわけですが、その不適切さを認めるやり取りにも、いくつかの疑問点というものは残ります。今回、TBSラジオの澤田記者に私が質問を託して、その質問をいくつかテレビ朝日の方にぶつけてもらえるということがありました。

荻上チキが託した質問

その中では、「上司の処分や社内研修はどうするのか?」といったような質問や、「ネットで二次被害が起きると思うが、今回はなぜ報じることに踏み切ったのか?」。あるいは「財務省への取材を懸念してのことなのか?」「上司が男性なのか? 女性なのか?」。こうしたような質問を澤田記者が投げかけました。こうした質問が意図することというのは、要は「どうして上司が告発に応じなかったのか? そこを明らかにすることは、報道機関として重要だから」ということです。

で、この「『二次被害を恐れて報じなかった』という風に上司が判断した」とテレビ朝日は言ってるわけですが、しかしながら二次被害を恐れるというようなことで上司が発言を封じるということは、なかなかにちょっと考えにくいことです。というのも、本人が望んでいる。本人が合意している。にもかかわらず、その判断を上司が抑えるという格好になってしまっているわけですね。そこに対して、本当に二次被害の恐れだけだったのか? 他に忖度であるとか、あるいは取材が難しくなるといった上司側の都合、会社側の都合というものはなかったのか? このあたりが気になったわけですね。

会見では、この質問に対して「重点」というような言葉が出てきました。「二次被害のおそれがあるので見送った。そこに重点がある」というような言い方になっていたんですが、では二次被害のおそれがあるだけではなく、他の判断も含まれていたのではないか? このあたりはとても重要なポイントだという風に思います。具体的に取材をする、その取材対象からネタをもらう。特に相手が権力者であった場合に、そうした対象から取材を受けてもらうことはできなくなる。これはメディア、ジャーナリストにとっては痛手です。特に「他の記者が取材できてるのに、特定のメディアだけか取材できていないという状況は避けたい」というものが多くのメディアの考えにはあります。

しかし、だからといって人権侵害、ハラスメントということを放置しておいてはいけない。むしろ、そうしたことを放置してはいけないからこそ、メディアがジャーナリズム活動、取材活動を行っているはずなんですね。ですから、このあたり。「二次被害のおそれがあるので上司が見送った」という説明だけで本当に全てなのか? そのあたりは是非テレビ朝日に、より詳細な調査というものを行ってほしい。そしてその調査を生かした上で、社内の対応をしっかりと検証してほしい。具体的な様々な研修活動のなどにもつなげてほしいという風に思います。

それから記者会見の中身でいくつか記者側の質問で気になったやりとりがありました。それはですね、記者の側がしきりに、「今回録音したのが取材目的なのか否か」。あるいは、「相手に許諾を取っているのか否か」ということを確認していたということですね。これはとても不思議なやり取りでした。意味は分かります。メディアというのは相手に取材をする際、話を聞く際には最初に「録音していいですか」ということを聞くことはひとつのエチケット、マナーということになっています。また新聞記者などは、特にレコーダーをいまでも回さずに、あくまでメモを取る。あるいはその場で話を聞いて、後で忘れないようにメモを取る。そうした仕方でインタビューするという手法がひとつの方法になっているということはわかります。

セクハラ被害で会話を録音することは合法

でも、それは法律の話とは違う、あくまで取材手法の話です。法律としては、セクシャルハラスメントの被害にあった人、パワーハラスメントの被害にあった人などがその被害をしっかりと記録をするために録音すること、これは何ら違法ではありません。合法です。ですので、この記者会見でのやり取りを見た人が、「ああ、録音してはいけないんだ」という風に誤解してはいけないなという風に思いました。なので、繰り返します。「身を守るために録音することは合法である」。こういったことは、各メディアもむしろ積極的に取り上げる必要があるという風に思います。それから、ニュースコメントでもね、メインセッションの後にちょっとコメントもしたんですけれども、WEB上で二次加害というのが起きると思います。というか、既に起きているでしょう。

そうした書き込みを見た場合には、絶対にリツイートしてないでほしい。黙ってそのアカウント通報したりする。そうした通報を受けて、ネット企業もしっかり対応してほしいと思います。「今回、記者が事務次官に対して行なった取材ではないか。取材目的なんだから……」とか。あるいは、「一対一なんだったら、そうしたようなシチュエーションだと誤解されてもしょうがないだろ」とか。あるいは「罠にかけてそういった発言を引き出したんじゃないか」というような書き込みがもしあったとしたら、それは典型的な二次加害なんですね。そうしてはなこと拡散すること自体も、被害を拡大する。むしろそうした書き込みが出てくるだろうと思うからこそ、多くの人たちは告発できずにいるわけです。

だからWEB上での二次加害に加担しない。二次被害を産まないようにする。そうしたような形で意識するというも、今日からできるひとつの「Metoo」なのかなという風に思います。そして「Metoo」、つまりセクシャルハラスメントなどをなくしていこうという運動の観点に立つならば、あるはムーブメントの観点に立つならば、テレビ朝日という大企業の対応に対して批判的な視点を持つということはもちろん重要です。でも、それを「テレ朝叩き」に矮小化してはいけないわけですね。今回は財務省の対応やテレビ朝日の問題。それぞれの問題というのは当然あるわけですが、そもそも「Metoo」のゴールというのは、「社会から理不尽さを共に無くしていこう」というようなムーブメントのはずなんですね。

Metooムーブメントの理念

それを「財務省、あるいはテレビ朝日や新潮、さてどっちが正しいのかを見守ってやろう」といった姿勢ではいけないわけです。あくまでこういった告発を受けて、「では自分の企業ではどうなのか? 自分の身の回りではどうなのか? 一緒に、共になくすことができないか?」ということを考えていくということが重要になるわけですね。もちろん今回の一件を受けて、財務省はどう対応するのか? 他の報道各局はじゃあ、局内での調査はどうしていくのか? そうしたこともより問われてくる出来事だと思います。でも、そうしたものを高見の見物していられる人は誰ひとりいない。誰もそうした立場にはいない。全ての人が当事者として、なくしていくためには「じゃあ自分の経験はどうだったか? これからどう気をつければいいのか?」。そうした議論につなげていくということが必要だと思います。

というわけで速報的に今日の記者会見を受けてコメントをしましたけれども、またラジオの放送の中でもこのニュースについては取り上げたいと思います。また、こういったハラスメントなどを巡る問題についても、引き続き『Session-22』の中で色々な角度から取り上げていきたいと思います。それは記者会見の模様をお聞きください。

<書き起こしおわり>
https://www.tbsradio.jp/244737
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