荻上チキ 聖マリアンナ医科大入試差別問題・第三者委員会報告書を語る

荻上チキ 聖マリアンナ医科大入試差別問題・第三者委員会報告書を語る 荻上チキSession22

荻上チキさんが2020年1月20日放送のTBSラジオ『荻上チキ Session-22』の中で聖マリアンナ医科大の入試差別問題についてトーク。第三者委員会の報告書の内容を紹介していました。

(荻上チキ)さて、月曜日ですけれども。月曜というのはどんな曜日かと言うと、週が始まる曜日なんですが。逆に言えば、金曜日とか土曜日はですね、週が終わる曜日ですよね。

(南部広美)閉じるというか。働く方のそのスタイルにもよるかもしれないですけどね。「火曜スタートです」とかっていう人とかもいるでしょうし。

(荻上チキ)そうですね。で、この曜日って実はニュースを取り扱う番組においては結構大事なもので。というのもですね、たとえばあるニュースが取り上げられました。でもそれが金曜日に発表されました。となると、間に土日を挟むので、月曜日に取り上げるか取り上げないかって結構重要になるんだけど、月曜日には古いニュースになっていたりもするので、ラインナップに入らないことがあったりするんですよね。

(南部広美)「ニュース」ですからね。

(荻上チキ)そうなんですよ。ということも含めて、いろいろな問題が何曜日に報じられるのか?っていうのはすごく注目をした方がいいですよということは最初に述べておきたいと思うんですが。金曜日に取り上げられた出来事で、これは真面目にもっと議論した方がいいよというやつをちょっとオープニングトークで今日は触れたいと思うんですが。それが何かというと、聖マリアンナ医科大学の調査報告書というものが先週の金曜日にウェブサイト上で発表されたんですね。で、これは何のことなのかと言うと、昨年非常に大きな問題となってた……いや、2年前に明らかになった問題で。医大、医療系の大学でね、大学入試の際に女性やあるいは浪人生。三浪以上の人とかね、そうした人たちに対して減点措置を行うような差別が行なわれていたということが明らかになりましたでしょう?

(南部広美)はい。問題になりました。

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(荻上チキ)文科省の問題にもなったし、それから各大学の問題にもなりました。で、各大学の女性入学者の比率を見ると、どうもここはバランス悪いなとされているような大学もいくつかあって。そういった大学でも「いや、うちは別にそんな差別を行なっていません。たまたまです」という風に言っている大学もいろいろあったりもする。

(南部広美)「各大学で調査をしてください」ってなったんですよね。

(荻上チキ)なったんですよ。で、その調査をした段階では「問題ないよ」っていうような報告を文科省にしていたんだけれども、「いや、もう1回調査をしてよ」っていうようなことを言われていたという。「ちゃんと調査しなよ」っていう風に文科省から再度言われて。それで「第三者委員会による調査を設置するように」っていう風に文科省から言われたという、その大学のひとつがこの聖マリアンナ医科大学なんですよね。

で、昨年の12月中頃に第三者委員会の報告書が出て。それから1ヶ月ほど経った先週の金曜日にその報告書の中身が発表されたわけです。で、発表されたと同時に大学としてのメッセージが出されたんですね。それで、大学としてのメッセージはまずこうです。「大学の組織的関与によるものではないが、一律の差別的取り扱いが認められるとの趣旨の結論が報告書で示された。本学といたしましては一律機械的に評価を行なったとは認識しておりませんが、かかる報告を踏まえ、意図的ではないにせよ属性による評価の差異が生じ、一部受験者の入試結果に影響を及ぼした可能性があったとの認識に至りました」っていう風に言っているんですね。

報告書を受けた大学側のメッセージ

つまり、「別に女性だからっていう風に点数を操作したというような自覚はないし、そういったようなことを意図的にも行なってはいないが、結果的に属性による評価の差が生じた」ってまず、報告書を受けてのメッセージを出したわけなんですよ。

(南部広美)はい……。

(荻上チキ)まあこの段階でちょっと「おやおや?」っていう感じなんですけど。

(南部広美)全く腑に落ちないんですけどね。今の説明を聞いてても。「ええ? 『意図的ではない』けれども、でも……?」って。

(荻上チキ)はい。「意図的ではないし、機会的でもないが、でも結果的に属性による差が生じました」っていう風に言ってるわけですよ。

(南部広美)じゃあ、何が働いたんですか? 結果的に。

(荻上チキ)そこです。そこを検証してるのはこの報告書なんですよね。で、この報告書はですね、読むと結構その第三者委員会の報告書としては踏み込んだ調査をしたなって感じられるものではあるんですよ。というのも、いろいろ弁護士でなおかつ、いろいろな場所で働いてきた経験のある方を3名、委員に選んで。またその調査補助として複数の弁護士などに声を掛けて、いろんな調査を行なった。で、そのいろいろな調査というのはここ数年間の大学入試の採点に対してどういった採点がなされていたのか?っていうことを探るという。

第三者委員会による踏み込んだ調査

で、この探る段階において結構重要だったのが「フォレンジック調査」といって、大学の関係者や職員のパソコンに含まれている、たとえば電子メールであるとか。あるいはその他の様々なデータというものを可能な限り復元して。できる限り復元して、それらをレビューしてチェックをしていって。そこには弁護士だけじゃなくて、データ研究の専門家の人にも手伝ってもらうっていうことをして。そのことで昔、作っていたエクセルファイルとか、あるいは昔、やり取りしていたメールとか、いろいろなものが復元されたということになるわけですね。

(南部広美)できるんですね。復元が。

(荻上チキ)そうしたようなデータと、それからヒアリングを重ねることによって、さまざまな調査を重ねていったということになるんです。で、その結果がどういったものなのかということを話す前に、この大学では一次試験と二次試験があって。それで一次試験、二次試験などのたとえば数学はこうですよとか。それで二次試験は面接とか小論文があるんですけれども。そうしたようなものに対してはだいたいこれぐらいの点数を付けますよっていうようなことが明記されているんですね。100点満点とか200点満点とか。

でも、それ以外に二次試験に行く段階でね、志望動機を書く志望書と、それからその人の具体的な背景みたいなものを探る調査書っていうものがあるんですけれども。それを参考にするっていう風に試験の方針の中では書かれているんですね。「参考にする」という。ただ、この調査をするその調査書、あるいはその志願書のその採点の結果はこれ、数字としてデータとして残ってるわけです。このデータというものをいろいろと突きつけていく、突き合わせていくと、どうも頻繁に出てくる、点数が集中する点数帯っていう風に言うんですが。男性の点数はこのあたりに集中してます。女性の点数をこのあたりに集中していますというその点数がどうも偏っているねと。

たとえば、ある年、平成28年の入試で、この年は最高得点が80点。80点満点なんですけども。現役の男性の方は「61点」に集中してるんだけれども、女性のは「42点」に集中しているわけです。これは調査書と呼ばれるものの点です。試験ではないです。で、その試験の点数ではなくて調査書という「こういう風に大学に入りたいです。こんなことを学生の間にやってきました」っていうような、そういう書類に対する評価の点数が大きくわかれてしまっているということが、まず点数をソートするだけでわかってきたわけですね。

あとは、浪人をすればするだけその点数が低くなっていくということもわかっている。「これは何だろうね? なんか疑惑があるよね。こんなにきれいに毎年のように……翌年もさらにその翌年も男女でこの調査書や志願書の点数が大きくわかれるのは不思議だよね」っていう。平成29年の160点満点の時は男性は「144点」に集中しているんだけれども、女性は「84点」に集中している。およそ60点差です。で、その翌年の平成30年。こちらはまた別の試験結果、180点の場合の点数分布に関しては、男性が「164点」で女性が「84点」。80点も差があるよねっていうことが言われているんですよね。データ的に。

統計的に怪しい点数分布

で、このデータだけを見ると、「統計的に怪しいな。なんでこんなに男性と女性の試験の結果ではなくて志願書や調査書性という、それまで何してきたのかっていうことと志望動機を採点するものの点数で大きく差が開くんだろうか?」っていう疑問が出てきますよね。で、さらにこのフォレンジック。データを復元して行なった調査の中で、エクセルファイルが出てきたんです。エクセルっていろいろな項目を付けられるじゃないですか。「点数を何点つける」とか。「この人はどんな人か」とかってわけることができるんですが、そのエクセルシート中に「男性調整点」っていう記載がされていたんですよ。

たとえば平成28年の入試の場合に、その男性調整点という風に書かれている枠のところには「19.0」っていう数字が書かれていたんですね。で、先ほどの数字に戻ります。平均で平成28年の男性と女性の点数差を見てみると、男性と女性の間に「19点」の差が出ているということがさっきの第一段階の調査でわかっている。で、ファイルを探ってみると、まさにその「19点」を引くためのエクセルファイルの男性調整点っていう点数のシートがあって。「あれ? まったく同じ19点だ。しかも男性調整点と書かれている。何じゃ、こりゃ?」っていうことになりますよね。

(南部広美)なりますね。それは。

(荻上チキ)ただ、「この志願書とか調査書に関しては大学の採点者はあくまで総合的に判断をしていて、何か属性とかそうしたようなものでは判断をしていません」という風に述べていたんです。「たとえばやる気とか適正とか、どんな活動をやってきたかとか。あくまでそうしたものを分析してきた結果が調査書に対する採点になっているから、男女差別なんて行なっていません」っていう風にヒアリングの際には述べていたんですね。そこで、さらなる調査を行なっているんですよ。この第三者委員会は。そのヒアリングの場に採点に関わった人に来てもらって、その調査書がどんな人の調査書か?っていうところは全部隠して……つまりこれが男性のものなのか、女性のものなのか。浪人生なのか、そうじゃないのか。

そうした、いわゆる属性を隠して……「ブラインドテスト」って言われたりしますね。そうした属性を隠して「今、ここで採点してください」ということで、その採点をやり直してもらったんです。そうしたら、実際に試験の時に採点をした点数と今回、やり直しで属性を隠して採点をした点数の間には大きく違う点があったという。その大きな違いというのはどういうことかというと、とりわけ実際の試験では点数が低い評価であったはずの女性や浪人生の調査書というものが今回の抜き打ちテストでは高くなる傾向があった。実際のテストで採点した時よりも高くなる傾向があった。

どういうことか、わかりますか? つまり、本当に属性とかを抜きにその志願書とかの中身だけを採点してもらったら、実際に使われた点数以上に点数が上がった。つまり、客観的な評価だけをやり直してもらったならば、本来はもっと点数が高くなったはずにも関わらず、なぜかその数年前の試験の時には低く採点されてしまったということが起きてしまったんですね。で、なおかつさらに、報告書の中ではさらなるデータが出てきて。入試委員長がそのスタッフとやり取りをするメールの中に受験生の合否判定について「現浪という区分であったことを差し引いても云々」っていうことが書かれてたんですね。

「現浪という区分であったことを差し引いても……」

それで「現浪」っていうのは何かというと、現役の「現」に浪人の「浪」。つまり、「現浪という区分があったことを差し引いても合格圏内……」っていうような文言を使っているということは、普段から現役と浪人のそれぞれ別のカテゴリーに分けて。それで点数を操作してたんじゃないかということを疑わせるやり取りがあったということになるわけです。

で、「こういったことを総合的に考えて、一律の差別的取り扱いが行われたものと認めざるを得ない」という風に報告書では示されたんですね。つまり、男女の点数の差があった。しかもこの点数は試験の差じゃないですよ。志願書や調査書と言われる、どんなことをがんばってきたかという、まあ内申書に近いようなものだと思っていただけばいいんですけれども。

(南部広美)それをどう、点数で評価するのかすら、ちょっと疑問。動機を。

(荻上チキ)そうですね。でも、その動機の付け方はたとえば「大学の理念を理解しているか」とか、「パンフレットの丸写しになっていないか」とか、そうしたようなことを調査しましたっていう風に言っているんだけども、それで男女でこんなに差がつくのかな?っていうことが当然、疑問としてあったわけなんだけれども。でも結果として見てみると、その点数付けにも差があったし。何か男性調整点っていうものとか、浪人生への調整点っていう数字もあるし。結果としてメールも出てくるし。

それで今、目の前でその調査書を採点し直してもらうと、明らかに当時より女性の点数は上がってるというようなことが諸々積み重なってきたんですね。で、これはクロだろうということで、この第三者委員会の報告書の中では「差別的取り扱いが行われたと言わざるを得ない」と結論付けたわけです。なぜこのような言い方になったかというと、ヒアリングをした試験担当者が「いや、そんなことはしていない」という風に最後までずっと突っぱねてるんですね。だから「これは認めざるを得ない」っていう風な言い方になっている。「あった」とは断言できない。報告書を書いた第三者委員会は。

「差別的取り扱いが行われたと言わざるを得ない」

でも委員たちはこういった経緯を見て「どう見てもあったでしょう?」ということは突き付けているわけですよ。外形的な根拠、周りからのいろんな証拠を見て、「これが人為的でないわけがないじゃん?」っていう風に言っているわけですね。で、それを受けた上でなぜこうなったのかという分析や再発防止策というものをこの中で書かれていて。試験の透明性とか諸々を確保しましょうねっていうこととか、あるいはその大学としてむしろ医学会、医療関係者の間にも男女差別があるということが厳然として認められるわけだから、それはむしろ率先して改革をしていくリーダーになる必要があるじゃないかっていうようなことを述べているわけですね。

このやり方ってかなりある意味で学問的というか。数字から浮き彫りにして。もちろんデータ復元からもそうなんだけれども、元の資料に当たって。それでヒアリングも行なって……っていう、その複合的な調査ですよね。こういったような調査で一定の結論が出たというのはかなり固い現実だと思うんですが、大学側はそれをどういう風にしているかと言うと、先ほど冒頭にも読み上げたものをもう1回、読みますね。

「一律、機械的に評価を行なったとは認識していませんが、かかる報告を踏まえ、意図的ではないにせよ属性による評価の差異が生じ、一部受験者の入試結果に影響を及ぼした可能性があった」という風に言ってるわけです。これは、認めているのかな?っていう風にまず、思いますよね。で、その後に「こういう風に対応します」ということで、「受験された方々に対して、入学検定料の相当額を返納します」ということ。それで「これからは透明性をますます図っていきます」っていうようなことを言ってるわけですよ。

でも、この報告書が出されたから、たとえばネットなどでもね、「自分はもともと受験をした」とか「自分の姉や家族が受験をした」とか。そうした人たちが、たとえば試験に落ちた時にどれだけショックだったか。めちゃくちゃ頑張って、模試とかではすごく評価が良くて・後で試験内容を発表されて採点し直してみてもいい点数だったのに落ちた。「ああ、他の合格者たちは自分よりもっと上だったんだな」っていうことを感じて、自分の不勉強さを恥じたりとか。あるいは志望校変えたりとか、志望する職業を変えたりとか。そうしたようなことをした人たちがたくさんいるわけですよね。それは受験料だけの損失では当然ないわけですよ。

(南部広美)まさにそう思いました。

(荻上チキ)その人生をかけたもの。あるいはその尊厳。いろいろなものを踏みにじられているということになるわけです。しかしながら、この大学側の声明というのは「意図的ではないにせよ」とか、あるいは「機械的に評価を行ったとは認識しておりませんが」っていうことが書かれていたりとかね。それで「じゃあ検定料は返します」っていうような形になっているわけだけれども。「いや、検定料だけで済むかな?」っていう。他の大学はこのような事実認定などを踏まえて。こういった入試差別を踏まえて今、裁判に発展したりもしているんです。当然だと思います。なぜならばそこで踏みにじられたものというのは受験料だけではないから。行った交通費とか、そういったものだけですか? いや、そうではないでしょう?

(南部広美)金額に直せないものたちがたくさんそこにはあるもの。

(荻上チキ)そう。だから大学という機関は率先して社会の様々な問題を学問的に浮き彫りにし、それを改善するため英知というものを世の中に発信するものだと思うんです。僕はそう信じています。ところが、それに反するようなことを堂々とこのような形で発表されてしまうことにも非常に頭が痛い状況になっていますね。

(南部広美)悔しさを覚えますけど。

(荻上チキ)で、この案件を踏まえて、こういった報告書を踏まえて、「さて、じゃあ他の大学ももっと調査しなくちゃいけないんじゃないですか?」とか、あるいは国会とかでもいろいろな大学改革とか、諸々を進めなくちゃいけないんじゃないですかとか。これは大学の自治の侵犯とか、そういったことじゃないですよ。ただ透明性などの確保とか、そうしたことは重要じゃないかとか、そういうような議論をもっとする必要があると思うんです。で、月曜日。

今日はこのニュースがあまり取り上げられてなかったように思うので、ちょっとたっぷりオープニンから報告書を取り上げたんですが……この報告書、なんとですね、ウェブサイトの方にリンクが紹介されているんですが。グーグルドライブというところに保存されたものが公開されているんですが、これはダウンロードも印刷もできない仕様でアップされているんです。なので私は1個1個、キャプチャーを取って。それをプリントするというやり方をしたので。これ、印刷の画質が荒いでしょう?

(南部広美)ああ、本当だ! えっ、普通にダウンロードしてプリントしたのかと思った。

(荻上チキ)できないんですよ。ねえ。

調査報告書はダウンロードもプリントもできない

(南部広美)ああー。

(荻上チキ)というような、フルスペックのまずさがこういう風に表れてしまっているなとも思ったので、そうした情報公開のやり方も含めて大学機関が範を示しましょうよっていう風に思うんですよね。

(南部広美)本当にその通りですね。愕然としちゃった……。

(荻上チキ)というわけで週の頭から愕然とするような出来事ではありますが、まずは共有した上でこれからの問題として取り上げていきましょう。考えていきましょう。

<書き起こしおわり>

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