松本俊彦と荻上チキ 若者の処方薬・市販薬の依存・乱用問題を語る

松本俊彦と荻上チキ 若者の処方薬・市販薬の依存・乱用問題を語る 荻上チキSession22

荻上チキさんと松本俊彦さんが2023年11月21日放送のTBSラジオ『荻上チキ・ Session』の特集「大麻グミに大学生の逮捕、取締法改正案…大麻をめぐる現状と行方」の中で、現在特に若者の間で流行している処方薬・市販薬の依存・乱用問題について話していました。

(南部広美)今夜の特集は大麻グミによる体調不良や大学生の逮捕が相次ぐ中、大麻取り締まり法改正案が衆院を通過。大麻を巡る現状とゆくえ。ゲストは、精神科医の松本俊彦さん。リモートでご出演いただいています。松本さん、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

(松本俊彦)よろしくお願いしますします。

(荻上チキ)さて、大麻などいろいろな薬物が注目されることも多いですが。実際にその依存の様々な対策をしている現場の方からは「処方箋依存とか市販薬依存などについて丁寧に取り扱ってくれないか」ということをしばしば聞きます。まず松本さん、この処方箋依存。それから市販薬依存。これはどういったものなんでしょうか?

(松本俊彦)はい。処方箋依存というのは病院でお医者さんから処方されて手に入れるお薬ですね。今、医薬品……睡眠薬や抗不安薬みたいなものがあります。それから市販薬は病院ではなくてドラッグストア、あるいはインターネットなんかで入手することができるお薬のことですね。いずれも医薬品として……違法薬物と違って、1回やったら人生破滅とかじゃないことを多くの国民が実体験的に知ってる薬剤ですね。役に立つ部分もあるという、そういう薬ですね。

(荻上チキ)なるほど。それらに対して依存するというのは、どういった状況を指し示すんでしょうか?

(松本俊彦)はい。量的にも、使用法的にも逸脱した使い方。で、その使用目的も本来の医薬品が持っているや目的とは異なる目的で……たとえばハイになるためとか、嫌な気持ちを忘れるため。あるいは死ぬためとか、こういった形で使ってしまっている。で、この状態を自分でも問題があると思っていても、やめることができない。コントロールすることができない。このような状態が処方箋依存であり、市販薬依存です。

(荻上チキ)実際にこの処方箋依存や市販薬依存というのは、増えているんでしょうか?

(松本俊彦)増えていますね。特に今、処方箋依存に関しては危険ドラッグが終焉した後からうんと増えておりますし。それから市販薬依存は本当にこの2、3年、数年ぐらいですか。劇的に増えています。そして我々の病院に来る患者さんのおよそ半数は処方箋や市販薬の依存症である。我々としては実は大麻よりも遥かにこちらの方が治療上の問題になってるという風に思っています。

ここ数年、劇的に増えている市販薬依存

(荻上チキ)これはコントロールできなくて、量をたくさん飲んでしまうということなのか。それとも、いろいろな薬で得られるような効能……たとえば先ほど話したハイになるなど、そういったものがやめられないということなのか。これはどういったことなんでしょうか?

(松本俊彦)多くの場合は、気分をコントロールするためですね。つらい気持ちを紛らわすため。死にたいぐらいつらい今、ちょっとだけ死ぬことを延期するために使ってる。なにもかも忘れたい。今、こういう患者さんが特に10代、20代で非常に多いんですね。特に10代というですね、これからの日本を担う若い世代を見てみると、10代の患者さんの7割弱。65%。そのくらいがですね、市販薬っていう状況なんですね。危険ドラッグのピークだった時よりも10代の患者さん倍ぐらいに増えているんですね。そのほとんどが市販薬という状況です。

(荻上チキ)なるほど。となると、依存について議論をする場合では、日本では今、メジャーなのが市販薬依存なので。ここについて議論することが本来は必要になるわけですか?

(松本俊彦)私はそうだと思います。

(荻上チキ)これ、市販薬などの依存を続けると、体にはどういった影響が出るのか。あるいは精神やコミュニティーなどについてはどうでしょうか?

(松本俊彦)市販薬。そういう製品によって入っている成分が微妙に異なるんですけれども。非常によく使われてるものなんかだと、たとえば覚せい剤原料が微量入っていたり。それからオピオイド……モルヒネに類似したようなオピオイド類が微量、入っていたりもします。それからあと、幻覚を引き起こすような物質も微量、入ってるようなお薬もあります。まず、これは依存性があるので、なかなかやめることができないだけではなく、量がどんどん増えていく。そしてそれを急に中止すると、結構きつい離脱症状が出てきて。これがまた、その離脱の時に気持ちが落ち込んだり、死にたい気持ちが余計強くなったりすることがあります。さらに、その鎮痛・解熱の成分として入ってるものが肝臓とか腎臓に結構ダメージを与えるんですね。そういう意味で、内臓障害も無視できない問題だと思っています。

急にやめるときつい離脱症が出る

(荻上チキ)オピオイドなどについてはアメリカなどでとりわけ非常に大きく問題視されてますし。たとえばアメリカですと、ADHDの方に向けたお薬が今度は、大学でスマートドラッグ扱いされて。「賢くなる薬」のような感じで勉強や、あるいは資格を取る方とか、仕事をする方に過剰摂取されているような状況というのがある。これはアメリカのケースですけれども、日本でもたとえば、ある特定の薬が流通してしまうということもあるんでしょうか?

(松本俊彦)ありますね。市販薬の中でもいわば、行きたくない学校を何とかする。やりたくない勉強を何とかやるために、その市販薬を使ってるっていう方たちもいます。やはりアメリカの場合も日本の場合も共通してるのは今、薬物乱用のエピデミックとなっているのは違法薬物ではなくて、合法薬物なんですね。アメリカのオピオイドクライシスも医薬品として処方されてるものが非常に乱用されている。そして多くの死傷者を出してるんです。基本的には薬物乱用のエピデミックっていうのは捕まらない薬物で起こるってことを我々、認識しておいた方がいいかなと思いますね。

(荻上チキ)なるほど。パンデミック……国際的な爆発感染については非常に知られてますが。エピデミックは地方感染ですよね。地域ごとでの流行などについては、こうしたその合法薬物。しかも、それは違法化することが推奨されものでは全くないような薬物について広がってるということです。これ、いろいろな合法の市販薬依存であるとか処方箋異常については、いわゆるそのオーバードーズ……過剰摂取だけじゃなくて、目的外使用であるとか、あるいはそうした薬を手放せないこと。結構広くまで「依存」ということになるわけですか?

(松本俊彦)そうですね。依存という風にまとめてしまうのは本当は乱暴な感じもするんですけれども。でも広く「乱用」という風に言うとですね、いろんな様態を含む言い方になるのかなと思います。

(荻上チキ)最近、お薬の資格の勉強してる方というか、その分野の方の教科書を読んだんですけれども。ネット上で掲示されていたのを読んだんですが。不適切な処方がされやすい薬がいくつかある。その中のその上位いくつかを見た時に、まんまと私が飲んでる薬にほぼ、当てはまったんですね。ある抗不安薬と、向精神薬。うつ病対策のやつと、あとは胃薬としてよく出されるやつ。「これ、ずっともらってるな。飲み続けてると安心だからっていうことで飲み続けちゃってるけれども、でも、やめることを考えてなかったな」っていうような、私のような人も含めて、これは依存ということになるのか。それとも不適切使用はまた別途、乱用という格好で議論するのがいいのか。これはどうでしょうか?

(松本俊彦)僕はですね、これ、大事なことは乱用されている医薬品でも、それを適切に使うことでメリットを得ている人がたくさんいるんですよ。だからその薬物に対して「ダメ。ゼッタイ。」っていう風にしても、絶対に問題は解決しないんですね。それが逸脱的な使い方になってしまう背景には何があるのか?っていうと、やっぱりいろんな心の痛みというか、メンタルヘルスの問題があるんですよ。だから、日本の薬物対策の問題点は「薬」というものの管理規制ばっかりに夢中になっていて、「痛みを抱えた人のサポート」という観点がちょっと抜け落ちてるという風に思っています。で、荻上さんの場合には治療薬として十分機能しているので、どうぞそのまま飲み続けておいてください(笑)。

(荻上チキ)ああ、なるほど。わかりました。ありがとうございます。ただ、私の場合は私の場合ちゃんとした主治医を今、精神方面で見つけられていないという。引っ越しによって主治医と離れてしまったっていうところなんで。そこは頑張って見つけてみたいと思いますが。

(松本俊彦)ぜひ。よろしくお願いします。

(荻上チキ)ただ、そうしたたとえば市販薬や処方箋などによって様々に自己対処するという。ある種、自己的に対処するというのは医薬関係者などに適切に繋がりきれていないという現状もあるんでしょうか?

(松本俊彦)はい。全くその通りです。ある意味、若年者に限って言えば、処方薬を乱用する方よりも、市販薬を乱用する方の方がより深刻だと思っています。未成年が医療機関に行くためにはやはり、親から保険証を借りる必要があります。だから周囲の大人に既に相談できています。ところが市販薬を使ってる子たちは、親にも学校の先生にも相談できず、友達も相談できず、自分のお小遣いで買える市販薬を使って、心の痛みを鎮痛しようとしているという点が問題だと思うんです。それだけ孤立が深いですし、援助のSOSを出す力が弱いという風に言うことができるかなと思います。

(荻上チキ)となると、子供だけでかかれる医療のあり方であるとか、そもそも相談しやすい方、あるいは親抜きでも医療機関などに対して付き添ってくれる人など、いろんなアイディアを本来は考えることが必要なわけですか?

(松本俊彦)はい。それが必要ですし、あと大人の側も、あるいは学校のスクールカウンセラーや養護の先生たちにもお願いしたいのは、市販薬のオーバードーズを「ダメ。ゼッタイ。」と言ってる限りは、その子たちはそこには相談に来ないということなんですよ。「いいことではないけれど、なにか困ってるよね?」っていう目線で話をまず聞くところからやらなければいけないと思ってます。

(荻上チキ)これは松本さんも本の中で、たとえばリストカットなど、ある種の自傷行為などについては、すぐさまそれをやめさせるということは逆効果だということを指摘されてますよね。

(松本俊彦)はい、そうです。特に市販薬の場合は、急にやめると本当にバランスを崩すこともあるので、丁寧にやめていくことが必要です。

(荻上チキ)たとえばリストカットの場合ですと、リストカットの置き換え……たとえば、ちゃんとカッターは消毒してるのか? あるいは、そういったものを別の痛みに置き換えられないか? だんだん、カードを押し当てるだけにするとか、徐々に輪ゴムでパッチンと痛みをあげるとか。ちょっとずつスライドさせていくということもありますが。市販薬依存の場合は、どうでしょうか? やはり医療機関にかかることは重要になるんでしょうか?

医療機関にかかってゆっくり丁寧に減らす

(松本俊彦)はい。ぜひ、薬物依存症に詳しい医療機関にかかるということと、ゆっくり丁寧に減らしていくということを心がけてほしいです。もちろん、置き換えのスキルも必要なんですけれども。なかなかちょっと、リストカットの場合よりはですね、薬理学的な依存性みたいなものも関わってくるので、いささかちょっとことが複雑だという気がします。

(荻上チキ)となると、「これだとちょっと離脱症状とかが出ちゃったね。じゃあ、こっちの薬で少し緩和しながら、ゆっくりゆっくりしようか」みたいなことは、プロでないとなかなか難しいですか?

(松本俊彦)難しいと思いますね。やっぱり慣れないと……「一気に入院させて切る」っていう風な話になっちゃうと、すごく本人がしんどい思いして。結局、途中で病院を抜け出してしまうなんてことにもなりうるかなと思います。

(荻上チキ)これ、街中を歩いてると今でも「ダメ。ゼッタイ。」のポスターを見たりするんですが。一方で今、言ったような処方箋依存や市販薬依存についての啓発というものを街中で見ることはほとんどありません。この社会の取り組みについてはいかがでしょうか?

(松本俊彦)はい。もちろんですね、私が仄聞するところでは厚生労働省の中でいろんな会議が行われているということは聞いております。ただ、ちょっと気になってるのはほとんどが薬学の専門家や製薬メーカーの人とか、ドラッグストアチェーンの担当者。こういった薬の専門家たちだけが集まっていて、「薬を使わざるを得ない、生きづらい子供たちをどうサポートするか?」という議論が全くなされてないように思うんですね。これは課題だと思っています。

(荻上チキ)たしかに。これは当事者という者が参加する仕組みが少ないということと、とりわけ未成年や子供などが参加する仕組みというのが少ないということ。両方あるかと思います。また市販薬依存の場合ですと、処方箋依存と比べても、より経済的な打撃がとりわけ若者に訪れるのかなと思いますが。ここはいかがでしょうか?

(松本俊彦)はい。その経済的な打撃が訪れた結果、そこからですね、たとえば夜の飲食店みたいなところで働かざるを得なくなってしまったり。あとはもうちょっと軽微なものとしては、親の財布からお金を盗むとかですね、そういったちょっと逸脱的な行動に展開していってしまう場合もありますね。そこは本当に問題だなと思っています。

(荻上チキ)(ツイートを読む)「自分の小遣いで市販薬を買って対処するということを子供たちはどこから覚えるものなんだろう?」という風にいただきました。松本さん、いかがでしょうか?

(松本俊彦)はい。SNSの情報は大きいと思います。それは決して「SNSが悪い」と言ってるわけではありませんが、コロナ禍の中でリアルな人間関係が薄くなっていく中で、やはりSNSの情報というのは意識の中ですごく大きくなっています。今、情報はすごい勢いで、もう日本全土に共有される状況なので。やっぱりそういう情報はもう子供たちの方が詳しいんだっていう風に思って接する必要があるのかなと思います。

(荻上チキ)ではこれ、使用してしまっている当事者。処方箋や市販薬の不適切使用してる方で悩んでる方というのは、どういったところに繋がればいいんでしょうか?

(松本俊彦)僕は必ずしも薬物依存症の専門病院である必要はないと思っています。あと、こういった番組では必ず僕は「精神保健福祉センター」っていうことを言ってるんですけれども。10代の子たちが精神保健福祉センターにアクセスするっていうのは、ちょっと至難の技のような気がするんですよ。そこにワンクッション、間を置かなきゃいけないと思っています。だから僕は学校の中で養護の先生とか、スクールカウンセラーとか、相談できる人が間に1枚噛んだり。それから、自殺対策の文脈でのLINE相談、SNS相談とか、やっていますよね? 子供たちにとっては対面じゃない方が相談しやすかったりするかもしれません。そういうところも利用してほしいなと思います。そこで薬の止める相談じゃなくても……「生きるのがしんどい」という相談でもいいから、誰かと繋がることが必要かなと思います。

(荻上チキ)使用に向かわせる動機の方の相談も……ということになるわけですね。精神保健福祉センター。これは各地にあります。なので行ける方は、ぜひ。そして知識として知っておくことが重要だと思います。一方で、クッションとなる人はこれは通報義務はないこと。そして、そうした「やめさせる」ということではなくて、根本の悩みを聞く。あるいは聞くまでもなく、その場で安全な場所をひとまずは提供する。こういったことの重要さというのは、多くの人に知ってほしいですよね。

(松本俊彦)知ってほしいです。また、お子さんの市販薬乱用で悩んでいる親御さんたちはぜひ、精神保健センターにアクセスしていただければと思います。

全国の精神保健福祉センター|厚生労働省
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<書き起こしおわり>

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