松尾潔 ワー・ワー・ワトソンとババ・オージェを追悼する

松尾潔 ワー・ワー・ワトソンとババ・オージェを追悼する 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で名ギタリストのワー・ワー・ワトソン、そしてアレステッド・ディベロップメントのババ・オージェを追悼していました。

(松尾潔)さて、バックに流れてまいりましたテンプテーションズの懐かしき『Papa Was A Rolling Stone』。これはもう、モータウンの出入り業者の中では鬼才と言われましたノーマン・ホイットフィールドという……鬼才とも天才とも言われましたクリエイターによるテンプテーションズのマスターピースのひとつなのですが。

この曲で非常に曲の色を決定付けてる音色っていうのは2つつあって。ひとつはストリングスですね。細かい動きのストリングス、手がけてるのはポール・ライザー。僕も大リスペクトしておりまして。そのストリングスと並んで、この曲の攻撃性というのかな? 猥雑な感じ、混沌とした感じを醸し出してるのは、やっぱりギターサウンドかと思います。このギターを弾いておりますのは、ワー・ワー・ワトソンという人です。まあこういったギターのことを「ワウワウ・ギター」と言うんだっていうことを1回、番組で特集したことございますけども。そのワウワウ・ギターの象徴的存在でありましたワー・ワー・ワトソンが亡くなりました。

なんとまだ60代だったという。68歳ですか。それを聞いて僕、ちょっとびっくりしたんですけどね。まあ早熟の才というのはやっぱりあったんだなと思いますが。ワー・ワー・ワトソン、70年代、80年代、ハービー・ハンコックとの作品ですとか、クインシー・ジョーンズとのコラボレーションとか、名作は数多ございます。もちろん、マーヴィン・ゲイとのセッションというのも、もうこの音楽の歴史から消えることはないでしょう。

語り継がれていく、聞き継がれてく作品かと思いますが、『メロ夜』的にはやはり90’sというのがキーワードとしてございますので、そういった70年代の伝説的な演奏を踏まえた上で、90年代に残した名プレイというのをご紹介することで、ワー・ワー・ワトソンを追悼したいと思います。「哀悼」と言った方がいいかな? 1994年のエル・デバージの傑作アルバム『Heart, Mind and Soul』 の中から、そのタイトルトラック。ワー・ワー・ワトソンのギターなしには成立しなかった曲かと思います。聞いてください。エル・デバージ『Heart, Mind and Soul』。

El DeBarge『Heart, Mind & Soul』

Arrested Development『People Everyday (Metamorphosis Mix)』

先頃、惜しくも60代の若さで亡くなりましたギタリスト、ワー・ワー・ワトソンの生前の名プレイの中から、エル・デバージで『Heart, Mind & Soul』。1994年の名曲をお聞きいただきました。90年代に入って、ワー・ワー・ワトソンが仕事が再評価されたっていう感じもありましたね。いま、僕らは90年代ソウルのこと、90年代R&Bの再評価をしているように、90年代には70年代を振り返るような動きがあって。その時に、そういうムーブメントの最先鋒と言えたのが、たとえばエル・デバージだったりマックスウェルだったりしたわけなんですが。まあ、象徴的な出来事としては、マックスウェル、ブライアン・マックナイト、まあその後、20年以上にわたって活躍を続けるスターたちが90年代にリリースしたデビューアルバムでギターを弾いていたのがワー・ワー・ワトソンだったと。

僕が長年仕事を重ねている、我が国が誇る名セッションギタリストの石成正人さんという人がいますね。まあ平井堅バンド、あとはJUJUバンドのいま、バンマスとしても活躍してますけども。彼なんていうのはワー・ワー・ワトソンが好きすぎてね、まあ本名は「まさと」さんというもんですからね、一時は「マー・マー・マサトン」って言ってたぐらいなんですよね。もうできすぎた話ですけど、プレイまでそっくりになってたからな。それだけの人を生み出したという、そんなギタリストが何人いるか?って考えると、やっぱりワー・ワー・ワトソンって偉大だったんだなと思いますね。

そしてもう1曲、続けてお聞きいただきましたアレステッド・ディヴェロップメントの懐かしき、1992年の……四半世紀以上前ですよ。『People Everyday』だったんですが、なぜこの曲をこのタイミングでご紹介したかと言いますと、アレステッドといえば、画で思い浮かぶのが、まあフロントマンのスピーチ。そしてあの初期、めっぽう歌が上手い子がいる!って話題になったディオンヌ・ファリス。後にソロでデビューするわけですが。それともう1人、画としておじいちゃんが椅子に座ってるよねっていう。あのおじちゃん、何やってんだろう?っていう。ババ・オージェっていう人がいましたね。

デビューして数年、僕はスピーチと割とよく話す機会があったんですけど。「彼はどういう役割なんだ?」って言ったら、「我々のスピリチュアルなアドバイザーだ。彼がいないとアレステッドはアレステッドじゃないんだ」っていう話をよくしてましたけども。そのババ・オージェがね、先ごろ亡くなったですね。87歳だったということです。

私、びっくりしました。というのは、あまりババ・オージェの年齢を真面目に考えたことがなかったんですけど。「じゃあ、なに? 92年にアレステッドが出てきた時ってまだ61歳とか? ええっ!?」って。日本風に言えばまだ年金も受給していない年齢だったんですよね。それもおじいちゃん役だったんですけど。見事に老け役を務めていたということが言えるんじゃんでしょうか。はい。「お疲れ様でした」という風に申し上げたいですね。
<書き起こしおわり>

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