松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で快進撃が続くエラ・メイの『Boo’d Up』についてトーク。この曲が成し遂げた偉業を紹介していました。
(Jeremih&Ty Dolla $ign『The Light』の話からの流れで)そしてタイ・ダラー・サイン、ちょっととやさぐれた風情が売りのシンガーですが。このタイ・ダラー・サイン、いろんな人たちとの共演で名を売ってきた人なんですが、人脈としてはDJマスタード……まあ、最近は「DJ」っていうのを付けてないですね。マスタード、売れっ子プロデューサーですね。彼の一派の頂点に君臨していると言ってもいいんじゃないでしょうか。で、そのままスタートといえば……もうこの話の運びでおわかりかもしれませんけれども、エラ・メイですよね。
もうマスタードサウンドはこの数年、トレンドになってました。80年代、それも前半のジャム&ルイスを思わせるとよく表されますが、この夏の時期に聞くと取り分け涼やかに聞こえますが。1年を通して、もうすぐに夜に誘ってくれる、そんな魅力のある大人な、まさにメロウなサウンドなんですが。
タイ・ダラー・サインはエラ・メイが世に出るにあたって大変な支援をしてるといいますか。まあちょっとお兄さん的な感じでイギリス人性のエラ・メイをアメリカに広めるのに一役買ったという感じです。で、エラ・メイなんですが、そのタイ・ダラー・サインやマスタードたちが一緒になって盛り上げてきたのが結実したのが今年なんですが。まあ2年ほど前からタイ・ダラー・サインもね、エラ・メイの曲で共演して。一緒にビデオに出たりもしておりましたので、まあこの番組のご紹介し始めたのは去年からなんですけども。それ以前から、知る人ぞ知る存在だったと言えましょう。
で、最近になってね、エラ・メイのことをよく調べたら、もっと前ですね。2014年ぐらいですか。デビュー前のエラ・メイの動画っていうのがいま、ネット上のサイトで見ることはできますね。『The X Factor』っていうコンテスト番組あります。その日本版の審査員を僕はやってましたから、その番組のシステムについては熟知してるつもりなんですが。そこにエラ・メイは女性3人組の一員として出てるんですよ。それをいま見てみると、3人の中で一番おとなしげというか。中心人物には見えない。ただ、いまね、もちろんエラ・メイってわかって見ていますから。「ああ、このちょっと一歩引いた感じっていうのがいま、受けているんだな」ってことも分かりますし。非常に興味深い映像なのでみなさんも動画サイトでご確認いただければと思いますが。
まあ長い時間をかけて浸透した魅力であるが故に、これだけのロングヒットになっているというのも頷ける『Boo’d Up』現象。これはね、僕の体感で言うと、もうはや四半世紀ほど前。94年の夏のR.ケリーのビートがR&Bシーンを席巻していたあの時の感じに近いですね。あの年も暑い夏だったな、なんてことを思ったりもするのですが。エラ・メイ、先週待望の新曲『Trip』をリリースしました。
この曲も然るべきタイミングで『メロ夜』でもちろんご紹介したいと思いますが、いまはエラ・メイの『Boo’d Up』以前の魅力をちょっと掘り下げてみようかと。もうなんか今年の通年のテーマみたいになってきましたね。早くもね。ここまで引っ張りましたけども、タイ・ダラー・サインとのデュエットをお聞きいただきたいと思います。2016年にリリースされましたエラ・メイ feat. タイ・ダラー・サインで『She Don’t』。
Ella Mai『She Don’t Ft. TyDolla$ign』
Beyoncé『Love On Top』
タイ・ダラー・サインをフィーチャーしたエラ・メイで『She Don’t』。プロデュースはもちろんマスタードが手がけておりました。2年前の作品です。彼女のミニアルバム『Time』に収録されてました。フルアルバムがもうすぐ出るようです。そちらの方もチェックしていただきたいと思いますが、まあ番組でご紹介しますよ。その時はね。その前にエラ・メイの魅力を深掘りするために歴史に学びましょう。
いま、なぜ唐突にビヨンセ『Love On Top』が流れたのかとちょっと……「いい曲だけど、なんでこの流れで?」と思われた方がいらっしゃるかもしれませんが。実はね、このビヨンセの『Love On Top』、2011年に世に出て12年にかけてロングヒットした。これも大変なロングヒットになったんですが、エラ・メイの『Boo’d Up』がいま大変なヒットになったこととで再び注目を集めている曲でもあるんですね。それはどういうことかと言いますと、エラ・メイ現象……まあ、林剛さんが「現象」と言うぐらいでエラ・メイのヒットはもう昨今のR&Bシーンでは破格なわけです。
エラ・メイが登場する前から、この番組のリスナーの方でね、「女性R&Bシンガーに限って言うとポップチャートでも活躍するような人っていうのはもう何年もビヨンセとリアーナの2人しかいなくて、ちょっとつまんないですね」っていうことをご指摘くださった方が複数いらっしゃいましたけれども。まさにその通りでね、この数年間はビヨンセとリアーナの時代だったわけです。で、ビヨンセがこの『Love On Top』を流行らせた2011年から12年にかけて打ち立てた記録っていうのがございまして。それは何かと言うと、アメリカのビルボードという大変権威のあるチャート誌がございますが、そこのランキングの中でR&B部門の三大チャートと言いましょうか。
まずメインストリームのR&B、ヒップホップ総合チャート。そしてR&B、ヒップホップのエアプレー。オンエアチャートですね。そしてこの『メロ夜』にもっとも近い色合いを持ったアダルトR&Bソングス。まああのヒップホップ寄りのR&Bからヒップホップ抜きの純正R&Bまでという、つまりアフリカン・アメリカンの中でもかなり幅広い年齢のこの三つのチャートすべてで1位をとった女性アーティストとして、エラ・メイの『Boo’d Up』はビヨンセの『Love On Top』以来6年ぶりだそうですよ。
ビヨンセ『Love On Top』以来6年ぶりの記録
これ、どういうことかって言うとね、いろんなこと見えてきますね。ビヨンセ『Love On Top』が最後だったのか。っていうことはじゃあこの数年間のビヨンセの大活躍に見える……それこそ『Lemonade』なんていう、社会現象化したようなヒットもございましたけれども。そういったものでさえ、この三つのチャートを全部制覇することはできなかったんだなという。まあ、もちろんその時々に競合するどんな曲が出てるかにもよりますよ。よりますが、それにしてもそんな偉業をエラ・メイの『Boo’d Up』は達成しちゃったということなんですね。
僕はここで記録を語りたいわけじゃないんです。この記録に見られる盛り上がりということをお伝えすることで、みなさんの記憶に留めていただければなと思ってお話ししております。もうひおつ、チャート絡みのお話をしますね。いま、そのR&Bの主要3チャートで全部制覇した6年ぶりの女性アーティストの曲っていう風に言いましたが、続いては「イギリスのアーティストとして27年ぶりにアメリカのR&Bチャートトップに立った」というのが『Boo’d Up』という。こんな面白い記録も報告されております。じゃあ27年前の曲は何だったのか? それをこれからご紹介したいと思います。1991年にリリースされまして、これも翌年92年にかけてのロングヒットなりましたね。聞いていただきましょう。リサ・スタンスフィールドで『All Woman』。
Lisa Stansfield『All Woman』
<書き起こしおわり>