町山智浩 ザ・スターリン 遠藤ミチロウを語る

町山智浩 ザ・スターリン 遠藤ミチロウを語る アフター6ジャンクション

(町山智浩)85年なんです。だから僕、『宝島』に入ったらすぐに解散しちゃったんですよ。で、ただその後もミチロウさんはずっとソロアーティストとしてやっていて。特に最近は生ギター一本で、いわゆる弾き語りのフォーク形式でザ・スターリンの頃の歌とかをずっとやってらっしゃるんですよね。ただ、それで聞いていてすごく思ったのは、そうすると歌詞がはっきりと出てくるんですよ。ギターの激しいのがないんで。まあ、ギターも素晴らしいんですよ。タムさんっていう方が弾いていたんですけども。ただ、生ギター一本でやると、だんだんこの人は詩人なんだっていうことがわかってきたんですよ。だんだん。

(宇多丸)ふんふん。

(町山智浩)もともと、東北の詩人っていうのは歴史的にパンク詩人がすごく多いんですよ。だからいちばん有名なのは石川啄木ですよね。石川啄木の詩や短歌っていうのは破壊的なんですよ。暴力的で殺意がこもっていて。はっきり言うと田舎から出てきて都会で苦労して……っていうところで、田舎に対するものすごい憎しみと懐かしさと、都会に対するものすごい憎しみと憧れとがもうグチャグチャになって「全部ぶっ殺す!」みたいな短歌をいっぱい作っていて。だから有名なのは「どんよりと くもれる空を見てゐしに 人を殺したくなりにけるかな」っていう。「ただ曇った雲を見ているだけで人をぶっ殺したくなってきた!」っていうすごい短歌があったりだとか。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)あと、「砂山の砂を掘っていたらピストルが出てきた(いたく錆びしピストル出でぬ 砂山の砂を指もて掘りてありしに)」とかね。そういう、非常に殺意のこもった歌もいっぱい作っている人なんですけど、そういうのと同時に朴訥さみたいなものがあって。田舎に対する懐かしさ。そういうものを東北の人たちはすごく持っている人が多くて。宮沢賢治もそうですよね。宮沢賢治もメルヘンの人として知られているけど、実は書いている童話は非常に破壊的な、殺伐とした憎しみに満ちたものもすごく多いんですよ。あの人自身。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)だから自分のことを「修羅だ」って言っているような人なんですよね。あと、斎藤茂吉ね。斎藤茂吉もすごいんですけど。これはあとで話します。あとは寺山修司さんね。

(宇多丸)ああ、そうか。並べると、なんかすごい……。

東北の詩人の系譜

(町山智浩)すごいんですよ。全員パンクじゃん!っていう。アナーキストみたいな人ばっかりなんですけども(笑)。で、寺山修司さんっていうと、いちばん有名なのは「マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」っていう、いまの世の中なんかだと愛国心なんてものは持てやしないんだっていう。でも、このものすごい衝動をどこにぶつけたらいいんだ?っていうような短歌をうたっていたり。あとは友川カズキさんですね。

(宇多丸)こうやって並べると……。

(町山智浩)すごいメンバーなんですよ。

(宇多丸)あと、ひとつのラインが浮かび上がってくるような……。

(町山智浩)浮かび上がってくる。破壊的な(笑)。

(宇多丸)たしかに。朴訥だけど破壊的。

(町山智浩)でも、すごくみんな恥ずかしがり屋なの。ボソボソとしゃべるんですよ。あとは三上寛さん。

(宇多丸)ああ、もう完全に。

(町山智浩)そう。みんな朴訥としていて礼儀正しくて、非常に恥ずかしがり屋なんだけども歌詞の中にはものすごい破壊と暴力が満ち満ちていて。まあ、すさまじいんですよ。

(宇多丸)まあ、ため込むタイプというかね。

(町山智浩)ため込むんですね。で、その流れの中にいるんですよ。

(宇多丸)なるほど。っていう風に見ると、遠藤ミチロウさんのその本質みたいなものがより……。

(町山智浩)見えてくるなと最近、思っていて。特に、最近実際に友川カズキさんとか三上寛さんと遠藤ミチロウさん、近づいているんですね。年齢も同じぐらいなんですよ。みんな68歳前後なんですよ。だからこの世代なんですね。これはだから僕は東京生まれだから持ちえない、逆に憧れる。こういったものに。だからすごい、なんて言うかミチロウさん自身は東ヨーロッパとかロシアのイメージらしいんですよ。その鬱屈した感じっていうのは。だから「スターリン」なんですね。

(宇多丸)当時の共産圏で抑圧されていて。で、「嘘つき!」って爆発させたり。

(町山智浩)そうそう。あのね、『先天性労働者』っていう歌ではマルクスの共産党宣言を朗読するんですよ。ずっと。で、「その歴史というものは階級闘争の歴史であった!っていうんですけど、それは階級闘争の敗北の歴史でもあった!」っていう風に叫ぶんですよ。それは、ミチロウさん自身がそういうスターリンっていう共産主義を利用した大虐殺者の名前をバンド名にしているんだけども、それはただの皮肉じゃなくて。やはりそういった鬱屈した人たちのために何かをしようと思っていたものが裏切られたっていう気持ちがすごくあるんですね。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)だから最近は何をやっているか?っていうと、最近は彼の出身地が福島の原発のすぐ近くなんですよ。二本松というところで、まだお母さんはいらっしゃるみたいなんですけどもね。で、その地域というのは非常に原発で危険領域内になって。それで若い人たちはみんな出ていってしまって老人だけが残っていて。現在もそこに住んでいるんですよ。で、完全にもう見捨てられた状態になっている。で、そこにミチロウさんが行って、村おこしをやろうということで。最近は民謡パンクっていうのをやっているんですね。

(宇多丸)民謡パンク?

(町山智浩)羊歯明神(しだみょうじん)っていうバンドを組みまして。志田名っていう村があって、その名前を取っているんですけども。盆踊りとかですね、そういったものをパンクでやるということをやっているんですよ。

(宇多丸)なるほど。盆踊りを。盆踊りは一定のBPMがあるけど、もっと早くするんですかね?

(町山智浩)いや、盆踊りのBPMなんですけど。ただ、マリリン・マンソンって盆踊りですよ。

(宇多丸)えっ?

(町山智浩)マリリン・マンソンの曲を聞くと、どう聞いても盆踊りですよ。「ドンドコ、ドッコドーン♪」って。

(宇多丸)うんうん。まあ逆にいま、盆踊りビートが旬になってきつつあるから。なるほど。でもそういう風にロック的に、ロックから解釈できるものもありますからね。

(町山智浩)そうそう。それで非常に僕が好きなミチロウさんの曲をもう1曲、聞いていただきたいんですよ。『お母さん いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』。お願いします。

『お母さん いい加減あなたの顔は忘れてしまいました』

(町山智浩)時間がないのでバーッと一気に話します。この歌はね、刑務所に入っている若者が自分のお母さんに向けて手紙を書いているのを朗読している形になっているんですよ。これ、はっきり言ってクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』ですよ。コンセプトは。

(宇多丸)おおー、なるほど!

(町山智浩)あれもこれから刑を受ける若者がお母さんに向けて手紙を書いているっていう形なんですよ。これもすごいのは、これは斎藤茂吉の世界なんですよ。で、そういうことをやっている人なんだっていうことが最近やっと僕、わかってきたんですよ。実はパンクっていう音に猫だましをされていた形でわかっていなかったんですね。で、彼のそのいちばん最初に作った歌っていうのは『カノン』っていう曲で。今日、かけたかったんですけども。完全なフォークソングなんですけども、歌詞が金魚について歌っているんですよ。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)で、「ガラスの水槽の中に入れられた金魚が頭をぶつけながら……その水槽のガラスの壁に何度も何度も頭をぶつけている。それは自分なんだ」って言っているんですよ。「その痛さは見ている人にはわからないだろう?」っていう歌詞なんですね。「僕は上にも下にも行かないんだ」っていう。なにを言っているのか?っていうと、「ガラス」っていうのは社会ですよ。で、彼が歌ったり、原発に対して戦っているのはガラスに頭をぶつける行為なんですよ。それは、ガラスに沿って泳ぐ人たちから見ると馬鹿じゃないか?って思うんですけど、でもそうじゃなくて。「俺はそれしかできないんだ!」っていう。だから素晴らしい歌がその『カノン』っていう歌なんですけど。

(宇多丸)うん。

(町山智浩)まあ、そういった形でいま、ご闘病中なんですけど。具合が良くなったら全国ライブハウスとかを回ると思いますんで。みなさん、ちょっとネットでザ・スターリンの曲を聞いてみたりして、ミチロウさんについて知ってもらいたいなと思います。

(宇多丸)遠藤ミチロウさんのそういうスタンスというか本質について、そういう批評的補助線っていままで引かれてなかったんですか?

(町山智浩)いや、僕自体が知らないんですけどね。ただ、本当にいまになって、自分も歳を取ってきたからっていうのもあるとは思うんですけども。「ああ、見えてきたな」っていう気がします。

(宇多丸)短時間でしたが「ああ、そうなのか」って目が開かれるようなお話でございました。ありがとうございました。

(町山智浩)ミチロウさん、聞いてくれたかな? どうもです。はい。

<書き起こしおわり>

タイトルとURLをコピーしました