(トミヤマユキコ)だから、前からのさくらファンの方は「切れてる、切れてる!」っていう感じなんですが、そうじゃない人がいきなり『ちびしかくちゃん』を読むと「私たちの知っているさくら先生はなんでこんなことになってしまったんだ……」って。
(宇多丸)うんうん。
(宇垣美里)私、どう受け止めていいかわからなくて。もちろん読ませていただいたんですけど、読んだ結果、「なんだ、この世界は? しかくちゃんがかわいそうじゃないか! あんまりだ!」って思いながら読んでいたんですけども(笑)。
(トミヤマユキコ)フフフ(笑)。
(宇多丸)これ、やっぱりさくら先生の初期からのある種本領というか本質というか。その国民的漫画家みたいなパッケージとは別の部分をご存知だった方からすると、「やっぱりまだ全然芯は変わっていない。ブレてねえぜ!」っていうような感じなんですかね?
(トミヤマユキコ)だと思うんですよね。まあ、『ちびまる子ちゃん』の中にも少し毒っていうのは、甘やかな毒っていうのは入っていたと思うんですけど。
(宇多丸)全然入っていた。あれ、実はあの時間帯に見るものとしては相当そういう、皮肉もきいているし。そもそもすごいメタ視点っていうか。要は『サザエさん』の前にあれがやっているっていうのはものすごい面白い構図っていうか。『サザエさん』的なるホームドラマのちょっと俯瞰視点というか。
(トミヤマユキコ)そうですよね。ある種、批評になっているという風に見ることもできると思うんですけど。だから類まれなる批評眼みたいなのがさくら先生には実はありまして。で、この『ちびしかくちゃん』の中には「しか子、ちびまる子ちゃんを観る」の巻っていうのがあるんですよ。
(宇垣美里)セルフパロディーで自分の批評をするっていうことですよね?
(トミヤマユキコ)はい。で、この作品の中でお父さんとかがね、まる子の悪口を言うんですよ。「まる子は嘘をついて100円ごまかしたりするだろ? しか子もあんな漫画ばっかり見ているから、まる子みてえにごまかすかもしれねえぞ」っていう(笑)。
(宇垣美里)ひどい話だよ(笑)。
『ちびしかくちゃん』っていう『ちびまる子ちゃん』のセルフパロディ作品があるんですけど、私はしか子の父がちびまる子ちゃんを侮辱する回が好きです。皆さんは『ちびしかくちゃん』のどの回が好きですか? pic.twitter.com/8i6JaCl5Qv
— 母 (@anna___mann) 2018年8月27日
(トミヤマユキコ)「ごまかそうとするし、宿題はなかなかやらないし、忘れ物はするし、すぐにじいさんを頼るし。ロクな子供じゃないね」とか言うんですよ。食卓で話していて。で、「ああなったらおしまいだからな」っていう風に四角い顔をしたお父さんがしかちゃんに言うっていうようなことがあって。で、いまのは食卓のシーンですけど、その後に学校に行ってだまちゃんに話をするんですよ。まるちゃんのアニメの話をすると、「まる子はね、家の手伝いもしない。じいさんばっかり頼るし、のんべんだらりと生きているだけの女だよ。クラスメートもロクなのがいないね!」とかっていう(笑)。
(宇垣美里)ひどい話(笑)。
(トミヤマユキコ)で、これを読んでいるとやっぱり参りました!っていうか。
(宇垣美里)ご自身でご自身のキャラクターのことをここまで悪しざまに言う必要が……(笑)。
(トミヤマユキコ)そうなんですよ。客観視とも言えますし。でもある種の突き放しがすごくて。でも自虐というのとはちょっと違う。
(宇垣美里)目線の持ち方というか。それが独特ですよね。
(トミヤマユキコ)なんですか? 神の視点っていうんですかね? なんなのか……。それで軽く混乱する感じを味わっていただきたいっていうのがあります。
(宇多丸)でもやっぱりそんぐらい厳しいというか、鋭い視点を持っていればこそっていうのを感じますね。
(トミヤマユキコ)いいですよね。で、『ちびしかくちゃん』でもっとも尖ったっていう感じなんですけども。
(宇多丸)最後にいちばん尖った。すごい!
(トミヤマユキコ)なんですけど、宇垣さんが昔、ご覧になっていただろう『コジコジ』。これは1994年から1997年にかけて漫画は連載されていて、アニメは97年から99年なんですけど、その『コジコジ』の中でも『ちびまる子ちゃん』を「くだらん漫画」という風に言うようなシーンも出てきたりとか。あとは「くん・ちゃん漫画」についての解説っていうのがこの中であって。
(宇多丸)「くん・ちゃん漫画」?
「くん・ちゃん漫画」についての解説
(トミヤマユキコ)「○○くん」とか「○○ちゃん」というようなタイトルで漫画って描かれることがあるじゃないですか。
(宇垣美里)『あさりちゃん』とか。
(トミヤマユキコ)そうそう。でね、「くん・ちゃん漫画」ってなんだ?っていうのがコジコジに出てくるんですけど。「『くん』とか『ちゃん』がつく漫画だろ? 『ちびまる子ちゃん』とか『フリテンくん』とかそういうものだ。これを描いている作者は結構前からそれを言っているんだけど、普及しない。『くん・ちゃん漫画』界のものはみんな決まっていて、なにもできない。空も飛べなきゃ魔法も使えない。その上、おっちょこちょいであわてんぼうで、いつも腹ペコだ。それからずる賢いところもある」っていうのをその『ちびまる子ちゃん』の作者が描いているっていう。
(宇多丸)ある意味そういう日常系というか、そういうのへの批評にもなっていて、自分自身の鋭い切っ先というか、自己批評にもなっている。それをしかも最後に描いたという。それが『ちびしかくちゃん』。
(トミヤマユキコ)そう。
(宇垣美里)最後まで尖っている!
(トミヤマユキコ)そう。アトロクリスナーにはそう思ってほしい! で、読んでくださいっていうことです。
(宇多丸)でもね、国民的級に人気ある作家ってやっぱりそういうの、あるよね。「いい作品を作りました」だけだと、たとえば手塚治虫さんでもなんでもいいんだけど。いや、全然「いい」じゃねえだろ!っていうさ。むしろ若干有害要素が入っているからいいんだ、みたいな。その感じ、私も全然わかっていなかったんで。じゃあ『ちびしかくちゃん』から読んでみたいと思います。ということでトミヤマ先生、なにかお知らせごとはありますか?
(トミヤマユキコ)はい。引き続きオシャレ本をよろしくお願いいたします。『40歳までにオシャレになりたい!』という本が扶桑社から出ておりますので。私のトンチキファッションを見てください。
(宇多丸)フフフ(笑)。あれはトンチキファッションをすすめる本じゃないんでしょう? 逆じゃん!
(トミヤマユキコ)逆です、逆。でも、あの本を読んだ人がどうもトンチキファッションに興味を持ち出すっていうことがわかってきたので。
(宇多丸)っていうか先生、あんな本を書いたのにトンチキファッションを着続けているじゃん。
(宇垣美里)これはコンサバじゃないですよ。確実に。
(トミヤマユキコ)これは逆張り。
(宇垣美里)アハハハハハッ!
(トミヤマユキコ)いや、しまおさんに会うのが楽しみで。しまおさんも絶対に面白い服を着てくるって火曜日は思っちゃうっていう。すいません(笑)。
(宇多丸)まあ、宇垣さんも圏外派だからね。
(宇垣美里)今日は南国!
(宇多丸)今度は圏外で1冊書いたらいいよ、やっぱり。
(トミヤマユキコ)……がんばります(笑)。
(宇多丸)ということでトミヤマ先生、ありがとうございました!
(トミヤマユキコ)ありがとうございました。
<書き起こしおわり>