宇多丸・中澤孝紀・宇垣美里 香山哲『ベルリンうわの空』を語る

宇多丸・中澤孝紀・宇垣美里 香山哲『ベルリンうわの空』を語る アフター6ジャンクション

ヴィレッジヴァンガード渋谷店のコミック担当、中澤孝紀さんが2020年2月18日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さん、宇垣美里さんと香山哲さんの『ベルリンうわの空』について話していました。

(宇多丸)3冊目をお願いします。

(中澤孝紀)3冊目が……。

(宇垣美里)これがね、宇多丸さんも宇垣も大好きなやつですね。

(中澤孝紀)はい。これ、僕も実は一押しの作品です。香山哲先生の『ベルリンうわの空』というこちらの作品です。

(宇多丸)では、あらすじを。

(宇垣美里)はい。『ベルリンうわの空』。気ままに始めたドイツでの移住生活。構えず気楽に過ごしてみたらこの異国の地ベルリンは思っていた以上に暮らすやすい街だった? 海外での暮らしだからといって特別なことはせず、ただ毎日をなんとなくのんびり過ごしてみる。そんな著者にだからこそ見えてくる現地でのリアルな生活と風景、そして文化。一度見たら忘れられない個性的なタッチで描かれる今までにない等身大のドイツ移住記。

(宇多丸)はい。まあいわゆるエッセイ漫画っていうジャンルになるのかな?

(中澤孝紀)そうですね。僕は普段、あんまりエッセイ漫画って読んでこなかったんですけど、結構珍しくハマった作品ですね。

(宇垣美里)これはすごい私、好きでした。

(宇多丸)まあね、宇垣さんも海外は行かれるし。ベルリンにも……?

(宇垣美里)ベルリンは行ったことがないんですが。ドイツ自体には行ったことがあるんですけど。でも、行きたくなりましたし。「ああ、こういう視点ってあるんだ!」と思いました。ただ旅行するだけじゃなくて、なんか暮らすように過ごしてみたら見えてくるものってそれぞれの街にあるだろうなって思って。

(宇多丸)中澤さん的にはこれを選ばれたのは?

(中澤孝紀)はい。結構「海外移住物」って聞くと海外らしいものが書かれているのかなって思ってたんですけど、結構この著者さんの生活の仕方がスーパーに行ったりだとか、カフェに行ったりとか。結構日本にいるのと変わりないような生活の仕方をされてるんですけども。まあそういう普段の生活の中で、現地で気づいたことっていうのを等身大で描かれているのがすごい面白い作品かなと思いました。

普段の生活の中で気づいたことを描く

(宇多丸)あと絵柄が大変特徴的ですよね。

(中澤孝紀)はい。僕は勝手に『パラッパラッパー』とかで……。

(宇多丸)あっ、『パラッパラッパー』っぽい!

(宇垣美里)っぽい!

(中澤孝紀)ロドニー・グリーンブラットさん、僕は個人的にもかなり好きで。それでまずは目に止まったっていうところもあったんですけども。

(宇多丸)その、だからそれぞれのキャラクターが普通に人間的に描かれてもいるんだけど、なんかクリーチャー的というか。キャラクター化されていて。

(宇垣美里)ちょっとなんか宇宙人っぽい感じですよね?

(宇多丸)人によってはもう本当に人間の形をなしてないような人もいたりとか(笑)。

(宇垣美里)フフフ、「お花?」とか「トマト?」とか(笑)。

(中澤孝紀)四足歩行とかで歩いているような人とかも出てくるので。

(宇多丸)街の景色もだからそういう意味ではこの香山さんの目から見た絵を通した、何かちょっと抽象化されたというか。そういう絵になっていますよね。それがすごいなんか……まず、「次はどんな顔の人が出てくるのかな?」っていう。それも楽しみで見ちゃうし。一方でその街中で……僕、すごく印象に残ったのはやっぱりベルリン、すごく暮らしやすい街だけど当然、人差別とかいろんな差別っていうのがあって。それに対して、それに触れた時の絵での、そういうことを言ってくる人たちの表現とかもすごく印象的というか強烈で。なんかこの香山さんの目から見た世界っていうのがすごく有効に描かれているなと思っていて。

香山哲さんの目から見た世界

(中澤孝紀)そうですね。毎話、終わりの方にコラムが載っていて。そこでこの香山さんが感じられたことっていうのが書かれてるんですけど。かなりフラットに物事を考えられているというか、はい。すごく読みやすかったですね。

(宇多丸)あとはやっぱりなんか「ベルリンのこういうところがいいよね」っていうところとかを通して、「生きやすいとかってどういうことなんだろう? いい生き方、人生の過ごし方ってどういうことなのか?」っていうのを改めて……やっぱり東京にいるとキュウキュウと暮らしちゃいがちだし。ぶっちゃけやっぱりこの本に描かれているようなものからすると、常にピリピリしているなとかあるけど。なんかちょっとそこの「人の振り見て我が振り直せ」的なところもちょっと感じたりしましたね。

(中澤孝紀)ここで描かれるベルリンの方々は結構この街中で酔っ払って荒れてる人がいたら、肩を抱いて話を聞いてあげたりとか。

(宇多丸)そう!

(宇垣美里)ねえ。話を聞いてあげたりとか。

(宇多丸)あんなの、すごいと思って!

(中澤孝紀)東京じゃなかなか見ない光景だなって。

(宇垣美里)たしかに、困っている時に海外の方が声かけてもらうなっていう気はする(笑)。正直。

(宇多丸)日本人、ちょっとそういうの冷たかったりとかするからね。うん。

(宇垣美里)なんでしょう? みんなが宇宙人っぽいからこそ、なんかこう紛れられそうだなって見ていて思いました。

(宇多丸)まあベルリンっていう街の特性も当然、あるんでしょうけどね。いろんな人が混じっていて。

(中澤孝紀)そうですね。いろんな国籍の方とかがいるようで。

フラットな視点

(宇多丸)でも香山さんが常にフラットに……先ほど、中澤さんもおっしゃっていたようにフラットに物を見ようとしていて。これがドイツだからなのか、それとも2019年だからなのかわからないし。もうちょっとそのへんは見てみようと思うとか。なんか常に決めつけずに見ようとしている感じとか。あとなんか、その「いいよね」っていうものを見つける懐というか、余裕というか。それもいいし。だから普通にやっぱり「ベルリン、いいところだな!」って思っちゃいますよね。

(中澤孝紀)「住んでみたいな」って思いましたね。結構僕、中でもあの電話ボックスで本の譲り合いをするっていう。あれ、すごいいいなって思いました。

(宇垣美里)うんうん。ねえ!

(宇多丸)そのいらなくなったものを必要な人のところになんとなく分けてあげる文化みたいなのとか。それもね、素敵ですよね。

(中澤孝紀)なんかヨーロッパ文化の中でも特にドイツはその古いものを大切にするっていうのが残っているのかなって。

(宇多丸)「でも、使いかけのケチャップって……これはなかなかですぞ?」って思ったりもするんだけど(笑)。

(中澤孝紀)そうですね(笑)。食べ物はちょっと怖いかなっていうね。

(宇多丸)でもそんなおおらかさもあるんだなって。なんかドイツのイメージっていうとカチカチッというか。そういうのも当然あるんだろうけども。あと、その食べ物とかも慣れない外国の食べ物とか果物とかで「うっ!」って思っても、それを「面白い」っていう風に思えるそのスタンスっていうか。なんか異文化というものに触れる時に、やっぱり香山さんのこのスタンスっていうのがすごく参考になるなと思いましたね。

(宇垣美里)うんうん。

(宇多丸)僕は基本、出不精人間ですけど。すごいやっぱり行きたくなりました。

(宇垣美里)「こういう楽しみ方ったっていいよな。こういうのが海外に行く時のいいところだよな」って思いました。

(宇多丸)ちなみにこの間、グラフィックノベル特集というのをやった時に、日本のグラフィックノベル的なものというのがあるとしたら……ということで。番組内では紹介しきれなかったんですが、この作品が候補に第一に挙がっていてというようなことでもあります。なので、あの特集でピンと来た方もぜひちょっと手に取っていただければと思います。はい。ということで『ベルリンうわの空』でした。じゃあ、ポップをお願いします。

『ベルリンうわの空』ヴィレヴァン的ポップ

(宇垣美里)はい。読み上げます。「ソーセージ? ビール? それだけじゃない知られざるドイツの魅力。気を張らない移住生活のすすめ」という。

(宇多丸)はい。でもこういうスタンスで……ねえ。よく「旅人の視点で」とか言うけどさ。東京で暮らしていても、香山さんみたいなこういうスタンスで見ていたら面白いだろうな、みたいな。

(宇垣美里)どこに行っても、きっと。

(宇多丸)香山さんの……だから、いろんなところに住んでみてください(笑)。みたいな、勝手なことを考えましたけどね(笑)。

<書き起こしおわり>

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