町山智浩『太平洋奇跡の作戦 キスカ』『血と砂』を語る

町山智浩『太平洋奇跡の作戦 キスカ』『血と砂』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で三船敏郎さんが軍人を演じた映画として『太平洋奇跡の作戦 キスカ』『血と砂』を紹介していました。

(町山智浩)今日は宣伝みたいな感じになって申し訳ないんですけども。僕が参加した本の話をさせてください。『三船敏郎全映画』というタイトルの本なんですけども。これ、俳優の三船敏郎さんが2020年で生誕100年になろうとしているんですね。それに向けて、三船さんの出演した映画、ほとんど全映画。150本を解説した大著なんですよ。

(赤江珠緒)すごい! スタジオにその本が、手元にあるんですけど。厚み、ありますよ!

(町山智浩)これ、すごいんですけど。ちょっと高くてね。3800円もするんで。7月に発売されたんですけど、Amazonにレビューも出ていないという状態になっているんで。

三船敏郎全映画 (映画秘宝COLLECTION)
Posted at 2018.8.14
石熊勝己, 映画秘宝編集部
洋泉社

(赤江珠緒)そうですか!

(山里亮太)パッと見ただけでもすごい情報量ですよ! もう文章もさることながら、いろんなシーンの写真とかもふんだんに使われていて。

(町山智浩)写真、すごいんですよ。これね。これ、編集の石熊勝己さんががんばってくれたんですけども。ちょっとね、宣伝をした方がいいと思って。僕も書いているんですけど。ネットを見ても全然レビューが上がっていないんで(笑)。

(赤江珠緒)そうですか。「世界の三船のすべて」とありますけども。

(町山智浩)やっぱり黒澤明映画の時代劇の侍という印象が強いと思うんですけども。今日はその話じゃない、三船敏郎さんの軍人役の映画についてお話をしたいんですね。もうすぐ敗戦記念日ですし。これ、この本『三船敏郎全映画』の中ですごくいい話が引用されているんですけど。うしおそうじさんというプロデューサーの方がいまして。この人は、『宇宙猿人ゴリ』って知っています?

(山里亮太)いやー、申し訳ないです。

(町山智浩)「うちゅーえんじん、ゴーリなーのーだー♪」っていう歌、知らないですか?(笑)。

(赤江珠緒)ええっ? 申し訳ない。はい。

(町山智浩)『スペクトルマン』っていうタイトルにもなりましたけども。じゃあ、『マグマ大使』。うしおそうじさんはそのプロデューサーです。あと、そうか。『快傑ライオン丸』って知っています?

(赤江珠緒)はいはいはい。

(山里亮太)母ちゃんとかが見ていた……。

(町山智浩)『快傑ライオン丸』は知っていますね。あれのシリーズのプロデューサーのうしおそうじさんが三船敏郎さんと陸軍の航空隊にいた時、同じ部隊にいたんですよ。写真撮影班だったんですね。あ、ちなみにうしおそうじさんっていうのは『エヴァンゲリオン』の音楽をやっている作曲家の鷺巣詩郎さんのお父さんですよね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、うしおそうじさんはもともと円谷英二さんっていう日本の、世界の特撮の神様の下で特撮とかをやっていたんで、戦争が始まってからはそういう写真部隊に回されたんですけど。三船敏郎さんはお父さんが写真館の経営者だったんですよ。だから20歳で軍隊に入れられた後も写真のプロだということで、写真を撮影し続けていたんですね。

(赤江珠緒)ああ、三船さんが軍で写真を撮られていたんですね。

(町山智浩)そうなんです。三船さんは写真班だったんですよ。で、沖縄決戦の時、米軍が沖縄に入ってきたということで、ものすごい数の特攻作戦をやっているんですけども、その時の特攻隊を送り出す時の最後の写真を撮ったのが三船さんだったんですね。

(赤江・山里)へー!

(町山智浩)若くして、もう10代でパイロットとして死んでいく兵隊さんたちの写真を三船さんは撮り続けていたんですよ。

(赤江珠緒)そういう体験をされている方なんですね。

(町山智浩)うしおそうじさんと一緒に。で、うしおそうじさんが同じ部隊で三船敏郎さんが上官を殴るのを見ているんですよ。それを証言しているんですよ。

(赤江珠緒)上官を殴る?

うしおそうじさんの証言

(町山智浩)上官に立ち向かっていく現場を見ているのをこの本の中で引用されているんですけども。どうしてか?っていうと、日本では軍隊の中でも上官とか先輩の後輩や少年兵に対するいじめとか暴力とか嫌がらせがすごかったわけですよね。一応、規律では禁止されているのにやるんですよ。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)で、もうめちゃくちゃにやっているのを見て、三船敏郎さんが「ふざけんな! やめろ!」って立ち向かって。すると「お前、なんだ! 上等兵じゃないか!」って。要するに、下っ端じゃないかと言われて。「階級とか関係ねえだろ、この野郎!」って階級章を自分で破り捨ててぶつかっていったということがうしおそうじさんの目撃談として書いてあるんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、実は三船さんは軍隊に7年間もいるんですよ。この人は。それなのに全く昇進しなかったのは徹底的に上官の部下とか後輩に対するいじめに逆らい続けて戦い続けたんで、厄介者ということで全く昇進しなかったらしいんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)それが三船敏郎さんという人だということが本当の目撃談として書いてあるのがこの本なんですけども。まあ、うしおそうじさんの本にも書いてありますけども。で、三船さんってそういう人なんですよ。だから、三船さんの戦争映画は全部そうです。だから、たとえば『太平洋の翼』っていう映画があるんですけども。そこでははっきりと「神風特攻隊の作戦をやろう」っていうのに対して「そんなことはやらせない!」って反対する役ですよ。

太平洋の翼
Posted at 2018.8.14
須崎勝弥

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、その元になった人は源田実さんっていう軍人がいたんですけども。その人は別に歴史的には反対をしていないんですよ。でも、三船さんがやったら反対するしかないんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから役名まで変えられているんですよ。それであと、岡本喜八監督の『
日本のいちばん長い日』っていう8月15日、敗戦のその日の24時間ちょっとを記録した映画がありますけども。あの中でも、「兵隊たちは悪くない!」って阿南陸相っていう陸軍大臣の役を三船さんは演じていますけども。で、「俺が全部責任を負う!」って言って自分で切腹して。他の兵士たちが「私もご一緒します!」って言うと「お前たちには日本を立て直すという仕事がある! 俺だけが罪を背負えばいい!」って言って腹を切っていくっていう役を三船さんはやっているんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)常に一貫しているんですよ。やっている役が。で、あとは山本五十六っていう誰よりも有名な軍人を(『連合艦隊司令長官 山本五十六』で)演じていますけども、彼も戦争に徹底的に反対する役として三船さんはやっていますね。

(赤江珠緒)ああ、そうですね。

(町山智浩)だからね、すごい一貫しているんですよ。

(赤江珠緒)役だけじゃなくて、ご自身自体がそういう方だったんだ。

(町山智浩)だったから、なんですね。

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