町山智浩『Dear Santa』を語る

町山智浩『Dear Santa』を語る たまむすび

町山智浩さんが2020年12月22日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『Dear Santa』を紹介していました。

(町山智浩)それでもう1本、紹介する映画はまさにそのサンタの話で。これはドキュメンタリー映画で日本ではちょっと公開予定がないんですが。すごくいい映画だったので話したいんですけれども。これは『Dear Santa』というドキュメンタリーなんですけど。この『Dear Santa』っていうのはね、アメリカでは子供がサンタさんに手紙を書くんですよ。で、これは100年ぐらい前から郵便局がサンタさんへの手紙を受け付けてるんです。で、住所がちゃんと決まっていて。これが公表されています。「南極 エルフ通り 123番地 郵便番号888-88」っていう風に書いて出すと、郵便局がそれを受け取ってくれるんです。

(赤江珠緒)へー! やっぱり子供、「手紙を書きたい!」って言いますもんね。

(町山智浩)そう。で、うちの娘も出しました。ちっちゃい頃に。ちゃんとお返事が返ってきます。

(赤江珠緒)えっ? そうなんだ。

(町山智浩)返ってきますよ。サンタさんってほら、助けてくれるエルフっていう妖精いっぱいいるでしょう?

(赤江珠緒)そうそう。なんかね、一緒に住んでるっていうね。

(町山智浩)北極にいて、プレゼントを作ってくれるんですけど。まあ、そこまでやるのも大変だから、郵便局でいっぱいエルフがいるんですよ。で、それをやってくれるんですけど。ただやっぱり手紙に願い事が書いてある場合があるんですね。だから、1940年ぐらいからその願い事を叶えてあげたいと思う人が自ら、サンタやエルフになって。その願いを叶えてあげることができるようになっているんです。アメリカでは。

(山里亮太)いいシステム!

(町山智浩)そう。その手紙を実際に見て。で、「代わりに僕がこれを買ってきたから、これをこの子に届けてください」って言うと、郵便局の人が届けてくれるんですよ。で、ちゃんとプライバシーが守られるようになっていて。その住所を書いてあるものは寄付をしたいという人には見せないんですよ。手紙だけ見るんですよ。

(赤江珠緒)ああ、それはいいですね。うん。

(町山智浩)そう。郵便局はつないでくれるだけなんですよ。で、それがね、1940年からもう80年ぐらいやっているんですね。アメリカは。で、この映画は子供が願いを書いた手紙を郵便局に持ってきてから、その願いが叶えられてプレゼントが届くまでを追っかけたドキュメンタリーです。これが『Dear Santa』なんですよ。でね、このコロナになるまでは郵便局に来て、その手紙を見て。それで「この子にあげたい」っていう風にやってたんですけども。でも、今はコロナなので、コンピューターで全部データベース化して。これをネットでやってるんですね。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でもこれは、その前に撮影された映画なんで、現場に行って寄付したい人は実際に手紙を読んでるんですけども。でね、これまず「寄付したい」って言って来ている人たちはみんな、普通の人たちなんですよ。大金持ちなんか全然いないんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか?

普通の人たちが寄付をする

(町山智浩)そう。で、大抵の人は子供の頃、やっぱりそういうことがあって。たとえばサンタさんに手紙を書いたら、本当に届いたっていうことがあって。その時の感動が忘れられないからやっているんだっていう人たちが多いんですよ。で、手紙を見てみんなその手紙を読むんですけど。じゃあ誰でもプレゼントを上げるのか?} たとえば「X BOXがほしい」とか「Nintendoがほしい」とか書いてあるじゃないですか。それはやっぱり、あげないんですよ。そういう子には。手紙をちゃんと読むんです。それで「ああ、この子にはあげたい」と思う子にプレゼントをあげるんですよ。

たとえば「サンタさんはいい子にだけプレゼントくれるって言ってますよね? 僕はずっと弟の面倒を見てきました。お父さんはいなくて、お母さんが1人で働いてるから。僕は○○がほしいけれども。でも、弟にもこれをください」って書いてあったら、これはあげますよ!

(赤江珠緒)なるほど。うん。

(町山智浩)という感じで、その手紙を書いた子供のところまでカメラも行って、どういう生活をしてるかを見ていくんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でもね、これやっぱりね、本当にほしいものっていうのは、あげられないんですよね。たとえばね、「弟がほしい」とか。まあ、「じゃあそれ、なんとかしてやるよ!」ってサンタさんが行ったら大変なことになりますよね(笑)。

(赤江珠緒)本当ですよね(笑)。

(山里亮太)すげえブラックジョークだね、それは(笑)。

(町山智浩)それは大変なことになるんで、ダメなんでね。そういうことはできなかったりね。いろんな……やっぱり本当に。これ、ある手紙があって。「パラダイスに帰りたい」って書いてあるんですよ。このパラダイスって何かっていうと、2018年にカリフォルニアで熱風による大火災があって、一晩で完全に焼失した町なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)これ、85人の方が亡くなって。まあ大変な事態になったんですよね。5万人の人たちが家を失って。その町を出ていって。町自体、機能を完全に失ったんですよ。パラダイスという町は。で、その子たちは今でも、いろんなところに居候したり、仮設住宅に住んだりして非常につらい思いをしてるんですね。で、その子が「パラダイスに帰りたい」って言うんですけど。まあ、これは叶えられないんですよ。

(赤江珠緒)本当ですね。

(町山智浩)だから、もう何もできないですよ。で、この寄付する人たちがね、手紙を見ながら全然進まないの。みんな泣いちゃって。これはね、まあ大変ですよね。だから結局あげられるものっていうのは、大したものじゃないんですよ。金で買えるものは。ただね、あとこの手紙を何百通も学校で引き取っているところもあって。ブルックリンの学校で。ブルックリンって非常に貧しい人の移民たちが集まってるニューヨークのところなんですけども。海の近くなんですが。

そこの小学校で預かって、子供たちみんなで「この子たちの願いを叶えてあげよう」ってするんですよ。学校全体で。で、お金は要するにみんなからの寄付を集めたり、いろんなイベントとかをやってお金を集めていくんですよ。で、ほしいものを買ってあげるんですけど、ただそれもやっぱり子供たちで会議して。「この子にあげるべきかな? この子はどうだろう?」ってやるんですよ。

(山里亮太)難しいな……。

(町山智浩)そう。だからそれこそポケモンとか、いっぱいそういう物質欲にとらわれたものばかりが並んでいても、それはあげないよね。だからそのへんはね、子供たち自身でそれを決めるの。少し年長さんが決めるんですよ。だから小学校の5、6年生ぐらいの子たちが。本当にもう拙い字で書いてある小学生とか幼稚園児の手紙を読みながら「このにはあげようかな? どうしようかな?」って決める。でも、それって自分たち自身の教育にもなるんですよね。その子たち、あげる方にも。

(赤江珠緒)そうですね。一生懸命考えるだろうしね。それはね。

(町山智浩)そう。で、子供たち同士だからさ、やっぱりわかるわけですよ。「この子には本当にあげたい!」っていう子もいるわけですよ。やっぱり。そういう子は大抵ね、自分のことをだけを考えてないんですよ。まずね、「サンタさんは何がほしい?」って聞いてくる子もいるんですよ。ねえ。で、やっぱりほしいものがあると書くんだけども。でも、「お母さんがいつも働いていて、夜遅く帰ってきて、疲れて寝てるから。大変だからまず、お母さんに何かください」って書いてあるんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ、泣けちゃう……。

(町山智浩)だからもうね、これを見ているとみんな泣いていてボロボロなんですよ。寄付をしている人たちも。それとあと、あんまり裕福でない1人の男性が出てきて。その人は自分1人の力ではあまりお金がないから叶えられないんだけども。でも、「この子たちに何とかプレゼントをあげたい!」ってニューヨーク中を駆け回って。いろんなデパートだとか、おもちゃ屋だとか。あと、イベントをやって。とにかくプレゼントをたくさん集めてその子にあげようとするっていう。それもすごく大変なんだけども。でも、それを見て思ったのは、「本当の金持ちはこういうことしないんだな」っていうね。

(山里亮太)ああ、たしかに。

(町山智浩)プレゼントをもらって死ぬほどうれしかった体験がないからなんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか!

(町山智浩)普段から、何でもあるから。でも、これをやっている人は子供の頃、本当に貧しくて。お母さん1人に育てられて。テレビもラジオもなかったんですって。で、「ラジオがほしい」って書いたらラジオが届いたことがあって。それはたぶん、お母さんが買ったんだよね。その体験があるから、子供たちにそういう気持ちを与えてあげたいってことで駆けずり回っているんですよ。だから、本当に金持ちで豊かな人はこれはやりたいと思わないんだね。

(赤江珠緒)なるほどな……。

(町山智浩)これ、本当にね、いろいろ考えさせられるんですけど。で、これは去年作られた映画なんですが。今年もやっていて。今年も手紙がネット上で公開されているんですよ。「Operation Santa」っていうんですけども。

(町山智浩)それを見るとね、やっぱり今年の手紙はきついんですよ。「うちのお母さんはウエイトレスだったんだけれども、レストランがずっとクローズで。閉めちゃっていて。お金がなくて。お母さんに仕事をください」って書いてあるんですよ。あとね、やっぱり多いのはこれ、子供たちの素直な思いで。「コロナをなくしてください」っていうのが多いんですよ。「友達に会いたい、遊びたい」っていう。1年間、友達と遊べなかったってどれだけつらいか。

(山里亮太)子供にとっての1年はデカいよ。

(町山智浩)ねえ。「うちは大変だったんです。お爺ちゃんが亡くなりました」とか「家賃が払えません」とか。そんなのばっかりなんですよ。だからどうしようもないんですよ。ただそれでもなんか……なにかをあげることで、結局世の中には「善意」っていうものがあるんだったことを知ってもらうだけで、さっき言った人みたいにそれを信じれば世の中でどんなつらいことがあっても、どこかに善意があるはずだってことで生きられるじゃないですか。心が折れそうな時にね。だからね、すごくこれ、大事なことなんですけど。日本ではそういうシステムは一応ないんですが……ただ、寄付できるところはあります。あまり知られてないですけども。

もうすぐクリスマスなので、クリスマスのプレゼントとかがもらえない人たちとか。ケーキも買えないような子たちがいっぱいいるので。日本は今もう、どうかしちゃっているんでね。GoToやっているんで。そういう子たちに、もうとりあえず国がやる前に今すぐ、お金をあげるしかないんですよ。だから今ね、「ひとりじゃないよPJ」っていうプロジェクトがあります。ネットで調べてください。そうすると、そこで出てきますので。いろんな寄付ができるサイトが。

ひとりじゃないよPJ

で、どこかを選んで……いろんな子がいます。交通遺児だったり、震災で家で失ってしまった人だったり、シングルマザーだったり。いろんな形で苦しんでいる子たちがいっぱいいますので。それがその「ひとりじゃないよPJ」にはたくさん載っていますから。そこで、もう本当に簡単にクレジットカードとかで寄付ができますから。誰でもできるんで。それこそ、1000円とかからでもできるので。ぜひ……あとクリスマスまで何日しかないですけども。ぜひ寄付してもらいたいなと想います。

(赤江珠緒)たしかにね。「世界で一番幸せなのは誰か?」っていう質問にやっぱり「サンタさん」っていうのがねあるもんね。配る方が。

(町山智浩)そう。あのね、この子たちがね、そのサンタさんのかわりにプレゼントをあげるんですけど。本当にあげる子たちの方がうれしそうなんですよ。プレゼントは、あげる方がうれしいんですよ。

(赤江珠緒)ねえ。そんな気がしますね。

(山里亮太)ねえ。見たいな、これ。日本でもやってくれないかな?

(町山智浩)日本ではやらないんですよね。

(赤江珠緒)『ワンダーウーマン 1984』は公開中ですが、『Dear Santa』は公開未定ということです。でも、そういう気持ちをね、持って。

(町山智浩)はい。「ひとりじゃないよPJ」の方を見ていただいて、寄付をしていただきたいなと思います。

(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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