荻上チキ アルコ&ピース ファルコン騒動を解説する

荻上チキ アルコ&ピース ファルコン騒動を解説する 荻上チキSession22

荻上チキさんがTBSラジオ『荻上チキ Session-22』の中で同じTBSラジオの『アルコ&ピース DC GARAGE』の「アベンジャーズの一員、ファルコンを引退するよう説得する」という企画が巻き起こした騒動について、ラジオパーソナリティーとアメコミファンの立場から解説していました。

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(荻上チキ)まあ、そんなこんなで南部さんと昨日、『デッドプール2』の話をして家に帰って。で、翌朝起きたらですね、同じくTBSラジオ系列の番組の『アルコ&ピースDC GARAGE』っていうこの『Session-22』の後の番組があるんですけども。それがネットで炎上したんですよ。何があった?っていう風に思って。で、何があったかって言うと、いままさにマーベルコミックのキャラクターの1人で、『キャプテン・アメリカ』シリーズに出てくるファルコンっていうキャラクターがいるだけですね。

(南部広美)ああーっ、あの黒ずくめで羽のキャラクター?

(荻上チキ)そうです。で、重火器を使うのが得意。

(南部広美)飛びながらフォローに入るっていう。

(荻上チキ)そうですね。「サイドキック」っていうか相棒ですね。キャプテン・アメリカの。「そのキャラクター、ファルコンがアベンジャーズのメンバーとしてはもうちょっと弱すぎるので、何とか辞めるよう説得してください」っていうようなお題で番組のスペシャルウィークの企画を立てたところ、マーベルファンでそのラジオ聞いてるわけではない人たちもそのサイトを見るわけじゃないですか。で、「ちょっと待って! ファルコンを引退させるってどういうことだ?」っていうことで、結構炎上しているんですよ。

(南部広美)ふんふん。

(荻上チキ)僕らは『Session』の後の番組だから、帰りにちょうど帰り支度をしながら聞いてるんですよね。で、ここしばらくずっとアルピーの2人がマーベルの話をしてて。7アベンジャーズの話をしていて。で、ずっとファルコンの話をしてるんですよ。で、コンビの1人の酒井さんが、やたらとファルコンの挙動が1個1個面白いとか、かっこいいとかっていうことでいろいろと話している中で、いろいろキャラクターをいじっていったりすることがあるわけですね。そうした中で、その長く続いてきたファルコンいじりっていうものが今回次のスペシャルウィークとして企画が決定って形で広報されたという。

(南部広美)うん。

(荻上チキ)で、2人がアベンジャーズを映画として見続けていて、なおかつファルコンっていうのがひとつの推しキャラにしていてっていう流れはわかっていたので、その当日の放送を聞いて「そんなお題をやるのか」みたいな感覚を、ラジオとマーベルの両方を追ってきたものとしては感じるところはあるわけですね。というのは、アメコミでも、例えばこれはDCの方ですけども、バットマンとかが他のキャラクターと登場してきた時に、めっちゃいじられるわけですよ。

(南部広美)愛ゆえに、みたいな?

(荻上チキ)そうそう。たとえばのグリーンランタンっていうヒーローとバットマンが初めて会った時に、「ああ、お前もヒーローか。お前はどんな能力があるんだ? 空を飛べるのか? ん、違うのか? じゃあ、バットマンっていうから血とか吸うのか? 違うのか。じゃあ、なに? それ、ただのコスプレなの!?」みたいな感じでいじられるとか。あと、ホークアイっていうアベンジャーズキャラクターの1人がいるんですけども。ホークアイが主人公の漫画もあるんですけど、それはアベンジャーズの他のメンバーと比べても弱くて、ほとんど何もできないじゃないけれども……「無力だけれども、それでも俺はヒーローであるんだ!」っていうようなことを描いていたりして。ある種、自虐なんだけど……つまり、ただの人なんですよ。スーパーヒューマンとかじゃなくて、努力によって身につけた弓が上手い人。なんだけど、その能力を使って俺は戦うんだ!っていうある種の誇りを描く漫画だったりするわけですね。

(南部広美)主張があるわけですね。

(荻上チキ)だからアメコミファンとか、あるいはアメコミの世界の中でも、「あのキャラはちょっとさすがにサノスには勝てないだろう」とか「さすがにドゥームには立ち向かえないだろう」みたいな藩士とかは結構あるあるネタではある。

(南部広美)その世界観の中でのね。

(荻上チキ)そう。アメコミの中で。ただ、今回そのラジオのお笑いの文法の中ので、特にアルコ&ピースの番組はスペシャルウィークだからこそ、豪華じゃないネタをやる。なんでそんなマイナーなところに着目するんだ?っていうネタをあえてやる。たとえば「キノコの中でいちばんは何かを決める」とか。

(南部広美)ありましたね(笑)。

ファルコンというキャラクターの歴史的背景

(荻上チキ)そういうような特集をやっていたりするところの中で、多分その企画者側としてはアベンジャーズの中ではマイナーなファルコンに焦点を当てて、ファルコンで1時間やったら面白いだろうっていう格好で、彼らなりのリスペクトがあってやっている。でも、その背景なんて当然ながらネットでその記事を見た人なんかには届かないわけだから。完全にもうコミュニケーションのズレと、あとやっぱりいろんな繊細な部分を踏んでしまうっていうところがあるわけですね。なんといってもファルコンはアメリカを象徴するキャプテン・アメリカっていうヒーローの相棒として、黒人ヒーローとしてものすごい歴史のあるヒーローだと。彼をアベンジャーズから外させようっていう風になった時に、受け止め方がいろいろになるわけですよ。そのフレーズを見るとね。

(南部広美)うーん、たしかに。

(荻上チキ)だって、そうじゃないですか。「そんな、そんな……」みたいな。原作ではたしかに、ファルコンだけではないけど。たとえばね、『インフィニティ・ガントレット』という作品の中で、サノスという悪役がある方法を使うともう宇宙の人口を半分に減らす。宇宙の半分を消すことができるっていうものの中で、もうしょっぱなからファンタスティック・フォーとかデアデビルとか、いろんなキャラクターが軒並みいなくなっていて。しかも特にデアデビルをはじめとした、ほぼただの人っていうキャラクターを軒並み初期にいないことにされていたわけですよ。

(南部広美)ふんふん。

(荻上チキ)だから実際にそうしたキャラがいなくなるっていう話は、いままでに描かれてきたりはしたし、あとはフェイズ4が……いまやっている『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の次のアベンジャーズでもうひとつのシーズンが終わって初期メンバーが引退するんじゃないか?っていう話が出ているので。言われなくても、もうファルコンは引退するんだけどね……みたいな。

(南部広美)アベンジャーズファンとしては織り込み済みのものはあるわけですね。

(荻上チキ)まあ、前提としてはあるとしても。そして、放送の中では「いや、俺らが決めることじゃないよね」っていう話を2人がしていたにしても、サイトを見るとやっぱりいろいろ踏んでしまっているなっていう風には、率直に思ったんですよね。つまり、僕がラジオとアメコミの両方を押さえてなくて、アメコミの方だけでラジオの見出しだけを見たら、「なに? ファルコンを!?」っていう感じになるわけですよ。

(南部広美)うんうん。そこには情報格差が生じますからね。

(荻上チキ)だから言うなれば、『ドラゴンボール』のZ戦士の中からとりあえずチャオズは外しておこう、みたいな話で盛り上がるっていうのに似ているのかもしれないけど、ただ、そうしたただのキャラクターではなくて、それぞれのキャラクターに歴史的な重みとかが結構あったりするわけですよ。

(南部広美)わかっている人たちの中ではね。

(荻上チキ)そう。初の黒人ヒーローであるとか、初のヒスパニックヒーローであるとか。そういういろんなものがあって。そうした中で特定のキャラを消し去るっていうことが、いろんな推しの感情に込められている歴史まで触れてしまうところなんだよっていうのがあるんだよね。だから、これはまずひとつはディスコミュニケーション。ちょっとコミュニケーションが成立しない文脈を越えたことによって、いろいろな軋轢を生むっていうことはあるよねっていう。だからそこはすごく……特にマーベルとかについて、アメコミとかの差別などを体系にしたテーマのものについては、より慎重じゃないといけないよねっていう話は当然ある。

(南部広美)うんうん。

(荻上チキ)それから、「マイナーキャラいじり」みたいな格好の文脈であったのかもしれないけど、ファルコンはめっちゃ人気です! もちろんホークアイとか他にも様々なヒーローが人気で。普通にキャラクターとかフィギュアとかもね、しっかりと精巧なもができていて。かっこいいんですよ。

(南部広美)まあ、私なんかは全然マーベル初心者だから、こういう風な形でフォーカスされて「そうか!」って具体的にファルコンのことが自分の中で立ってくるっていうか。そういう部分はありますけども。

(荻上チキ)そうですね。やっぱりチームアップをした時に、様々な……たとえば他のね、黒人ルーツのキャラクターとチームアップした時の、「おおっ、嬉しい!」っていう感覚とかも味わっていたりするところもあって。思い入れは結構あるんですよ。ある人が多いんですよね。だからこその、ネット上での大きな反応につながったわけなので。これは本当に不用意なタイトル付けとか発信の仕方をしたなっていう風に率直に思いましたね。

<書き起こしおわり>

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