プチ鹿島さんがYBS『キックス』の中で、国会で審議中の働き方改革関連法案についてトーク。裁量労働制の拡大についての審議の中で、不適切なデータが使われていた問題について新聞各紙を読み比べながら話していました。
(プチ鹿島)では、本日の朝刊の読み比べをしたいと思います。というのは、この間ね、日本経済新聞さんに呼んでいたいただいて、1時間半ぐらい、新聞の楽しい読み方みたいな、講演会って言うとくすぐったいですけども。僕は漫談ライブだと思って、よくやらせてもらっているんですよ。そこでいろんな読み方、見方をお話したんですけど。前にキックスでも言ったと思うんですが、新聞ってどうしても朝に読まなきゃいけないっていうプレッシャーがあると思うんですね。
(塩澤未佳子)ありますね。出かける前に。
(プチ鹿島)だってそれだから新聞を取っているんだ。出かける前に読んでおいて、仕事の前に読んでおいて。で、その日1日をスタートする。ただ、僕は最初に新聞を取りはじめた時もそうだったんですけど、そうなると逆にプレッシャーになるんですよね。朝ってしかも、大概みなさん忙しいでしょう?
(塩澤未佳子)時間、ないです。
新聞は朝、無理して読まなくてもよい
(プチ鹿島)頭も働かない。そんな時に新聞を端から端まで読むなんて、1日、2日はできたとしても、だんだん億劫になってね。強迫観念になって、むしろ新聞、面倒くせえってなっちゃうという、そういう思いを僕も経験しているんですよ。その時、事前の質問もそういう内容が多かったんですね。で、僕は言うんですけど、朝はたとえば「見出しだけでもいい」とか「一面チェックだけでいい」とか、「社説のタイトルでなにが書いてあるかだけでいい」とか。「社会面に……」とか。それをパッパッパッと見るだけでも僕はいいと思っているんです。
(塩澤未佳子)はい。
(プチ鹿島)そうしておけば、たとえば仕事に出た時とか、学校でもいいです。もしくは、家とか職場とかで見たニュースとかでなんとなく気になる言葉というのが耳に残ってくると思うんですよね。だからそれについて、あとでもう1回、詳しく読もうとなったら、家に帰ってお風呂上がり、寝る前とかにでもいいわけです。新聞ってさかのぼって読めますから、その気になるキーワードだけさかのぼって読めますでしょう?
(塩澤未佳子)はい。
(プチ鹿島)だから僕、なんだったら新聞は2、3日後に読んだっていいと思うわけですよ。で、僕にとってそれが、今日ご紹介する「裁量労働制」なんです。
(塩澤未佳子)はい。
(プチ鹿島)これ、働き方改革をメインにして国会が始まったっていうのは、なんとなく僕ら、わかるでしょう?
(塩澤未佳子)そうですね。耳に入ってきます。
(プチ鹿島)ニュースとか新聞とか。で、さらにそのうちのいくつか、出したい法案があって、そのひとつが裁量労働制。でも、どうやらこれをめぐって野党から批判が出ている。もしくは、「あれはなんだよ?」みたいな声も世の中から出ているというのを、なんとなくは知っていたんです。
(塩澤未佳子)フフフ(笑)。
(プチ鹿島)だけどいよいよ、この間安倍首相が「裁量労働制っていうのを導入すると、一般的な人よりも残業時間や働く時間が少なくなるんだよ」っていう答弁の裏付けとして持ち出したデータが、実は嘘だったというか、不適切なものを出してきちゃったわけですね。で、それを(安倍首相は)謝罪した。で、一気に「裁量労働制、働き方改革」みたいな話題が……僕、ここからでいいと思うんですよ。「じゃあ、いよいよ本腰を入れて調べてみようか」って、これぐらいでいいと思うんですね。
(塩澤未佳子)そうですか。
(プチ鹿島)これって面白くて、時差があるんですよね。安倍さんがこのデータを持ち出したのは、1月末なんです。で、今日の新聞、みなさん山日(山梨日日新聞)でもなんでもご覧ください。今日、また改めて、それがなんでそういうことになっちゃったのか?っていうのを一斉に報じているんです。実はそれも鍵なんです。
(塩澤未佳子)ええっ!
(プチ鹿島)じゃあまず、裁量労働制というのをご紹介しますと、これは読売かな? 「実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決めた時間を働いたとみなし、残業代込みの賃金を支払う制度」と。だからこれ、キックスで言いましょうか。1時から4時半まで、あらかじめ決めた時間を働いた。そこでいかにおしゃべりをするか、それはもうそれぞれですよ。だからしゃべらない人もいるし、しゃべりすぎる人もいるし。だいたいキックスっていうのは月曜から金曜までしゃべりすぎる、働きすぎるパーソナリティーを揃えているんですけども。
(塩澤未佳子)フフフ(笑)。
(プチ鹿島)まあ、イメージだとそうだよね。よく言われるのは、携帯の定額制で料金を払えば、あとはかけ放題になるっていうのと似ているわけじゃないですか。だからこれ、「よく考えると、雇う側にメリットがあるんじゃない?」っていう突っ込みが出ているわけですよね。そうでしょう? だって、あらかじめ決めた時間……たとえば7時間なら7時間を働いたとみなして、そこに残業代込みの賃金、お金をもう払っちゃっているわけだから、あとはどれだけ働きすぎようが、同じなわけです。残業代はそれ以上払われないから。だからそれ、果たしてどうなの?っていう時に、安倍さんや政府側が持ち出したデータというのがこちらです。厚生労働省の調査で裁量労働制で働く人のデータが「1日の労働時間は?」っていう質問だったんです。その回答が「平均9時間16分」。
(塩澤未佳子)はい。
(プチ鹿島)で、もう一方の一般労働者。「1日の最長の残業時間は?」って聞いたんですって。だから、質問そのものが異なっていて、比較できないわけですよ。これ、ややこしいからもう1回、話します?
(塩澤未佳子)はい。よろしくお願いします(笑)。
(プチ鹿島)だから、裁量労働制で働いている人のサンプルとしては、普通に「1日の労働時間はどれぐらいですか?」って聞いたんです。だけど、裁量労働制じゃない一般の人には「いちばん働いた最長の残業時間ってどれぐらいですか?」って聞いているんです。それは長い時間が出るに決まっていますよね?
(塩澤未佳子)はい。
異なる質問をしたデータを比較している
(プチ鹿島)だから、裁量労働制で働いている人は普通の労働時間を言うんですけど、それと比べちゃうわけです。片方では「最長」を聞いちゃうわけです。それって、(データとして)比べちゃ行けないんじゃないですか?っていう突っ込みが出ているんです。それで、安倍さん・政府側も謝罪したということなんですよ。だから、裁量労働制をよく見せるために……。
(塩澤未佳子)そういう質問をした。
(プチ鹿島)で、一方で裁量労働制じゃない人には、「いちばん残業が多かったのって、どれぐらいでした?」って聞いて。そしたらやっぱり多めの時間(の回答)が出ちゃいますよね。だからそれを持ち出して……っていう。で、それが野党の調査で「いやいや、これは違うんじゃない?」っていうので、昨日・一昨日にまたさらに問題になっている。で、もうひとつ問題があるのが、これは東京新聞とか朝日新聞の切り口というのは、首相の答弁。これ、あの答弁から今回のことがわかるまでにえらい時間がかかったんじゃないか?っていう。
(塩澤未佳子)うん。
(プチ鹿島)つまり、安倍さんはこれ、1月末にこの答弁をしてるわけですよ。で、昨日、加藤厚生労働大臣が衆議院予算委員会で答弁の根拠となった調査と集計方法について「不適切だった」と認めているわけですよね。
(塩澤未佳子)はい。
(プチ鹿島)ですので、「首相に正式に報告したのが11日後の18日夜だった」というので、この問題が起きてからものすごいタイムラグがあったわけですね。これってなんなの?っていう。で、実はこのデータというのは安倍政権がこの3年間、働き方改革をやろうという時に実はちょいちょい使っていたデータなんですって。だからそれがわかっちゃったところで、じゃあこの3年間に旗印としていた働き方改革。そもそものデータがぜんぜん違うんだから、もう1回これは考え直した方がいいんじゃないの?っていうのがいまの論点で、まさに今週、それが山場となるわけです。
(塩澤未佳子)ほー!
(プチ鹿島)で、こういう時にはスポーツ新聞を読むに限る。難しい問題をわかりやすく。今日の日刊スポーツ。「首相の裁量に忖度?」っていう。これ、どういうことかというと、こういうデータを厚生労働省が出したということは、裁量労働制をやりたい安倍総理の意向に反するデータは出せず、少しでもよく見せるような忖度が働いたためにこのようなことが起きたと。だから、よく新聞を読んでみると、首相側は別に好んでこのデータを出したわけじゃないらしいんです。いろいろとあるデータの中で、このデータをつい反論で使ったという。でも、そもそもよく調べてみると、なんでこんなデータが厚生労働省から出されていたんだ?っていうのも、首相側近辺のザワザワしたところなんですって。
(塩澤未佳子)ほー!
(プチ鹿島)つまり、「ああ、働き方改革やりたいんだろうな。いいデータ、ほしがっているだろうな。じゃあ、なんか出せ!」っていうのを報告にあげていたんじゃないかと。
(塩澤未佳子)都合のいいデータを出したのかな?
(プチ鹿島)だからこれもいわゆる忖度じゃないか?っていう話になっているんです。面白いですよね。そうなると、そういうデータを利用してこの3年間ぐらいプレゼンをしていたという、その根底が崩れるわけなんですよね。忖度っていうことは、「参考にならないデータ」っていうことですよ。面白いですよ。だから野党は「捏造」って言ってますよね。
(塩澤未佳子)ああ、もう言葉が。
(プチ鹿島)だから「モリカケと同じ構図か?」なんていうのが。これを興味を持つと、一般紙でどんどん調べていけば、「ああ、そうか。そういえば安倍さんの答弁からえらいタイムラグがあったけど、やっぱりそれはずっとモメてて調整していたんだろうな」とか。そこもあるし。だって昨日ですよ。厚生労働大臣が答弁したのが。安倍さんが「撤回します。謝罪します」って言ったの、先週の木曜、金曜だったでしょう? その時点でもう1週間ちかくタイムラグがあったわけですから。だから逆に言えばまだ、「裁量労働制ってなに?」っていうのをいまから調べても間に合う。むしろ、いまいちばん旬なネタっていうことなんですよ。
(塩澤未佳子)うんうん。
(プチ鹿島)別に国会が始まる時に、完璧に整えておいてね。新聞を読んで完璧に誰にでも答えられるような、そこまでしなくてもいいっていうことです。時事ネタは日々動くから。
(塩澤未佳子)そうなんですね!
いちばん大変な人
(プチ鹿島)だからこれ、いちばん大変なのは、もしそういう忖度とかがあったとしたら、裁量労働制のデータを徹夜して作っていた人がいちばん働き方改革が必要なんじゃないかって思いますよね。お役人ね。
(塩澤未佳子)フフフ(笑)。
(プチ鹿島)皮肉ですよね。そういう画が浮かびますよね。なんかこう、「働き方改革。裁量労働制でいいデータ、ねえか? いいデータ、ねえか?」ってもし、突っつかれていたらですよ、「じゃあみんな、なんかデータ探せ!」って。5時、6時には帰れないわけですよ。
(塩澤未佳子)夜中まできっとかかって一生懸命に。
(プチ鹿島)これ、いちばんの皮肉かなと思っちゃいましたね。僕ね。ということで、プチ総論でした。まだまだ気になった言葉、うっすら気になった言葉を頭に残しておけば、いつでも間に合うよという、そういう話でした。
(中略)
(プチ鹿島)嘘見出しです。「厚労省職員のパラドックス 働き方改革、推進すればするほど残業時間大幅増」。上手いね。
(塩澤未佳子)素晴らしいです。
(プチ鹿島)この方、すごいのが何気なく見たら昨日の夜の22時51分にこれ、作品をメールしてくださって。ありがたいね。
(塩澤未佳子)今日のために!
(プチ鹿島)で、一夜明けてみたら今日の新聞も本当にそういう話題てんこ盛りですからね。たとえば、さっきも裁量労働制、僕も気になったんで。まだ間に合うと思って。だからこういう時、手っ取り早いのは各新聞の解説というのを見るのもいいと思います。これ、東京新聞。「調査データをめぐる厚労省の検査結果からは杜撰な対応が浮き彫りになった」という。これ、もう1回言いますよ。「裁量労働制は労働時間の短縮につながるよ」というプレゼンというか答弁をするために、その根拠となるデータが一般労働者、普通に働いている人には「1ヶ月で最長の残業時間」を聞いた。それで平均の数字を出した。
(塩澤未佳子)はい。
(プチ鹿島)それで「最長の」と聞きながら、それから平均のデータを出しているわけだから、すでに裁量労働制をやっている人に聞いた「1日の労働時間は?」に比べると長いに決まっているわけですよね。で、「単純なミスだったとしてもなぜ3年間も気づかなかったのか? 安倍政権はこの不適切と認めた今回の調査データを3年間、裁量労働制を問題視する野党や労働界への反論材料に使い続けてきた。この根幹が崩れた」ということで。だから、「このデータは間違ってました。ごめん!」っていうだけじゃなくて、むしろ3年間、このデータをもとにプレゼンしてきたんだから、それはもう、どうなの?っていう、そういうことになるわけですね。
(塩澤未佳子)ですね。3年間の時間もどうなの?っていう。
(プチ鹿島)さらに、これはまた新聞の読み方で頭においておくと面白いのが、各新聞が解説とか社説とかっていうのはまあまあ、ちゃんと読まないと難しいじゃないですか。でもこれをもとにどういうコラム、もしくはネタに使ってくるのか?っていう。そこなんですよ。
(塩澤未佳子)へー!
(プチ鹿島)同じ東京新聞の「筆洗」っていうコラム。イメージしていただくと一面の下に、朝日新聞だったら「天声人語」。山日だったら「風林火山」。あれですね。その東京新聞のコラムがこんなことを今日、書いていたんです。「1898年の米西戦争の時、アメリカの海軍の死亡率は1000人につき9人だった。一方で、同じ期間のニューヨーク市内における死亡率は1000人につき16人だった。アメリカの海軍はこの数字を使い、ニューヨークに普通に住むよりも戦争に行く死亡率の方が実は低いんだ。だから海軍に入るのは安全だというキャンペーンをした。ところが、この数字には罠がある。海軍の大多数が健康な青年なのに対し、ニューヨークの市民のサンプルは赤ん坊も高齢者、病人もいる」という。さっきも話しましたけど、日本の誕生した赤ちゃんの死亡率が低いっていう。これが100年以上前だったら、当然赤ちゃんは生まれても、死んじゃう赤ちゃんだっているわけです。死亡率高いわけですよね。
(塩澤未佳子)ええ、ええ。
(プチ鹿島)お年寄りもいるわけです。そういうのもひっくるめて、いかにも平常時のニューヨークの市民の平均値と、海軍に入る体力・気力充実している若者の体力、どっちが高いのか? それで途中でもし戦争を挟んだとしても。それは、ニューヨークの市民のお年寄りから子供までの死亡率の方が高いよねという。だから、比べてはいけない、成り立たないようなデータをポーンと出してくる。だからこれが、「……2つの死亡率の比較には意味がないが、数字で示されるとついつい信じてしまいやすい」という。これが前段。
(塩澤未佳子)ええ。
(プチ鹿島)つまり、このコラム。何が言いたいか、わかりますよね? 裁量労働制のことを言っているわけです。「……実際の労働時間を一般労働者には『残業が最も長い日の労働時間』を調査している。これなら裁量労働制の労働時間の方が短くなりやすいだろう。2つは比較できない数字である」という。で、最後に皮肉をきかせているんです。「……統計を取るまでもない」というね。
(塩澤未佳子)おおーっ!
(プチ鹿島)上手いこと言っている。だからこれから、裁量労働制。いまだったら「金メダル」とかそういうお題でどう、こういうコラムとかが書いてくるのか?っていうのも。
(塩澤未佳子)ねえ。そういうところも入りやすいです。
<書き起こしおわり>