宇多丸・高橋芳朗・渡辺志保 2010年代のヒップホップを語る

渡辺志保『今日は一日”RAP”三昧』スラング解説まとめ 今日は一日RAP三昧

(高橋芳朗)2000年代初頭から、さっきも話しましたアトランタ・ヒップホップシーンのキーワードになっていました。T.I.の『Trap Muzik』というアルバムがありましたけども、トラップ。これが一大トレンドに。

(宇多丸)はい。いまはもうトラップがね。さあ、トラップとはなんぞや?

(渡辺志保)猫も杓子もトラップですけども。さっきもちょっと言いましたが、ドラッグディーラーがドラッグディールすることを「トラップ」って言うんですよね。なんで、「トラップ」とか「トラッパー」っていうと、その職業・生業を表すことなんですよね。そういう、日頃お薬を売りさばいたりしているような人たちがラップをする。もしくは、そういった情景をラップする音楽のことを「トラップミュージック」という。まあ、そういうひとつの概念みたいなものがあって。かつ、トラップミュージックの特徴的なところは「チキチキチキチキ……」っていう、その高速ハイハット。高音のドラムの鳴り、パーカッションに響きであるとか、あとはすごく深いベースラインがあるとか。そういったところがサウンドの特徴的な面です。

(高橋芳朗)うんうん。

(渡辺志保)そういうのが複合的に合わさってトラップというのがね、トレンドに。

(宇多丸)いま一大トレンドということで。ちょっとどういうのかはね、聞いてもらった方が早いです。聞いてもらいましょう。

(渡辺志保)じゃあ、トラップといえば2016年・2017年にかけて大ヒットして。もう去年はこれをクラブに行って聞かない日はなかったと言ってもいいぐらいなんですけども。アトランタ出身のトリオ、ミーゴス。

(宇多丸)グループも久しぶりの感じじゃない?

(渡辺志保)そうかもしれないですね。そのミーゴスに、これもまたいま新しいラップの潮流を作り出しているリル・ウージー・ヴァートという若いラッパーがいるんですけど。ミーゴスとそのリル・ウージー・ヴァートが放った特大シングル『Bad and Boujee』を聞いてください。

Migos『Bad and Boujee ft Lil Uzi Vert』

(宇多丸)はい。ミーゴス。

(高橋芳朗)『Bad and Boujee ft Lil Uzi Vert』。2016年。

(宇多丸)もうメインでラップしている人の後ろではしゃいでいる人の方が目立つみたいな。フフフ(笑)。

(渡辺志保)アハハハハッ! 「よいしょ!」って。

(宇多丸)「よいしょ!」「よっ!」って。

(渡辺志保)「もう一丁!」って。

(宇多丸)合いの手が決め手。合いの手が注目されるという。

(渡辺志保)そうそう。合いの手ラップなんで。いいんですよ、それで。

(宇多丸)盛り上がりやすいですよね。

(高橋芳朗)で、このトラップ時代の最重要アーティストというか、トラップの音楽像を決定づけた人といえるのが、フューチャーですかね。

(渡辺志保)おおっ、素晴らしい! フューチャー!

(高橋芳朗)ダンジョンファミリーの人なんですよね?

(渡辺志保)そうなんです。ダンジョンファミリーにリコ・ウェイドっていう人がいるんですけど、その従兄弟なんですよね。だから結構、2000年代初期ぐらいから他のアトランタのラッパーのソングライティングに携わっていたりもしていて。なんで、歌心がすごくあるんですよ。

(宇多丸)ふんふん。じゃあ、フューチャー。曲を聞いてみましょうか。

(高橋芳朗)行ってみましょう。フューチャーで『Mask Off』です。

Future『Mask Off』

(宇多丸)はい。フューチャー、2017年の曲で『Mask Off』を聞いていただいております。さあ、ということでついにアメリカパート、ラストです!

(高橋芳朗)トラップの流行でさ、「マンブルラップ(Mumble Rap)」っていうさ、モゴモゴモゴモゴする……。

(宇多丸)「マンブル」ってなに?

(渡辺志保)モゴモゴしゃべるっていう。

(宇多丸)モゴモゴ喋る。

(高橋芳朗)ベテランの人たちが「モゴモゴしてやがる。はっきりラップせんかい!」みたいな。

(宇多丸)アハハハハッ!

(渡辺志保)そうそう。それがいま、プチ論争を呼んでまして。それこそ、エミネムと一緒にフリースタイルバトルなんかで台頭したジョー・バドゥンっていう切れ者ラッパーがいますけども。彼らがこういうミーゴスとか新世代のラッパーに対して、「お前ら、もっと内容のあることをラップせなアカンぞ!」とか「お前ら、モゴモゴしすぎだ!」みたいなことを……。

(宇多丸)これ、でもね、たとえば昔もEPMDっていうね、ラップグループがいまして。本当に、もう少しで寝るのかな?っていうぐらいの感じのテンションで。

(一同)アハハハハッ!

(宇多丸)で、それをパロッた曲が出たぐらいで。そん時もやっぱりね、「寝てるような声でやってんじゃねえよ!」とか。まあラキムも落ち着いた声でラップしたら、周りから「もっとはっきり言え」って言われたり。なんかね、そういうのは前からあるんですよ。別にそんなのは。

(高橋芳朗)インターネットでやりましたよね? ヤング・サグっていうラッパーが何を言っているのかを当てる、みたいなね。

(渡辺志保)あ、そうそう。解説動画みたいなのがありましたし。

(宇多丸)フフフ(笑)。

(渡辺志保)で、最近はよろしくないことですが、そういう若手ラッパーがそういうジョー・バドゥンに中指を突き立てるようなメッセージが描かれたお洋服をお召しになるようなこともあって。ちょっとね、ザワザワッとしているような状態でございますが。

(宇多丸)まあでもその旧世代との対決みたいなところも、これはどっちも面白いっていうか。どっちも……ヒップホップっていうのはスタイルウォーズだからね。旧世代は旧世代で、うるさ型はうるさ型でその調子でやってくださいよと。

(高橋芳朗)たしかにね。

(宇多丸)まあまあ、いいんじゃないでしょうか。元気でよろしい!

(高橋芳朗)あと、結構「エモラップ」と言われるようなものも。

(渡辺志保)そうですね。ちょっとグランジっぽいものだったり。

(高橋芳朗)もうカート・コバーンとかを崇拝しているラッパーとか。

(宇多丸)これはすごいですね。ヒップホップ、ラップっていうのはそういう自己破滅型みたいなのとはちょっと違う感じがありましたけども。やっぱり白人キッズとかに感覚が近づいてきたっていうことなのかしら?

(渡辺志保)うん。なんで本当、何十年か前にビースティ・ボーイズがやったようなことを、もしかしたらいまのそういう若い子たちはやっているのかもしれないですしね。

(宇多丸)まあでも、なにがかっこいいかの基準なんて当然、時代によって変わりますし。特にここんところは急激に変わっているんで。っていうか今日ね、10時間ずっと聞いてくれた方はわかると思いますけど。その、「また変わるの!?」とか。「またガラッと変わるの?」って。これがやっぱり楽しいわけですから。

(高橋芳朗)うんうん。

(渡辺志保)たしかにね。

(宇多丸)だから逆に言えばマンブルだって、「てめえ、なにモゴモゴ言ってるんだよ!」っていう若い世代が出てくるかもしれませんし。

(渡辺志保)もしかしたら2、3年後はもうめちゃめちゃハキハキしゃべるみたいな。

(宇多丸)メリー・メルみたいなラップが流行るかもしれないの?(笑)。

(高橋芳朗)「キビキビしてんなー!」っていう(笑)。

(宇多丸)「滑舌、いいぞ!」って(笑)。わからないから。こんなのは。

(高橋芳朗)でも、そんな中でも2017年はアメリカの音楽売上のシェアでヒップホップ・R&Bがついにロックを上回ったんですよ。

(渡辺志保)よいしょー!

(宇多丸)よいしょー!

(高橋芳朗)おめでとう!(拍手)。

(宇多丸)ほーら! 言わんこっちゃない! いとうせいこうさんが86年の時点で「これからは絶対に文化全体がヒップホップ中心になっていくんだ」って予言されていましたけど。いとうさん、当たってました! 世界的に当たっていました。よかったですね。僕に恨まれなくて。

(高橋芳朗)まさにね、昨日フォーブスの記事で上がっていたんですけども。見出しが「アメリカ音楽業界はヒップホップが一人勝ち。ロックは衰退傾向」という。

米音楽業界はヒップホップが一人勝ち、ロックは衰退傾向 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
音楽業界ではストリーミングの利用者が急増するなかで、ジャンル的にはヒップホップが最も勢力を拡大していることが明らかになった。ニールセンのデータによると、2017年に米国人は6億3600万ユニット(ユニットは従来の“アルバム”の概念に相当する...

(宇多丸)うんうん。

(高橋芳朗)2017年にアメリカの音楽消費に占めるヒップホップの割合は24.5%と過去最高を記録。ヒップホップはストリーミングの利用率が高く、好きなアーティストの楽曲をノンストップで楽しんでいるという。で、ロックは20.7%で2位になったそうです。

(宇多丸)ねえ。日本もこれに追いつく日が来るのかどうか?

(渡辺志保)楽しみでございます。

(宇多丸)さあ、じゃあアメリカ。ついに最後に来てしまいました。さっきのは昨日の記事ですからね。1973年8月11日から始まって、昨日の記事まで来ましたから!

(高橋芳朗)で、このアメリカの歴史を追っていくの、最初はみなさん、覚えてますでしょうか? ブロンクスで始まりましたよね?

(宇多丸)はい。サウス・ブロンクスが中心地って言われていましたけど、住所はなんだっけ? ウエスト・ブロンクス。住所、もう1回言おうか? フハハハハッ!

(高橋芳朗)こっちは特定しているんだ!(笑)。

(宇多丸)ヒップホップが生まれた住所、もう1回言いますよ。メモってください。1973年8月11日。ニューヨーク、ウエスト・ブロンクス。モーリスハイツ地区セジウィック通り1520番地に位置するプロジェクト(公営住宅)の娯楽室ということで。

(DJ YANATAKE)僕、ヒップホップと同い年だ(笑)。

(高橋芳朗)すげーな!

(宇多丸)から、再びブロンクスに戻ってきて。

(高橋芳朗)じゃあ、最後はブロンクス出身のラッパーで。これは志保ちゃんに紹介してほしいなと。どんなラッパーかも含めて。

(渡辺志保)いまから集会するのは、みなさんもしかしたら聞いたことがないかもしれないですけど、カーディ・Bという名前の非常におちゃめな女の子なんです。彼女はブロンクス出身。そして若い頃からストリップバーで働いていた。そういうヤンチャな過去もあるんですけども。彼女がブレイクした理由というのがひとつ、Instagram。SNSですね。そこで(ストリップバーの)嫌な男性客の愚痴なんかを、嫌な客あるあるみたいなのをひたすら動画配信していたんですよ。

(宇多丸)それはラップで?

(渡辺志保)それは普通の愚痴。で、それがだんだんバイラルヒット。口コミで、「この女の子、おもろいよ」みたいな感じになって。その後にリアリティーショー。日本にもいくつかありますけど、役者さんとかは立てず、本当に一般市民のおもろいお姉ちゃんを集めてその生活をドキュメンタリーチックに面白おかしく撮るみたいな。

(宇多丸)アメリカは人気ですからね。

(渡辺志保)それで頭角を現してからのラップデビューをしたと。

(宇多丸)ああ、そういうことなんだ。じゃあ、割と最初からネットからのテレビ有名人みたいなのからの、あれなんだ。はー!

(渡辺志保)そうなんです。なので、日本でもたとえばバラエティー番組で面白いことを言っているお姉ちゃんがラップをしてみたらすっごい当たっちゃったみたいな感じで。

(宇多丸)藤田ニコルさんがめっちゃラップ上手いみたいな?

(渡辺志保)とかね、そういう感じの(笑)。で、かつ、それもラップが当たり。先ほどもかけましたミーゴスというラップグループがいますけど、いま彼らがアメリカでいちばん売れているラップグループで。その中の花形メンバー、オフセットが婚約者なんですね。去年、大きいアリーナのライブの途中に、いきなりオフセットがひざまずいて、「Will You Marry Me?(結婚してくれますか?)」とでっかいダイヤの指輪を、何万人が見ている中で贈ったという。

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(宇多丸)アハハハハッ! なるほど。

(渡辺志保)なので去年、2017年にカーディ・Bは1年のうちにビルボードのNo.1ヒットも獲得する。メジャーのレコード会社の契約も獲得する。イケてる男から婚約指輪をもらうと、もう全てが揃った超爆裂シンデレラガールみたいな。

(宇多丸)なるほど。超爆裂シンデレラガール。いいですねー。

(高橋芳朗)で、いまブルーノ・マーズとコラボしちゃってますからね。

(渡辺志保)そう。新年早々にブルーノ・マーズの『Finesse』という曲のリミックスにカーディが参加して。で、またカーディ・Bってそれこそマンブルラップに近いような、あんまりそんなスキルフルなラップじゃないんですよ。本当にラップが上手い人からしたら、「なんでこんなのが売れてるんだろう?」みたいなラップなんですけど。でも、そのブルーノ・マーズに参加している曲なんかはしっかりブルーノの世界観に合わせたラップを披露していて。彼女の開けられてなかった引き出しをまたここでバーッと開けることにもなりまして。2018年は絶対にこれ以上に日本でもブレイクするんじゃないかなと。

(宇多丸)じゃあ、これから日本でも名前を知られてくるかもしれない。カーディ・B。

(渡辺志保)と、思います。で、かつさっきもおっしゃっていたけども、ブロンクス出身で。結構いま、ニューヨーク出身のラッパーというのがまた戻ってきたという感じがしていまして。昨年、亡くなってしまいましたが、リル・ピープであるとか。

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(渡辺志保)あとは、彼もすごいヤンチャなんですけど、テカシ・69っていうラッパーがいるんですけど。

(高橋芳朗)彼はすごいね。

(渡辺志保)ねえ(笑)。結構ニューヨークの若手がいま、去年ぐらいから結構ザワザワッとしていますけども。またヒップホップの遷都じゃないですけども(笑)。

(高橋芳朗)遷都(笑)、

(渡辺志保)幾度かの遷都を繰り返して、またニューヨークが面白くなっていくんじゃないかなと思っていますね。

(宇多丸)いいですね。じゃあ、そのカーディ・Bさんを聞いてみましょうか。

(渡辺志保)では、カーディ・Bのナンバーワンヒットシングルです。『Bodak Yellow』。

Cardi B – Bodak Yellow

(宇多丸)はい。カーディ・Bさん。『Bodak Yellow』。

(渡辺志保)聞いていただいております。

(高橋芳朗)そういえばカーディ・B、オフセットの誕生日にでっかいロールスロイスをあげていたよね?

(渡辺志保)そうそう。そうなんですよ。で、それもちゃんとリリックで言っているんですよね。ロールスロイスのレイスっていう最高級のがあるんですけど。それがラップのリリックに出てきていて。それをちゃんと彼氏にプレゼントするという。

(高橋芳朗)甘酸っぱいですねー(笑)。

(渡辺志保)甘酸っぱい! 私も旦那にロールスロイスをプレゼントする日がくればいいんですけどね(笑)。

(宇多丸)そっち?(笑)。

(高橋芳朗)フハハハハッ!

(宇多丸)ということで、みなさん、アメリカのヒップホップの歴史。1973年からずっとたどってきましたが、ついに! 一応現在にやってきて終わりでございます。いやー、こんな時が来るんですね! さっきまでスプーニー・Gとか聞いていたのに、カーディ・Bまで来ちゃったから!

(高橋芳朗)アハハハハッ!

(宇多丸)ありがとうございます。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/46786

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