宇多丸・漢 a.k.a GAMI『今日は一日”RAP”三昧』対談書き起こし

宇多丸・漢 a.k.a GAMI『今日は一日”RAP”三昧』対談書き起こし 今日は一日RAP三昧

(宇多丸)はい。ということでMSC『宿ノ斜塔』を聞いていただいております。もうこの曲がかかっている間もね、ずーっと興味深い話が続いていたんだけど。渡辺志保さんもね、漢くんの登場からの時代の感じ。変化っていうのを?

(渡辺志保)そうですね。私もそのぐらいから広島から上京してきて、東京で遊ぶようになったんですけども。2003年、4年ぐらいからシーンが分断されていくと同時に、リスナーの間でも分断されるというか。やっぱりライムスターさんのようなヒップホップが好きな人はそう聞くし。で、遊び場に関しても新宿にしか遊びに行かないリスナーとか、渋谷でしか遊ばないヒップホップリスナーとか。だんだん、リスナー同士も分断されていったような気がするんですよね。

(宇多丸)そうだよね。昔みたいにひとつのヒップホップ像っていうのを目指してコンペティションするっていうよりは、やっぱりそれぞれのスタイルだし。世代がちょっと違えば、今日聞いていただいているとわかると思うけど、もうヒップホップとかラップって言っても一口では……

(渡辺志保)うん。語れないというか。

(宇多丸)だからさ、「ロック三昧」って言った時に「ロックって!」とかさ。

(渡辺志保)フフフ(笑)。そうね、大きすぎて。

(宇多丸)大きすぎだからっていう。まあ、そんぐらいのものにラップ・ヒップホップもなったっていう。で、日本でもそうだということだと思うんだけど。

(漢 a.k.a GAMI)その昔は、たぶんヒップホップの四大要素がバラバラだったんですよ。一体化になろうとしないで。ダンサーがやっていると、僕らラッパーは後ろに行っちゃうし。僕ら日本語ラップがやるとダンサーは下がっちゃうし。グラフィティやっているやつらは無鉄砲なやつらで勝手にやるし。DJのやつはDJで「日本語ラップはかけないぜ!」みたいな。そういう時代がずっとしばらくあったんですけど……それがまた何周かしたかわからないですけど、いまはそれがすごいいい時代だと思います。

(宇多丸)ああ、もう1回、またちょっと?

(漢 a.k.a GAMI)またみんなまとまっているし、いま言っていたリスナーの細分化が四大要素が調和されたように。ラップの中で細分化されていたリスナーが共有しているなといまは思います。

(宇多丸)ああ、本当?

(漢 a.k.a GAMI)「こっちも聞けば、こっちも聞くんだ」みたいな。いまの子たちは結構そういう、幅広いかもしれないです。

(宇多丸)そうね。なんでも、まあ全部手軽に聞ける問題もあるから。俺らが思っているよりはフラットに聞いている世代が出てきているのかもしれないね。

(漢 a.k.a GAMI)手軽感はありますよね。

(宇多丸)で、漢くんと言えば、その『B BOY PARK』で僕は出会って。で、2002年に漢くんは優勝しているわけですけど、その後、いろいろと細かい経緯は省きますが。『B BOY PARK』のMCバトルがちょっと、あんまりな感じになり。その後、漢くんたちは自らというか、MCバトルの大会を主催していくじゃないですか。それはどういう気持ちでやっていったんですか?

(漢 a.k.a GAMI)これはですね、いちばん最初は『お黙り!ラップ道場』っていう名前で。UMBっていうのの前に『お黙り!ラップ道場』っていうのが実はあって。それを始めた経緯は、『B BOY PARK』がああいう形に1回なったので。

(宇多丸)ちょっとモメて終わっちゃったという。

(漢 a.k.a GAMI)で、「今年はやらないっぽい」っていう情報を知った時、だったら俺、優勝したばかりだし、俺が優勝する前はKREVAが優勝していた。それ(KREVAの二連覇)を聞いて、「だったら俺、優勝できるな」って思って、『B BOY PARK』に行ったんですね。まあ、その前の年には本戦で負けてますけども。だけど、自分は「俺はフリースタイルバトルは云々……」とかって言い訳しているやつをすげームカついちゃって。言い訳して出ない。「『B BOY PARK』だから出ない」って言うんですよ。

(宇多丸)ああ、なるほど、なるほど。

(漢 a.k.a GAMI)「あれは違う」みたいな。で、「いやいや、違くはないじゃん?」っていう形で、俺は「1回、じゃあ(『B BOY PARK』に)出てみよう」っていう形で出た時、KREVAに負けて。で、悔しかったし。

(宇多丸)まあ、スタイルがね、対照的だからね。これね。比べるのも正直難しいけどね。

(漢 a.k.a GAMI)そうなんですよ。で、あのスタイルが確立されて、KREVAスタイルがみんな、元になっていたっていうのもあって、それを言い訳にする人間が僕の周りにはいたんですよ。

(宇多丸)なるほど。「KREVAスタイルじゃないから、どうせあそこでは勝てない」みたいなこととか。

(漢 a.k.a GAMI)で、「あれはヒップホップじゃない。云々……」って。で、実際にやってみて行ってみて、同じラップという技法で勝負して勝ち負けを決めてるのに、負けた時にそんな言い訳はねえよなって。で、今度は自分が優勝をした時、そいつらを引きずり出してやろうと思ったんですよ。

(宇多丸)要するに、違うスタイルでも全然勝てたぞというね。

(漢 a.k.a GAMI)で、俺が言えばみんな言い訳せずに出てくるしかねえだろっていうか。逆に言ったら、俺が優勝できたから「俺もできる!」って思っているやつもいるだろうと踏んで、自分の名前で人を集めてみたらどんぐらい来るかな?っていうのがきっかけでしたね。

(宇多丸)でもそこからずっと継続してやっているわけじゃない? まあ、はっきり言って僕も関わったことがあるからわかるけど、こんな面倒くさいことはないじゃん? MCバトルの主催って。だからなんでそこまで大変なことをずっとやり続けたのかな?って思って。

(漢 a.k.a GAMI)これはひとつ、まあいまの時代って本当に「なんちゃって」って言ったら失礼かもしれないけども、なんちゃってプロだらけなんですよ。

(宇多丸)ほうほう。

(漢 a.k.a GAMI)なんでかって言ったら、自分らで発信しているじゃないですか。

(宇多丸)CDは自分で作れちゃうし。

(漢 a.k.a GAMI)で、自分で着飾るし。情報も自分から出すわけで、なにを言ってもいいわけで。ただ、僕らが憧れていた時代は『Blast』だったり、ある程度の雑誌だったりっていうのに載らないとまずプロじゃないっていう。そのプロの……。

(宇多丸)ハードルが高かった。

(漢 a.k.a GAMI)そうです。どこからがプロなんだ?っていう。それは嫌でも、自分らで言わなくても人が注目して、人が勝手に情報をほしがったらだろうというところで線を引いていたんで。そういうところで言ったら、MCバトルってアメリカで見ていると、なかなかな文化だったり。見ていて、英語しかわからなくても面白いのに。これをツールというか手段として、ここで有名になってエミネムも何回も優勝して勝ち抜いて……とか。そういうストーリーが日本にはないなと思って。まあ、KREVAはあったんですけど。それをこう、僕らのいたアンダーグラウンドだったり、インディーズのコアな部分でラップをやっているやつらに日本でもそれができるっていうのを証明したくて。

(宇多丸)うんうん。

(漢 a.k.a GAMI)で、自分なんかは優勝した年に『Matador』だったりとか、その前の年にデビューEPだったりって、ちょうど重なっていたんで。MCバトルに出て優勝した時。なので、自分的にはバトルっていうので優勝をしていたから、やっぱりCDだったりセールス、知名度が上がるのにすごくプラスになっていたなと思って。

(宇多丸)ああー、これね、ちょっと前だとさ、MCバトルで勝っているような人はなかなか音源では成功できないっていう、まあジンクスというか……でもアメリカだってそうだったよね。だからそれを……でも同時にそれを果たしてっていうことだよね。

(漢 a.k.a GAMI)そうですね。そのレールがないといけないという。で、MCバトルで、マッサージのお小遣いでもいいし、誰かのパシリでもいいし、とりあえず1000円、2000円ぐらいの出場料を……なんでまず、最初にやった時に出場料を取ったか?っていうと、イベントとしては潰れられないんで、お前らが金を払って50人、「出たい」っていうやつがいたら、10万で箱代はまず赤字にならないんで。それを目標にまず、出るやつからも取っていたんですね。

(宇多丸)うんうん。

(漢 a.k.a GAMI)で、その2000円の片道切符っていうのは平等にみんな、手にできるわけじゃないですか。どんな金でも2000円で。あとは持っている自信だけなんで。そこで優勝したら、お前ももしかしたらこんな道に行けるぜっていうレールを作りたくて。ヒップホップドリームのひとつとして。で、真面目にみんなストイックにやっていたり、ハングリーにやったり、いろんなスタイルでやっているんだろうけど、ヒップホップのひとつのかっこよさとして「適当」。僕の中であるのが。

(宇多丸)ねえ。さっき、「適当にやっちゃって」っていう、俺が衝撃を受けたライブ運び。うん。

(漢 a.k.a GAMI)そのサラッとやるかっこよさっていうのがほしくて。で、僕はバトルっていう道を作っておきたかったんですよ。あと、日本語でもできるなって思っていて。

(宇多丸)うんうんうん。だからさ、「適当」って言うけど、すげーなんか親切ですよね。シーン全体に対して。漢くんのさ、実はシーンへの貢献度って、こんなやる気ゼロみたいな顔をしながらさ、めちゃくちゃ親切にシーンに貢献してるなって思って。

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(漢 a.k.a GAMI)なんかその、なるべく共有した方が楽しいじゃないですか。自分が経験したり、自分ができることって。

(宇多丸)いやー、さすがだから、さっきのように暑苦しいメールが来るだけのことはあるってことだと思います。ということで、じゃあ漢くんにはこのまま付き合っていただいて、ちょっと2000年代のヒップホップシーンを総まくりしていきたいと思いますんで。ということで、じゃあここでいろんな人がいるんだけど、TOKONA-Xをかけましょうか。TOKONA-Xという人は名古屋の……イルマリアッチという名前で『さんぴんCAMP』にも出ていたりしましたけど。

(DJ YANATAKE)そうですね。はい。

(宇多丸)で、2004年11月に亡くなってしまった。急逝してしまったんだけど。漢くんはトコナと会ったことはありますか?

(漢 a.k.a GAMI)生前はないんですよね。DJ刃頭さんと交流もできていたし、湘南乃風の若旦那とも僕は距離が近かったんで。で、その彼らからは亡くなる直前に紹介してくれるっていう約束ももらっていたんで楽しみにしていたんですけども。Harlemでのライブで1回、僕が一方的に見ていますね。

(宇多丸)TOKONA-Xというもうね、これは強烈なキャラクターを持っていて。それこそさっきね、志保さんの方言で……っていう。ネリーじゃないけどさ。

(渡辺志保)そうそうそう。そうなんですよ。ローカル魂みたいなものを背負って、で、ビッグヒットになるっていうお手本かなと思うんですけども。

(DJ YANATAKE)宇多丸さんは接点はあったんですか?

(宇多丸)接点はだってなにしろイルマリアッチの時からさ。だって『さんぴんCAMP』の打ち上げって、当時のCAVEっていうところでやったんですけど。俺らは真面目だから行くよ。でも、予想していたの。「ぜってー誰も来ねえだろ、これ?」って。で、案の定、俺らとイルマリアッチの2人しかいないんですよ。しょうがないから、一緒に飲んでいるじゃん? そうすると、トコナって横浜出身だったりして。意外と接点があったりして、すごい仲は良かったよ。だからトコナとは。

(DJ YANATAKE)なるほど、なるほど。

(宇多丸)あとは僕がDJ OASISとかと作った『キ・キ・チ・ガ・イ』とか『社会の窓』とかをすごい気に入ってくれていて。ですね。的なことでございます。じゃあ、TOKONA-X。その名古屋弁というか、その感じをモロに押し出して。強烈なキャラクターとスキルを打ち出したラッパーでございます。TOKONA-Xで『知らざあ言って聞かせやSHOW』。

TOKONA-X『知らざあ言って聞かせやSHOW』

(宇多丸)お聞きいただいているのはTOKONA-Xで『知らざあ言って聞かせやSHOW』。2004年の曲でございます。この曲に関してはすごいリクエストがいっぱい来ていて。(メールを読む)「『知らざあ言って聞かせやSHOW』、あまりヒップホップに詳しくはないですが、地方のヒップホップを語るにはこの人をおいて他にないでしょう。ぜひ」とかね。(メールを読む)「偉大だった名古屋の1マイクはもうこちらの世界にはいませんが、いまも多くのアーティストがこの曲でバトルをして、踊って、歌っています。日本のラップシーンに残るレジェンドのこの曲をぜひ!」とかね。(メールを読む)「名古屋弁を駆使し、反東京精神を露骨に出したラップはいつ聞いても震え上がります」とかね。(メールを読む)「とにかくかっこいい。この曲と出会ってから毎日聞いています」とかね。

(渡辺志保)おおっ、すごい!

(宇多丸)こんな方のメッセージもいただいております。さあ、といったあたりでいま、合間に聞いていた川上音二郎の『オッペケペー節』の話……。

(漢 a.k.a GAMI)はい。

(宇多丸)もうダメだ。漢くんは話が面白い! 面白すぎる。今度、うちの番組に来てまたね、いっぱい話してください。で、ですね、いろいろとちょっとだんだん時間がなくなって来ちゃって。たとえばSEEDAというね、それこそずっと自分でインディー魂というかDIYで自分でキャリアを築いてきたSEEDAの『花と雨』なんて名アルバムからも曲を聞かせたかったですし。

あと、ANARCHYという京都をベースに、なんていうか日本のリアリティーラップのスタイルを本当に完全に確立した。しかも、華もあるというね、ANARCHY。ANARCHY、ちょろっとさっきから後ろではかかっていたりしますけども。ANARCHYの紹介もしたかったんですが……。

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(宇多丸)最後、このコーナーの着地はやっぱり、昨年『MODERN TIMES』という大傑作を出してしまったPUNPEEが属しているPSGという。非常にやっぱり、PSGの登場でまたまたフェイズがちょっと変わるというか。

(渡辺志保)そうですね。はい。

(宇多丸)なんか、それこそ脱力しているのに、なんかめちゃめちゃおしゃれでかっこいいし。おまけにさ、PUNPEEはあんな感じなのにバトルに出て強かったりするわけじゃないですか。

(漢 a.k.a GAMI)細かいスキルフルなラップもできますしね。

(宇多丸)非常に困ったことになっているというね。あ、ちなみに漢くんから見たPSG、PUNPEEとかどうですか?

(漢 a.k.a GAMI)PUNPEEは僕は本当にバトルシーンから知っているんで。彼は成功例のひとつのなんじゃないですかね。バトルで自分の名前を売ったりして、名前が売れたらスイッチを切り替えて本業の、自分の自信のある音楽性を広めるという。なかなか最短距離で。バトルを有効に利用したと思うんですよね。

(宇多丸)いまとなってはね、ヒップホップヘッズ以外にも。っていうか全然他ジャンルで人気抜群だから。

(渡辺志保)ねえ。プロデュース業といい、ラッパー活動といい。

(DJ YANATAKE)フジロックでね、PUNPEEの時に雨で入り切らなかったらしいですからね。

(宇多丸)ねえ。早く1000円くれないでしょうか。

(渡辺志保)アハハハハッ!

(宇多丸)あと、バトルシーンで、この世代って言っていいのかな? サイプレス上野とかもそうだし。TARO SOULとかKEN THE 390とか。あとCOMA-CHIとかね。

(渡辺志保)そうですね。ダメレコ系のアーティストが。

(宇多丸)日本を代表するフィメールラッパーCOMA-CHIとかもバトル出身だったりして、様々な人がいるわけですが。まあ、ちょっと新世代の始まりということで象徴的なあたり。PSGでこの曲をお聞きください。PSGで『神様』。

PSG『神様』

(宇多丸)はい。ということでPSGで『神様』をお聞きいただいております。まあPSGはPUNPEEだけじゃなくて5lackという弟さん。超絶上手いラッパーがまたいたりとか。もう、嫌ですねー。

(渡辺志保)嫌ですねー(笑)。

(宇多丸)嫌な世の中、時代になったものです(笑)。漢くん、もうそろそろこのコーナーは終わりなんですけども。ニューアルバムが?

(漢 a.k.a GAMI)今月、1月に自分のやったフィーチャリングだったりを集めたミックスCDと、来月にはアルバムが出る予定でいま動いているので。

(宇多丸)またビッグなボムが落とされてしまうわけですね。

(漢 a.k.a GAMI)がんばります。

(宇多丸)ということでもうね、漢くん最高でした。聞きたい話をいろいろと聞けたんで。またぜひよろしくお願いします。

(漢 a.k.a GAMI)よろしくお願いします。

(宇多丸)ということで、漢 a.k.a GAMIさんでした!

(漢 a.k.a GAMI)ありがとうございます。

<書き起こしおわり>

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