宇多丸さんがTBSラジオ『タマフル』の中で、ラッパーANARCHYに密着したドキュメンタリー映画『DANCHI NO YUME』について話していました。
(宇多丸)あとですね、今週で言うとですね、昨日、ちょっととある試写に行ってまいりました。映画の試写っていうのは行くのは好きじゃないんですけど。これはちょっとかけつけなきゃいけないであろうということで行ってきた試写がございまして。これは今日(7月5日)から実は公開されるドキュメンタリー映画でございます。日本のHIPHOPを扱ったドキュメンタリー映画。日本のHIPHOPアーティストをニューヨークの、アメリカのドキュメンタリー作家が追ったという、ちょっとなかなかないタイプのでございまして。そのアーティストというのは、ANARCHYというね。ロックバンドのANARCHYもありますけど、ラッパーのANARCHY。京都出身のね、誇張でなく若者に絶大な人気を誇っているANARCHY。前にね、日本語ラップ特集でかけたりもしましたけど。
(宇多丸)そのANARCHYに、結構前なんですよね。2007から2008。だからまだまだANARCHY、いまの人気に比べればぜんぜんまだまだ規模としては小さい時期に1年間、ニューヨークの撮影クルーが密着して撮ったドキュメンタリー。タイトルは『DANCHI NO YUME』っていう。これ、すごい面白かったです。面白かったし、『こういう作品あった方がいいな、日本のHIPHOPにとって』って思った。これ、どういうことか?っていうと、ものすごい、要は団地のっていうことですから、京都の伏見区南部にある向島ニュータウンっていうところで。これ、本当に京都の中でも治安が悪く、非常に貧困な地域で。その団地にANARCHY自身も生まれ育ち。そこで生まれ育った若者たちが、普通だったらものすごい賃金の低い労働につくか、ヤクザになるか、みたいな。本当に人生の選択肢が限られてる中で、HIPHOP。
だから本当にジャパニーズ・ドリームじゃないですけど、本来はそういう、詞をしこしこ書いてとか、音楽をやるような子じゃない子が、HIPHOPをやる手段を得て、自分たちの言葉と、成功への手段を見つけるっていう。本当にアメリカのHIPHOPのあり方みたいなもの、そのまんまが実際に日本でも、こういう風に根付いてっていうか、成立するようになったっていうのがありまして。で、僕、前から・・・僕自身はこんな感じで、しゃべり方もこんなですし。別にそんな不良だったことは一度もないですよ。ライムスターは割と、中流っていう言い方はふさわしくないけど、そんな貧困じゃないタイプの日本人の。『標準的な』ってカッコ付きでいいますけど、日本人のためのHIPHOPっていうのの代表格とするならば、それはそれで僕らにとってリアリティーのある表現だったから、それをやっていたわけだけど。
その日本人がHIPHOPをやる時に、特に僕らがはじめたころなんてバブル真っ盛りっていうこともあって、やれその、『日本には貧困がないから』とか、『日本は総中流だから』とか、ということでHIPHOPやラップという貧しい黒人たちが生んだ文化というのを日本人がやる必然性はないだろう?ってことを、よくわかっていない大人が言ってたんですけど。それがいかに嘘っぱちだったか、まあはっきり言って貧困が日本になかったことがあるのか?っていう。じゃあバブル期は貧困はなかったのか?って、大嘘ですよね、そんなのね。ようはそれを見ないことにしていた、ないことにしていたっていうだけで、ぜんぜんあったわけだし。で、その日本にそういう・・・だからそのアメリカのメンタリティーそのものを置き換えなきゃ本当のHIPHOPじゃないって言ってるんじゃなくて、そういうHIPHOPのあり方もぜんぜん成立するじゃないかと。
で、それがすごく。86分というコンパクトな時間の中にものすごく、アメリカの人が撮っているんで、要はその重なる部分っていうのをものすごく見出して撮っているので。アメリカで言う、この後もね、スパイク・リーの映画の話をする時に、たとえば『クロッカーズ』っていう作品がありますけど、要するにプロジェクトという、同じ団地ですよ。団地。貧しい、割と所得の低い人向けに、国が計画的に建てた集合住宅。その中にものすごく閉じられたコミュニティーができて、その中で生まれて育って死んでいくっていう。そのサイクルができてしまうと。クロッカーズっていうのはそのサイクルの中に生きている若者が、最終的にどうなるか?っていう話で。僕、作品としてどうこうっていうんじゃなくて、スパイク・リーの中で思い入れのある作品で。
あいいうプロジェクト、そういうところでHIPHOPが生まれたりしたんですけど。それを日本に置き換えた場合っていうのをものすごく、この言葉使っていいのかな?ものすごく図式化してるっていうか。すごくわかりやすく伝えているので。これを見れば、もちろんこういう部分だけじゃないんですよ。日本のHIPHOPは。なんだけど、アメリカのHIPHOPにすごく重なる部分が多いタイプっていうのも、ごく自然に。ANARCHYの活動っていうのがその地域の若い世代にとってものすごい希望になっているのとかね、っていうのが見えたりして。いまこれ、今日からですね、渋谷のアップリンクでやっていたりしますんで。ぜひ興味があったら見に行っていただきたいんですが。
で、そのANARCHYがだから、これ2007から2008なんで。それこそ、東京ではじめてワンマンやりますとか、そういうタイミングだったんですけど。いまどうなっているか?っていうと、avexとメジャー契約して。これがものすごいいいなって思うのは、今どきメジャーレコード会社と契約するなんてあんまり意味ないよなんて言われがちですけど。ちゃんとそこに夢を持たせるような見せ方をしているわけですよ。やっぱりRYUZOくんっていうね、彼よりもレーベルのボスである、R-RATEDっていうね。ボスであるRYUZOくんっていう京都の男なんですけど。彼がやっぱり考えてやっているなっていうのがすごくわかるし。いいスタッフに恵まれているなと思う次第です。
ということでね、avexが設立したHIPHOPレーベル『CLOUD 9 CLiQUE』からメジャーデビューアルバム。このタイトルもね、完全に意図的ですよね。『NEW YANKEE』。先程から僕が言っているような、打ち出しみたいなのがすごく明確だと思うんですけど。メジャーデビューアルバムNEW YANKEEから1曲聞いていただきたいと思います。
どの曲にしようかな?って迷ったんですけど、この番組とある程度縁がある人ということでですね、プロデュース。音を作っている、アレンジにですね、HABANERO POSSEからGUNHEAD。HABANERO POSSEといえば、ライムスターの『B-BOYイズム』のリミックスとかですね、あとGUNHEAD。この間ベース・ミュージックというような音楽の、レゲエで言うクラッシュというかね。サウンドクラッシュ。要するにとっておきのオリジナル音源というか、をかけあってグループ同士が勝負するというようなイベントで、クライマックスでライムスター。我々の『さんぴんキャンプ』という97年にやったイベントでしゃべったMCそのまんまを丸コピしたオリジナル音源みたいなのを使って、最後ドカーン!って盛り上がって優勝という。
そんな縁もあるし。あとGUNHEADくんは昔、申し訳ないとスペシャルという代官山UNITでやったイベントで、DJを知らない子っていうテイで出て。で、やおらターンテーブルを触ると超絶テクのスクラッチを見せるという。そういう茶番にも付き合っていただいたという。そういう縁があるHABANERO POSSEが音を作っております。ANARCHY メジャーデビューアルバムNEW YANKEEより一曲お聞きください。『ENERGY DRINK』。
ANARCHY『ENERGY DRINK』
(宇多丸)はい。アルバムNEW YANKEE。今週水曜日に発売になっておりますアルバムより。あの、もっとメロディックで聞きやすい曲、他にもあるのに(笑)。ちょっとドープ目の曲をかけてしまいましたけど。ということで、ENERGY DRINKでした。ANARCHYのドキュメンタリー『DANCHI NO YUME』も現在渋谷アップリンクで上映中なので、ぜひ見に行っていただきたいと思います。ANARCHYとかその一派みたいなのもいれば、俺みたいなのもいて。それで同じ土俵にいてちゃんと勝負ができるっていうのも僕、HIPHOPの美しいところだと思っておりますので。ぜひぜひチェックしていただきたいと思います。
<書き起こしおわり>